夢で逢えますように


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作:春川レイ
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夢の星は永久に輝きて
戻ってきた現実


 

 

 

 

まず認識したのは、再び竈門禰豆子だった。いつも口に咥えているはずの竹がない。明るい太陽の下を歩き、笑って何かを話していた。そしてそんな彼女に兄である竈門炭治郎が駆け寄り、抱き締める----、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「……ええ!?」

自分の見た光景が信じられなくて、圓城は大声を上げた。同時に覚醒し、勢いよく起き上がる。

「ね、禰豆子さん…」

思わず呆然と名前を呼ぶと、すぐそばで声が聞こえた。

「…禰豆子さん?」

圓城が右を向く。そこには胡蝶しのぶがキョトンとした顔で立っていた。

「……え?」

「禰豆子さんが、どうかした?」

圓城はなぜしのぶがそばにいるか分からず首をかしげ、周りを見渡した。どうやらここは蝶屋敷らしい。前に入院していた部屋だった。自分の身体には所々包帯が巻かれている。

「……?」

なんでこんなに怪我してるんだっけ?いや、それはともかく…

「禰豆子さんは、どこ…?」

「え?多分、炭治郎くんと遊郭に任務に行ってるはず、だけど…」

遊郭?じゃあ、さっき見た夢はいつの夢なのだろう?よく覚えていないが、遊郭の光景でないことは、確かだ。禰豆子は太陽を克服する。恐らくは近い将来に。でも、あれは、一体いつの光景なの--?考え込む圓城に、しのぶが言葉をかける。

「……体は?痛いところは、ないの?」

しのぶが話しかけてくるのを、ぼんやりと考えながら適当に答える。

「……節々が痛いですわね。いろんな所を強く打ったような…」

あれ?なんでそういえば蝶屋敷にいるんだっけ?

その疑問が浮かんだ瞬間、全てを思い出した。不死川との潜入捜査、幻を見せる鬼、崖から突き落とされたこと、深い森での遭難、そして----、

「----っ、………あ?」

なんだか、すごい夢を見た気がする。カナエが出てきて励ましてくれた。その後はしのぶが助けに来てくれて、名前を呼んでくれて、しかも抱き締めてくれた。そして、それが嬉しすぎてとんでもないことを言ってしまったような--、

「………え」

待って、どこからどこまで夢なの?

パッとしのぶの顔を見る。しのぶはいつもの笑顔ではなく、心配そうな顔をしていた。

「骨が折れていて、切り傷もたくさんあるの。あなたなら、すぐに治せると思うけど…」

あれ?なんでしのぶはいつもの他人行儀な敬語じゃないんだろう。

まさかとは、思うけど、----全部現実?

そう認識した瞬間、身体中に熱が走ったのを感じた。羞恥が顔に上ってくる。それを感じた瞬間、圓城は布団を大きく被り、全身を隠した。

「…何を、しているの?」

しのぶの声を聞くのも恥ずかしい。

「助けて下さって、ありがとうございました、蟲柱サマ。気分が悪いので、しばらく一人で休ませてください」

「……」

馬鹿!馬鹿なのか、私は!この愚か者!未熟者!あんな、あんな事をしのぶに言ってしまうなんて。本当に阿呆!ああ、もうこのまま一生布団の中から出たくない!しのぶの顔を一生見ることができない!

師範、助けて、と圓城が心の中で叫んだ瞬間、勢いよく布団が剥ぎ取られた。

「ああっ!」

思わず顔を上げて叫ぶ。そしてまた、しのぶと目が合った。

「……ねえ、覚えてないの?」

しのぶが無表情で圓城を見つめる。圓城は必死にしのぶから目を逸らして、口を開いた。

「こ、この度は、助けていただき、ありがとうございました。全然!全く!覚えていませんが、蟲柱サマのおかげで命拾いしましたわ…」

「……で?」

「へ?」

しのぶの冷たい声が聞こえて、思わずそちらを見そうになる。次の瞬間、しのぶが圓城の両腕を掴み、ベッドに押し倒していた。覆い被さるように、しのぶが圓城の上に乗り込んでくる。顔が近い。え?なんでこんなことになってるの?うわ、しのぶの力、思っていたより全然強いなどと、圓城はあまりの出来事に現実逃避をする。

「--っ、え?」

「ねえ、私に言うべきことがあるでしょう?」

「あ、あの--」

「菫」

名前を呼ばれて、また顔に燃えるような熱が満ちた。その真っ直ぐな視線から、もう目を逸らせない。

「あ……、」

「……菫、あなた…」

そう、しのぶが口を開いた時だった。

「よォ、圓城!さっさと目を覚ませやァ……へ?」

不死川実弥が病室に勢いよく入ってきた。しのぶと圓城が同時にそちらへ視線を向ける。不死川は、しのぶが圓城をベッドに押し倒している姿を見て、完全に体が凍り付いていた。

