2097年1月10日
新学期開始から3日目。冬期休暇明けで生活リズムを戻せてなかったり、気温はまだ冬といった状況で寒空にその身を曝さねばいけなかったりで、ちょこちょこ体調を崩す生徒も居る中。
「体調、大丈夫?」
俺も絶賛体調を崩す生徒側に含まれ、第一高の保健室にて雫から心配されていた。
「まぁ、皆の視線がないから、今は大丈夫だよ」
「みんな、まだ『四葉』の噂で持ちきりですからね。しばらくは収まりそうにないかも」
そう。ほのかも言っている通り、まだ少年少女たちの活性化プシオンが俺へと降り注がれているのだ。おかげで、俺の保健室登校が続きそうである。『人の噂も七十五日』とすると、2カ月半くらいか。
「噂と言えば。聞いたよ、ほのかさん。堂々と宣戦布告したそうじゃないか」
そんな長期間どうしようもない事は放っておき、俺は気になる話題の方を取り上げた。
それが、原作でもあったイベント。ほのかから深雪へと行われた、恋のライバル宣言である。原作だともう少し後のイベントだった気がするが。
「宣戦布告なんてそんな……。でも、達也さんを諦めたくないと、深雪にはっきり伝えられました。夢が叶わなかったとしても、『挑戦』して、『納得』したかったから」
どうやら、俺の助言のせいでほのかの決心が早まり、イベントを前倒しにしてしまったらしい。晴れ晴れとしたほのかの顔が見られたため、心情的にはミスと思いたくないが。
しかしそうなると、七宝がほのかを意識するイベントがあったはずなのだが、それが消失してしまったかもしれない。七宝がほのかのいわゆる『キープ君』ならずに済んだとするべきか。そもそも、ほのかは意図してキープしていた訳ではないだろうが。
「……良かった、というのはちょっと違うかもしれないが。まぁ、良かったよ。ほのかさんにも深雪にも、変な軋轢を生んでほしくなかったからな」
とりあえずそこら辺の懸念は頭の片隅に留め、まずはほのかが前へと進めたのを喜んでおく。痴情の縺れで友情が壊れてしまうなんて御免だったので、この進展は俺としても本当に喜ばしき事である。
「うん。傍から見ても、嫌な三角関係にはなってない。恋のライバルにあるまじき仲の良さ」
「ちょっと、雫。まるで深雪と私の関係が変みたいに言わないでよぉ」
「ふふ……。ごめん」
痴情の縺れ案件は完全に解消された事が、雫の視点からも裏付けされる。なにせ、雫自身がほのかを揶揄えているのだから。
「本当に良かったよ。これで、雫も後ろめたさがなくなっただろう?」
「え!?雫、何か後ろめたかったの!?」
「……十六夜さんって、案外鋭い。……ほのかはちょっと鈍い」
「『鈍い』!?」
雫から微妙にディスられている気がするが、ほのかに対するディス程ではないので、スルーしておく。
「鋭いも何もな、分かりやすかったさ。雫ならすぐに助言ないし手助けしそうなもんだが、俺に相談するまで何もしてなかっただろう」
「うん。ちょっと、どうしようか迷ってた」
俺の予想通り、落ち込んでいたほのかに対して手をこまねいたと、雫は首肯した。
そう。雫はとある件で後ろめたかったがために、ほのかへの手助けが遅れていたのである。
「後ろめたかった理由は、俺の婚約者候補になったから。違うか?」
「合ってる」
この予想にも、雫は何食わぬ顔で首肯する。
やはり、もう後ろめたさは完全になくなった訳だ。
親友は片思いの相手に婚約者ができ、自身は相思相愛の相手に婚約数歩手前まで至れている。この状況が雫は後ろめたかったのである。それ故、親友の傷をどう癒せば良いのか、そもそも触れるべきなのか、雫は迷っていた、というのが少し前までの状況だったのだ。
「確かに。傷心状態の時にそんな雫からフォローされても、素直に感謝できなかったかも」
「私は感謝されないどころか喧嘩になるのまで考えてた」
「……ごめん、その可能性はちょっとあったと思う」
