プーチン氏の二面性「太陽のプーチンと月のプーチン」“プーチンの頭脳”極右思想家ドゥーギン氏初めて語る~中編

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24.02.2023

ロシアがウクライナに侵攻して1年。ロシア側から見る今回の戦争を、“プーチンの頭脳”ともいわれる極右思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏が日本メディアに初めて語った。3回シリーズの中編は、プーチン大統領の評価と、欧米には見えていないというプーチン大統領の二面性について聞いた。(前編後編を読む)

太陽のプーチン(愛国者)と月のプーチン(経済優先)

ーープーチン大統領についてご意見をお伺いしたいです。特別軍事作戦開始前と開始後のプーチンとプーチンの活動の評価についてお伺いします。
 
これはかなり長い話になりますね。私は「プーチン対プーチン」という本を書きました。ちなみに、日本で私の本の和訳が出版されていないのはとても残念に思います。(本が出版されれば)日本社会がロシアの状況をより理解できたと思います。私の哲学の論文の和訳を公開しているURLを送りました。今は第4政治理論のウエブサイトの日本語版を作っているところです。私の本の和訳を出す価値があると思います。
 
「プーチン対プーチン」という本を15年前に書いたが、この本はいろんな言語に翻訳され欧米でも出版されました。この本の中にすべてが書いてあります。この本を読めば今起きていることに驚いたりはしていませんでした。

本の中に私はプーチンのジレンマについて書きました。プーチンは二面性を持つ政治家であり、正反対のパラダイムに基づいています。一方では彼はロシアの愛国者です。これは重要であり、これが彼のアイデンティティの最重要なポイントです。それを私は「太陽(陽)のプーチン」と呼びます。
 
大多数の声に耳を傾けるプーチン、ロシア歴史のロジックを理解しているプーチン、欧米が押し付けている対立に立ち向かう準備出来ているプーチンです。ロシアの絶対的主権、独立と自由の支持者であるこのプーチンは第2チェチェン戦争以降の期間で明確に存在しています。

この(第2チェチェン戦争以降の)プーチンの活動や判断を追跡し分析すれば、太陽のプーチンに該当します。

「太陽のプーチン」が特別軍事作戦を開始し、地理政治学を研究しており、スラブ系保守派、ロシアの歴史の正教・帝国主義者の伝統を引き継いでいます。イデオロギーではなく、ロシア国家を強化した者としてスターリンに匹敵すると思います。

この「太陽のプーチン」は一つのアイデンティティです。特別軍事作戦を開始し、それに向けて準備を行い、多極世界を守る必要を理解しているのは「太陽のプーチン」です。しかしもう一つのプーチンも存在します。私が「月(陰)のプーチン」と呼んでいるプーチンです。

プーチン氏の二面性「西側は見えていない」

オリガルヒに頼るプーチン、欧米の価値を認める、というか特別軍事作戦開始前に認めていたプーチン、ロシアは欧米社会、欧米の文明の一部であるという論文を書いたプーチン、経済は命(ほど重要)なので貿易はすべての問題を解決してくれるものだと思っているプーチン、自由主義者デマゴーグで、親欧米派で汚職まみれのソブチャクをサポートしたプーチン、愛国心や道徳、ロシア主義を無視する人物に囲まれたプーチンも存在します。
 
この(月(陰)のプーチン)もずっと存在していました。彼は欧米と交渉し、2014年ウクライナでの親ロシア派騒乱を中止させ、ミンスクの交渉に参加し、残念ながら特別軍事作戦が行われている今でも存在しています。

遅れた、または実現しなかった人事異動、オリガルヒの過大評価、欧米のパートナ国に対するナイーブな期待、思想総動員が行われていないことが(その証拠です)。特別軍事作戦が始まってからも「月(陰)のプーチン」がそのまま存在しているし、その損失に責任があります。

グローバルな規模で展開される特別軍事作戦は多極世界と一極集中世界の戦いである。ローカルなレベルではこれはキエフのナチ政権、ウクライナでの軍事化とナチとの戦いである。もう一つの戦争は、大統領の中の戦争です。太陽(陽)と月(陰)といった2つの側面が消えたわけではなくそのまま存在し、お互いにすれ違っていて、正反対である。
 
現在は太陽のほうが優位になっているが、月(陰)の存在によって人事異動ができず、汚職まみれの反ロシアエリートを捨てきれなくなり、しかるべき愛国主義的な改革を軽く済ませようとし、社会の動員を回避しようとします。
 
