魔法科高校の編輯人   作:霖霧露

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第八十三話 四葉の跡取り問題・中編

 午後7時開始が予定されている会食。奥の食堂、真夜が要人との会議に使うその場へ、次期当主候補たちは招かれている。

 現当主からの招集であり、時間を守れないような子供でもない彼彼女らは、開始10分前にして既に全員が集まっていた。

 まさに洋館の食堂と言った装いの長机には、真夜が座るだろう上座を空けて、その右側に俺が腰かける。俺以外の次期当主たちは、深雪が俺の正面、深雪の隣が達也、勝成と続き、俺の隣には文弥、亜夜子、夕歌と並んでいる。

 他に居るのは、深雪のガーディアンである水波、勝成のガーディアンである琴鳴と奏太。それぞれがそれぞれの主に付き従い、後方に控えている。後は給仕が最低限と言ったところだ。

 

(達也は疎外感でも抱いてるのかな)

 

 達也が水波と深雪を一瞥しているのが、俺の目からも窺えた。達也は自身も付き従う側ではないかと、疑問に思ったのだろう。対し、貰った一瞥に水波は首を横に振り、深雪は首を傾げる。

 達也を着席するよう誘導したのは水波だ。彼女は深雪のガーディアンとは言え、独断行動を取るとは考えづらい。つまり、水波の誘導は上からの指示、もっと言えば真夜からの指令である。達也もその事は分かっているようで、落ち着かない腰をそのまま椅子に押し込めている。

 

 そうして現当主の登場を俺たちは粛々と待ち侘び、その時が来た。

 奥の扉が開き、真夜は葉山を従えてその姿を現す。待ちわびていた俺たちは、扉が開くや否らのタイミングで皆起立し、真夜を出迎えた。

 

「皆さん。急な招集にも拘らず、よく集まってくれました。さぁ、どうぞ座って」

 

 真夜に促されながらも、礼儀として彼女の着席を待ち、それから皆も着席する。

 

「まずはお食事にしましょう」

 

 当主の合図と共に、給仕たちが俺たちの前に料理を運んでくる。ついでに真夜は夕歌と勝成へ飲酒希望の有無を訊ねたが、どちらも酒への弱さを上げて丁重に断っていた。

 そんな歓談をしている内に、オードブルが運び終わる。これから食事の始まりとなるのだが、始める前に、俺は一言言いたくなった。

 

「あの、なんだか俺だけ三人前くらい盛られている気がするんだけど……」

 

 俺だけ明らかに料理の量が多かったのである。

 

「あら、足らなかった?」

 

「いや、多い少ないではなくて」

 

 真夜とそんな寸劇をかませば、次期当主候補たちは各々笑みか苦笑かを零していた。

 結局、俺はちょっと微妙な視線に晒されながら、フルコース3人前を平らげる事になる。

 

「……大食漢とは風の噂で耳にしていたけど。……太らないの?」

 

「……はい。すみませんが、太りません」

 

「……そう。……羨ましい」

 

 夕歌から小さいながら純粋な羨望を貰いもしたが、特に邪険にされる事なく、お食事は進んだのだった。

 

 食事の時間は過ぎ、フルコースの締めにされていたシャーベットを皆が口に運んだ。これも俺は3人前くらい盛られていたが、食べ終わるのはむしろ一番早かった。

 とかく、皆がシャーベットを食べ終えれば、この集いの本命に移る。真夜が佇まいを整えれば、それが本命に移る合図だ。

 

「さて、そろそろ重要な話をしましょうか。貴方たちも、ただ食事しに集められたとは思っていないでしょう?」

 

 真夜が俺たち次期当主候補を見回し、皆は顔を引き締める。

 

「明日の慶春会で、いよいよ次期当主を指名します。ですが、急に結論を告げられてしまえば、わずかにとは言え取り乱してしまうでしょう。ですから、次期当主候補である貴方たちだけには、あらかじめ結論を伝えておこうと思ったの」

 

 当然、その本命とは次期当主の事前告知。次期当主について話がされるだろうと察していた皆は、逆にちゃんと切り出されて安堵しているようだ。

 特に、勝成なんかは顕著である。

 

「ご当主様。不躾ながら、発言の許可をいただきたく思います」

 

 いの一番に発言へ割り込んだ勝成の姿が、その証拠だろう。

 