「……」

「……」

「……あー、すまねェ」

珍しいくらいのしおらしい姿で謝ると、不死川はクルリと背を向けた。その瞬間、しのぶが素早くベッドから降りて笑顔で不死川に近づき、肩を掴んで止める。

「あら、不死川さん。お待ちください。お見舞いですか?」

「いや、お見舞いというか、圓城が生きて帰ってきたって聞いてよォ。様子だけでも見ようと…」

「ああ、それなら、今からどうぞ。圓城さんも大きな怪我はないようですし、目覚めたばかりなので無理をさせないようにしてくださいね。それでは」

しのぶは早口でそう言うと、逃げるように病室から出ていった。一方で圓城はベッドの上でまだ固まっていた。

「あー、圓城?」

「……」

「なんか、邪魔してスマン」

「……」

「圓城、生きてるか?」

「……風柱サマ」

「おお、なんだ?」

「…介錯を、お願いできますか?」

「待て待て、切腹するな、早まるなァ」

「……ア゛------っ!!」

圓城は大声で叫んだ。蝶屋敷に響かないように、顔に枕を当てる。不死川がいなければ、羞恥のあまり、この場で転げ回っていただろう。

「ア゛--っ!もう!もう!なんで、なんでこんな事に!」

「どうどう、落ち着けェ」

「もう嫌だ!穴があったら入りたい!いっそ埋まりたい!そのまま日本の裏側に行きたい!」

「おお、確かにあれはいろいろとヤベェ光景だったがよォ…」

「ア゛ー--っ!いっそ殺してぇっ!」

不死川は圓城が落ち着くまでひたすら宥めた。

「……う、うぅ、なんでこんな事に」

時間が経つと、やっと圓城の心も落ち着いてくる。それでもブツブツと呻くように嘆いていた。

「圓城、お前、胡蝶と…」

「…悪いんですが、その名前を言うのはやめていただけませんか。名前を聞いただけで、もう死にそうなんです…」

「おゥ、でも、きちんと礼は言っておけェ。お前が行方不明になった時、あいつ必死で探していたんだからよォ」

「……」

圓城はそれを聞いて、思わず鼻の奥がツーンとなった。自分が死んでも、きっとしのぶは気にもとめないだろうと思っていた。素直に喜びを感じる。しかし、必死で探しに来てくれたしのぶに対して自分がかけた言葉を思い出し、また悶えそうになった。

「圓城、悪かったなァ」

「はい?」

不死川が突然謝ってきて、思わずポカンと口を開いて彼を見つめた。

「あの時もう少し俺が速く動いてお前を掴んでいたら、落ちることはなかったのによォ。悪かった」

不死川は決まり悪そうに視線を逸らしてそう言った。圓城は慌てて、首を横に振る。

「ち、違いますわ、風柱サマ!私があの時、油断したのが悪かったんです!風柱サマは全く悪くありませんわ!」

「……ほら、お前のだァ」

不死川が差し出したのは、圓城の日輪刀だった。

「あ、ないと思っていたら…」

「お前が落ちたあと、これだけは発見できた。返すぜェ」

圓城は日輪刀をそっと手に取る。紛失したと思っていたため、戻ってきたことに心から安心した。

「…ありがとうございました、風柱サマ」

「…とにかく、早く体を治せェ。」

「はい、もちろん」

「あと、胡蝶とのことは…、」

「風柱サマ、お願いですから今日見たことは、お忘れください」

「…別になんも見てねェよ。余計なお世話だと思うが、きちんと話せよ」

そうぶっきらぼうに言って、不死川は帰っていった。

「話せって言われても…」

圓城は刀を見つめながら、呟く。

「……顔を見るのさえ無理なのに。できるわけないじゃない」

そして膝を抱えて、圓城は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、最近気が緩みすぎでは?」

「……来て早々、何よ」

「最近怪我をしすぎですよ。もう少し自分のお身体を大切になさってください。」

「……悪かったわ」

おや?とじいやは首をかしげた。今日はやけにしょげている。

「それよりも、もう退院するから、準備して」

「え?よろしいのですか?退院の許可はもらったので?」

「…さっさと準備して」

「ダメです。胡蝶様に許可をもらってください」

「ア゛--っ!あの子の名前を出さないで!!」

「?どうしたんです?」

顔が赤くなるのを止められなくて、また圓城は枕に顔を埋めた。

「お嬢様、胡蝶様と何があったのです?」

「……言いたくない」

「?」

じいやは不思議そうに首をかしげた。何かまずいことでもしでかしたのだろうか?

その時、バタバタと誰かが騒ぐ声が聞こえた。廊下を鬼殺隊員達が右往左往している。

「何か、あったのかしら?」

「ちょっと聞いて参ります」

圓城が不思議そうにしていると、じいやが詳細を聞くために部屋から出ていった。数分後、戻ってきたじいやは少し顔が暗かった。

「どうやら、上弦の鬼が倒されたそうです」

「えっ!本当に!?」

「はい。しかし、音柱様と竈門様、我妻様、嘴平様が大怪我をされたらしく…」

圓城も顔をしかめる。

「皆さん、大丈夫なの?」

「申し訳ありません。詳しいことは聞けませんでした。しかし、生きていることは、確かです。恐らくは近日にでも詳細が分かることかと……」

「……そう」

圓城は誰も死んでいないことにホッと息をついた。そんな圓城を見て、じいやが口を開く。

「お嬢様、退院してもよろしいそうです」

「え?」

圓城は驚きで思わず口をポカンと開ける。

「音柱様や竈門様の怪我の方がかなり重傷のようなので、ここも忙しくなるでしょう。胡蝶様にお話しして、お嬢様の自宅療養の許可を取りました。かなり渋られましたが。通院することが条件だそうです」

「……ありがとう」

じいやに心の底から礼を言う。よかった。本当によかった。今は本当にしのぶの顔がまともに見られない。

圓城は荷物をまとめると、じいやと共にコソコソと蝶屋敷を後にした。

 

 

 

 

 

 

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