ハリー・ポッターと黒い魔法使いの孫   作:あんぱんくん

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弱い奴は嫌いだ。

正々堂々と向かって来ず、大切な者を奪っていくから。

弱い奴は嫌いだ。

口先だけは一丁前で、何一つ守り切る事が出来なかったから。



#027 予見者

 

 連れてこられたのは、校長室に続く鷲の彫像の前だった。

 怪我をした友人を待つ間の手短な話を期待していたが、これでは期待出来そうもない。

 ボクは品悪く舌打ちした。

 

「レモンキャンディ」

 

 ダンブルドア校長がそう唱えると鷲の像が回転し、中に螺旋階段が現れる。

 

「前に来た時から思ってましたけど、この仕掛けは”マグル的”だ」

 

「ほほ、歴史あるこの階段にそのような感想を抱くのは君くらいなものじゃ」

 

 階段を上がると、いつものおかしな小さな物音で満ち溢れる、広くて美しい円形の部屋が出迎える。

 棚にところ狭しと並べられた魔法道具の数々は、コレクターを自負するボクでも持っていない貴重な物ばかり。

 

「興味があるのかね?」

 

「もちろん。前にも言ったでしょう、ここはボクにとって別天地(エルス・ウェア)だって」

 

 特に机の花瓶のあれ。

 花の代わりに刺さっている、あの火のついた木の枝など垂涎ものだ。

 ボクの視線の先を見たダンブルドア校長は満足そうな表情で頷く。

 

「目の付け所が良いのう。儂の作った魔法道具の中でも”グブレイシアンの火の枝”は傑作じゃよ。何より、形あるものとして魔法が永久に残る。永続性の美しさじゃな」

 

「なるほど……自作とは恐れ入ります」

 

「なんのなんの。年寄りの冷や水じゃよ。作った時につくづく実感した。儂らのような老人は、魔法道具を作るよりも集める方が性にあっておる」

 

 そう言ってダンブルドア校長は、棚に掛かっているボロボロの三角帽子を見つめた。

 

「”グリフィンドールの剣”など正にそうじゃ。1000年前からホグワーツに残された秘宝。ゴブリン製というのもあるが、儂にはあれほど素晴らしき魔法道具を造る事は出来ぬ」

 

「グリフィンドールの剣?」

 

 千年前にホグワーツを創設した大英雄の遺した剣か。

 是非ともお目にかかりたいものだ。

 ボクが視線で催促すると、ダンブルドア校長は疲れたように首を横に振った。

 

「何とも恥ずかしい話じゃが、紛失してしもうたのじゃ。1週間ほど前にのう」

 

「盗難ですか? 災難でしたね」

 

「いや。盗難の線はないじゃろう。邪な目的の者に、剣は決して引き抜けぬ。資格が必要なのじゃよ」

 

 あるいは、とダンブルドア校長は意味深に微笑む。

 

「ようやく荒野の獅子が導く者を見つけたのやもしれぬのう」

 

 多分、意味のある言葉だったのだろう。

 よく分からない話だったし、ボクは興味もなかったが。

 まぁ多分、向こうも理解して貰おうというつもりで喋ったわけでもないから、別に良いだろう。

 ああ、とダンブルドア校長がポンと手を叩く。

 

「おいで。お主に渡すものがあった」

 

 眼前に置かれる十数枚の不死鳥の尾羽根。

 

「見ての通りの逸品じゃ。何に使うかは知らぬが扱いは慎重にの」

 

「もちろんですとも!」

 

 気もそぞろに、ボクは受け取った尾羽根の状態を確かめる。

 ほんのり赤らんでいて、僅かな熱と魔力を秘めている。

 折れ目や欠けた部分もない。

 まったくもって素晴らしい。飼い主が丁寧な証拠だ。

 尾羽根を受け取って浮かれるボクに、ダンブルドア校長がそっとため息を吐く。

 

「惜しいの。いつもそのような姿をさらけ出しておれば、お主の友ももっと増えるであろうに」

 

「お言葉を返すようで申し訳ありませんけど。無数にいたら良いというものでもないでしょ」

 

「その通りじゃ。真の友とは得難い。しかしのう、お主のやり方は周りに壁をあえて作っているように見えてならぬ」

 

 確かにそれは否定しない。

 ボクはどんな相手にもこんな感じで一歩引いた形で付き合う。

 その方が都合が良いし、嫌な詮索もされないからだ。

 

(はぁ……それにしてもこの尾羽根のなんて美しいこと)

 

 普段だったら、こんな話はまともに受けず流してしまうのだが、生憎とボクは尾羽根に夢中になっていた。

 言葉を選ばずに言えば、ダンブルドア校長の話をあまりまともに聞いていなかった。

 その態度が勘違いさせたのだろう……ダンブルドア校長が真剣な顔でとんでもない言葉を吐いた。

 

「クィレルの一件で勘違いしておるならば訂正させて貰うが────儂はお主のことをとても気にかけておる」

 

(え?キモ。馬鹿かよ。何言ってんの?)

