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作:春川レイ
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刀鍛冶の里にて


 

 

 

 

「ア゛----っ!ア゛----っ!」

しのぶと甘露寺から逃げるように帰ってきた圓城は、自邸の稽古場にて、叫びながらゴロゴロと転がる。たまに無言になって悶えたかと思えば、また叫ぶ。最近ようやく治まってきたと思っていた発作がまたぶり返した。じいやはため息をついた。

「お嬢様、何があったんです?」

「じいやぁ…、よくもあそこで私を行かせたわね…、来世まで恨んでやる…」

「はいはい。それで?胡蝶様と何があったんです?」

「……ア゛----っ!」

圓城は両手で顔を隠すように押さえた。恐らくその顔は真っ赤になってるのだろう。

「お嬢様。いい加減きちんと胡蝶様と話すべきです」

「……できない」

「おや、逃げるんですか?睡柱ともあろう方が」

「……」

「情けない。そんな方は、鬼殺隊の柱として相応しくありません」

「……私にとって、あの子と対話することは、鬼と戦うよりも、怖い」

おや、とじいやは目を見開く。いつもならこのくらい挑発するとすぐに乗ってくるはずが、今日は静かに言い返してきた。寝転んだ体勢のまま、顔から手を離し、じっと考えるような表情で天井を見つめている。

「これ以上、嫌われたくない。前に、言われたの。か、顔も見たくないって。あの時の、こと……二度と思い出したくない。刀で斬られたみたいに、胸が痛くて、目の前の全ての色が失くなって、世界が、壊れていくみたいだった……」

「……」

「話したら、きっと感情が爆発するわ。冷静に、なれないの。そしたら、私はまたしのぶにとって嫌なことを言ってしまうでしょう」

「…お嬢様」

圓城が声をかけてくるじいやを無視して、立ち上がった。

「鍛練をします。じいやは出ていって」

「…お嬢様、そろそろお休みになった方が…最近、また眠っていらっしゃいませんよね?」

「自分の体調は自分がよく分かっています。眠るべき時にきちんと眠るわ。出ていきなさい」

圓城が頑なにそう言うと、じいやは心配そうな表情をしながら出ていった。

残った圓城は刀を手に取り、素振りを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……どうしてもダメです?」

圓城が上目遣いで刀鍛冶の里長、鉄地河原鉄珍を見つめる。鉄珍は、

「いや~、さすがに無理ですな、圓城ちゃん。短刀はあかん」

と言い放った。圓城はその答えにため息をついた。

ここは刀鍛冶の里。圓城は、最近自分の日輪刀の切れ味がどうも悪い気がすると訴え、お館様に許可をもらい、この地を訪れていた。まあ、これは口実である。本当の目的は炭治郎がここに長期滞在していると聞いたためだ。禰豆子が太陽を克服していないか探りたかった。それに、変な胸騒ぎがする。

予想通り、日輪刀の調整は1日で終了した。

調整してもらったついでに、前から考えていた事を鉄珍に尋ねた。鬼を倒せる短刀が作れないか、という質問に鉄珍は首を横に振る。

「日輪刀は鬼の頚を斬る事ができる唯一の武器。残念ながら、短刀で斬ることは不可能ですな」

「……うーん」

「短刀での攻撃は刺突が最も効果的でしょう。しかし、それでは鬼は死なずにすぐに再生する。斬撃はできるが、刃渡りが短すぎて頚を斬るのは物理的に難しい。圓城ちゃんがいつもやっているように、鬼に刀を投げて攻撃するか、目眩ましするのが精一杯やろ。それでも威力は低く、攻撃としては弱すぎる…」

「……うーん」

思っていた通りだ。圓城は苦笑しながら頷いた。

「ありがとうございました。鉄珍様。参考になりましたわ」

「いやいや。こちらこそ、すみませんなぁ。期待に応えられず」

そう答えた鉄珍は、少し首をかしげながら言葉を続けた。

「ところで、圓城ちゃん。話は変わるが…」

「はい?」

「体調でも悪いんか?顔色が悪いが…」

圓城は誤魔化すように笑った。

圓城はここ最近眠っていない。任務や他の仕事が立て込んでいたのもあるが、いつ禰豆子が太陽を克服するのか気になり、眠れなくなった。既に臨界点である12日を過ぎ、現在不眠不休の活動が13日目に突入した。顔色は化粧で誤魔化しがきかなくなり、頭痛がさっきから止まらない。身体も重い。