「あら、勝成さん。何かしら?」

 

「では、有り難く。……新発田勝成は次期当主候補の辞退を表明し、次期当主に司波深雪を推薦いたします」

 

「なっ」

 

「えっ」

 

 勝成の発言に驚いたのは、達也と深雪だった。真夜は驚く事も不審がる事もなく、俺の準備が功を奏したものと捉え、少しにんまりしている。あえてもう一度言うが、微笑んでいるのではなく、にんまりしている。

 

「ご、ご当主様。口をさしはさむ事になって申し訳ありませんが、僕は勝成さんに賛同いたします。次期当主候補を返上し、深雪さんに次期当主へ推薦します」

 

 一番槍は逃した文弥だが、勝成が作った流れへ乗るように、己の意思を表明した。

 

「2人ともせっかちね」

 

「貴女も、という事かしら?」

 

「ええ。失礼ながら、2人と同じ意見です。私自身は次期当主候補を降り、その地位を深雪さんに譲ります」

 

 三番手となってしまったが、夕歌も真夜に促されるように、勝成と文弥に同調する。

 これで、3人降りた。急な降りに珍しくも達也は焦りの視線を忙しなく動かし、最後には俺へと留める。

 残る次期当主候補は俺と深雪。深雪の方は推薦を3票貰っている訳で、普通だったら推薦を貰ってないこっちは面白くない。だから、達也は、そして深雪は、何か俺が物申すと予想したのだろう。

 でも、残念ながらその予想は外れだ。この展開は俺が用意したモノ。俺が発言するとするならば、反対意見ではない。

 その反対意見ではない発言を求めて、司波兄妹以外の視線も俺に集中する。

 

「十六夜、どうかしら。誰も貴方の事を推薦してくれていないのだけど」

 

 真夜は悪戯好きの笑みを混ぜ、まるで俺に反対意見を吐かせるような文面を述べた。俺の準備が上手く行っているとみて、多少舞い上がっているのかもしれない。

 まぁ何にせよ。ここで変に展開を覆す必要がなければ奇をてらう必要もない。準備通りに話を進めよう。

 

「何も問題はないさ、母さん。俺も降りるつもりだったからね」

 

「……十六夜。どういう事だ」

 

 俺の言葉にすぐ反応したのは、達也だった。俺に向けられたその目が、俺を射抜く。

 

「達也、それに深雪。茶番、というのは付き合ってくれている皆に失礼か。まぁ、これは予定通りの展開だった訳だ。俺はあらかじめ次期当主候補たちと話し合い、深雪を推薦する事で合致していた」

 

「何故だ。どうして、お前が次期当主を降りる」

 

 達也としては、他の次期当主候補が降りる事について、それ程疑問ではないようだ。ただし、俺が降りるのだけは不可解と言った様子である。

 確かに、四葉家当主はその代の最も優秀な候補が選任される。文弥や勝成、夕歌も優秀ではあるが、俺と深雪に比べたら、魔法師として見劣りしてしまうだろう。

 そして、達也の中では俺と深雪の優劣を比較した時、俺に軍配が上がるらしい。そんな次期当主の最有力候補が降りると言うのだ。不可解に思われても仕方がない。

 

「達也、リムジンでした話の続きだ」

 

「……俺たちの仕事を肩代わりできたかもしれない、という話だったな。それで、もう1つの重要な仕事を優先してしまったと」

 

 事細かに掘り起こすまでもなく、達也は俺が掘り起こしたい話を当てる。彼自身がかなり気にしていた話だから、頭の片隅にずっと留めていたのか。

 

「そう、その話だ。俺は次期当主という仕事を肩代わりできたかもしれない。だが、もう1つの仕事を受注した」

 

「その、もう1つの仕事というのは?」

 

「国家公認戦略級魔法師。そうよね?十六夜」

 

 達也の質問に答えたのは、真夜だった。真夜は一応予想で語ったがために俺に確認してくるが、俺は当然首を縦に振る。

 

「国家公認……。十六夜の『紅炎』が公認されると?」

 

「ええ。スポンサーの意向で、公認される事が決まりました。世間への公表は、十六夜が成人する際か、それまでに戦略級魔法が必要とされる有事が起こった際か。そのどちらかです」

 