 

 唐突に恐ろしいことを言うなあ。

 ダンブルドア校長にとても気にかけられるということは、死神に鎌を振りかざされた状態に等しい。

 なんせ気にかけられた相手の多くは、結局むしろ放っておかれた方が良かったと思われる状態になったと聞く。

 何それ悲しきモンスターかよ……まったくもって恐ろしい。

 そんな戦々恐々としたボクの心情を他所に、ダンブルドア校長のブルーの瞳は既にここでない何処か遠くを見ていた。

 簡単に言うと自分の世界に入ってしまっていた。

 

「ヴォルデモート卿の登場により霞んでしまっておるが、かつては君の祖父君こそが世界最凶の魔法使いじゃった。絶大な魔法力に常人ならざるカリスマ。まっことゲラート・グリンデルバルドは強大な魔法使いであった」

 

「社会の規範が乱れる時代に現れた悪意の予言者じゃよ。あの男は未来を偽証し、己の権威を強める為にその力を存分に利用した。儂はその恐ろしさをよく知っておる」

 

 爺様が未来視を使って良からぬ事をしていたのは何となく察していたが、まさかマーリンの真似事までしていたとは。

 呆れるボクを他所にダンブルドア校長は独白を続ける。

 

「そして儂は、未来予知が魔法の中でも最も昏い部類に属すると考えておる。人間の希望を奪い、感情を鈍化させる。これほど邪悪な魔法があろうか? 儂はあやふやな未来にお主が影響され、ねじ曲げられる所なぞ見とうない」

 

 交差させた指を解き、ダンブルドア校長はコツコツと机を指先で叩く。

 

「お主は……祖父君に似て、あまりに達観しておる。絶望とも呼ぶべきものじゃ。今思えばゲラートも何処か似たような雰囲気を醸し出しておった。じゃから儂としてはもう少しお主に……」

 

(あぁ話が読めてきたね。だからこの右眼の事が……いや、ボクがどこまでこの右眼を自由に扱えるのか知りたいってことか)

 

 この右眼は祖父譲りのもので、魔法界でも真の予見者はほとんど存在しないとされている。

 早い話、蛇と話が出来るくらいには希少な能力だ。

 ダンブルドア校長ですら、その全体像を知るには至っていない程に。

 

(とはいっても、この右眼はそこまで都合の良いものじゃないんだよねぇ。自分でコントロールも出来ないし)

 

 そう、まったくもってこの右目は不便だ。

 未来視なんていうと聞こえは良いが、白昼夢や幻覚のような光景も多々ある。

 映し出される光景から意味を読みといた時にはもう遅い、なんて事も珍しくない。

 ドラッグ中毒者の幻覚と似たり寄ったりなのだ。

 無論、それでも諦めきれずに使い方を爺様に聞いた事もあったが、上手い具合にはぐらかされてしまった。

 

(今思えば、爺様はボクに何も教えてくれなかったな。予言と予見の違いくらい教えてもバチは当たらないと思うんだが)

 

 ちなみに”予見”と”予言”はよく混合されがちだが似て非なるものだ。

 ”予見”は見る事……つまりは可能性を観測することだ。

 高確率で当たるが、強制力はない。

 つまり、その前の行動によって幾らでも未来を変えられる。

 だが”予言”は別物だ。

 ”予見”は口にされた瞬間から凄まじい強制力を持った”予言”となる。

 その未来以外のすべての可能性を排除し、運命をも捻じ曲げる。

 起きる未来が限定されてしまうのだ。

 シュレディンガーの箱の中身は開けるまで分からない。

 ”予言”というのは、その箱の中を開けてしまうようなものなのだ。

 本物の予見者ならば、”予言”を軽はずみに口にするなど恐ろしくて出来ない。

 あと、予言した後の神秘部への手続きが非常に面倒臭い。

 ダンブルドア校長の長話に適当な相槌を打ちながら、ひとしきり厄介な右眼のことを考えていたその時、

 

「────そういうわけで、お主には儂らとは違った道を歩んでもらいたい……おぉメルムよ、聞いておるかね?」

 

「?……はい、勿論です」

 

 反射的に返事をして後悔した。

 目の前のダンブルドア校長は、満足気に何かやり遂げたような顔をしている。

 結構大事な話だったのかもしれない……ちなみに、内容は半分も頭に入っていなかった。

 

(まぁ良いか。友がどうたら愛がどうたらとかワケの分からない話だったし)

 

 ポッターあたりは、目を潤ませて聞く美談なのだろうが、生憎とボクはそこまで人を信用できない。

 涙を誘うような良い話は、そんなに転がっちゃいない。

 現実はもっとシビアなのだ。

 

「それはそうと、校長先生。今年の件はどう扱うおつもりなんですか?」

 

