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作:春川レイ
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星は涙のように


 

「きつ……」

圓城は走りながら思わず呟く。身体が重くて頭痛が止まらない。何も口に入れてないのに吐き気がする。

必死に足を動かすが、倦怠感でどうにかなりそうだ。いや、自業自得だ。全然睡眠を取らなかった自分が悪い。

視界はまだ霞んでないから大丈夫。手も足もまだ十分動かせる。なんとか朝まで頑張らなければ。

「--、鬼め、許さない、こんな時に現れるなんて。絶対殺す。馬鹿。阿呆。糞。死ね」

じいやが聞いたら卒倒するであろう汚い罵りが口から漏れる。まずい。頭が働かない。圓城は一瞬だけ立ち止まって隊服から小さな刀を取り出し、少しだけ手の甲を傷つけた。

「……っ。よっし!」

痛みで少しだけ頭が冴えた。そのまま走り続ける。崩壊した建物が見えてきた。炭治郎と禰豆子の姿が目に入る。なぜか禰豆子が刀を握りしめていた。

「……た、」

遠くから声をかけようとした瞬間、不思議な光景を目にした。

「……?」

禰豆子の手から火が出て、刀を包んだ。黒い刀が赤くなる。

「……なに、あれ」

圓城が半ば呆然と呟いた瞬間、炭治郎が動いた。

崩壊した建物から出てきた三体の鬼へ刀を振り上げる。

「ヒノカミ神楽 目暈の龍 頭舞い」

炭治郎がうねるように移動し、三体の頚が一気に斬った。その鮮やかさに圓城は思わず声を出す。

「……素晴らしい」

やはりあの子は相当強くなっている。圓城の予想よりも遥かに。圓城は駆け寄りながら炭治郎に声をかけた。

「炭治郎さん!」

「え、あ、圓城さん!どうしてここに!?」

「それはいいから、とにかく--」

その時、炭治郎がふいに左を向いた。

「玄弥が…っ」

「?」

圓城が同じ方向を振り向くと、背の高い少年が鬼の首を持ち木の下に立っていた。

「……あの子は」

よく分からないが炭治郎と共にそちらへ駆け寄る。少年がそれに気づいたのかこちらを振り返った。

「……?」

その玄弥という少年はどう見ても様子がおかしかった。目が明らかに人間のそれとは違う。鋭い犬歯を口から覗かせ、涎を垂らして荒い息遣いをしている。

「ガアっ!何だ、この斬撃は!再生できぬ!」

気持ち悪い声が聞こえて圓城は刀を持ち直した。炭治郎が斬った鬼が何事かわめいている。

「うるさい」

圓城はその鬼達を次々に斬っていく。

「睡の呼吸 参ノ型 睡魔の嘆き」

鬼が完全に再生する前に攻撃を繰り出していく。しかし、鬼はバラバラになっているのに消滅する様子がない。ずっとわめいている。

「圓城さん!ダメです!同時に斬らないと!5体目がいるんです!!」

炭治郎の言葉に圓城は思わず舌打ちをした。

「なんっなのよ、それ!忌々しい!」

口が汚くなるのを止められない。だるい。頭が痛い。ただでさえ身体がきついのに、5体同時に斬る?嘘でしょう?

とにかくこの場にいる隊員全員で連携をとらないと、と圓城が炭治郎の方を振り向くと玄弥が炭治郎の首元を掴んでいた。

「上弦の鬼を倒したのはお前の力じゃない!だからお前は柱になってない!」

「あ、うん、そうだよ!」

「お前なんかよりも、先に俺が--」

圓城は頭に血が上るのを感じた。今は仲間割れをしている場合じゃない。

「柱になるのは俺だ!!」

「なるほど!そうか!分かった!俺と禰豆子が全力で援護する!皆で頑張ろう!」

炭治郎のこの場に似合わない明るい声が聞こえる。圓城は怒りで唇がピクピクと動くのを感じながら、大股で二人のもとへ近づいた。

「お前の魂胆は分かってるぞ!そうやって油断させ……」

「いい加減にしろおっ!!」

圓城が玄弥の胸元を無理やり掴んで無理やり自分の方へ向かせ、叫んだ。玄弥が戸惑ったような顔をする。

「え、お前、誰……」

「今、クソみたいな鬼をなんとか斬らなきゃいけないんだ!見りゃ分かるだろうが!!馬鹿が!目を覚ませ!!」

「え、あ…」

「夜明けまで何時間あると思ってるんだ!空気読めよ!私の身体が持つまでに全員で斬るんだよ!!」

「……へ」

「柱とか今はどうでもいい!人を護れ!鬼を斬れ!分かったらさっさと動け!分からなくても動け!とにかく鬼を斬れ!鬼を斬るんだ!分かったら返事しろ!阿呆!」

「は、はい」

あまりの体調の悪さに頭が回らない。信じられないほど乱暴で下品な言葉が自分の口から飛び出た。その剣幕に玄弥が震えながら返事をした。炭治郎が圓城の豹変ぶりを呆然と見つめてくる。

「え、圓城さん…」

「……5体目、早く見つけて。死ぬ気で匂いをたどって」

圓城は思い切り叫んだことで少し冷静になって炭治郎に指示した。

炭治郎が辺りを駆け回る。圓城は他の鬼が再生するのを警戒しながら何度も斬りつける。

「この小娘が!!」

鬼が叫び、雷撃を放った。素早く身を交わしながら圓城は短刀を投げる。その時声が聞こえた。

「北東です!圓城さん!低い位置にいます!!」

圓城は即座に動いた。

「炭治郎、禰豆子、玄弥、援護して!私が5体目を斬るから!」

指示を出しながら、必死に目を走らせる。

どこだ!どこにいる!感じろ!気配を感じろ!

