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作:春川レイ
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睡の呼吸


「あら、菫。その羽織、素敵ね」

隊服の上から新しい羽織を身につけた圓城を見て、胡蝶カナエがフワリと微笑んだ。

「…ありがとうございます」

「とても可愛いわ。一気に華やかさが増したわねぇ」

カナエの言葉に圓城は顔を赤くして、はにかんだ。

「そうだわ!菫、ちょっと後ろを向いて」

「?」

カナエにそう言われて訝しげな顔をしながら、言われた通りにクルリと後ろを向く。カナエが圓城の長い髪に触れる。

「はい、出来上がり。どうかしら?」

圓城が戸惑っているうちにカナエが髪を後ろで緩くまとめた。可愛らしい黄色の蝶の髪飾りがついている。

「師範、これは…」

「気に入らない?皆とお揃いなのよ」

「…ありがとうございます」

圓城が嬉しそうに微笑み、カナエも目を細める。

そんな2人にしのぶは声をかける。

「姉さん、菫、早く任務に行かないと!」

「はいはい。そんなに焦らなくても大丈夫よ~」

今日は久しぶりに3人一緒の合同任務だ。他の隊員との合流場所にはすでに何人かの隊員が待機していた。

「現地の人から鬼の情報を聞いてくるわ。しのぶと菫はここで待っててちょうだいね」

カナエはそう言って足早に離れていく。残されたしのぶと圓城は、他の隊員達と少し離れた場所でカナエを待つことにした。

「…その羽織と髪飾り」

「うん?」

しのぶが話しかけると圓城は首をかしげながらしのぶの方へ視線を向ける。

「本当に、似合ってるわよ。とっても。」

「ありがとう、しのぶ」

圓城が嬉しそうに笑い、しのぶも笑い返した。

「羽織といえば、師範のあの羽織って凄く素敵よね。ひらひらして、本当に蝶々が舞ってるみたいで綺麗。憧れるわ…」

「……そうね」

「きっと、しのぶにも似合うと思う」

「え?」

「しのぶが、師範と同じ羽織を着ているの、見てみたい。きっと綺麗でしょうね…」

その言葉にしのぶは少し面食らったような表情をした。

そして何かを言おうとして口を開いた時、近くにいた数人の隊員の話が耳に飛び込んできた。

「おい、あそこにいるの、花柱の継子だろ。いいところのお嬢様だって噂の」

「遊びで鬼殺隊に入ったなんて、迷惑な話だよな」

「継子になったのも金の力なんだろ。図々しい」

聞こえよがしの悪口に、しのぶがその隊員をギロリと睨む。そして、そちらに足を踏み出し

「ちょっと!あなた達……」

と抗議の声をかけた時、圓城がしのぶの腕を掴んだ。しのぶが驚いて足を止め圓城の方を振り向く。圓城はしのぶの目を見つめて、黙ったまま首を横に振った。

「菫!あの人達…」

「いいから。気にしないの」

「いいからって、だって…」

しのぶがなおも言いつのろうとした時、

「お待たせ~。あら、どうしたの?」

カナエが帰ってきた。険しい顔をしているしのぶと、しのぶの腕を掴んでいる圓城を見てキョトンとしている。

「いえ、何でもありません。師範、今日はどのように動きましょうか」

「そうねぇ、とりあえず菫には西の方へ行ってもらって、私と他の隊員は…」

カナエは不思議そうな顔をしていたが、圓城に尋ねられ任務の詳細を話すうちにそちらに集中し始めた。しのぶだけが悔しそうに唇を噛み締めていた。

その日の任務はすぐに終了した。数人の隊員とカナエが鬼の頚を斬り、犠牲者は出ず、怪我人はいたが皆軽傷だった。

「じゃあ、ちょっと報告に行ってくるわね。あなた達2人は先に帰っててちょうだいね~」

カナエはそう言って足早に去っていった。圓城としのぶは蝶屋敷へ戻るため2人で歩を進める。しのぶは黙りこんでおり、その沈黙に圓城は一つため息をついて口を開いた。

「まだ怒ってるの?」

「……」

「そんなに怒らないでよ。今日は特別にしのぶの好物を買ってきてあげる」

「……」

「……どこかでお土産も買って帰りましょうか。何がいいかな…」

「なんで、そんなに平気な顔をしてるのよ!」

突然しのぶが大声を出した。圓城はビクッとしたが、静かに見返す。

「あの人達、最低!あなたの事、何も知らないくせに、勝手な噂をたてて、あんな悪口許せない!」

「……放っておきましょう」

静かにそう言った圓城を、しのぶは睨み付けるように視線を向けてきた。

「なんで!」

「あんな噂に振り回されるくらいなら、鍛練して自分を高める方がずっといいわ。それに…」

「それに?」

「…少し前の私は、あんな噂を立てられても仕方なかったの。人の命と向き合わずに、任務をこなしていたから。だから、いいの。どんなに悪くいわれても、人を護るために、ここにいるって決めたから。」

