前回は、剛腕の神とされる
『天手力雄神(アメノタヂカラオノカミ)』
について書きました。
腕の力がとても強いことから、勝利の象徴
スポーツの神さまとして親しまれています。
彼は、太陽神である女神「アマテラス」が
岩戸に隠れ、世界が闇に包まれる
「天岩戸(あめのいわと)」神話で
岩戸を引き抜き、アマテラスが岩戸から出る
きっかけをつくり、世界に光を取り戻した
ある意味、最大の功労神です。
その一方で、彼は神話上とても重要な役目を
はたしながら、結局どのような神さまなのか
いまひとつ、わかりにくいところがあります。
前回、彼は最高神・アマテラスと
強烈な結びつきがあると、書きましたが
どうもにも彼には、もう一つの姿…
原像ともいうべき神格が隠されている
ように思います。
単に腕の力が強いから、というだけで
アマテラスが籠(こ)もる岩戸を破壊する
役目を仰せつかった訳ではないでしょう。
それには、それだけの理由があったはずで
その部分にこそ、アマテラスと強固な結びつき
をもつ、アメノタヂカラオの本当の姿が
隠されていると考えています。
今回は、このミステリアスな
「アメノタヂカラオ」の原像について
書いてみたいと思います。
『アメノタヂカラオ』がもつ『別名』にヒントが…
その為には、彼の別名…
(「望月氏系譜」「紀国造系譜」に記載のある)
・『多久豆魂命』
(おおくずたまのみこと、たくづたまのみこと)
がヒントになります。
ちなみに岩戸神話そのものは
昔から、「日蝕(にっしょく)」の事実を
比喩していると、いわれています。
さて、アメノタヂカラオとの「結びつき」
という点に着目すると…アマテラスとは別に
もう一柱…ある意外な神が浮かび上がります。
『九頭龍神(くずりゅうしん)』です。
神名に「多久豆魂命」と共通する
『クズ(久豆・九頭)』の響きがありますね!
『多頭龍』と『アメノタヂカラオ』との関係
九頭龍神は、九つの頭をもつ多頭龍で
「水神」「雨乞い」の神として信仰されていますが
・時に人々に害をもたらす悪神
・時に病や災いを祓う善神
として、全国各地に様々な伝承を残しています。
九頭龍神を祀る神社で有名なのは
箱根の芦ノ湖畔にある「九頭龍神社」で
・『九頭龍神社(本宮)』
(神奈川県足柄下郡箱根町 芦ノ湖畔 箱根九頭龍の森)
祭神 「九頭龍大神(くずりゅうおおかみ)」
人びとに悪さをする毒龍(九頭龍神)を
万巻上人(まんがんしょうにん)が調伏し、帰依させ
湖の主として祀ったと伝えられています。
じつはアメノタヂカラオは、この九頭竜神と
供に祀られるケースが散見されます。
東京都の檜原村の「九頭竜神社」や
千葉県印西市別所の「九頭竜神社」などは
「天手力雄命」「九頭竜神」の二神を祀ります。
また長野県の「戸隠神社(とがくしじんじゃ)」も
「奥社」にて、アメノタヂカラオを祀りますが
境内の「九頭龍社」では、九頭龍神を奉斎して
います。
さらに、戸隠神社には
「もともとの地主神は九頭龍神である」
との伝承まで存在します。
宝賀寿男氏の著書
古代氏族の研究⑩『紀氏 平群氏』では
「アメノタヂカラオ」と「九頭龍神」は
同神であり、紀国造・大伴連の祖神と
書かれています。
この二神には、それほど強固な結びつきが
あるということですね。個人的には
二神は別神と考えているのですが…
同神と判断しても問題ない、同一とみまがう
ばかりの強烈な結びつきとは何なのでしょう。
(少し謎めいてきましたね!)