立ち直れている今だから、ほのかもこうして恋愛沙汰を揶揄われても笑いに変えられる。しかし、そのほのかが自身を振り返ってみても、傷心していた当時では雫と喧嘩になる可能性を仄めかした。傷心中で心に余裕がなかったのなら、然もありなん。
結果として喧嘩に至らなかったのは、触れて良いか迷う思慮深さが、雫にあったおかげである。触れたら喧嘩になり得るとまで、ほのかの事を理解していた、とも言えるだろうか。
「なんにせよ、だ。今までと変わらない友好関係を続けられて、本当に有り難いよ」
「改めて礼を言わないといけないですね。助言をくれて、ありがとうございました」
「私からも。親友を助けてくれてありがとう」
何故だかほのかと雫から感謝される。そんな日常の一幕を、俺はむず痒くなりながら送るのだった。
◇◇◇
2097年1月20日
嵐の前の静けさとばかりに、平穏に過ぎていく日々。
第一高生徒が反魔法師団体から迷惑行為を受けているという報告が上がるイベントはあったが、原作通りだった気がするし、とりわけ俺が関与した部分はないので、平穏に過ぎていく日々として割愛する。
強いて俺関連のイベントを上げるなら、保健室登校継続中という事くらいか。しかし、座学は普通に通信授業を保健室で受けられているし、スポーツ系の授業は教師からやらなくても単位を出すと言われているし、大した問題はない。魔法実技はさすがに顔を出さねばならないが、さっさと熟して保健室に即帰る事で難を逃れている。体調は崩しているが。
とりあえず、特筆すべきイベントもないので割愛する。
割愛できないイベントがあるのは、今日この日に予定された、俺独自のイベントくらいだろう。
イベントの発端は、とあるメールである。
(……渡辺摩利からのメール。最早、メアド交換してる事も忘れかけてたくらい、今まで連絡がなかったが。……しかし、なんだってこのタイミングで?)
先々代風紀委員長であったために繋がりのある先輩、渡辺摩利。彼女からの連絡自体、かなり珍しいというか、彼女が第一高を卒業してから初だったのだが。しかし、疑問に持つべき部分は、連絡が久々である事ではない。
その内容こそ、疑問に持つべき部分だ。
(『20日の夜に会えないか?』って、このイベント、達也の方のイベントじゃなかったか?)
そう。摩利が20日の夜に会う相手は、原作において達也だった。その会う約束をした理由は、達也が真由美に対して恋愛感情があるかどうかを問うためだったはずだ。
(……もしや、恋愛感情の有無を訊く対象が俺にすり替わっている?……そんな事があるのか?だって、それは真由美が俺に恋愛感情を抱いているという事だ)
原作においては、明確にはなっていなかったが、真由美が達也に恋愛感情を抱いているという話で進んでいた。
その真由美の感情を弘一が利用し、達也に真由美を宛がおうとしたのだ。真夜への嫌がらせないし、四葉の戦力肥大化防止を目的として。十師族のパワーバランスがどうと、弘一が動機を仕立て上げていたように俺は記憶している。
以上の事から原作との差異を推測すると、弘一の動機はおそらく原作と大差ないまでも、真由美の感情については大差が生まれているかもしれないのである。
(……いや、結論を急くべきではないか?どうせ、今夜には答えを得られるんだ)
俺はそうして思考を保留し、自身の自宅で摩利の待つ事にした。
そして少し時間が進み、来訪の時間指定がなかったから深夜の来訪を覚悟していた俺の耳に、インターホンのチャイムが届けられる。
時刻は夕食前。時間にルーズそうな(そんな事実はないが)摩利が早めに来訪したのは、彼女が入学した防衛大学における訓練の賜物か、または彼女の恋人による教育が行き届いているのか。あるいは、この機会をかなり重要視しているのか。
〈やぁ、十六夜くん。久しぶりだな〉
そんな俺の内心を知ってか知らずか、摩利は相も変らぬさっぱりとした表情をインターホンの画面いっぱいに映した。
「お久しぶりです、摩利さん。お待ちしておりました」
