連載コラム「吉谷晃太朗のマチソワタイム」vol.51
演出家・吉谷晃太朗さんが若手俳優をランダムに紹介していく連載コラム。第51弾は廣瀬大介さんの魅力に迫ります。
ミュージカル「ヘタリア」シリーズや「王室教師ハイネ-THE MUSICAL-」シリーズに出演されてきた廣瀬さん。6月にミュージカル「マギーバルバッド狂騒曲ー」の出演を控える彼の魅力は、そのパフォーマンスセンスにあると、吉谷さんは言います。
* * *
廣瀬大介について
舞台に携わる人間から言わせれば「舞台に立たないのは勿体なさすぎる」と、そう声を大にして言いたくなる。
表現をする者にとってそのフィールドは自ら決めるべきで、こちらから求めるのはワガママだとは思うが、ダンスをすればキレッキレの動き、エモーショナルにエネルギッシュに歌え、自分自身の生き様を役柄にも反映できる…そんなセンスの塊のようなパフォーマー・廣瀬大介には求めたくなるのも当然だろう。
彼と初めて出会ったのはミュージカル「ヘタリア」だ。最初は人見知りというか、何を考えているかわからず、正直ちょっと触れ難いと私自身も恐る恐るコミュニケーションをとる部分があったのだが、現在は出会った頃に比べて、ずいぶんと表情や目元が柔らかくなった。
思い返すと、仲間からの影響のほかに、パフォーマンスを見せることへの意識の変化があったように思う。
生来の責任感の強さを持つ彼は、昔からパフォーマンスに一切妥協を許さない。見る者に強さや逞(たくま)しさを感じさせたいと常に思っている。
しかし、こと演技においては、弱さや心情の揺れのようなものを見せる必要がある。弱さを見せるには心の壁をはずさないといけず、裸の心を見せる必要がある。
ちょうど「ヘタリア」で出会った時、その感覚が芽生えていた頃だったのかもしれない。弱さを曝け出すことで、お芝居の質もとても柔らかくなり、キャラクターの好感部分をより際立たせて演じられるようになっていった。
最新作でも特にその感じを出したくて、キャラクターの弱い部分をより全面的に出すことで、巻き込まれる側の面白さをより際立たせられるのではないかと相談したところ、彼はしっかりと応えてくれたのだ。
特に出せるようになった柔らかな声質、その技術は声優の経験が物を言っていると彼は言う。確かにその通りだと思うが、きっとそれだけではない。壁をはずすことにより、生来の優しさが外に滲み出るようになったのではないか。
パフォーマンスの力は少しも衰(おとろ)えてなく、社交ダンスで培った切れ味のあるダンスは稽古場で出番待ちのキャストみんなが見に来るほど素晴らしいもので、動けすぎて見ているこちらに笑みが溢れる。振付師だって大介に踊らせたくなる気持ちはわかる。
「それはきつい」と言いながら演技や振付のオーダーに応えてくれる。演技の延長線上で発するエモーショナルな歌声は心を打つ。
大介の演技はちゃんと相手役とコミュニケーションが取れる。毎日毎日が変化に富んでいる。これ程までにライブエンターテインメントが似合う男がいるだろうか。
彼は公演の合間も、休憩の時間を惜しんでずっと映像を見てチェックする。
研究熱心でストイック。
優しすぎるが故に、また責任感の強さ故に、色々考えることもあると思うが、ゆっくりでもいいから舞台に立ってほしいと思う。
それが廣瀬大介ファンの1人である私の願望なのである。
マチソワとは――昼公演という意味の「マチネ」と夜公演を意味する「ソワレ」を組み合わせた言葉。マチソワ間(かん)はマチネとソワレの間の休憩のこと。