魔法科高校の編輯人   作:霖霧露

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第百十話 春遠からじ

2097年3月26日

 

 達也たちと俺たちで別れ、それぞれデートをしていたのは昨日の事。

 ちなみに、デートだけでなく夕食も2つに別れた。達也と深雪の2人と、その他で。水波もその他だ。

 何故かと言うと、達也が深雪の誕生日を祝う準備をしていたからだ。身内の誕生日となれば、俺も参加すべきかもしれないが、それ自体が水を差すような雰囲気を司波兄妹は形成していた。ので、俺、雫、真由美、周妃、水波までもが空気を読んで、その2人の空間から離れたのである。

 そして、夕食後もしばらくその雰囲気は続き、その雰囲気が解消されるまで、俺たちは避難を余儀なくされたのである。

 避難している間に『あの2人、一線超えないわよね』と一抹の不安を真由美が呟いていた。俺はその不安に『達也から超える事はないでしょう。深雪からはあるかもしれませんが』と返しておいてある。不安は一切解消されていないようだった。

 そんな不安を胸に秘める避難生活(?)は、12時を回った辺りで達也から深雪の退室を連絡されたところで、ようやく終わったのだった。

 本来同室である俺が達也の部屋に戻った時、『悪い。気を遣わせた』と謝罪された事は、深雪の名誉のためにここだけの秘密としておく。多分深雪の方も雫に謝罪しているだろうが。

 

 そうしてちょっと睡眠時間を削りながら迎えた今日。

 

「今日は久米島に行こう」

 

 四葉一行と真由美が揃った朝食の場で、達也はそう明言した。

 どうやら、独立魔装大隊からお呼びが掛からないし、掛かりそうにもないらしい。なので、達也は沖縄観光に舵を切ったのだ。

 久米島を観光する事は、お呼びが掛からなかったら実行するプランの1つとして、この場にいる全員へ前以て話されていた事だ。その他にもプランはあった訳だが、全員が全てのプランに対応できるよう、準備していた。

 という事で、沖縄本島から久米島へは飛行機で向かうべく、空港へと足を向けるのだった。

 

 

 

「達也さん!」

 

 空港の出発ロビーにて、達也を呼ぶほのかの声が響いた。

 そしてその場に居合わせたのはほのかだけではない。中条、服部、五十里、千代田、桐原、壬生、沢木という、真由美が一昨日出会った面子ともその場で居合わせた。

 この出会いは偶然だが、意外感を抱く程ではない。

 それもそのはずで、以前記した通り、ここに集まった者全員が人工島竣工パーティーに参加する予定の者で、その人工島は久米島から西へ30km行った沖合にあるからだ。ならば、竣工パーティー前に久米島を観光しようというのも不思議ではない。

 まぁ、沖縄本島のホテルに泊まっている事が前提条件であるし、久米島観光の日がいつになるかという不確定要素はあるが。

 とかく、俺たちと彼彼女らの合流は偶然ではあるが、『偶然』以上の意味はないのだ。メタ的には、運命めいたモノを感じてしまうが。

 

「か、会長……?数日は沖縄に居ると伺っていましたが、ど、どうして四葉たちと……?」

 

「あら、はんぞーくん。私はとっくに生徒会長を止めているのに、まだ『会長』って呼ぶの?」

 

 俺たちと真由美が揃って出発ロビーに現れたのを見て、服部はあからさまに動揺する。真由美は懐かしいオモチャもとい久しい後輩との邂逅で、悪戯心がくすぐられていた。

 ただ、真由美がそうして攻勢に出られるのも、長くはないようだ。

 

「あれ?七草先輩って四葉君と上手く行ったんですか?」

 

「ちょ、ち、ちがっ……!……ていうか、摩利が漏らしたわね!」

 

 千代田が真由美の抱える恋愛事情を指摘すれば、動揺するのは真由美となった。まぁ、服部も動揺したままだが。より正確に言えば、動揺を通り越して固まっている。

 

「いやぁ、なんか渡辺先輩とこの前会った時深刻そうな顔してて。何かあったか聞いてみたら、『花音は二股ってどう思う』って。てっきり渡辺先輩が二股掛けられてるもんかと怒ったら、『私じゃなくて、まゆ、……友人の話だ』って」

 

「……」

 