「圓城さん!南です!移動しています!!」

圓城は感覚と炭治郎の声を頼りに走った。その時、草木の間に変な気配を感じ、そちらへ視線を向けた。

「…ヒイィ」

額に大きなコブと二本の角がある老人の姿をした鬼だった。まるでネズミのように小さい。

「……っ!」

圓城が刀を振るう前に情けない悲鳴をあげて逃げていく。

「睡の呼吸 壱ノ型 転寝」

刀で斬ろうとするが、あまりにも小さくしかもすばしっこいため当たらなかった。

まずい、視界が霞んできた。

「……っ!」

その時玄弥が現れて、動いた。刀ではなく銃を構える。

「!?」

その武器に一瞬呆気にとられる。銃弾が放たれた。しかし、やはり当たらない。

「……小賢しい!」

圓城がそう言いながら再び刀を構えた瞬間だった。後ろから殺気を感じた。圓城が振り向き様に刀を振るう。

「睡の呼吸 肆ノ型 微睡み(まどろみ)子守唄」

後ろに接近していた鬼の頚が一気に斬れた。圓城は再び小さな鬼を追う。

「玄弥ー!諦めるな!圓城さんと協力するんだ!必ず斬るんだ!」

炭治郎が叫んでいる。まずい。あまりにも目を酷使したため、痛い。身体が本当にきつい--、

「……っ!」

その時、炭治郎の背後から三叉槍を持った鬼が姿を現すのが見えた。炭治郎も気づいたようだが間に合わない。圓城は炭治郎が振り向く前に動き、庇うように立った。

「圓城さん!」

鬼の攻撃で、身体中が切り刻まれる。

「………っ、いいから、早くあいつの頚を…!」

痛い。炭治郎に叫びながら、それでも圓城は笑う。一気に目が覚めた。玄弥が圓城を攻撃した鬼に向かって銃弾を放つ。同時に圓城は再び駆け出し、炭治郎と共に小さな鬼を探した。そして、必死に逃げる鬼を見つけた。

「……さっさと、死ね!」

圓城が先に刀を振り下ろす。

「睡の呼吸 弍ノ型 枕返し」

鬼の頚に確かに当たったのを感じる。

「ギィヤアアアアアアアアア!!」

小さな声に似合わない凄まじい悲鳴が響いた。硬い。圓城は目を見開く。こんなにも硬い頚なんて--、

次の瞬間、背後に気持ちの悪い気配を感じた。炭治郎が動く。

「避けろ!」

玄弥の声が聞こえたが、圓城は動けなかった。なんとしてでも、例え死んでもこいつの、頚を----!

「……っ、」

その時、圓城の腰を誰かが掴み抱き上げる。圓城と炭治郎が今までいた場所を竜のような凶悪な形をした樹木が襲った。圓城と炭治郎を抱き上げ、間一髪で助けてくれたのは禰豆子だった。頚を斬り損ねた圓城は思わず舌打ちをする。樹木の攻撃を直接受けたらしい禰豆子の足が切れた。その場に禰豆子が倒れこみ、圓城も身体を強く打つ。

「禰豆子!」

炭治郎が叫ぶが、足は直ぐ様再生された。圓城は立ち上がり再び刀を構える。

「弱き者をいたぶる鬼畜。不快、不愉快極まれり。極悪人共めが」

背中に雷神の太鼓のようなものを背負った鬼が現れた。ビリビリとした威圧感が周囲を支配するが、圓城はそれを気にせず舌打ちをした。怒りのあまり体温が上がるのを感じる。いい加減にしてくれ。こっちはもう死にそうなんだ。やっと、やっと、頚が斬れるかと思ったのに--!!

鬼から伸びた樹木が本体を囲む。これでは頚がますます斬るのが難しくなる。

「何ぞ?貴様、儂のすることに何か不満でもあるのか」

重く、恐ろしいほどの力のある声が聞こえたが、圓城は怒りのあまりそれどころではなかった。水の壁で隔てられたかのようにぼんやりとしか聞こえない。

「ど、どうして俺達が悪人、なんだ…」

炭治郎の声に鬼が答えた。

「『弱き者』をいたぶるからよ。のう。先程貴様らは手のひらにのるような『小さく弱き者』を斬ろうとした。何といつ極悪非道。これはもう鬼畜の所業だ」

何なのよ、この鬼、ふざけるな。こっちは不眠不休で働いてんだよ。13日だぞ。人間の限界をとっくに越えてるんだ。眠らないと本当に死ぬ。いや、自分が悪い。柱として本当に情けない。でも、眠らないと本当に死ぬんだ。鬼に殺されるならともかく、こんな死に方なんて。師範に顔向けできない!

殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す----!

この鬼に慈悲など必要ない。私が斬ってやる。

心臓の鼓動が異常に速くなる。体温が恐ろしいほど上がるのを感じた。炭治郎が何かを鬼に向かって叫んでいるが、よく聞こえない。

「うるさい!!」

一瞬だけ辺りが静かになった。あまりにも大きな声に、その場にいる全員が圓城を見た。

「うるさいうるさいうるさいうるさい!極悪だの非道だの、どうっっっでもいい!黙って殺されろ!」

圓城が鋭い瞳で鬼を見据えた。その時、少し距離をおいて圓城の右側にいた玄弥は、一瞬圓城が泣いているのかと思った。いや、違う。圓城の目の下から何かが出ている。

それは痣だった。深く黒に近い青色の、星のような形の痣が、圓城の両目の下から首にかけて流れるように出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

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