「ちょっと最近頑張りすぎただけですわ」

「それにしても、顔色がひどい。今日は温泉にでも入ってゆっくりと休みなさい。」

「あら、いいですわね」

鉄珍の言う通りだ。さすがに今日こそは睡眠をとる必要がある。圓城は重い身体を引きずるようにして、里の宿へ向かった。

もう夜も遅い。圓城はぼんやりと里を見回す。なんだかザワザワしていて落ち着かない。温泉は明日の朝一番に入ろうか。本当に身体がだるい。今夜は睡眠を優先した方がよさそうだ……。

その時、目の前に変な鯉が現れた。

「睡の呼吸 壱ノ型 転寝」

圓城はぼんやりと歩きなから、調整された日輪刀でそれを斬る。あっけなく鯉は消滅した。

「やだ、私ったら寝不足のあまり、幻覚まで…」

圓城が思わず独り言を呟き、笑った時だった。カンカンと、大きな音が鳴り響いた。

「敵襲ー!!鬼だ-!!敵襲ーっ!」

「……え?」

ハッと我にかえり、周りを見渡す。

「……っ!?」

背中に壺をつけ、人間の手足がついた大小様々な鯉の化け物が里を練り歩き、人々を襲っていた。

「各一族の当主を守れ!柱の刀を持ち出せー!」

圓城は一瞬のうちに飛び上がり、日輪刀を振るう。

「睡の呼吸 参ノ型 睡魔の嘆き」

複数の鯉がバラバラになった。すぐに消滅する。鬼にしては弱すぎる。本体ではない。使い魔か何かだろうか。ならば鬼はどこに?

「早く、早く逃げてください!皆さん!逃げてください!」

圓城は叫びながら刀を振るった。まずい。こんな体調で戦う羽目になるなんて。

「……っ、」

次々と目の前の鯉を斬っていくが、身体が重くて仕方ない。さっさと鬼の本体を倒さないと、非常にまずい。ここの人間が死ぬということは、私達の力も弱くなってしまう。そうなると--、

圓城は青ざめながら叫び続けた。

「逃げて!早く、皆さん!」

どこからか声が聞こえる。

「里長を守れー!」

そうだ!先ほど別れたばかりの里長はーー、

「…!」

圓城は辺りの全ての鯉を斬ったのを確認し、鉄珍の元へ急いだ。長の屋敷は半壊しており、何人かの人が倒れている。

「鉄珍様!」

圓城が屋敷の中へ入って大声で名前を呼んだ。屋敷の中には里を襲っていた化け物よりも、更に巨大な手足の生えた鯉が立っていた。その手の中には鉄珍がいて、締め付けられて苦しそうにしている。

圓城が刀を振り上げた瞬間だった。桃色と緑色が目の前を舞った。

「こ、恋柱サマ…?」

そこにいたのは恋柱、甘露寺蜜璃だった。凄まじい速さで駆け抜けながら、その薄く柔らかい刀を振るう。

片がついたのは一瞬だった。巨大な鯉の化け物が細切れにバラバラになる。

「…すごい」

初めて間近で甘露寺の攻撃を目にした圓城は思わず呟く。女性特有の柔らかい動きでしかも速い攻撃だった。鯉の化け物が消滅する。その消滅する手から鉄珍がスルリと落ちた。

「…よっと、」

近くにいた圓城がその小さな身体を受け止めた。

「鉄珍様!ご無事ですか?」

「え、圓城ちゃん…」

「あら、圓城さん!どうしてここに!?」

甘露寺が突然現れた圓城に驚いたように声をかける。

「たまたま、刀の調整に来ていたのです。それよりも、恋柱サマ、里の方々を逃がさなければ--」

「そうね!とにかく--」

その時、ドオン!と凄まじく大きな音が聞こえた。

「……!」

何の音だろうか。何かが崩れるような音だった。そうだ。ここには炭治郎がいる。あの子も恐らく戦っているはずだ。

圓城は甘露寺に声をかけた。

「恋柱サマ!私は炭治郎さんの元へ助けに行きます!恋柱サマは里の皆さんをお願いします!」

「分かったわ!圓城さん、気をつけて!」

「はい!」

圓城はまだ身体の動く里の人間に鉄珍を引き渡すと、即座に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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