 摩利の友人で『まゆ何某』となると、千代田が思い当たるのは『真由美』くらいだろう。おかげで、千代田は真由美の話だと悟ってしまったのだ。

 真由美はそうして悟らせてしまった摩利のポンコツさに、思わず絶句していた。あの親友は何をやってくれているのだと、ありありと顔に出ている。

 

「で、四葉君。私は二股も浮気も許さないタイプなんだけど」

 

 そして俺に飛び火する。いや、ある意味で火中と言うか、渦中の人間な訳だが。

 

「千代田さん、悪いのは彼じゃなくて、私が無理矢理割り込んで―――」

 

「いいえ、悪いのは俺です」

 

 千代田から睨まれる俺を真由美は庇おうとしていたが、俺はそれを制した。この状況で真由美に庇ってもらったって、女を盾にしていると思われかねない。それでは事態が好転するどころか、悪化するばかりだろう。

 だからこそ、俺は自ら泥を被り、せめてもの誠意を示す。

 

「婚約を前提に、いえ、結婚を前提に雫と交際している俺は、真由美さんをフって然るべきなのでしょう。でも、俺にはそれができなかった」

 

「……七草と仲良くしたいから?」

 

「そういう意図がないと言えば嘘になります。ただ、それが全てではありません」

 

 千代田が嫌悪感丸出しで邪推してくるが、俺はその邪推を受け止めた。実際、七草との関係を考えて、というのも、真由美をフラない要因の1つだ。

 だが、それが主因ではない。

 

「俺は、真由美さんとの縁を切りたくない」

 

「……別に、フったからって縁が切れる訳ではないでしょ?」

 

「……本当に、そう思いますか?」

 

 千代田がわずかばかりながら言葉を窮したところを、俺は見逃さず突く。

 

「……」

 

「男女の友情はあるのでしょう。破断しても繋がったままで居られる縁もあるのでしょう。でも俺は、俺の友情が、真由美さんとの縁が、そうであると信じられない。信じられる勇気がない」

 

 フラれた後も縁を続けられるとは千代田も自信を持って言えず、今度は完全に言葉を詰まらせた。俺はそこに畳みかける。

 

「俺は、真由美さんとの縁を絶対に失いたくない。だから、縁が切られるくらいなら、惨めにも繋ぎ止める」

 

「……」

 

「……花音、そこまでにしよう」

 

「……啓」

 

 俺の畳みかけに押し黙ってしまった花音。そんな花音を助けるようにして、五十里が花音の両肩に手を添えた。

 そうして千代田を落ち着けてから、五十里は俺の目を見る。

 

「四葉君。その関係が、一時しのぎでしかない事は分かっているかな」

 

「もちろん、重々承知しています。だから、俺たち3人でどういう結論に持っていくか、話し合っている最中です」

 

「なら、良いんだ」

 

 俺の言葉を聞いた五十里は、俺に、そして真由美と雫に、少し憐れむような微笑みを向けた。

 しかし、それもほんの数瞬で、俺へと向け直す微笑みは、穏やかなモノになっている。

 

「それにしても、君も悩み多き少年だったとはね。ちょっと意外だよ。僕たち卒業生と比べても、君は大人びて見えていたからね」

 

 どうやら五十里は、恋愛に対して悩みを抱える俺に少年としての等身大な姿を見つけたらしい。そうして彼は、俺の中に少年らしさをようやく見出し、その少年らしさに親近感を覚えて微笑んでいたようだ。

 

「……俺も、達也よりは子供ですから」

 

「いや、同い年だからな、十六夜」

 

「誕生日の早さで言えば、そっちの方が数カ月ばかり大人だよ?お兄様」

 

「……『お兄様』は止めろ」

 

 空気が和み始めているところで、俺は達也とコントする。その場に居る面子は達也の方が大人とする論に異論を唱えないどころか、何人か噴き出していた。

 これで、空気は完全に和んだだろう。

 ずっと固まったままの服部は考慮しないものとする。

 

「よければ、ですけど。久米島観光、一緒にしませんか?」

 

 空気が和んだタイミングを見計らってか、中条がそう誘いを切り出した。中条は俺たち在校生と自身ら卒業生の関係を少しでもより良いモノのまま保ちたいのだろう。この和んだ空気ならばそれができると、中条は踏んだ訳だ。

 

「願ってもない。みんなも、そうでしょう?」

 

