夢で逢えますように


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作:春川レイ
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蝶と夢
夢で出逢ったあなた


 

 

 

 

 

……私の目の前に少年がいる。

「俺の妹は鬼になりました。だけど人を喰ったことはないんです。今までも、これからも、」

この光景、()()()()()()と思いながらじっと少年の顔を見つめた。

 

 

 

 

人間を守るために鬼と戦う鬼殺隊。私は鬼殺隊の中で最も位の高い剣士、いわゆる“柱”だ。そんな私には少し変わった、ある能力がある。

そもそも、私のその能力が目覚めたのは今から6年前、12歳の時だった。その頃の私は鬼殺隊に入っておらず、両親と多くの使用人とともに何不自由なく暮らしていた。私はいわゆる名家の出身だ。上流階級の者として生まれ、自分で言うのもなんだが蝶よ花よと育てられた。良家の女子が通う、日本でも有数の学校を卒業した後は、両親が決めた相手と結婚することが決定していた。完全なる政略結婚ではあるが特に疑問に感じたことはなかった。

そんな暮らしが変わったのは、ある夜会に両親とともに出席した日だった。ちょっとした面倒事が起こり、私は両親よりも先に一人で自宅に帰ることになった。母は私を一人で帰すことを渋ったが、夜とはいえそんなに遅い時間ではなかったし、車には護衛と運転手もいたため、不安そうな母を宥めて私は車に乗った。

 

今でも心の底から思う。私一人でよかった。本当に。

 

人気のない道を車で通っているときに、恐ろしい何かに襲われた。それはおぞましい、人間の血肉を食らう生き物、鬼だった。車を破壊したその鬼は、私の目の前で、運転手と護衛を一瞬で殺した。抵抗する間もなかった。その残虐な光景に私の頭は真っ白になった。鬼が私の方を見た瞬間、私は無意識に動いた。護衛の持っていた短刀を手に取る。ヌルリと血が手に触れたことは、なぜかはっきりと覚えている。襲ってくる鬼を見据えて、私は動いた。

それから先の事は、実はよく覚えていない。

気がついたら、私は鬼殺隊の隊員に保護されていた。後から隊員に聞いた話によると、私は無我夢中で短刀を使い何度も鬼を刺し続けていたらしい。鬼は何度も身体を再生し、私を喰べようとしたが私は何とか抵抗した。鬼殺隊が早く駆けつけてくれたことが幸いし、私は助かった。それもほとんど無傷で。それは非常に驚愕的で幸運な事だったらしい。私はそのまま気絶し、病院へと搬送された。

誰かから連絡を受けたらしく、両親が慌てて病院に駆けつけてきた。二人とも顔が真っ青になり、何かいろいろ言っていたが、私はそれどころではなかった。

気絶している時、不思議な夢を見たのだ。一人の少年の夢だ。赤い髪と瞳。鬼になった少女を連れている。そして、刀を手に持ち鬼を倒そうとしている。

その夢は一回では終わらなかった。眠る度に、不思議な夢を何度も何度も見た。赤い髪の少年が出てくる事が一番多かったが、黒い髪を一つに結んだ青年が鬼と戦う夢もあれば、列車の中で炎のような派手な容姿の青年が刀を持っている姿も見た。

私はその夢に苦しむ事となった。夢の中で私の知らない誰かが、戦い、苦しみ、死んでいく。私は夢の謎を追うために、自分が襲われた鬼について独自に調べ始めた。

この世に鬼という恐ろしい生き物がいること、そしてそれを狩るための政府非公認の組織、『鬼殺隊』が存在する事を知った私は、考えた末に鬼殺隊に入ることを決心した。どうしても夢の謎を解きたかったのだ。その頃には夢を見ることに少し慣れ始めていたが、それでも時々夢の中で人が死ぬと悲鳴を上げて飛び起きたり、そのおかげで睡眠不足になったりと日常生活にも支障をきたしていた。私の中の何かが私に語りかけていた。夢の謎を追え、と。