「今年の件とは……あぁ、憐れなミセス・ノリスのことかね」

 

「そうとも言えるし、違うとも言えますね。校長先生ならこの意味、分かってると思いますけど」

 

 全てを見通すような眼差しがボクに向けられる。

 やがてダンブルドア校長は目を固く閉じると、うぅむと唸った。

 

「別に未来が見えるからって話でもないです。勘の良い生徒達はもう気づいてますよ。あれだけ先生達がピリピリしてるんですから」

 

「……」

 

「あの反応は、1000年前の戯けた伝説に対するものとしてはオーバーだ。あったんでしょ?昔にも似たような事件が。それも人間相手に」

 

 ダンブルドア校長は、何かを言おうとして口を噤んだ。

 現在の教授陣の反応を見てれば分かる。

 雇われて日が浅い先生はのほほんとしているが、ある程度古参の先生達はあれ以降、警戒心剥き出しでピリピリとしている。

 まるで、これからも何かが起こると確信しているようだった。

 

「黙りですか。それでも良いですよ。魔法省の知り合いに頼めばすぐですし。過去にホグワーツで起きた事件なんか1時間もあればすぐに見つかるでしょう」

 

 それがトドメだった。

 学校責任者として、今回の件を出来るだけ公にしたくなかったのだろう。

 ダンブルドア校長は、不死鳥を撫でながらゆっくり息を吐く。

 

「……そうじゃな。お主には話しておくとするかの。察しの通り、”秘密の部屋”は過去にも開かれた事があった」

 

「それはいつです?」

 

「50年前じゃよ。その時には何人もの生徒が被害に遭い────最後はマグル生まれの女学生が1人亡くなってしもうた」

 

 予想よりも被害が酷かった……。

 ヒトが何人か被害にはあっている事は想像していたが、まさか死人が出ていたとは。

 

「なるほど。先ほどの発言は、ダンブルドア校長にとっても急所だったわけだ。死人まで出た騒動に、魔法省が関与してないわけがない」

 

「如何にもその通りじゃ。当時、魔法省はこの学校を閉鎖する事まで考えておった。校長をやっていたアーマンド・ディペットなんかは真っ青な顔をしておったものじゃ」

 

「亡くなった女生徒の名は?」

 

「故人のプライバシーに関わることなんでのう。儂から喋る事は出来ぬ。どうせ当時の記事を調べれば分かることじゃ」

 

 魔法省には知らせず、独自で調べろ。

 言外にそう告げる老人の言葉に落胆しないこともなかったが、言い分は正当なものだった。

 これ以上ゴネてもしょうがない。

 重要なのは誰が死んだかではなく、事件がどのように幕を閉じたかなのだから。

 

「女生徒が亡くなってすぐじゃった。ある生徒によって犯人が捕まったのじゃよ。退学処分にされたとも……あぁ、犯人の名は聞かないでおくれ。加害者とはいえ生徒であった以上、情報を漏らすことは出来ぬのでな」

 

「それはそれは……よく捕まえられましたね。しかも生徒が?」

 

「犯人を捕らえた生徒はホグワーツ始まって以来の秀才でのう。その後すぐにホグワーツ特別功労賞を授与された。フィルチさんに聞けば、その時のトロフィーを見せて貰えるじゃろう」

 

 不思議だった。

 加害者の沙汰を語る時にはなかった感情の波が、それを捕らえた功労者を語る時には老人の瞳に湛えられていた。

 

「当時の魔法省は胸を撫で下ろしたことじゃろう。時は1943年。ゲラート・グリンデルバルドの”力”が最盛期を迎え、マグルも魔法族も巻き込んだ恐るべき計画をドイツで始めようとしておった」

 

「なるほど。魔法省のお偉いさん方からすれば最悪のタイミングですね。他所で同族が殺されまくっているのだから、たかがマグル生まれの生徒の死に拘う暇などない。そんなところですか」

 

「口惜しいことじゃ。儂と魔法省の官僚達では物事の価値基準が違うでのう。今も昔も彼らは命に優劣をつけたがる。どんな命であろうともその重みは同じじゃろうに」

 

 どんな命であろうと同じ重み。高潔(空虚)な言葉だった。

 爺様のような極悪人だろうが、誰もが認める妹のような善人だろうが、命は命。

 しかし本当にそうだろうか……命に差はないのだろうか。

 そんな考えが、顔に出ていたのだろう。

 ダンブルドア校長が疲れたような声で言う。

 

「……すまぬのう。魔法省はお主の古巣でもあったのをすっかり失念してしもうた」

 

「構いませんよ。闇祓いといっても、ボクは正式な職員じゃありませんでしたし。それにお上の意向は分かりかねます……まぁ魔法省の価値観がご不満なら、十年前に魔法大臣になるべきだったのでは?と思いはしますけど」

 

 咄嗟に捻り出したボクのお世辞に、ダンブルドア校長が苦笑する。

 