〈むぅ、随分と堅苦しくなったなぁ。第一高風紀委員の同門じゃないか。そんなに畏まらなくて良いぞ?そういえば、花音から風紀委員長を継いだそうじゃないか〉
「いや、確かに摩利さんとは歴代風紀委員長として共に名を連ねた訳ですが。そんな同門なんて、同じ武術を習ったでもあるまいに」
〈うん。馬鹿真面目なのは変わってないから、問題なさそうだな。……ところで、上がって良いか?1月の寒空は堪える〉
自分から切り出したくせにすぐ俺の態度について流す摩利。俺は多少呆気に取られてしまうが、良い意味でも悪い意味でも我が道を往く人だったと思い直した。分類的には、常識人の範疇に入りはするのだが。
「……すみません、家のセキュリティがありまして。インターホンのすぐ横にある端末の方で、虹彩登録をしてもらわないと」
〈虹彩登録?……まぁなんでも良い。端末っていうのは、これか?〉
虹彩登録のための端末を探して、摩利が画面から離れる。
その時だった。
〈ちょっと摩利!〉
摩利の後ろから、なんと真由美が現れた。
「……真由美さん?」
〈しまった。バレたか〉
「……バレたって事は故意に隠してたんですね」
〈あ、あはは……。こ、こんばんは、十六夜くん。悪いのだけど、私も上げてもらえないかしら〉
こうして、今夜の来訪者が1人増えたのだった。
「一人暮らしの家とはいえ、さすがは十師族の邸宅だな。まさか家に上がるだけで虹彩登録が必要とは」
「手間をかけさせてすみません」
我が家のダイニングにて。毎度おなじみな本宅のセキュリティについて、摩利は感想を半笑いで口にした。
ちなみに、摩利が座る隣には、家へ上がる許可を願って以降から俯いて何も口にしない真由美が座っている。摩利は真由美が心の整理を付けるまでの時間、世間話で繋ごうとしているのかもしれない。
「いやいや。十師族の家なんて、何処もこんなものだろう?しかし、まさか君が可愛いメイドを侍らせる趣味を持っていたとはな」
「いや、侍らせてる訳じゃ……。……お前は何照れてんだよ」
ついでに周妃についても感想を述べたが、厄介な勘違いをされる。周妃も生娘のように恥じらう仕草をするものだから、厄介さに拍車をかける。
「一応訂正しますと、この子はメイドではありません。とある事情で俺が保護しているだけで、その恩返しのつもりか、家事を請け負っているだけです」
「ほう。そういう設定か」
「……摩利。設定じゃなくて、本当にとても大事な事情があるのよ」
「ふむ……。真由美までそう言うって事は、十師族が隠すレベルの事情か。分かった。あたしは何も訊かんさ。百家の端くれとはいえ、末端も良いところの端くれだからな」
俺だけの訂正では無駄だと踏んでいたが、真由美からの援護も貰えた事により、摩利の勘違いを正す事に成功した。同時に、摩利は自身の立場を弁え、事情の詮索は控える。
「で、心の整理はついたのか?」
「……もう少しだけ待って」
俺への援護ができるようになっているのを見て、真由美が大事な話をできる程には心の整理を終えたかどうか、摩利は訊ねた。
対して真由美は、もう執行猶予を伸ばす事はできないだろうと、せめて数度の深呼吸をする時間だけは得る。
そうして一拍。俯いていた真由美は姿勢を正し、真っすぐに俺を見つめた。
「四葉十六夜さん。わたくし、七草真由美が貴方様の婚約者候補に立候補する事は、可能でしょうか」
「……へ?」
毅然と本題を述べた真由美に反し、俺は呆然としてしまった。
原作で摩利が達也へしていたように、恋愛感情の有無を問われる程度は予想していた。弘一と摩利に唆され、自身の気持ちが分からなくなったという相談をされる程度は、まぁ、可能性があると思っていた。
婚約者候補への立候補打診。つまり、真由美自身が恋愛感情を抱いている事に確信している。それは、さすがに予想の範疇を越えていたのだ。
「……唐突にごめんなさい。でも、私は思ったの。想っていたの。ずっと、貴方の事を」
「……それは、俺に恋をしているという事で、間違いないですか?」