『クズ』と呼ばれた、ヤマトの『先住民』
また「クズ」といえば、天孫族が来着する
以前から、奈良県の吉野地方に居住していた
先住民『国栖(クズ・クニス)』が思い浮かびます。
(古俗を残す土着民で、「国樔」「国巣」とも書き
常陸国(現在の茨城県)にも、その名が見え
「ツチグモ」「ヤツカハギ」と同一視されます)
アメノタヂカラオの別名
「多久豆魂命」は、文字通りに解釈するなら
『多く』の『久豆(クズ)』の魂…
先住民『クズ』人の奉斎する
神々という、解釈もできないでしょうか。
対馬(つしま)の『クズ』から導かれる『天道信仰』
そして長崎県対馬市にも、社名に
「クズ」のつく神社が鎮座します。
『多久頭魂神社(たくずだまじんじゃ)』
(長崎県対馬市厳原(いづはら)町豆酘(つつ))
『天神多久頭魂神社(てんじんたくずだまじんじゃ)』
(長崎県対馬市上県町佐護字洲﨑西里2864)
・『多久頭魂神社』
Takuzudama Shrine.jpg 「wikipedia」より
前者は、延喜式神名帳に記載のある
下県(しもあがた)郡の「多久頭神社」に
比定されていて、この2社は
『天道信仰(てんどうしんこう)』の拠点でした。
「天道信仰」とは何かというと
仏教と対馬の山岳信仰、太陽信仰、母子信仰が
融合して成立した、いわば対馬特有の神仏混淆の
修験道信仰のことです。
天道とは、大空を通過する太陽の軌道を意味し
転じて、太陽そのもの、大自然の摂理を指し
信仰の基層には、原初の『太陽信仰』が
あるといわれています。
そして、この天道信仰の担い手となる
供僧(くぞう)と呼ばれる僧侶たちが
信仰したのが「天道法師」です。
天道法師はたぶんに伝説的な人物で、概略すると
1300年ほど昔、かつて豆酘(つつ)村に住む娘が
(太陽にむかって用を足した際に
あるいは海の向こうから流れついた娘が…とも)
太陽光を浴びて妊娠し、神童が生まれます。
(これは北方アジアによくみられる建国神話で
「日光感精(にっこうかんせい)」伝承といいます)
この神童が、後の「天道法師」で
やがて彼は9歳で仏門に入り
奈良で修行し神通力を得ます。
対馬に帰国した法師は、天皇が病に倒れた際に
対馬から都へ、空を飛び治療に赴き、天皇を救い
宝野上人(ほうやしょうにん)の菩薩号を授かります。
群馬県にもある『空飛ぶ』人物の伝承 余談ですが…
ちなみに余談ですが…(横道にそれますが)
私は、もともと群馬県の吉井町の川内で
名主を務めた先祖のルーツを調べているのですが
吉井町には、やはりたぶんに伝説的な
朝廷に討伐された奈良時代の謎の豪族
『羊太夫(ひつじだゆう)』伝説が存在します。
羊太夫は、お供の「八束小脛(やつかこはぎ)」
の神通力を得て、馬に乗って空を飛び
吉井町から奈良の都に、秩父で取れた
和銅(ニギアカガネ)を献じるべく
日参したと、伝えられています。
長崎県の対馬と群馬県の吉井町…
双方、隔絶した場所ですが
前者・後者に、「空を飛ぶ」という
伝説的人物が登場するのは、興味深いですね。
さて本題にもどります。
対馬の『クズ』と名のつく2社を拠点とした
「天道信仰」から抽出できるキーワードは
「太陽信仰」「母子信仰」「修験道」の三つです。
この天道信仰に、アメノタヂカラオの原像を
紐解く鍵があると考えています。
次回もう少し、「クズ」と名のつく対馬の2社
『多久頭魂神社(たくずだまじんじゃ)』
(長崎県対馬市厳原(いづはら)町豆酘(つつ))
『天神多久頭魂神社(てんじんたくずだまじんじゃ)』
(長崎県対馬市上県町佐護字洲﨑西里2864)
についてみてみたいと思います。
海洋民・鉱山師の奉斎する、思いもよらない
アメノタヂカラオの原像と修験道との関わりが
浮かび上がると思います。
続きます。