「いやいや。儂は魔法大臣などにはなりたくないのじゃよ。今の職務が気に入っておる。生徒の成長を見守るのが好きなんじゃよ」

 

(……嘘つき)

 

 ────教職についてから長い年月が経ったが未だに悩む。

 

 ────魔法を覚え、広い世界へと出ていく生徒達は果たしてその価値があったのか? とな。

 

 あの時の、精密機械のような無機質でどこか冷たい印象がダンブルドア校長の本性だ。

 全てが嘘ではないのだろうが、話していないことがあるのもきっと事実。

 まぁ誰しもが隠したいことの一つや二つあるのが世の常だ。

 目の前の老人の在り方に落胆するのは、きっと身勝手なのだろう。

 

「じゃあ魔法大臣の椅子には……国の舵取りには興味が無いと?」

 

「ふむ……」

 

 ボクの言葉に老賢者は僅かに沈黙し、

 

「そうじゃな。強いて望みがあるとすれば、あのファッジの目の上のたんこぶであり続けたい。今のご時世、頂点に立つ者はクールでなければならないからのう」

 

 茶目っ気をだして、どこまで本気か分からない言葉を吐くのであった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ねぇ冷たくない?せっかく友人が来たってのにフルーツの一つも出さないなんてさ。おもてなしの精神が足りないぞギルデロイ」

 

「フルーツなら沢山ありますよ、大広間に」

 

「行くのが面倒くさい。それに休日は寝る時以外、我が寮の連中と顔を合わせたくない。どうせ今頃お通夜ムードだし」

 

 クィディッチがどうだとか負けたからどうだとか。

 興味が無い話を延々と聞かせられるとか何の拷問だよ。

 どっかりと机に足を乗っけてボクはムスッとする。

 

「おやおや珍しく荒れてますね」

 

「校長先生様から直々の説教を受けたんだ、荒れもするさ。寧ろ今後の予定を練るため、飯も食わずにこっちに直行したのを褒めてほしいね」

 

「勤勉は身を助けます。きっと良いことありますよ」

 

 あの後、ダンブルドア校長と少し”世間話”をして退室したボクは、ギルデロイの教授室に移動していた。

 色々とやる事が増えた上に、”世間話”で気になることを耳にしたからだ。

 

「それにしても、まったくトラブル続きだなあ」

 

「はは、秘密の部屋ですか?」

 

「あぁ、それが事態を悪化させてる。あれのせいで明らかに動きづらくなった。爺様がマグルを差別しまくったせいで、周りからいらない嫌疑を掛けられているのも癪だよ」

 

「闇の魔法使いとしてグリンデルバルドはビッグネームですからねぇ」

 

 まったく、今どきスリザリンで闇の魔法使いの血筋なんて珍しくもないだろうに。

 まぁ人とは感情の生き物である以上、そういった悪意を向けられるのは仕方ない。

 

「ったくふざけやがってクソバカタレが」

 

 ここ最近全ての面倒事をその一言に纏め、ボクはため息と共に悪趣味なデザインの天井を見上げる。

 

 その時だった。

 

 ────……してやる……ろさせろ

 

 ────血祭りに……八つ裂きにしてやる

 

 

「……何か言った?」

 

「はい?何も言ってませんが?」

 

 何がなにやら分からない。

 そんな顔でギルデロイはきょとんとしている。

 

(ヤバいな。ボクまで幻聴が聞こえるようになった?)

 

 最近一人でボーッとしている時間が多かったせいだろうか。

 とうとうボクにもイマジナリーフレンドが出来てしまったらしい。

 先日、壁に耳を貼り付けていたポッターを思い起こしたボクは内心冷や汗をかいた。

 

「コホンっ……まぁそれはそうとだ。ギルデロイ、今度は一体全体何を考えてるんだい?君に関する妙な話をダンブルドア校長から聞いたけれど」

 

 ボクは非常に穏やかに微笑んで言った。

 返答次第では殴る。

 それを察したギルデロイが慌てて顔の前で手を振った。

 

「ち、違います。私じゃなくて……その、ダンブルドアがですね。決闘クラブを始めてくれ、と打診してきまして」

 

「へぇ?ダンブルドア校長からは、”生徒達に身を守る術を授けるのならば私以外に適任はいない”そう言って立候補してきたって聞いたけど?」

 

 面倒事の匂いがプンプンする話。

 それを最後の最後に世間話として聞かされたボクの気持ちを考えても見てほしい。

 軽く発狂ものだ。

 

「まぁ確かに?決闘の練習という発想は悪くないよ。ここ最近物騒だし、近々役に立つかもしれない」

 

「そうでしょうとも!ですから……」

 

「だけど、そのパーティを君が主導するとなれば話は別だ」

 

 その言葉でギルデロイは黙り込んだ。

 沈黙はガリオン。

 いつもうざったいほどに饒舌な男が珍しく口を噤むものの、それで済む話でもない。

 