 達也は魔法理論も曖昧な『紅炎』が国家公認となるのを訝しんだが、真夜の口からスポンサーの意向であると聞かされてしまえば、もう疑う余地はない。

 達也も、四葉のスポンサーが日本政府に対してある程度の強権を振るえる事は認知している。でなければ、四葉が調整体の製造を続けられるはずもない。調整体の戸籍制作など、その他犯罪紛いの行為も同様である。

 

「……お前は、それで良いのか?」

 

 数秒目を伏せた後に、達也は目と口を開く。どちらも対象は俺だ。その目も口も憐れみと、何処か咎めるような思いが込められている。咎めの方は分からないが、憐みの方は、今後の生活に関してか。

 国家公認戦略級魔法師という重責を背負う事に、憐れみを感じているのだろう。

 

「ベストかどうかは、結果が出てみないと分からない。でも、ベターではあっただろうさ」

 

 俺は達也の憐れみを払うべく、全く望んでない道ではない事を明言した。

 確かに、完全に四葉専従戦力へ収まり、真夜だけに尽くすのがベストだ。だが、戦略級魔法師として、国家に尽くすのも悪くはない。四葉の名声を稼げ、畏怖を募らせる事ができる。間接的ではあるが、四葉へ、ひいては真夜への貢献になり、俺の贖罪になる。

 東道青葉の件、魔を嫌う集団からお目溢しを貰うために強制されたようなものだが、これはこれでありな将来設計なのだ。

 

「……そうか」

 

 達也は俺の言葉を聞き、溜息と一緒にそう呟いた。完全に納得はできなかったか。憐れみが払えていたとしても、咎めの方は全然払えていないのかもしれない。

 達也はそれ以上語らず、再度目を伏せてしまったせいで、その心情を詳細に読むのは難しい。

 

「十六夜。貴方がその道を選んだ事に、大きな不満がない事は分かったわ。でも、私が次期当主になる事、ゆくゆくは貴方の上司になる事。その事について、不満はないの?」

 

 達也が話し終えたと見て、次に話を振るのは深雪だった。

 俺を差し置いて深雪が四葉家当主になる事。その事への不満があるのか、深雪は懸念しているらしい。あるいは、自身が次期当主にならないよう、異論の1つでも欲しているか。

 

「全く。むしろ、国家公認の事がなくても推薦するつもりだったよ。四葉家当主には最も優れた魔法師が就くべきだ。戦士としては強い方だと自負してるが、魔法師としては深雪に劣るよ」

 

「……貴方にそこまで評価されているなら。……私も、私の務めを果たしましょう」

 

 俺が不満も異論も言わなければ、深雪はどうにも佇まいが固くなった。わずかながら、その顔が青ざめている。

 こっちの理由は分かる。次期当主として婚約相手が決められてしまう事を、深雪は恐れているのだ。

 達也以外と結婚しなくてはならない事を。

 深雪のその恐れを払う事は、とても簡単だ。

 

「安心すると良い、深雪。君が望まないようにはならない」

 

「……え?」

 

 深雪は、達也との婚約する未来が暗に決まっているのだ。この場でそこまで明かす事はできないが、せめて意味深長に伝えておく。深雪の呆けた顔に対して、意味深長な微笑みを返す事も忘れない。

 達也との婚約は予想できないだろう。だが、この意味深長な発言に思考を取られる事で、しばらく鬱屈としそうな思考に陥らず済むはずだ。

 とにかく、これで深雪が次期当主なのは、候補だった者たちからは満場一致だ。

 

「候補全員から推薦をされてしまったから、なんだか私が改めて宣言する必要もないようだけど……。一応、現当主として宣言させてもらうわ」

 

 そして、候補たちから満場一致の状況で、最終決定権のある真夜が続く。

 

「深雪さん、貴方を四葉家次期当主に任命します」

 

 当然、真夜も深雪の次期当主就任に賛成。四葉家の意思は、これで統一される。

 

「……はい」

 

 現当主からの任命を受け、固く応答する深雪。努めて毅然に振る舞っているが、やはりその態度には不安の色が滲んでいる。

 この食事会の後に達也を婚約者にすると告げられるのだから、その不安もすぐに歓喜へと上書きされる。少しばかり辛抱願おう。

 

「それで。詮索するようで悪いのだけど。貴方たちも、なんの思惑もなく次期当主を明け渡したりなんてしないわよね?」

 

