魔法科高校の編輯人   作:霖霧露

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第八十四話 四葉の跡取り問題・後編

 現当主と次期当主候補たちが集まった食事会。その催しは真夜の推定現実逃避と皆の地雷回避以外円満に終わったのだが、しかし司波兄妹と俺は残るように真夜から命じられた。

 原作通り深雪の婚約相手について伝えるのだろうが、俺も残されたのは何故なのか。戸籍上、達也と俺が兄弟になる事に関連してか。

 

 そんな思考をしている俺を置いて、食堂は対談の場へとセッティングし直される。

 

「さて。3人に残ってもらったのは大切な話があるからです。当主ともなれば、結婚相手を自分の一存では決められません。……当主直系もそうだと思うのだけど」

 

 大切な話をするという時に、真夜は自身で自身の地雷を踏み、小さくその事を愚痴っていた。だが、その愚痴を俺も司波兄妹も聞こえなかった事にする。そのため、真夜も本題を忘れないようにと、頭を振って邪念を振り落とす。

 

「その話の前に、達也さん。いきなりこんな事を言われても驚くと思うのだけど。貴方の戸籍を弄ろうと思います」

 

 ちゃんと邪念を振り落とせたか心配だったが、真夜がしっかり本題を進めている。俺は内心安堵するばかりだ。

 流れに原作と差異があるようだが、深雪にも初めから茶番の台本を明かす事にしたのだろう。

 

「それは、いったい……。何故このタイミングで?」

 

 達也は当然小さくも驚きを表していた。ただ、タイミングについての驚きであって、戸籍を弄る事についてではないようだ。変な方向で四葉が信頼を得ている。

 

「貴方を、深雪さんの婚約者にするからです」

 

「何!?」

 

「っ!?」

 

 真夜からぶちまけられたその衝撃の筋書きばかりは、達也の驚きも小さくとはいかなかった。深雪の方は驚くどころか、息を呑んで涙をこらえているようだが。果たして、その涙は悲しみ故か、歓び故か。語るまでもない事だ。

 

「……何をどうして俺を妹の婚約者に?」

 

「深雪さんは、貴方を縛る枷だからです」

 

 達也が驚きでざわめく心を落ち着けて聞き出せば、真夜は明け透けな程素直に事実を告げた。

 

「それは、『誓約(オース)』だけの話ではないのですか?」

 

「ええ。深雪さんが産まれる前から、私たち四葉は深雪さんを達也さんの枷として、調整する算段を立てていました。達也さん、貴方を四葉から逃がさないために」

 

 そこから、深雪が産まれる直前、当時の四葉家当主及び各分家当主たちが達也をどう思っていたか、真夜の口からとうとうと語られる。

 

「先代たちは、いえ、私たち四葉は、何者にも害されない力を欲しました。でも、そう望まれて産まれてきてしまったのが、世界を破滅させ得る力。達也さん、貴方でした」

 

 力を欲しはした。しかし、壊す力ではなく、壊されない力を欲したのだ。万物を無慈悲にも分解する力でなければ、災いをなかったかのように再成する力でもない。

 自身らの望みが、世界に仇なすかもしれない力を生み出してしまった。先代の四葉当主たちは、さらに現当主たちは、そういう恐怖と罪の意識に駆られたのだ。

 

「すぐに貴方を殺そうとする案もありました。ですが、先代は、英作叔父様は、こう考えた。世界を破壊させ得る力ではあるけど、言い換えればあらゆる脅威を打倒する力であると」

 

 感情論に身を任せてありもしない罪の意識に溺れ、赤子殺しという実態ある罪を背負うのは理屈に合わない。当時の四葉家当主は、そう現実的で合理的な判断を下したらしい。

 

「だから、先代は貴方が暴走しないように教育する事を立案した。それが、今日に至るまで達也さんに施された教育、その理由です」

 

 戦闘魔法師として教育し、いついかなる時も錯乱しないように、どんな状況でも混乱しないように、冷徹な人間へと育て上げる。それが、四葉家先代当主の案だった。

 

「でも、分家当主たちは、そして姉さんも、恐怖を拭えなかった。もっと絶対的な枷が欲しかった。絶対に感情を爆発させない保証が欲しかった。……貴方の感情がいくつか弄られてしまったのは、そんな大人たちの恐怖心からでした」

 