「どうせ闇祓いの訓練のような無茶が実現出来るわけでもない。いわばお遊びなんだ。他の教授陣にでも任せとけば良かったのに。わざわざ立候補なんかしやがって」

 

「ダンブルドアは口が上手いんですよ。すっかりのせられちゃいまして……」

 

「どうするんだよ。決闘なんか教えられるのかよ」

 

「……出来るわけないでしょう。不意打ちしかした事ないのに」

 

 だろうな。しかし困った。

 これに関しては純粋に実力が試される。

 ダンブルドア校長め、どうしてもギルデロイに破滅して欲しいらしい。

 まさかボロを出すように仕向けてくるとは。

 

「小説家を自称するのなら、その想像力をもう少し有意義に使って欲しいね。まんまと足元を掬われやがって」

 

「これはビッグトラブルです。私1人の力じゃどうしようもない」

 

 その通りだ。

 これは今までのようにはいかない。

 事前に準備した知識を頭に叩き込むのとはわけが違う。

 

「いや待てよ。やり方を教えるだけなら、今までとあまり変わりはしないかね?」

 

「む、無理です。ダンブルドアに実践して模範を見せますって言っちゃいました……」

 

(コイツ……)

 

 ボクは頭を抱える。

 他にもっと言いようがあっただろう。

 アタマ空っぽかよ、見栄ばっかり張りやがって。

 スイカの中身を確認するようにギルデロイの頭をコツコツ叩く。

 

「ま、まぁ相手はスネイプ先生ですし?きっと勝てますよ!」

 

「……多分、あの人ああ見えて決闘強いよ。ギルデロイじゃ100%勝てない」

 

 強者とは、佇まいや所作で何となく分かるもの。

 そしてスネイプ先生は相当出来る(・・・)

 本来ならば、それは滅茶苦茶ありがたい事だ。

 行事進行、その全てを相手に丸投げすれば良いのだから。

 

(だけど絶対にそんな甘くはないよねぇ……)

 

 あの人は全部分かったら、その上で1番嫌なタイミングで仕掛けてくるタイプだ。

 それに手加減して貰おうにも、ギルデロイは彼のヘイトを買いすぎている。

 恐らく、これ幸いとボコボコにされるに違いない。

 ボクは肩を竦めた。

 

「処置なしだ。小細工のしようがない。大人しくぶっ飛ばされてくれよ」

 

「えぇ!?」 

 

 最後の望みに匙を投げられたことで、ギルデロイが呻く。

 そのザマは見ていて、少し気分がスカッとした。

 この馬鹿は嫌いではないが、後の為にも痛い目をみといた方が良い。

 顎を上げてボクが笑った時、ドアが規則的なリズムでノックされる。

 

「ん?誰だ?」

 

「多分小人ですよ。この部屋は唐突に入られると何かと都合が悪いので。色々と教育してあります」

 

 ロックハートがぽんと手を叩く。

 すると彼の予想通り、無愛想な顔をした小人が三匹ぞろぞろと入って来る。

 何とも悪趣味なことに、全員に金色の翼がつきハープを持っていた。

 

「こんな天使っているか?まるでおっさんのコスプレだ」

 

「私の最高にキュートな召使いですよ。異論は認めません……っとなになに?」

 

 小人はギルデロイの耳元で何やら話すと、ドアを閉めて静かに出ていった。

 飼い主に勿体ないくらい忠実だな。

 愛想がないのは欠点だけど。

 話を聞いたギルデロイはというと、頭痛を堪えるように額に手を当てている。

 

「どうでもいい話?」

 

「微妙ですね。マクゴナガル先生からの連絡です。生徒の1人が……あーその、マズいことになったんだとか。詳細は分かりませんがね」

 

 あぁ、もうそんな時間か。

 壁に掛けられた金時計に目を向ける。

 生徒の身に起きたマズい事……その内容のおおむねをボクは把握した。

 まぁだからといって何をするわけでもないが。

 皿の上のフルーツを手づかみにして、かじりつく。

 

「ふぅん。ならどうでも良いね」

 

「というと?」

 

「分かってるだろ。大方、例の部屋の怪物だ。どうせ誰かが石になった程度。君が駆けつけた所で治るワケじゃない」

 

 席を立とうともしないボクの発言に、ギルデロイが目を丸くした。

 

「え、どうでもよくないでしょう!なに平然としてるんですか!死人が出ていたらどうするんです?」

 

「なら、尚更焦ってもしょうがない。死人は生き返らないんだから。明日行こうが今駆けつけようが一緒だよ」

 

「……少し薄情じゃありません?それ」

 

 ほう、薄情ときたか。

 珍しく至極真っ当なことを囀るバカを、ボクは見返す。

 

「そうかい。今の校内はまだ襲撃者が彷徨いている可能性が高い。ようは危険だから動かないってだけの話なんだけど……まぁ生徒の事が心配だって言うなら止めはしないよ。行ってくれば?」