 宣言を終えた真夜は、勝成たちに質問を投げかけた。俺がどうやって彼らの賛成を勝ち取ったのか、知りたいのかもしれない。

 そうして何か思惑があるのか訊かれた勝成たち。だが、夕歌や文弥、亜夜子は勝成に視線を送っている。思惑がはっきりしているお前から話せ、といったところか。

 

「……お恥ずかしながら、ご当主様。お許しいただきたい事がございます」

 

 そんな周りに背中を押されてか、空気に押し出されてか、勝成が先陣を切った。

 

「あら。何かしら」

 

「私、新発田勝成と堤琴鳴の結婚についてです」

 

 勝成は、万感の思いを込めて許しを請う。彼にとって、まさに一世一代の勝負だ。

 

「琴鳴さん……、貴女のガーディアンよね。確か、その子から貴方のガーディアンになりたいと、願ったのだったかしら」

 

「はい、その通りです。父が私の身を案じて、彼女とその弟である奏太をガーディアンにしてくれました」

 

 真夜は名を上げられた者についての再確認から始め、勝成はそれに付き合う。

 

「ガーディアンは元より四葉家の女性を守るために設計されたモノ。まぁ、男性にも付けようとする話はなかったでもないのだけど。結局、勝成さん以外は付けていないわね」

 

「十六夜君が四葉の名を背負いながら孤軍奮闘してくれているのに対し、軟弱にも護衛を侍らせている事については、我ながら恥じ入るばかりです」

 

「恥を忍んででも、その子を傍に置いておきたかった。そういう事かしら」

 

「はい」

 

 真夜は少し試すように、揶揄うように、その質問を投げかけた。投げかけられた側である勝成は、何の迷いもなく即答する。

 

「……貴方は四葉の血族、新発田家次期当主。反して、その子は四葉で作られた道具。身分の差は歴然なのだけど」

 

「……ご当主様、無礼を承知で申し上げます。彼女は、堤琴鳴は、道具などではありません。琴鳴は、私を支えてくれた、大切なパートナーなのです」

 

 本家当主という絶対的権力者である真夜に、勝成ははっきりと己の意思を言葉にした。不興を買い、許しが却って得られなくなるかもしれないのに、勝成は想い人の悪し様な言われ方に耐えられなかったのである。

 

「……それは、貴方の主観でしかない。客観では、そう捉えられる事はないでしょう。貴方は、本来愛すべきでない物を愛した愚か者として、後ろ指差されるかもしれません。貴方たちが結ばれた未来は決して平坦な道ではなく、幸せから遠ざかる愚行かもしれません」

 

 真夜の表情は、次第に憂いが混じっていった。ただ、その憂いは勝成への感情ではない気がする。真夜の視線が何故だか、勝成の背後にある影を見つめているように、俺は感じた。

 その問いかけもともすれば、もう問いかけでもなんでもなく、自問自答でもしているような、そんな印象を俺は受ける。

 

「琴鳴と一緒なら、愛する者と手を取り合えたなら、そんな険しい道を乗り越え、幸せを手にできる。私は、そう確信しています」

 

 そんな問いかけに対して、勝成はやはり、迷いなく即答したのだ。まさしく確信している事を、態度で示している。

 

「……そう。……そこまでの覚悟があるのなら、大人たちがとやかく言うのは無粋でしょう。貴方のお父様には、私の方から口添えしてあげます」

 

「ありがとうございます」

 

 勝成の態度によってか、真夜は憂いを潜め、微笑みを浮かべた。勝成はどうにか一世一代の勝負で勝ちを収める。感謝の言葉こそ平静を装っているが、深々と下げた頭が彼の心の内を何よりも如実に表していた。

 

「貴女たちは?」

 

 1人が一世一代の勝負に出たのだ。他の者はどうなのかと、真夜は関心を抱いている。

 

「私は十六夜さんと深雪さんに懇意にしていただければ。当主直系と次期当主から懇意にしていただければ、我が津久葉家も安泰でしょう」

 

「僕たちも同じです。黒羽家のため、十六夜さんと深雪さん、両名との友好な関係が必要だと思っています」

 

「あらあら、欲がないのね。多少のお願いだったら聞き届けてあげようと思ったのだけど……」

 

