「特別軍事作戦は失望からロシアの聖なる戦争になった」“プーチンの頭脳”極右思想家ドゥーギン氏初めて語る~前編

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24.02.2023
2023年2月24日(金)

ロシアがウクライナに侵攻して1年がたった。今回の戦争はロシア側からはどのように見えているのか。“プーチンの頭脳”ともいわれる極右思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏が、日本のメディアに初めて語った。3回シリーズの前編は「特別軍事作戦」が引き起こしたロシア社会の活発な動きについて聞いた。(中編後編を読む)

「私たちは欧米との戦争に入った」失望から長期戦への備えへ国民に変化

ーー特別軍事作戦が始まってから1年が経とうとしています。戦況やロシア国内の状況についてご意見を伺いたいです。

この特別軍事作戦は軍事的な側面で、ある意味で失望であると思います。ロシア社会の様々な層にとって失望であると思います。ロシア国民の圧倒的な大多数は愛国者であり、特別軍事作戦を支持しています。しかしその進捗、期間、損失、そして2022年の秋に撤退せざるを得なかった状況は社会を悲しませたのです。

素早く勝利が出来なかったことは、社会を失望させたということを強調したい。特別軍事作戦が始まった時、国民は準備をしていなかったし、それが長引いた状況になおさら準備をしていなかった。

今は戦況においてもロシア国民の心においても変化が起きています。社会は長い戦争に向けて変化しています。ウクライナとの長い戦争だけではなく、まれな例外を除いてキエフ政権を支持している西側諸国との(長い戦争)です。

ロシアの親欧米型リベラルエリートも大きく失望しました。このエリートは国民にほとんど支持されない。国外に逃げたエリート、経済的なエリート、つまり、オリガルヒや高官等、欧米とつながっているエリートのことです。
 
戦争が続いているこの1年間で欧米との関係は完全に破綻しました。特別軍事作戦に関する考え方に関係なく、ロシア人は欧米で資産を没収されてしまう。自分の将来を欧米で築きたいという人も失望しました。

なので、全体的には失望です。この1年で社会も軍人も、去年の秋の市民投票の結果、ロシアに再統合された領土にいる人たちも長期戦に備え変化している点が極めて重要です。
 
私たちは力や資源が底をついたわけではなく、ヒステリーを起こしていない。ロシア社会はかろうじて第3次大祖国戦争に適応しようとしている。第1次大祖国戦争は1812年のナポレオンとの戦争で、第2次大祖国戦争は1941年~1945年の戦争です。

私たちは欧米との戦争に入った、ということを国民が理解し始めた。これは簡単に勝利できない大規模な戦争であり、勝利するまでは欧米との交渉、まして操り人形のウクライナとの交渉はあり得ないということを分かっている。

国民は“文明の戦い”だと理解「素早い勝利への期待は甘い考えだった」 

ーー特別軍事作戦が長引いたので社会が失望したといいますが、特別軍事作戦はあっという間に終わり、すぐに勝利できると社会が思っていたのですか?

はい、そうだと思います。この軍事作戦は数週間か、数か月で、勝利できると大半の国民が思っていました。あのような絶望的で激しい抵抗に直面したのは想定外でした。しかし勝利したいという気持ちは変わっていないという点がとても重要です。

勝利への期待はより現実的になりました。国民はこの対立の規模を理解し始めました。これは限定的な反テロ作戦や領土の統合ではなく、文明の戦いだということを国民が理解し始めたのです。特別軍事作戦の目的を国民も政府も理解している通り、多極世界の構築であり、ロシアは中国やイスラム諸国や南米諸国等と同様に独立した極になります。

国民はこの紛争、この対立の本当の目標を理解すればするほど、素早い勝利への期待は甘い考えだったことを理解し、一極集中の世界と多極世界との戦いである長期的で大変な戦争に準備しなければならないということを理解します。

「ロシア政権はオリガルヒを信用しなくなった」彼らは無能で、愛国心が不十分

ーーなぜ素早い勝利が出来なかったと思いますか?
 
ロシアは欧米文明全体との対立に準備していなかった。欧米とNATOに近づこうとするウクライナは、ロシアを攻撃する準備をしているとロシアが思っていた。2月24日に我々が行った先制攻撃によって敵は混乱し(負ける)と思っていました。
 
この紛争は地域限定の紛争だと、ロシアは思っていました。ウクライナのNATO加盟に反対しているというレッドラインをロシアが表明したにもかかわらず、キエフ(政権)は耳を傾けようとせず、攻撃的な方策を続け、ドンバスの民間人への攻撃を続けた。
 
ロシアは電撃戦によってさらなる展開を防ぐことにしました。しかしキエフのオリガルヒがロシアに協力するという期待は過大であった。
 
特別軍事作戦開始前に交渉を進めたであろうメドベドチュクや他のキエフのオリガルヒへの期待は叶わなかった。当初の計画では限定的な軍事作戦を行い、キエフの野党や一部のオリガルヒに政権交代を行わせ、その後にロシアが満足する条件で和平契約を結び、しかもプーチンが当初表明したウクライナの非ナチ化と非軍事化といった2つの目標を達成できたはずです。