 

 自分がその場に駆けつけようとした場合の、最悪のストーリーを頭の中でババッと組み立てたのだろう。

 視線を上げたギルデロイは、倫理観を超越した人間特有の表情をしていた。

 意を決して息を吸い込むと、彼はスッと席を立つ。

 そして、ドアの前まで行き────おっかなびっくり部屋のドアの鍵を掛け直した。

 

「ま、命あっての物種ですからね。被害者が誰かは知りませんが、明日お見舞いにでも行きましょう」

 

「リスクマネジメントがしっかりしてて幸いだね」

 

 ボクはにっこり微笑んだ。

 些細な倫理観の歪みに目を瞑る柔軟性は、時に必要なのだ。

 

「さて。今は別の仕事に取り掛かって貰ってるけれど……こうなったらしょうがない。あいつを呼ぶよ」

 

「え?あいつっていうとあの人ですか!?」

 

「しょうがないだろ。君が増やした面倒事に最も適任なのは彼なんだから。色々と調べて欲しいこともある。次いでに頭の詰まりも取って貰え」

 

「えぇ……」

 

 嫌そうな顔をするギルデロイ。

 半分こうなったのはお前のせいだからな。

 こっちだって重要な件を任せてる”彼”に、更に頼み事するのは忍びないんだ。

 

「何だよ、集団行動は嫌いかい?男ってのは連れションが好きなもんだと思ってたけど」

 

「……誤解のないように言っておきますけど。私、あの人と別に仲良くないですからね?日本人から藁人形を買う気はないですけど、その程度には敬遠してます」

 

 呼ばれる”彼”にとってもギルデロイは疫病神だろう。

 少なくとも祝う謂われはない筈だ。

 ボクとしても、これから各方面にフォローをしなくてはならない。

 まるで闇の親善大使、結局は貧乏クジだ。

 

「今のボクは自由に動けないから、ギルデロイに外に出てもらうしかないな。手伝ってくれるでしょ?」

 

「おや?手紙で済ませないんですか?」

 

「もちろん手続きの為に各方面に手紙は出すよ。こっそり忍び込ませるわけにもいかないからね。学校に入る為の書類とかを作成する面倒事は他がやってくれるよう取り計らうつもり。君にはそれを受け取り次第、有給使ってノクターン横丁に行って貰う」

 

 ギルデロイは嫌々と首を横に振って抵抗していたが、最終的にはボクの言う通りにすると頷いた。

 損をこいて泣きを見るのは嫌だ、という悲しき意見の一致である。

 

「そうと決まれば、古巣にお手紙だ」

 

 ギルデロイから羊皮紙と自動手記羽ペンを借りる。

 今から書くこの手紙を受け取った時、相手がする顰めっ面を思い浮かべてボクはニンマリと笑った。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「まったく昔から嫌な予感だけはよく当たる」

 

 徐々に夕闇に沈んでいく豪華な庭。

 そこに立ちつくし、ヤックスリーは忌々しげに葉巻をふかしていた。

 

「やっと上への申告が片付いたと思ったら、今度はこれだ」

 

 葉巻の煙と共に、イライラとした感情がもくもくと吐き出される。

 日が沈み闇に包まれていく庭は、普段と違い血生臭い空間へと変化していた。

 足元に無数に転がる屍の一つを、ヤックスリーは乱暴に蹴り飛ばす。

 

「クズ共め、貴様らを雇うのにどれだけの金をつぎ込んだと思ってるんだ。散々タダ飯を食らって、ろくに役にも立たず死にやがって。地獄まで追い掛けて殺し直してやりたいくらいだ」

 

 苛立ち紛れの独り言。

 しかし耳が痛いような静寂の中、闇の奥から返答があった。

 

「適当なチンピラを雇って手駒にするからさ。こいつらすっげえ雑だったよ。心当たりあるだろ?」

 

 ザワザワと闇が動き、中から声の主がボーッと姿を現した。

 闇に溶け込んだ黒の神父服に、足下まで伸びたドス黒いロングコート。

 濃厚な死の香りがする死神のような男、エバン・ロジエールだった。

 

「確かに心当たりはあるが、平時には問題のないレベルだ。そもそも何故、私の麗しい庭がブラッドバスに変わっている?説明して貰おうか」

 

「見りゃ分かると思うが。闇討ちだ。音もなく背後から一撃で見張りが殺られた。気づくのが遅れたもんで、残りの連中も数秒後に脳漿をぶちまける羽目になった」

 

 カラカラと笑う護衛に対し、ヤックスリーは無表情のまま冷たい言葉を口にする。

 

「クズ共の死に様はいい。問題は招かれざる客の方だ。ちゃんと”処理”はしたのか?」

 

「いや。これが存外手練だったもんでやり損ねちまった」

 

「油断か?お前を雇っている意味が無くなるな」

 