「そうよ。私は、十六夜くんに恋をしています」
真由美の目は、冗談を言っているような目ではなかった。同時に、摩利の方は状況を真剣に静観している。間違っても、ドッキリを仕掛けられているという事はないだろう。
(まさかのまさかすぎるだろう……。なんだこの状況は……。原作で片思いの匂わせもなかった雫ならまだしも、達也に何かしらの感情を抱いていた真由美が俺になびく?あり得るのか?……いや、あり得てしまったのがこの状況か)
何をどうしてそんな状況に至ったのか思考するも、その思考はそんな状況に至っている時点で無駄であると打ち切る。
すべき思考は、この状況をどう切り抜けるか、だ。
「……まず、婚約者候補への立候補が可能であるかにお答えしますが。俺の一存では決められません。そもそも、婚約者候補というのが母上と雫の対談によって成り立ったモノだからです」
「……四葉家ご当主様から了解を得なければ、立候補は不可能という事ね」
とりあえず俺は真由美の質問へ返答すれば、その時点で立候補の成立が困難である事を理解し、真由美はその難度に苦悩する。
「次に、俺の心情を明かしますが。俺は、雫に操を立てるつもりでいます。俺自身は雫を婚約者候補ではなく、婚約者にしたかったんです。そして、俺自身はもう、雫を婚約者として見ています」
「……」
次に、真由美が欲しているだろう俺の考えも明かした。そうすると、彼女は家に上がったばかりの時と同じように俯く。
「……君がもう北山雫という子を婚約者に決めているのは分かった。なら、愛人に―――」
「摩利」
摩利は真由美と俺を婚姻抜きにしてでも結び付けたいようだったが、その言葉は、真由美によって制される。
「……摩利、それ以上は言わないで」
「だが、真由美」
「そう、『だが』、なのよ!前々から交際に漕ぎつけようと努力していた十六夜くんたちの間に割って入る!あまつさえその座を奪おうとしている!十六夜くんの努力を蔑ろにしているようなもので、そもそも奪い取れる訳もない!だけど……!」
摩利が何を言わんとしているか、真由美には聞くまでもなく。しかして自身の口から漏れてしまう程、彼女の思いは溢れている。
「だけど……、十六夜くん……!私、貴方の事が好きになっちゃったの……!」
涙を溜めた真由美の瞳が、水面のように俺を映す。
「無理だって分かってる……、十六夜くんたちに失礼だって分かってる……!でも、諦めがつかないの……。『納得』が、できないの……!」
堰き止めようとしてなおも溢れる彼女の声、思い。
『ああ、なんて事だろう』と、抱いた複雑な感情がそんな字面で俺の内心に記された。
(納得、『納得』と来たか……。この前ほのかをそう説得した俺に、そう返ってくるのか……)
酷い話だと、率直に思う。
「納得できるまでやれ」と少女を激励した俺へ、「納得できるまでやりたい」と少女が迫ってきている。
舌の根は渇いているかもしれない。『それはそれ、これはこれ』と手の平を返しても良いかもしれない。
説得するための名言だって、いくつか頭に浮かんでいる。それこそ、『〈物語〉シリーズ』の『恋物語』にあった、貝木泥舟が千石撫子を説得するシーンでも再現しようかと、頭に過っている。
なのに、どうしてだろう。
(言葉が、出て来ない)
頭に浮かぶ名言たちが、喉元から出て来ない。
まるで、借り物の言葉を使うなとでも言われているかのように。『
時間は止まらずに流れ、流れた分だけ場の雰囲気は重くなる。あまり沈黙を守っていると、決定的な不和を起こしかねない。
ならば、俺の素直な気持ちを言葉にして、沈黙を破るしかない。
「……真由美さん。もし貴女の告白が雫より早かったら、俺は貴女を選んでいたでしょう。貴女と雫の差は、それだけです。……最低な話をするなら、俺は貴女を愛人として迎え入れても良い。当然、雫も真由美さんもそれを許容し、両者が軋轢を生じさせない事が前提ですが」
「……」
俺が沈黙を破れば、今度沈黙を産むのは真由美だった。