「……納得できない」

しのぶはそう言いながらも、自分も前までは、噂話をしていた隊員と同じような目で圓城を見ていた事を思い出し、圓城から目を逸らした。再び黙りこんだしのぶの手を握ると、しのぶが顔を上げる。圓城は笑って口を開いた。

「…しのぶ、私ね、自分で呼吸の型を作るの」

「…え」

しのぶは目を見開いた。

「水の呼吸が合ってないのよ。花の呼吸の方が使いやすいけど、やっぱり完全じゃない。だから、花の呼吸を元にして、独自に編み出そうと思って。」

「できるの?」

「師範と話しながら、少しずつ考えてる。自分に合った戦い方を見つけたら、もっと強くなれるわ。さっきの人たちが黙るくらい。」

「……」

「強くなりたいの、もっと、もっと」

圓城は真っ直ぐに前を見つめる。まだまだ、強くなる必要がある。鬼を斬るために。そして、誰かを護るために。悪い噂なんてどうでもいいのだ。自分の道を自分で切り開き、もっと強くなってみせる。知らず知らずのうちにしのぶの手を強く握っていた。

しのぶはその姿をじっと見つめ、何も答えなかった。

 

 

 

 

 

「また、寝ていないの?」

夜、圓城が走り込みをして帰ってくると、縁側でしのぶが待っていた。圓城はしのぶがいたことに驚きつつ、苦笑いをしながら近づく。

「しのぶも起きてたの?」

「…なんだか眠れなくて」

「じゃあ、起きてましょうか?手合わせでもする?」

「いえ。明日も任務があるし、もう少ししたら部屋へ戻るわ」

「あら残念」

そう言いながらしのぶの隣に座る。

「……何日寝てないの?」

しのぶは圓城がしばらく寝ていないことに気づいていた。本人は上手に隠しており、実際しのぶ以外は気づいていないようだ。しのぶが心配そうな表情をしているのを見て、圓城は苦笑しながら人差し指を立てた。

「ヒミツ」

「…寝ないと、そのうち倒れてしまうわ」

「大丈夫。自分の体の事は私が一番知ってるわよ」

圓城は手拭いで汗をふきながら笑う。

「どうして寝ないの?」

「……嫌いなの。眠ってしまうのが」

「なんで?」

「…ヒミツ」

「もう!いつもそればかり!」

しのぶが口を尖らせる。軽く睨み付けるが圓城は困ったように笑うだけでそれ以上は答えなかった。少し黙った後、圓城が迷ったように口を開いた。

「…私のね、呼吸の型の事、なんだけど」

「うん?」

「睡の呼吸って名前にしようと思うの」

「ねむりの呼吸?睡眠が嫌いなのに?」

「うん。自分への戒めをこめて」

「戒め?」

「そう。ちなみに“睡眠”の“睡”って書いて睡の呼吸なの」

圓城は微かに笑う。戒めであり、警告だ。睡眠で人を救えるなんて思わないように。もう二度と勘違いしないように、自分で自分を戒めるための名前だ。しのぶがなおも不思議そうに尋ねる。

「眠るって書いて眠の呼吸じゃないの?」

「最初はそうしようと思ったんだけど、“睡”の漢字も、ねむりって読むの。“目”に“垂れる”って書くでしょう?一説によると花が垂れ下がる事を示してるんですって。その横に「目」を加えて、眠くなってまぶたが垂れてくるって意味を持つらしいの。花の呼吸からの派生になるし。眠るって漢字より、こっちの漢字を使おうと思って」

しのぶが目を丸くして何度か頷きながら小さく息をついた。

「…あなたは、どんどん上に行くわね。そのうち柱になるかも」

「ええ?無理よ。師範みたいになるにはまだまだだもの」

「分からないわよ。階級も上がってるんでしょう?」

「うーん、まあ…」

圓城は適当に言葉を濁しながら立ち上がった。誤魔化すように話題を変える。

「ねえ、しのぶ。今度の休み、どこかに出掛けましょうか」

「え、どこに?」

「甘味処はどう?」

「いいわね。甘いもの食べたい」

「よかった。楽しみね」

圓城としのぶは笑い合う。しのぶは休みが待ち遠しくなり、胸が高鳴った。しかし、

「きっと、カナヲさんも喜ぶわ」

と、圓城が続けた言葉にポカンと口を開いた。

「?しのぶ、どうしたの?」

「…なんで、カナヲ?」

「え、いや、今日、カナヲさんが珍しく私と少しだけ話をしてくれたの。その時、前に私があげたキャラメルが美味しかったって言ってたから、甘味処に連れていってあげようかなって思って…」

「……」

「…しのぶ?」

なぜかしのぶの目がつり上がった。圓城がその様子に戸惑っていると、それに構わずしのぶは立ち上がる。

「じゃあ、私とあなたとカナヲの3人ってことなのね」

「え、ええ。あ、でもアオイとか他の子も誘ってもいいわね…しのぶ、なんで怒ってるの?」

「怒ってない!」

「怒ってるじゃない…」

「怒ってない!もう寝る!」

誰がどう見ても怒ってる様子でしのぶは自室に戻っていった。圓城はポカンと口を開いてその場でしばらく固まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

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