 勝手な恐怖心で感情を弄られたという酷い事実。真夜はそれを苦しそうに語り、達也と深雪は黙って聞く。

 

「ただ、姉さんはそこまでしてなお不十分だと考えた。暴走されないようには施した。でも、利用されてしまう可能性はあった。四葉以外の手にその力が渡り、四葉に向けられる事を恐怖していた。そうやって欲しくなったのが、その力を四葉に留めておける保証。深雪さん、貴女と言う枷です」

 

 達也が弄られた事実に続くのが、深雪が弄られていた事実。

 

「深雪の、何を弄ったと言うのです」

 

 こればかりは、達也も口を挿まずにはいられなかった。

 

「貴方を『誓約(オース)』で御す事ができるよう、魔法の素質を。そして、貴方を伴侶として受け止めても異常の出ないよう、遺伝子を、です」

 

 ここまで真夜に語られて、深雪がついに崩れ落ちる。嗚咽を抑えつけるように両手で口を閉ざすも、涙を止める宛てはなく、深雪は大粒のそれを零していた。

 ただ、これも悲しみのせいではない。喜びのせいだ。達也を受け止めても異常が出ないという、その喜びが溢れている。

 

「……も、申し訳ありません、ご当主様。……私には、少し衝撃が大きすぎて。……席を外す事を、許してはいただけないでしょうか」

 

「ええ、許します。そして、ごめんなさい。貴女たちの運命を弄んで。でも、これだけは言わせて?私は、貴女たちの幸せを願っています」

 

「……はい。……はいっ」

 

 もう真面に受け答えもできなくなっている深雪。真夜はそんな彼女を休める場所まで送るよう、葉山を遣わす。葉山は水波と共に、深雪を介抱しながら引き連れていった。

 深雪の背を見送り、自然、沈黙が生まれる。深雪の背が見えなくなってからは、真夜と達也はその目を閉じていた。お互い、どう切り出すべきか、迷っている。ほぼ部外者の俺が切り出すべきではないだろうと、ただただ静観していた。

 

「……深雪は調整体である、という事で、間違いないのですね。では、深雪には調整体にあるような不具合は起こり得るのですか?」

 

 口火を切るのは意外にも達也だったが、その内容は実に達也らしい。他の調整体と同じよう、短命の傾向がないか、魔法演算領域に何か欠陥がないか。そんな、深雪の心配を彼はしている。

 

「そうね、断言しましょう。当時のとはいえ、四葉の持つ最新技術を注ぎこみ、なおかつ、英作叔父様の精神干渉系魔法も用いました。深雪さんに、通常の調整体に見られるような不具合は決して起こり得ません」

 

 具体的には知らないが、先代当主・四葉英作は他人の魔法演算領域を解析する精神干渉系を持っていたという話。産まれる前、演算領域が固定化していない状態だったら、それを調整する事すら可能だったのかもしれない。

 残念ながら、俺は先代当主に会った事も話した事もないので、なんとも判断が難しい。

 

「そうですか。安心しました」

 

 僅かながらでも先代当主と面識がある達也は、その話に説得力を見出したようだ。言葉通り安堵したようで、上がっていた目尻が明らかに下がった。

 己がどんな思惑で大人たちに弄られたのかより、妹が無事なのかを気にする。実に達也らしい。

 

「それで、俺の戸籍はどのように弄るので?」

 

 達也は心配が解消されたので、即座に次の話題へ移る。先代たちのセンチメンタルな話が展開されていたというのに、それをぶち壊すくらい現実主義な話の運び方だ。

 

「ま、まぁ、そうね。……えーと。貴方の戸籍ですが、私の息子だった事にします」

 

「……冷凍保存していた卵子を、母上、四葉深夜に託した。そういう筋書きですか?」

 

 あまりにも現実主義すぎたため、真夜が面食らっているが。とにかく話は進む。真夜が語るまでもなく、達也はその筋書きを予測してみせた。

 

「ええ、そうです。十六夜という実例、卵子を冷凍保存していた証拠があるのですから、その筋書きについて疑われる事はないでしょう」

 

 四葉真夜が生殖機能を失う前に保存されていた卵子。それを用い、代理出産させた事で生まれたのが、四葉十六夜である。少なくとも、世間にはそう認知されているのだ。実際のところは全くの嘘。でっち上げどころではない偽証なのだが、リライト能力という異常の介在によって偽装されてしまった真実である。リライト能力を知らない者に、その真実を偽装と見抜く事はできない。