 中条の誘いに俺がまず乗っかって、それから達也たちに訊ねた。だが、訊ねる必要もないくらい、みんなが即座に頷いている。司波兄妹はもちろん、雫も、真由美も。

 こちらのみんなも、中条と考えている事はほぼ同じだったようだ。

 千代田含むあちらのみんなも、同行について突っぱねる者は出ず、そうして、15人に及ぶ観光団が結成されるのだった。

 ちなみに、皆いっせいに動き出す中、服部だけは桐原と沢木に肩を担がれ、引きずられていた。

 

 

 

 俺、周妃、達也、深雪、水波、雫、真由美、ほのか、中条、服部、五十里、千代田、桐原、壬生、沢木。その計15人からなる久米島観光団はまず、雫の計らいにより手配されたグラスボート(船底だけでなく、側面にもガラスが埋め込まれ、水中を広く観覧できる半潜水艇タイプ)で久米島周りを一周して水中観覧する事で話がまとまった。

 中条たちとの合流は予定になかったので、15人以上の客を乗せられるグラスボートをすぐに手配できるか心配だったが、日本有数の大富豪たる北山家にかかれば、まさに杞憂となる。

 そうして、久米島観光団はグラスボートで綺麗な沖縄の海を水中から楽しんだ。

 久米島周辺一周ツアーの一環として、久米島の観光名所として知られている場所、無人島の砂州(さす)・『はての浜』にも上陸する。

 観光名所たるその白い砂州にて、久米島観光団は思い思いに楽しむ。

 ほのかなんかは達也に猛アタックしていた。トップがビキニタイプで、ボトムがパンツタイプの水着に着替えてまで。

 

「……光井さん、寒くないのかしら」

 

 俺と共に観光していた真由美が、ほのかの季節外れな軽装について、少し心配していた。

 そう。久米島が亜熱帯に属すとはいえ、3月に水着は早い。ほのかと同じように、海水浴をしている観光客は少数ながら居るが、ほのか程肌の露出をしている者はいないように見受けられる。

 

「……ほのか、背水の陣だから」

 

「え?じゃあ光井さん、達也くんの事諦めてなかったの?」

 

「俺が発破かけた部分はあるんですけどね。納得ができなければ、遺恨を生むと思ったので」

 

「な、なるほど……。『納得』、ね」

 

 雫と俺からほのかの現状について聞いた真由美は、同じく『納得』のために俺を諦めきれない自身と重ねてか、ほのかの事を遠目で見つめていた。

 

「……私も、あんな風に攻めるべきかしら」

 

「いや、うん、まぁ……」

 

 どうやら真由美はほのかと自身を重ねはしていたが、哀れんでいた訳ではなく、自身を省みて憂いていた訳でもなく、ほのかのあの攻めの姿勢を見習うべきかと悩んでいたようだ。

 俺はその悩める真由美への返答に困ってしまった。『あそこまで身を切るべきではない』とすれば、ほのかを貶めてしまうし、『見習うべきだ』とすれば、真由美に肌の露出を強要するセクハラ男になりかねない。『はい』も『いいえ』も不正解となる問答で、俺は折衷案を見つけられずにいるのだ。

 結局、俺、真由美、雫は、達也を取り合って静かに火花を散らすほのかと深雪を眺め続けるのだった。真由美と雫が自分たちもああすべきかと逡巡し、俺や互いにチラチラと視線を向けているのを感じとりながら。

 

 『はての浜』観光を終えた久米島観光団はグラスボートに戻った。相変わらずほのかの攻勢、そして深雪の牽制は続いている。

 その光景に、呆れていると言う程ではないが、距離を置いている人数名。とりわけ、パートナー一筋の女性、千代田と壬生は眉根を歪めていた。達也が二股をかけている訳ではないので、非難とまではいかないが、物申したいという様子である。

 ちなみに、俺、雫、真由美の方にも上と似たような対応がされている。議論を煮詰めた千代田だが、さすがに完全な納得はできていなかったのだ。年頃の乙女に受け入れろというのは無理な話故、仕方のない事である。

 補足だが、壬生は視線を右往左往させていた。敬うべき師匠と蔑むべき半端者、その2つの俺評に揺れているようである。

 まぁ、とにかく。ヘイトを分散できたと、俺は前向きに捉えている。

 

 閑話休題。

 

「ほのか、少し離れてくれ」

 

「達也さん?」

 

