世田谷一家惨殺事件に関しての、少し抜け落としていた部分を、一橋文哉著『世田谷一家殺人事件~15年目の真実』(角川文庫)を参考にして補足です。

今一度、おさらいすると事件が発生して報道されたのは、2000年12月31日。20世紀最後の日に起こってしまった不可解な未解決事件という事になっている事件ですが、埼玉県内の信用調査事務所(興信所)に事件の被害者となった宮澤さん一家についての不可解な調査依頼があったという箇所を、少しだけクローズアップしてみる。

2000年8月15日午後12時19分に、その埼玉県にある信用調査事務所に一通の電話が入ったという。電話の主は、

「杉並か世田谷に住んでいる宮澤みきおという人物の自宅住所を知りたい。奥さんの名前は泰子。性別は不明だが子供が二人いる」

信用調査事務所では調査費用として15万円の銀行振込を提示したが代金の振込はなかったという。

ところが間を開けて同年10月23日に再び調査依頼の電話が入り、この際には「アオキノブオ」名義での振込も行なわれた。信用調査事務所は案件として取り扱い、調査報告書を作成の上、宮澤さんの住民票も取得し、調査報告書に住民票を添えたものを「アンドウ」と名乗る男に事務所で手渡ししていた――という。

そして、埼玉県内に於ける信用調査事務所の一件は、事件発生から約半年後となる2001年6月には埼玉県警から警視庁に情報が上げられた。(齊藤寅著『世田谷一家殺人事件~侵入者たちの告白』(草思社)や、一橋文哉著『人間の闇』(角川oneテーマ21)他でも触れてあった内容ではあるのですが、昨年発刊された一橋著『15年目の真実』では日時や経緯についても細かく触れられていました。)

何者かが凶行の数ヵ月前に確かに興信所(信用調査会社)を利用して、宮澤さん及び、宮澤さん一家の身辺調査をしていたという事なんですよね。

そして、意外な方向へ転がります。その信用調査事務所の一件が埼玉県警から警視庁へと報告されたのは、先にも述べたように2001年6月なのですが、それに影響を与えたと思われる、もう一つの一家惨殺事件が同年5月下旬に埼玉県で発生していた――。

世田谷事件の凡そ半年後となる2001年5月24日19時半頃、さいたま市内の住宅街で岡部伝二郎さん(当時64歳)と、長女で名門私立中学三年の沙和佳(さやか)さん(当時14歳)が夕食を終えて、くつろいでいたところ、突然、柳刃包丁を持った犯人が玄関から侵入。犯人は伝次郎さんを二階洗面所で殺害、沙和佳さんを居間で殺害。長女の家庭教師をしていた女子大学生が19時50分頃に岡部さん宅を訪れて呼び鈴を鳴らしたところ、犯人が慌てて火を放ち、二階の窓から逃走したという。当日は雨天であったが火の回りが早く、岡部さん宅は全焼し、且つ、隣家の電器店まで延焼したという。

では、その岡部さん父娘殺人事件とは、どのような犯行であったのか? 実は、こちらの埼玉県さいたま市で発生していた事件は、どこか世田谷一家事件と不気味な一致をみせる残忍な未解決事件なのだという。

埼玉県警が発表した二人の死因は、伝二郎さんが右総頸動脈切断による失血死。沙和佳さんは右側肺の刺創による失血死と発表されていた。しかし、一橋が埼玉県警幹部にあたったところ、次のような談話を得たという。

「沙和佳さんの遺体の頭部にはバーベキューの串のような長細い金属棒が突き刺さっていた。その刺創には生体反応があり、彼女が生きている間に刺されたことがわかっており、顔も分からないほど焼け爛れた遺体からは包丁の先端部の破片も検出されていた。ウチは怨念か猟奇殺人の線で捜査を始めたんだ」(埼玉県警幹部)

既に、ここまでにも充分な〝偶然の一致〟を読み取れますが、それだけにあらず、この埼玉の岡部さん事件に於いても、前出の信用調査事務所が利用されていた事が判明しているという。それ故に、2001年6月に埼玉県警から警視庁に情報が提供されていた――という事らしいのだ。

2000年11月24日に若い男の声で「(沙和佳さんが通っていた)」名門私立中学(実名)の在校生全員の名簿を入手してほしい」という調査依頼があったという。結局、代金が振り込まれて来なかったので信用調査事務所は動かなかったが、信用調査事務所関係者の印象からすると、後に宮澤さんの調査報告書を受け取った「アンドウ」と名乗った人物に似ていたという印象があるらしく、埼玉県警では「世田谷事件」と、その岡部さん事件とが信用調査事務所を通して繋がっていたかのように推測できるとして、重大な関心を抱いていたという。



『世田谷一家事件~15年目の真実』では、おおまかには次のように編み込まれてゆく――。つまり、何者かが実際に、その埼玉にある信用調査会社を利用していたという事であり、それが殺しを生業とする犯人もしくは犯行グループが下調べをしていたという事ではないのか? まさしく、ビジネスとして殺人を請け負う犯人もしくは犯行グループが関与していたという事ではないのか――と。

勿論、一橋文哉著の場合は実行犯は李仁恩(仮名)である――として、興奮剤を服用して殺人ロボットと化す韓国元軍人犯行説を曲げておらず、確信している。

拙ブログ「世田谷一家殺人事件~韓国元軍人犯行説編」~2013-12-20