もちろん、女であり卒業したら結婚も決まっている私が鬼殺隊に入ることを両親が許してくれるはずはない。私は身の回りの物と信用できる使用人を一人連れて、家を出た。

使用人に手伝ってもらいながら、私はまず自分の着物やドレス、装飾品を全て売り払った。両親に見つかるのを恐れ、転々と居場所を変えながら少しずつ、計画的に。それと同時に鬼殺隊に入るため、剣士になるための育成者、いわゆる育手を探した。少し時間はかかったが、金で新しい戸籍を手にいれ、別人として生きる準備が出来た頃、私はようやく私を受け入れてくれる育手を見つけた。

育手の方は最初私が来たことに非常に戸惑っていた。無理もない。鬼殺隊とは無縁そうなひ弱な女が来たのだから。育手は厳しい修行を課してきた。恐らく私がすぐに諦めて家に逃げ帰ると思っていたのだろう。しかし、私は諦めなかった。今となっては何がそんなに私を駆り立てていたのか分からない。その頃は夢の謎を追うのにただただ必死だった。幸運なことに私は剣士としてそこそこ才能があったようで、数ヶ月ほどで最終選別に行くことが許された。

最終選別では多少怪我を負ったものの、無事に藤襲山で7日間生き延びることが出来た。初めて鬼を殺すことに成功した時、感じたのは不思議な達成感だった。それと同時に奇妙な感覚を覚えた。私はきっと鬼を殺すために生まれてきた。そんな気がしてならなかった。

多くの鬼を殺し続け、7日間を乗りきると無事に鬼殺隊への入隊に成功した。隊服と日輪刀を支給され、すぐに鬼狩りの最前線へと投入される。とにかくどんどん鬼を切って切って殺していった。それと同時にさりげなく情報収集を始めた。私が夢の中で見た人物たちを探すためだ。しかし、どれだけ情報を集めても赤い髪と瞳の少年は見つからない。それには首を傾げるしかなかった。私が見たのは、やはりただの夢だったのだろうか。

しかし、ある合同任務で私は『煉獄杏寿郎』という人物を初めて見たとき、ハッとした。間違いない。私は彼を夢の中で見た。しかし、夢の中の彼とはほんの少し違っているような気がした。具体的に言うと、実際の彼は若いような気がするのだ。夢の中の人物はもしかしたら彼の父親など親類という可能性もあるが、私は心の中で彼だと確信していた。もしや、私が見た夢はこれから起こる未来の出来事、予知夢ではないだろうか。それならば納得がいく。そして、新たな可能性に気づいた。私は夢の中で彼らの死を知っている。もしかしたら救えるのかもしれない。苦しんで死んでいく予定の人物たちを。

私はその考えに有頂天になった。愚かにも人々を救済できる神になった気分だった。それがどんな後悔を生むのかも、全く予想できずに。

 

 

 

 

鬼殺隊に入って数年たった。私は隊を支える最上級の剣士、柱にまで昇進した。この数年、いろいろな事があった。本当に。

そして今、目の前には鬼になった妹を庇う少年がいる。その姿を見た瞬間、私は歓喜した。

この子だ。この少年がきっと鍵となる存在なのだ。

鬼を連れている?そんな事とっくの昔に知っている。私は何年もあなたを待っていた。

不意に少年の赤い瞳と目が合う。私はゆっくりと優雅に彼に微笑みかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※名家の令嬢 : 圓城(えんじょう) (すみれ)

戸籍上の年齢は20歳。本当は18歳。上記の名前は本名ではない。家出をした時、家族と縁を切るため、自分と近い歳の適当な戸籍を買い取った。本名を名乗る予定は二度とない。

趣味は華道と茶道と習字という根っからのお嬢様。実は現代社会から過去へと生まれ変わった『転生者』なのだが、自分の前世は何一つ思い出していない。ある夜の出来事から不思議な夢を見続ける。それは「鬼滅の刃」の情景。ただし、自分の前世は思い出せないため、転生者とは気づかず予知夢だと認識している。

裕福な家を飛び出して鬼殺隊へ入り、柱にまで昇りつめた。単独任務が好きで、他の隊員や柱と協同での仕事をするのは少ない。鬼殺隊の剣士達からはあまり評判がよくない。立ち居振舞いや仕草から裕福な家の娘と分かってしまうため、「鬼殺しはお嬢様の道楽」「金の力で柱になった」などと噂されている。その噂のため、他の柱とも仲はあまりよくない。

唯一蟲柱の胡蝶しのぶとは友好的な関係を築いていたが、ある事情からその関係にひびが入った。現在は仕事上の付き合いのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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