しかしそれは実現されなかった。クレムリンに約束したであろうキエフのオリガルヒは約束を守らなかった。そしてクレムリン政権は文明の対立の厳しさを理解していないロシアのオリガルヒを過大評価しました。

1年経ってから私たちはしかるべきスタート地点に到達しました。ウクライナとの紛争を始めることで私たちは一極集中の欧米ヘゲモニーに逆らったので、同等の反応が戻ってくると予想すべきでした。
 
この1年間でロシア政権は大物のオリガルヒを信用しなくなったと思います。以前はロシアのオリガルヒは親プーチン派だったかが、特別軍事作戦が始まって以来、彼らは全く無能で、一部は愛国心が不十分で、軍事領域とビジネスの(利益)の両立は不可能であることが判明しました。

国民戦争という段階が始まった。これは国民戦争です。今この戦争はロシア社会にとって聖なる戦争です。(その戦争の中で)オリガルヒは決定的な役割を果たす人物ではない。この大変厳しい戦争を1年間続けてから政治、経済、イデオロギー分野における本格的な改革を行う必要性をやっと認識しました。
 
その最初の証拠はプーチンが署名した伝統的な価値の保護に関する第809号の法律でした。ロシアは欧米との致命的な戦いをしている独立した文明として自分を認識しました。
 
その中でグローバルな体制を崩さないような一部のオリガルヒの交渉は何の効果もなかった。クレムリンはこの戦争の規模を過小評価しました。特別軍事作戦に準備をしたのに、欧米との長期的で本格的な戦争になった。これはウクライナとの戦争ではなく、欧米との戦争です。

和平交渉は敵の“プロパガンダ” 一般国民は従来通り戦争支持

ーー特別軍事作戦は国民戦争になったと伺いました。一方、外国エージェントであるレバダセンターの調査結果によると、和平交渉の開始を支持している人が増加しています。これは国民戦争であるということをすべての人が分かっているのでしょうか?
 
ロシアにいるすべての外国エージェントは敵のプロパガンダを発信しています。彼らは単に海外の資金提供を受けているのではなく、敵の味方なんです。外国エージェントのデータを引用することは敵のプロパガンダを引用することです。
 
第二次世界大戦を思い出してください。「日本はもう負けたので降伏しなさい」とアメリカ人が呼び掛けるが、「私たちは最後まで戦う」と日本の侍が答えます。両者において客観的な情報は存在しないというということが明らかです。戦時下でのプロパガンダとは、両者が正反対のことを呼び掛けているという現象です。
 
レバダセンターはおっしゃるとおり外国エージェントなので、プロパガンダを発信しており、他の外国エージェントやまだ外国エージェントとして認定されていないものと同じように、ウクライナの心理的作戦センターが仕掛けるような作戦を実施しています。
 
私は彼らに対抗し、ロシアのプロパガンダを発信するつもりはない。私は客観的な情報を提供したいです。当然ながら、社会全体が国民戦争だと思っていない。欧米に対抗するために全国民が団結したわけでもない。勝利する前の段階で和平交渉を始めるのは時期尚早だと理解していない人もいる。和平交渉の土台となるような、ロシアが満足できる勝利を手に入れるべきだと理解していない人もいます。
 
しかし、国民の大多数はそれを理解しています。大多数です。社会的地位、年齢、性別、居住地等の要因を考慮しないといけないのでその大多数の詳細には触れないが、世論調査は狙える結果を手に入れることが可能だと社会学博士として断言できます。

社会全体が戦争に反対している結果も、戦争を支持している結果も得られます。ターゲットを学術的なルールに基づいて定めたとしても、様々な要因の影響で結果が異なります。世論調査で正確な結果を得ることが不可能です。
 
世論調査はプロパガンダです。敵である外国エージェントとウクライナのプロパガンダ、もしくはクレムリンのプロパガンダです。どちらも正確ではありません。私は状況をより正確に説明したいです。
 
第一に、直近30年間の間に、国民と政府の意見が食い違っています。人口の10~15%を占めるエリートは親欧米派で、71~73%を占める一般国民は1990年から2022年までの間に反欧米派でした。

つまり、政治エリートは親欧米派で、一般国民は反欧米派です。これで大多数をどのように定義すればいいのか?政権を握るエリートは親欧米派で、過半数を占める一般国民は反欧米派です。このような対立(=エリートvs一般国民)は今も続いています。
 
71%を占める一般国民は国民の普遍的な中核として従来通り勝利をしたいと思っています。勝利とはウクライナ全土の制圧だと思う人、西側諸国への進軍だと思う人、今の4つの地域にオデッサ、ハリコフ、ニコラエフ州をプラスしたノヴォロシアの解放だと思う人、ウクライナ人からすでに解放した4つの地域だけで満足している人、勝利の定義は千差万別ですが、方向性は同じです。
 