 達也のその一言は引っ付いてくるほのかが鬱陶しくなった故のモノではなく、むしろほのかを慮ってのモノだった。

 端的に言って、危険が迫っていると、達也は感じ取っているようだ。

 ほのかを離した達也は、早足でグラスボードの操舵室へ。俺はもちろん、達也の様子に不穏さを読み取った服部、沢木、桐原が無言でその背を追った。

 

「船長、半径500m以上離れた艦影を探知できるような機器は備えていますか?備えているなら、前方を重点的に探査してほしいのですが」

 

 達也からのそんな急なお願いに、グラスボードの船長は一瞬だけ呆ける。ただ、雫が手配しただけあって、客の急なお願いにも対応できる、優秀な船長だった。

 船長は『畏まりました』と達也のお願いを聞き入れ、即座に船員へソナーを作動させるよう指示を出す。

 

「ぜ、前方約500mの海底付近に艦影あり!推定全長80m、潜水艦です!」

 

 船長も優秀なら船員も設備も優秀らしく、潜水艦の影をはっきり捕捉した。

 しかし、まさかの有事に船員も船長も動揺は隠せていない。それは俺と達也除く皆も同じくなので、彼らを責める者は居ない。

 

「船長、進路反転を。国防軍の物なら秘密作戦中でしょうから邪魔すべきではありません。それ以外だったら、言うまでもないですね」

 

「し、進路反転!」

 

 俺が進言すれば、船長はそれに同調した。

 そりゃそうだ。国防軍の物以外だったら、十中八九非合法な物なのだから。

 そして、非合法である事を示すように、グラスボートが進路を反転しようと海面に弧を描くのに合わせ、ソナーレーダーが潜水艦の動きを探知する。こちらに近付いてくる、その動きを。

 不審艦はバレたなら仕方ないとばかりに、魚雷発射準備の音である注水音を鳴らす。グラスボートの探知機にその音が拾われている事から、不審艦は最新鋭の物ではないようだ。

 達也が『旧式か』と暢気さまで感じさせる呟きに、服部が『分析してる場合か!』と諫言を吐いていた。

 これが経験の差なのだろう。達也のそれは余裕の表れだったのを、服部は慌てるあまりに暢気と読み違えていたのだ。

 

「水波、対物障壁の用意を」

 

「はい、達也さま」

 

 だから、いつの間にか控えていた水波の存在にも驚いているし、達也の続く指示が的確な事にも、水波がその細かい指示を全て叶えている事にも服部は驚いている。

 

「十六夜。この初弾は発泡魚雷で、次弾はおそらく魚雷型有人艇だ」

 

「了解。……深雪の力を借りて良いかな?」

 

「構わない」

 

 達也の推測、おそらく『エレメンタル・サイト』込みでの情報を前提に、俺も動き出す。

 と言っても、気持ちは平静そのものだ。何せ、水が辺り一面にあるこの戦場で、凍結魔法の使い手が居るのだから。

 

「深雪、敵襲だ。すまないがちょっと手を貸してくれ。まぁ、ちょっと指示通りに海水を凍らせてくれれば良い」

 

 不安そうな顔で集まっていた女性陣の前でそう頼むものだから、深雪含めて皆ぎょっとしていた。しかし、深雪の復帰は早く、俺の言葉に頷きを返す。

 その深雪を引き連れて甲板に出てみれば、発泡魚雷による気泡群、スクリューの推進力を低減させるためのそれはまるで箒で掃いたかのようにグラスボート周辺から遠ざけられていた。

 合わせて、その気泡群が不思議な挙動で、敵艦の第二射たる有人艇を包みこんでいるのが見て取れた。

 気泡群を掃いたのは五十里、気泡群で敵有人艇を包み込んだのは服部だ。そのような掛け声が操舵室の方から聞こえている。

 推進力を低減させた魚雷型有人艇。当初はそのまま突撃してグラスボートに損害を与える予定だっただろうが、これでは大したダメージは見込めない。なので、その予定を変更し、さっさとグラスボートへ乗り込む事にしたらしい。

 有人艇の背面、そういう設計だろう開閉口を開き、戦闘用だろうドライスーツを着込んだ乗組員たちが飛び出してくる。ジェットパック、海水を汲み上げて噴き出すタイプのそれで飛び上がっている事から、魔法師ではなさそうだ。

 