 夕歌や文弥の方は実にあっさりとしていたため、真夜は少し落胆しているのが窺える。でも、俺の交渉が上手くいったと捉えたのか、不満はそこまで内容にも窺える。

 そうして結局、夕歌と文弥は真夜に何も願わなかった。ただ、話の流れ的には俺に都合が良いかもしれない。

 次期当主候補を降りた者の願いを聞き届ける姿勢を、真夜は取っているのだ。ならば、同じく次期当主候補を降りた俺の願いも、聞き届けてくれるはずである。

 

「そうだ、母さん。俺はちょっと聞いてもらいたいお願いがあるんだけど」

 

「何かしら?」

 

 俺の推測通り、真夜は願いを聞き届ける姿勢を崩さない。

 この流れなら、行けるだろう。そう、俺は錯覚していた。

 

「俺の婚姻に関してなんだけど。婚約を結びたい相手がいるんだ」

 

「……え」

 

 読み違えた。と言うよりは、真夜の中でそんな軽いお願いではなかったようだ。真夜は真顔になっていた。

 ちなみに、司波兄妹以外も目を点にしている。司波兄妹以外、俺に婚約を結びたい相手がいるとは、予想もしていなかったのか。

 

「いや、あの……。次期当主でないなら、俺の結婚もある程度自由、だよね?だから、晴れて結ばれたい相手がいるんだけど。もちろん、どこの馬の骨とも分からない有象無象じゃなくて、北方グループの社長である北方潮、本名は北山潮であるその人の娘、北山雫って子なんだけど。……ほら、去年の九校戦、アイス・ピラーズ・ブレイク女子新人戦で深雪と決勝戦、まぁあれはトップスリーが全員第一高だったから正確には決勝戦じゃないけど、とにかく深雪と戦って1柱だけとはいえ壊しかけたあの選手だよ。今年のアイス・ピラーズ・ブレイク・女子ペアでは優勝もしているし、実力は充分だろう?」

 

 少しでも雫との婚約へ持っていける可能性を上げるべく、早口になりながらも雫の実力を俺はプレゼンした。内心冷や冷やである。

 そんな俺を勝成は暖かく見守っているが、夕歌は俯いて笑いを堪えているし、真夜は真顔のままだ。

 

「……十六夜。……ちょっと、ごめんなさい。……その事は、この後、いえ、明日、いえ、明後日、話しましょう」

 

 話は保留された。抑揚のない声だった真夜。もしかしたら、いわゆるキャパシティーオーバーだったのかもしれない。感情が顔も声も整理できない、と言った様子だ。先延ばしされた期間は、その感情を整理するための時間か。

 行けると思っていた俺は思わず顔に苦みが混じる。

 後、勝成は引き続き応援の意思を込めて見つめてくるし、亜夜子も意外と応援のジェスチャーをしてくれる。そう言えば、以前に俺を貢と真夜の子供と勘違いしたのは亜夜子だったか。そういうラブロマンスが結構好きなのか。

 言うまでもないが、夕歌は机に隠れるくらい屈んで、口も必死に抑えて、笑いを堪えている。

 

「では、お食事を再開しましょう」

 

 切り替えが早いのか、はたまた現実逃避か。真夜は食事を再開させる。

 その間は世間話で食卓が賑わうも、俺の婚約、果ては北山雫に触れられる事は一切なかったのだった。




魔法理論が曖昧な『紅炎』の国家公認:国家公認とされる戦略級魔法は、その詳しい魔法理論及び魔法式を国家へと提出しなければならない(本作独自解釈)。本来であれば、細部不明のパラサイト、その生態を用いているがために、正確な魔法理論を国家へと提出できず、『紅炎』の国家公認は認められない。しかし、四葉家のスポンサーたち(東道青葉含めその他多数)が強権を振るう事によって、魔法理論と魔法式を偽装して提出。国家はその偽装を黙認し、『紅炎』を公認する事となる。

十六夜を内心咎める達也:非公式戦略級魔法師である自分に一切相談してくれなかった事、また自分の身を蔑ろにして国家公認戦略級魔法師になるなんて無茶をしようとしているかもしれない事。その2つの事で、達也は内心十六夜を咎めている。

熱弁する勝成の後ろに控える琴鳴:頬が緩まぬよう、必死にこらえている。

 閲覧、感謝します。


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