仕方がない。こんな話をされて、すぐに言葉を返せる程彼女は達観していない。七草家の長女とはいえ、彼女はまだ20にも満たない少女なのだから。
「……なるほど、十六夜くんは選べないと」
「……叶うのであれば、雫も真由美さんも切り捨てたくはないんです。俺は、どちらにも嫌われたくない」
「……その選択は、却って全てを失う事になるぞ?失うまいと足掻き続ければ、君の婚約者と真由美、そして君自身も傷付き続ける事になる。すっぱり振ってやるのも、みんなのためだ」
「それができるなら!とっくにやってる!」
摩利の正論に反応し、急に怒声が響いた。
その怒声が自身のモノであると気付いたのは、摩利と真由美の驚く顔を見納めてからである。
「……す、すみません、急に怒鳴ったりして」
「い、いや、大丈夫だ。……そうだな、君の事をよく知りもせず、ただ正論を叩きつけるのは不躾だった。謝るよ、十六夜くん」
「いえ……。俺も、悪いので……」
「……」
「……」
「……」
突然の地雷爆発に全員が虚を突かれ、全員が何を喋れば良いのかと迷走し始める。
最悪な沈黙が、場を包んでいた。
「……ありがとう、十六夜くん。……私の事、切り捨てたくないって思ってくれて」
繰り返される沈黙に終止符を打とうとしているのか、それらの原因を作った真由美が口火を切る。
「感謝を言われるような事ではないですよ、真由美さん。これは、ただの俺のエゴだ」
「十六夜くんが意外とエゴイスト、って言うのは失礼ね。うん、意地っ張りなのは知ってるわ。だから、北山さんは当然として、私も、失いたくない」
「……」
俺の怒鳴りをどう解釈したのか、真由美は瞳を閉じ、何かを噛みしめる。
彼女の心境がどうなっているのか、俺には推し量る事もできない。
「……私たちには少し、考える時間が、もっと話し合う時間が必要なんだと思うわ。お互いの気持ちを整理するための時間が」
「……そう、ですね。申し訳ないですが、すぐに最終結論を出す事は、俺にはできません」
「ええ。私にもできないのだもの。十六夜くんにだけそんな事を求めたりしないわ。……でも、2つだけ、許可を求められないかしら」
「……なんでしょうか」
涙を拭い、水面がなくなった真由美の瞳は、まだ俺を映している。
「これまで以上に貴方と触れ合う事を、諦めがつくまで。それと、北山さんと話し合う事も。彼女とも、しっかり話し合うべきだから」
「……俺に否はありません。ただ、雫の意思まではどうともつかないので、彼女に一旦そう伝えておきます」
「……ありがとう。それじゃあ、私はお暇させてもらうわね。お休みなさい、十六夜くん」
「……ええ、お休みなさい」
波乱を呼びかねないイベントは、そんな日常を取り繕うような挨拶で締められるのだった。
「……」
「……摩利さんはまだ話があるので?」
「いや、男女の恋愛事って、本当はこのくらい面倒なモノなのかなぁって。あたしは楽に事が進んで良かったって」
「……」
ほのかの宣戦布告:深雪へと達也を諦めたくない旨を伝えるという原作にもあったイベントが、本作主人公が保健室で倒れている内に消化された。内容については、時期が早まった事以外、原作とほぼ変わりない。代わりに、七宝琢磨がほのかに淡い思いを抱くイベントは、完全に抹消された。
スポーツ系授業の単位免除:スポーツ系の授業で驚異的なパフォーマンスを見続けてきた体育教師陣の判断。跳び箱の授業でモンスターボックスし始める奴に、今さらいったい何を教えろと言うのか。第一高体育教師陣は常に悩み、結果として諦観に至ったのである。
瞳を閉じて何かを噛みしめる真由美:自身と雫の差が、告白の早さだけだった事。その事から彼女は本作主人公にとって、自身と雫がほぼ同価値であると認識した。婚約者候補と同じくらいに本作主人公が自身を好きでいてくれていると、彼女は理解したのである。
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