繰り返しになるが、プーチンの中にデュアリズムが存在します。欧米には「太陽のプーチン」しか見えません。愛国者である私にとってこの(太陽の)プーチンは親しい存在であり、精神的に近い存在でもあります。プーチンとはいかなる関係を持っていないので、「精神的に」近いのです。
 
欧米には「太陽のプーチン」しか見えず、欧米はこの太陽のプーチンのことを嫌っています。「月のプーチン」は国内(の人には)見えています。私たちに彼の内面が見えます。彼の迷い、優柔不断、十分でない社会の動員、矛盾した行動や人事が私たちに見えています。

しかしながら、70%~80%を占める大多数は、特に戦時下ではそうだが、大統領を中心に団結しています。プーチンは我々のリーダーであり、「太陽のプーチン」として認識されます。その意味でロシアの社会の中にいかなる疑問や分断はありません。

プーチンの周りにいるリベラル派、リベラルと言ってもすでに特別軍事作戦の支持者になったが一般国民を恐れているリベラル派は「月のプーチン」に対して「プーチンらしくない」として不満を感じて失望している人もいます。
 
しかし、上記は言い過ぎです。総司令官に対する全体的な失望感はありません。欧米のプロパガンダがピンポイントの発言をピックアップしているだけです。国民は大統領を中心に団結し、勝利以外の現実的なシナリオは存在しません。
 
「月のプーチン」が(和平)交渉を始めたいと思っても、相手は交渉を否定しているので交渉は非現実的です。この1年間は「太陽のプーチン」の構造の中で行われていました。
 
繰り返しになるが、日本の読者に自分の本を推奨します。私の本はすべての言語に翻訳されているのに(和訳がないのは)異常だ。私は日本と日本文化が大好きで、「ノオマヒヤ」の1巻きの中に大好きな素晴らしい日本について書きましたが、和訳はいまだに存在しないのは異常なことです。

プーチンの弱点 勝利にとって必要なことで、まだ未解決の問題

ーー特別軍事作戦を開始したプーチンは良い方(太陽のプーチン)に“変化”したということですか?

そうじゃなくて、プーチンは自分の良い側面を発揮したのです。
 
ーー特別軍事作戦開始後のプーチンに関するご意見をできれば分かりやすく述べてください。「月のプーチン」は決断力が足りないと伺ったが、もう少し具体的に教えていただけませんか?
 
1990年代~2000年代の間に欧米はロシアのエリートを変えました。そのエリートの中に多量の親欧米のリベラル派を投入したのです。彼らは90年代に事実上、ロシアを支配し、プーチン政権下でも自分の地位を守れたのです。
 
上記のエリートとの関係はプーチンの政治的な弱点です。親欧米のリベラル派エリートは反国民的です。特別軍事作戦を開始してから大統領はそういったエリートを排除する必要がありました。フリドマン、アーヴェン、チュバイス、マオといったオリガルヒは有力な政治家でもあり、国を支配しましたが、彼らは逃げました。
 
しかし、逃げていない(オリガルヒ)のほうが多いです。自由にふるまい、社会を効果的に動員するためには彼らを排除し、社会の本格的な思想総動員を始めるべきです。

これは実現されつつあるが、時間がかかりすぎて、後退したりもします。一部の人は社会・経済における自分の地位を維持し、動員に反対しており、勝利を妨害している。
 
プーチンはそれに気づいていないと思えないが、これは90年代の遺産です。これはプーチンの問題であるというよりも政権の問題です。プーチンは主権国家を構築したが、リベラルな欧米の影響下にある病巣を排除しませんでした。
 
しかし今の危機的な状況下でその病巣は大統領に対し忠実ではなかった。一般国民と国家の味方、つまり「太陽のプーチン」の味方になる人もいるが、そうでない人もいます。これがプーチンの弱点です。
 
彼の身体的健康、精神的健康、決断力、意志、国内のすべてのプロセス、そして戦闘の責任感のある管理、すべてが理想的です。彼の病気や迷いはでっち上げです。構造的な制限は存在しますが、すべて(の問題は)この制限によるものです。90年代に形成された政治、経済、文化、イデオロギーに於ける我が国の外部統治はまさにアウゲイアースの家畜小屋であるが、プーチンはその掃除にまだ手を付けていません。

彼は別の偉業に集中しています。アウゲイアースの家畜小屋は少しずつ、自然に浄化されていきます。これは勝利にとって必要なことであり、まだ未解決(の問題)です。(前編後編を読む)

(BS-TBS 『報道1930』 2月10日放送より)

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/329963