 

「……俺は、戸籍上だけですが、十六夜の兄になるのですか」

 

 何か、思うところがあるような声音で、達也はその事実を明言していた。並々ならぬ感情が、そこにはあるようだ。

 

「まぁ、俺の兄になるって事は色々面倒だろうが。よろしく頼むよ、お兄様」

 

「……今後もいつも通りで良い。さすがに、『お兄様』呼びは……」

 

 達也は非常に何とも言えない顔になり、言葉も非常に歯切れが悪くなった。かなり血が近い親戚とはいえ、同い年の同性から『お兄様』呼びされては、さすがの達也も気味が悪くなるか。

 

「もちろん。ただの冗談だよ」

 

「冗談、か……。そうか……」

 

 俺がしっかり茶化していた事を伝えたのだが、達也は少し元気がなくなったようだった。気味の悪さからまだ回復しきれていないのか。どうにも判然としない。

 

「戸籍上だけとはいえ、兄弟となる事に異論がありますか」

 

「いいえ、全く」

 

 真夜のこの質問に対しては明確に、歯切れよく答える達也。その感情の動きは測りかねる。が、異論がないというのは本心のようなので、俺は詮索せずに置く。

 

「俺も異論はないけど。少し肩身は狭くなるんじゃないかな。どう戸籍を変えるにしろ、今までの戸籍は誤りだった事にするんだ。誤りに気付かなかったというのは、都合が良すぎる」

 

「ええ。意図的に誤った戸籍で登録していたという事にするつもりですが、四葉家への非難は避けられないでしょうね」

 

 結局、犯罪紛いは犯罪紛い。と言うか、訴えられたら普通に負けるだろうそれである。俺はその訴えられる可能性を懸念しているが、真夜にとってはただの予想の範疇。罰金くらいは払う覚悟をしているし、禁固刑は今まで積み上げてきた功績とスポンサーの権力で回避する予定なのだろう。

 

「でも、確かに2人には肩身の狭い思いをさせてしまうかもしれません」

 

 ただ、地位と名誉と金を使っても、人々の印象というのは変えがたい。達也と俺が周りに白い目で見られてしまう事については、回避できないだろう。

 その事については、真夜も申し訳なさそうにしている。

 

「その時は存分に、親が勝手にやった事だと、吹聴させていただきます」

 

 そんな真夜へ、達也は雰囲気を和らげるためか、割と本気で言っているのか、自分の無実を主張すると宣言した。

 

「……。ふふ、そうね。そうしてください。私は大人で、貴方たちの親なのですもの。自身の責任は自身で背負いますし、我が子のためなら喜んで泥を被りましょう」

 

 真夜は目を丸くしたが、それも一瞬の事。その後は楽しそうに笑みを零し、責任を取る事を約束する。

 

「さて。私からの話は以上だけど、何か訊きたい事はあるかしら?」

 

 そろそろお開きといった空気。真夜は最後に質問がないか軽く訊ねるが、その質疑応答の時間は、軽くでは終わりそうにない。

 

「俺から、よろしいですか?」

 

 達也の纏う空気は、非常に重かったのだ。

 

「……何かしら」

 

「十六夜も、貴方たちは弄りましたか?」

 

 全体の空気が重くなるのを感じた真夜。彼女が気を引き締めて改めて訊いた達也の質問に、真夜だけでなく俺も目を見開く事になった。

 何故、このタイミングで達也はその質問をしたのか。

 

「十六夜がしばらく魔法を使えなかった事。これは、十六夜も俺を御す枷として調整しようとした結果生まれた不具合だったのではないか。俺は、そう疑っています」

 

 その訳を聞いて、俺も真夜も納得する。

 深雪が弄られているならば、十六夜も弄られているのではないか。そう達也の頭に過っても仕方がない。達也が述べた通り、そうさせる情報が存在したのだ。俺が魔法を使えない時期という情報が。

 

「……誓って、それはありません。十六夜に対し、我々四葉家は代理出産の処置以外に何も手を加えていません」

 

 真夜は毅然と返答した。そう疑われる事自体が不服であるかのように、はっきりと明言している。ちゃっかり代理出産の処置はしたかのような表現をされているが。

 

「では、急に魔法が使えるようになったのは、自然回復だったという事で間違いないでしょうか。何か、仮想演算領域を施すような、そんな処置はしていないと」

 