「君たちは魔法師を、いや、『四葉』を嘗め過ぎだよ」

 

 空気の『付喪神』を介して『付喪神』にしていた海水を用い、飛び上がってきた敵を全て海水で包んだ。ちゃんと海水を汲み上げているホースは避けているので、その海水が除去される事はない。

 

「深雪、周りの海水だけで良い」

 

「ええ!」

 

 深雪は俺の頼みを一瞬で把握し、敵を包みこんでいる海水を恐ろしい早さで凍らせていく。敵自体を凍らせなかったのは人体の凍結が手間という理由もあるし、不審艦に控えている連中に氷に閉じ込められたそいつらを拾わせて時間稼ぎをしたいという理由もある。不殺を目指してのモノでは一切ない。

 とかく。飛び出してきた4人、おそらく魚雷型有人艇の乗組員全ては、俺と深雪のコンボによって呆気なく戦闘不能にされた。

 原作では先輩方の活躍シーンだった気がするが、味方の安全には替えられない。

 

「艦長、全速力で。負傷兵を拾わせている間に逃げましょう」

 

「りょ、了解した!……船員、エンジン全開!」

 

 氷漬けになって海面を漂う敵をそのままに、俺はグラスボートを全速力で発進させた。ボートの揺れが大きくなるが、誰かが海へ投げ出される程ではない。

 

「四葉、良かったのか?」

 

 服部が操舵室の方から俺へと歩み寄り、抱えている疑問を大雑把に口にした。意図は読める。『敵を捉えなくて良かったのか』と、『敵を完全に打破しなくて良かったのか』という事だろう。

 

「敵の抱えている戦力が分からない上に、こちらは攻める備えをしていない。これでは攻めるに攻められませんし、皆さんを巻き込んでしまう」

 

 こちらがグラスボートではなく、戦艦か駆逐艦、せめて潜水艦で、その船員全てがこういう非常時に対する訓練を受けているのだったら、俺は敵を殲滅していただろう。

 残念ながら、この船に乗っているのは船を操縦する船員含め、一般人がほとんどだ。客人の方は優秀な魔法師ばかりとはいえ、戦闘訓練は受けていないのだから、背中を任せるなんてできない。

 

「……敵の素性が分かっているのか?」

 

「予想が当たっているにしろ、当たっていないにしろ、この状況で取る手は変わりません。『三十六計逃げるに如かず』です」

 

「……そうだな」

 

 俺は是非をぼかしたが、服部は是の可能性がある事を察したのだろう。神妙な表情で視線を下げていた。ともすれば、沖縄旅行の中断も考えているかもしれない。

 

「『ご安心を』と、敵に攻撃されてしまった手前、信用はできないでしょうが。今回は『四葉』だけじゃなく、国防軍にも動いてもらっていますので、そう不安にならなくても大丈夫だと思います」

 

「いや、むしろ不安になったのだが……。国防軍も『四葉』も動いているって、裏で何が起こってるんだ……」

 

「一般人に平穏な日常を過ごしてもらうのが国防軍、ひいては十師族の務めですので」

 

「……」

 

 服部は知っている方が不安を解消できる性分のようだが、俺は当然教える訳がない。ダメ元で聞いているのもあっただろうが、やはり何も聞けない事に、服部は苦々しく唸っていた。

 

「……、うん。追っ手は来てなさそうだな」

 

 後方に船影がないか目視確認した俺。ソナーレーダーでも確認しているだから、本当に念のためのモノである。

 そうして、久米島観光団はグラスボートでの島周辺一周を中断されたが、一切の怪我もなく、皆安堵した面持ちで陸に上がるのだった。




皆とは別室なのにさりげなく一緒に避難する真由美:恋する乙女は想い人との時間を逃さないものだ。

達也や深雪とは別室なのにさりげなく一緒に避難する周妃:恋する乙女(?)は想い人(?)との時間を逃さないものだ。

達也や深雪とは別室なのにさりげなく一緒に避難する水波:一人は寂しかった。

BSS状態に陥っている服部:しばらくは立ち直れない。

危険が迫っていると感じ取った達也:昨日のデート中に自身らを監視していた工作員と思しき相手にサイオンマーカーをエイドスに打ち込んでいた。そのマーカーが海中にある事を探知したので、相手は潜水艦で海中に潜んでいると推測したのである。

 閲覧、感謝します。
 次回の更新は7月23日の予定です。

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