 頭や胸から血を流して息絶えている男達は、わざわざ異国からスカウトした配下だった。

 ロジエールに比べれば腕は格段に劣るものの、後腐れがなく使える手駒だっただけに怒りも深い。

 せめて騒動の主の首があれば気も紛れようが、それもない。

 

「いやぁそれに関しては俺が悪いわな。正直チョロいと思ってたんだよ。最近のイギリスは平和ボケしてるし。蓋を開けてみりゃ強引で滅茶苦茶な野郎だった。賭けても良いけど、旦那1人だったら完全に殺されてるね」

 

 ふむ、とヤックスリーは顎を撫でる。

 

「鼠に心当たりはあるかね?」

 

「1週間前くらいからあんたの事について色々と嗅ぎ回ってた爺さんがいたろ。あれだよ。社会的に芳しくない類の人種だ。多分賞金稼ぎかなんかだと思うけどなあ。手際が素人さんじゃなかった」

 

「そんな事はこいつらの死に方からとっくに分かっている。私が聞いているのは雇い主の方だ」

 

 ロジエールは肩を竦める。

 

「分かるわけねぇだろうが。あんたは色々と手を伸ばし過ぎなんだよ。魔法省への不正請求、脱税、闇の魔法道具の横流し。こんだけやってりゃ方々から怨まれて当然だろ?」

 

「刺客の雇い主に心当たりがあり過ぎる、か。我ながら贅沢な悩みだ」

 

「職業柄、あんたは疑心暗鬼が過ぎるきらいがあるしな。まぁこれじゃあ身内を攫って警告っていうお得意の手も使えねぇ。ジョン・ドゥってのは厄介だぜ」

 

 身元不明死体か。

 ロジエールの皮肉にヤックスリーは苦笑する。

 

「真面目な話、襲撃者は最近話題の純血狩りかな」

 

「元死喰い人が狙われてるっていう?先月も1人殺られたんだっけか。ったく容赦のなさと殺しのセンスは本物だ」

 

「あぁ。完璧な闇討ちで拷問された痕跡があった。目撃者はなし、生き残りもゼロだ」

 

 相当な凄腕だ、とロジエールがケラケラ笑う。

 その点に関してはヤックスリーも認めざるを得なかった。

 通り魔には、容姿に関する情報すらない。

 顔を見た者が全員消されている証拠だ。

 

「案外、あんたら貴族が目障りになった魔法省に雇われたジョブキラーなんじゃねぇの?」

 

「無いな。官僚共はとっくに機を逸している。もはや今の魔法省は我々の寄付金なしで正常に動作しない。それは連中が痛いほどよく分かってる」

 

 仮に今の魔法省が純血一族達からそっぽを向かれた場合、あっという間に財政破綻するだろう。

 闇の帝王の災害復興から十年。

 金策を貴族に頼り続けた今の魔法省は、早くも瓦礫の城。

 既に魔法省の実権を握る魔法大臣も、腐敗が齎す甘い汁の中毒だ。

 システムの初期設定をミスした役人共の自業自得とはいえやり甲斐がない話である。

 

「怖いものなんか何もねぇって顔だな。追い詰められた奴ほど何をしでかすかわからねぇぞ。そいつが世の常だ。違うかい?旦那」

 

「かもしれん。だが政府(ガバメント)が何かを仕掛けてくる時には必ず前兆がある。こいつは個人事業だ。お前のような」

 

「その言い方は気に入らねぇなあ。俺はいつでも楽しい側について自分が楽しいって思ってる事をしてるだけだ。ジョブにゃ程遠い」

 

 そうだった。

 死喰い人にしては珍しいタイプで、ロジエールは純血主義に傾倒してはいなかった。

 今も昔も彼が信奉するのは、暴力とそれが生み出す混沌だけだ。

 故に昔の同胞がどうなろうがノープロブレム。

 ごちゃごちゃした事情にもさしたる興味はないのだろう。

 シルクハットを弄びながら、ロジエールが話題を変えた。

 

「ま、良いや。楽しめたけど力で押し負ける程じゃねぇし。それよりもルシウスの件はどうなったんだよ?そっちの方が俺は気にかかるねぇ」

 

「あの馬鹿が遺品整理に悩んでいた件か?言われた通りにしたさ。放り捨てるには惜しい代物だから、有効活用するべきだと助言しておいたよ」

 

「ちゃんと食いついたか?」

 

「もちろん。我らが母校の醜聞が、預言者新聞の大見出しを飾る日も近い」

 

 ロジエールは冷たく笑うとシルクハットを被り直す。

 

「ありがとうよ。これで旦那も俺も楽しくなってくる」

 

「闇の帝王の負の遺産か。誰も持っていないものを所有したがるのは貴族特有の悪癖だな。例の日記以外にも、彼は闇の帝王の学用品をしこたま溜め込んでいたよ」

 