 そんな返答をされても、達也はさらに質問した。最早、詰問と言う方が正しい気迫を放っている。

 

「していません。我々が一切手を加える事なく、十六夜は魔法力を回復させました。その回復は、十六夜の身体機能によってのみもたらされたモノです」

 

 ただし、これに対しても真夜ははっきり返答する。こっちも、まるで俺に初めから魔法力があったかのような表現がなされている。

 

「本当に、何もしていないのですね」

 

「達也さん、私は十六夜を愛しています。十六夜だけが、私にとって真に大切な子だからです。十六夜を弄る事はさせませんし、できません」

 

「……」

 

「……」

 

 達也と真夜は睨み合う。果たして、それが数秒だったのか、数分だったのか。殺意さえ感じる重苦しい空気に包まれる一帯。そんな中にいた俺には、時間を正確に認知する事ができない。

 

「……信じましょう」

 

 意外と言うべきか、先に折れたのは達也だった。

 

「叔母上が十六夜を大切に思っている事は、俺も感じています」

 

「……遠回しに親バカと言ってないかしら?」

 

「滅相もない」

 

 達也が茶化し、真夜もその流れに乗ったところで、空気はようやく緊張から解放される。

 

「まったく。魔法合戦でも始めるのかと冷や冷やしたよ」

 

「その場合、十六夜はどっちに付くんだ?」

 

「もちろん、私よね」

 

「勘弁してくれ」

 

 親友と母親からどっちの味方になるのかと、究極の選択を唐突に迫られた俺。もちろん、俺は苦笑して答えをぼかす。

 最高の回答は「加勢ではなく仲裁をする」というのだろうが、真夜と達也の間に割って入りたくはない。『ミーティア・ライン』で貫かれるか、『分解』されるかのいずれかである。

 とにかく、そんな冗談の言い合いで、最終的に和やかな雰囲気でこの場は治まるのだった。

 

 

 

 食事会からしばらく、夜も深まってきた頃。俺は入浴も終えていたので、後は就寝時間まで読書でもしていようと構えていた時だ。

 自室の扉が叩かれる。

 

「十六夜、今は大丈夫か。話をしに来た」

 

 扉越しに聞こえたのは達也の声。四葉本家なら彼に成りすます下手人が入って来られる訳もないので、俺は無警戒に扉を開ける。

 そうすれば、達也と水波の姿がそこにあった。水波はまさしく侍従という装いだ。彼女自体に用事はなく、ただ達也をここまで案内しただけだろう。

 

「こんばんは。達也、水波さん」

 

 俺は扉を開け放ち、彼らを自室へと迎え入れる。だが、達也は応接用の椅子に腰かけるも、水波は部屋の外で待機した。

 

「……誰にも聞かせたくない話かい?」

 

「ああ」

 

 最初は婚約初夜を上げて揶揄う予定があったのだが、達也のいつになく真剣な面持ちによって、その予定はキャンセルとなる。

 俺は達也の真剣さに合わせるべく、普段は全く使わない携帯端末形汎用型CADを取り出し、遮音バリアを行使した。これで、万一にでも盗み聞きされる心配はない。

 

「それで、話って?」

 

 俺は達也の正面に腰かけ、相対する。

 

「十六夜。お前は自身の魔法で自身を弄ったな」

 

 達也の質問に、内心驚愕した。だが、顔には出さない。嫌な予感がしていたために気を引き締めていたのが、功を奏している。

 

「随分と突拍子もないな。まぁ素直に答えるけど、NOだ。俺は自身の魔法で自身を弄ったりはしていない」

 

 俺は、()()()()自身を弄っていない。それが真実であり、嘘ではない。

 

「どうしてそんな勘違いを?」

 

「叔母上の発言が引っかかっていた。我々は手を加えていないと、強調されているような気がした。まるで、我々以外は手を加えたかのように」

 

 真夜が意識的に隠そうとしていた事を、達也は嗅ぎ付けていたようだ。最後は和やかに終わっていたはずなのに、その裏でそこまで思考しているのか。全く恐れ入る。

 

「じゃあ、俺がある時まで魔法が使えなかった事、どう説明する?自身を弄れるような強力な魔法だ。他の魔法を使えない訳がない」

 

「俺の魔法演算領域が『分解』と『再成』に占有されていたように、お前もその魔法だけに占有されていたんだろう」

 