では支配階級はどうなったのか?支配階級はショックを受けました。その70%が親欧米派なのに、(開戦後)欧米と対立したからです。この状況下で意識改革が行われます。一般国民は従来通り勝利を支持しているのに、特別軍事作戦開始前に支配階級に属する人に「特別軍事作戦をすべきか」と聞いたら、その大多数は「いいえ、すべきではない、何でもいいので避けたい」と答えていたと確信しています。
 
しかし彼らは意見を求められることはなかった。プーチンは自分の判断で特別軍事作戦を始めたが、支配階級は一般市民と同様、勝利を支持せざるを得なくなった。今この変化は本格化しました。支配階級は抵抗しているが、すでに追い込まれてしまった。外国エージェントとして認定されすべてを失うか、国民戦争を行う一般国民の味方になるかです。
 
1億4千万人のロシア国民の中で、状況を理解していない、納得していない人も少なくないので、彼らはいろんな発言をします。戦時下であってもロシア社会はオープンなままなので、異なった意見を持つ数十人、数百人、数千人を見つけることも可能です。
 
私はここで議論をしたいわけではなく、現状を説明しているだけです。一般国民は戦争を支持しているが、エリートは当初は本格的に反対していたが、今は支持せざるを得ません。そのため、外国エージェント達と彼らに共感している一部のエリート以外は(ロシアが)勝利をしていない状態の和平交渉を望む人がいません。そういった発想(勝利していないのに和平交渉をする)自体が存在しないのです。

国民が積極的愛国者に 徴兵登録事務所は戦場に行きたい人であふれるほど

ーー大多数とは、約70%を占める一般国民と、徐々に一般国民の味方になりつつあるエリートのことだということですね。

その通りです。この1年間で国民が変わりました。戦争が始まったということを認識するのに時間がかかったが、今国民は徐々に動き出しました。(部分的)動員が行われ、志願兵が増えています。つい最近ドンバスではロシア志願兵部隊が編成されました。
 
徴兵登録事務所、特に地方の徴兵登録事務所は戦場に行きたい人であふれています。最初からそうだったわけではないが、受動的な愛国者は積極的な愛国者になり、国民は変化しています。

国民は元々愛国者であるが、大半が愛国者ではなかったエリートは激変しています。シロビキ等もいるのですべてのエリートは反ロシアだったとも言えないが、大半は反ロシアでした。彼らは欧米、ウクライナの考えに共感し、一般国民を嫌っていたし今も嫌っています。
 
エリートが愛国者に変化するのは中々難しいが、過去に70:20だったのがもう半々ぐらいになったと思います。

エリートも愛国者が増加 全国民の80%は「勝利するまで戦争を続けるべきだと確信」

ーーでは、一般国民とエリートを含むすべての人の中で特別軍事作戦を支持している割合はどれぐらいでしょうか?

71%だと思います。これは直近30年間で「ロシアは欧米文明の一部であるのか、独立した文明の一部であるのか?」という質問に対し後者を選ぶ人達で、この割合は変わっていないと思います。割合は変わっていないが、中身は変化します。

エリートの割合は小さいが、その影響力はとても大きいです。エリートの中の(特別軍事作戦の支持者の)割合が増加しており、これは質的な変化である。支持者の割合が増加したのではない。一般国民の中に作戦に失望した人、不満になった人、(喪失の)で悲しむ人、その悲しみに耐えられなかった人、困惑した人がいます。しかしロシアの人口の規模を考慮すれば、71%という定数は(問題ないが)その71%の中身が変化しています。
 
エリートの中の愛国者が増加しているが、それは様々な変化につながります。(一般国民だけで構成される)71%はここ30年間も何の影響力を持っておらず、ひたすらプーチンを支持し、そのおかげでプーチンはエリートの間で自分の立場を強化してきました。
 
あの大多数がいなければ、プーチンの今の実績は存在していなかった。彼は大多数に頼り、それを政権の土台にしています。エリートは反プーチンで反一般国民の行動をとっていました。そのため、特別軍事作戦の支持者の変化は量的変化ではなく、質的変化であることが重要なポイントなのに、それは外部の人が見逃しがちなポイントで、数値だけで表現できない質的な変化です。
 
現時点では全国民の80%ぐらいは勝利するまでウクライナで行われている対欧米の戦争を続けるべきだと確信していると思います。80%です。当然ながら、(状況を)理解していない人、親欧米であり続ける等の人で構成される20%も存在します。
 
彼らも過激化し、欧米やウクライナの呼びかけでテロ組織に入り始めます。彼らは大多数から離れていきます。受動的に抵抗している人やオープンに抵抗しようとする人がいて、後者は素早く処理されます。
 
今ロシア社会の中で活発な動きが起きています。(中編後編を読む)

(BS-TBS 『報道1930』 2月10日放送より)

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/329971?display=1