「馬鹿な奴だ。ベラトリックスや旦那ならいざ知らず、ルシウスは闇の魔法に造詣が深い方じゃなかったろうに。豚にガリオン、価値も分からず持ってて良い代物じゃない」

 

 その通りだ。

 趣味嗜好はそれぞれで好きにすれば良いとは思うが、分不相応な物にまで手を伸ばすのは賢明とは言えない。

 ルシウス・マルフォイが、骨董品の中には曰く付きの品があるという事実に、目を向ける脳味噌を持ち合わせていなかったのは不幸な話だ。

 

「これは笑い話なんだが、彼はボージン&バークスに受け取り拒否をされて右往左往していたよ。最近、息子が悪夢を見るんだとか騒いでたな。目の付け所は悪くないんだが、昔から詰めが甘い」

 

「でも、上手くいけばダンブルドアを失脚させる事が出来るって聞いたら掌返して喜んでたろ?」

 

「それはもう捻じ切れんばかりに。最高にスリルのあるギャンブルだと言っていたよ。目に入れても痛くない大事な息子の安全をチップに乗せているとは夢にも思っていないようだが」

 

「純血でスリザリンならば大丈夫ってか?想像力が働かないのは罪だねぇ」

 

 冷ややかな言葉に、ヤックスリーの顔が笑みの形にゆっくり広がっていく。

 日記の主にとって、あの学校は”地雷”が多すぎる。

 すぐに穢れた血の連中を殺す事はどうでも良くなるだろう。

 嗚呼、何とも憐れなルシウス。

 我らのご主人様は基本的に自己中心的で、目的の為ならば純血一族の血も多大に流してきた魔法使いだという事をすっかり忘れてしまっている。

 ロジエールが静かな声で訊ねた。

 

「ま、ガキをダシにした少々品のないお祭りだが、リスクなく楽しむ分にゃ丁度良い暇潰しだろ?」

 

「確かに危険が好きなお前にしては良い塩梅だったな。目論見がバレたところで、ダンブルドアに潰されるのはルシウスだけ。いつだってスり潰される前線は辛い。気づいた時の顔が見物だな」

 

 ルシウスは分の悪い出来レースに乗った。

 今頃は理事の連中を杖で脅すか札束で引っぱたくかして、言うことを聞かせようと模索している頃合だろう。

 かの闇の帝王にすら終ぞ敗れなかったアルバス・ダンブルドアを、この程度で退けられるとは勘違いも良い所だ。

 忌々しいがあの爺は負けない。

 そんな事も分からなくなる程にルシウスは老いた。

 時とは何とも残酷なものだ。

 

「それと朗報だ。上が”モルゴースの王冠”にやっと食いついた」

 

 ロジエールが双眸をわずかに細める。

 

「当然だろ、使える伝手はすべて使ったんだ。美味い餌垂らしてやってんのに反応が遅すぎるくらいさ」

 

「仕方ないだろう。前の時には色良い成果を報告出来なかった。慎重にもなるさ」

 

「流れを読む力は人生の必須事項だぜ?チャンスの女神は前髪しか生えてねぇ。オチオチしてたらあっという間に墓の下だ」

 

 一度そのチャンスを逃した男の言葉は重みが違うな、とヤックスリーは思ったが、それを口に出して言うほど子供でもない。

 

「それにしても、お前がここまで頭が回る奴だったのは嬉しい誤算だったな。闇祓いに突っ込むだけしか能がない輩だと思っていたよ」

 

「舐めんなよ。こう見えても人の動きを読んで動かすのは十八番さ。魔法だけじゃ解決しないこともある。腕っ節だけで生き抜くにゃ、この世はちょいとばかし複雑に出来ているからなあ」

 

 今までこいつの破滅主義に付き合わされていただけに、その一言はヤックスリーにとって衝撃的だった。

 そんな雇い主の動揺など露知らず、ロジエールは猫のように背を伸ばす。

 

「とはいえ頭脳労働が本職じゃねぇ事も確かだ。後は旦那に任せるぜ。どうせ地図に必要な図面は引けてるんだろ?」

 

「当然だ。大方は裁可を戴く前に描いている。運要素が強いのは痛手だが」

 

 だが、そんな事は折り込み済みだ。

 運が絡まないギャンブルなど有りはしない。

 手札を見直した所でカードの枚数も変わらない。

 極論、魔法使いもその点ではマグルと大差ないのだろう。

 唯一違う事といえば、魔法使いには運を排除する裏技がある、という所だろうか。

 

「ま、となると」

 

「神託が必要だ。”盟約”を使う時が来た」

 

 すっかり燃え尽きた葉巻を握り潰し、目の前の闇に放る。

 ふとヤックスリーの脳裏に、光に墨を垂らしたような黒髪が蘇った。

 

「これでシェーンも浮かばれるな」

 

 もはやこの世の何処にもいない男の残像に、ヤックスリーは静かに嗤いかけた。

 

 

 

 


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