 達也の思考を覆すべく、俺は論理的に否定してみた。だが、達也はいとも容易く反論する。

 

「それだと、先代当主・四葉英作が気付いていたはずだ。達也のその状態も、その人が解析したじゃないか。どうして俺の方は解析できない」

 

「解析はできていたんだ。だが、その事を公開しなかった。結局、他の魔法が使えないという事実は変わりないからだ」

 

 魔法演算領域を解析できた四葉英作の事を持ち出しても、反論される。

 

「そんな魔法を持っていると解析できたなら、すぐにでも自身を弄らせるんじゃないかい?それに、どうして非公開にする必要がある?」

 

「その魔法の代償が大きかったからだ。だから、公開する事で他人が魔法行使を強要する事も避けた」

 

 ここに来て、達也の反論に曖昧な部分が混ざった。俺は、その部分を弱点として突こうとする。

 

「行使させる事を避けたい程の代償って?」

 

 突いて、後悔する――

 

「寿命を削る事だ」

 

――俺の弱点を、達也に突かれたから。

 『寿命を削って自身を弄る魔法』。達也はそう間違ってはいるが、『魔法』という部分以外はおおむね正解なのだ。遺伝子さえ弄れてしまうところまで推測できていないのは、九死に一生を得ている気分である。首の皮1枚で繋がっている気分でもあるが。

 ここから巻き返すには、信頼を盾にするしかない。

 

「達也。そこまで推測を語って、俺になんて言ってほしいんだ?」

 

「真実を言ってほしい」

 

「じゃあ、達也。お前の推測は全部間違っていると俺が言ったとして、達也は信じてくれるのかい?」

 

「……」

 

 達也が俺を信じてくれるのか否か、俺は絆を試した。そうすれば、ここに来てやっと達也は反論に窮する。

 

「……十六夜。俺の推測は、本当に全部間違っているんだな」

 

「魔法師生命を削る魔法ならまだしも、寿命なんて曖昧なモノを削れる魔法がある訳ないだろう?」

 

 達也はかなり渋い顔で、なおも追求してきた。だが、俺が返す回答は最初から変わらない。真実を明かす気など、微塵もない。

 

「十六夜、はっきり答えてくれ。お前は、自身を弄っていないんだな」

 

「自身を弄れる魔法なんてないからね。少なくとも、俺は持ってないよ。俺は、魔法で自身を弄ったりしてない」

 

 再三に渡る、寿命を削る魔法の有無を訊ねる問答。達也は、回答が変わらないと知っていても、問い詰めてきていた。そこには、俺を慮る心があるのだろう。その事は如実に感じ取れる。

 

「……分かった。信じよう」

 

 溜息の如く言葉を吐き出した達也は、脱力して椅子に体を預ける。杞憂で終わって安堵しているのか。はたまた、まだ聞き出せないと諦めたのか。

 前者であるとは、楽観できない。今後、より一層の警戒が必要になるか。

 

「ありがとう。俺の事、心配してくれたんだよな?」

 

 それはそれとして、友情を盾にして損なった分を補充したい俺。故に、感謝の言葉を取って付けた。

 

「……ああ、そうだ。俺とお前は、戸籍上だけとはいえ、兄弟なんだ。お前は、俺にとって弟みたいなモノなんだ。それは、どうか理解してほしい」

 

「もちろん。俺たちは唯一無二の親友、と言うのは、幹比古さんたちが可哀想か。まぁ、何。大切な友人である事は、理解しているよ」

 

「……ああ」

 

 最後、このやり取りを達也は疲れたような笑みで締めくくるのだった。




真夜が語る、達也にまつわる四葉家先代たちの心情:メタな話をすれば、原作であった貢による暴露イベント消失を穴埋めするためのイベント。原作での貢の暴露と、本作での真夜の語り。その両者には差異がある。しかし、本作の真夜の語りは、真夜視点の推測が混じっているだけで、少なくとも嘘は混じっていない。

十六夜の『お兄様』呼びを拒絶する達也:変な扉が開きかけたのかもしれない。

疲れたような笑みで締めくくる達也:十六夜の推測、その後者が当たっている。

 閲覧、感謝します。

※試験的に、本作の更新頻度を月2回に上げようと思います。更新は、月の第二・第四日曜日を予定しております。
 また、執筆速度との兼ね合いで、すぐにまた更新頻度が下がる可能性があります。ご了承の程、宜しくお願い致します。


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