異世界転移したら捨てられてサキュバスに拾われた話
クラスまとめて異世界転移したものの主人公が覚醒したジョブが「料理人」だったため使えない奴認定され捨てられてしまった。そして森をさまよっていたらサキュバスさんに出会ってしまった! けど拾われたお世話になります! なカンジの話。
こちらは消失品復元イラスト付きでの再アップです。
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異世界転移ってのはクソッタレだな。
ここ最近フィクションでは異世界転移とか異世界転生ってのが流行っているよな。
その理由は読者がある意味、共感しやすいんじゃないかと思う。
学生ならば勉強とか受験とか成績とか他にもいじめとか友達付き合いとか、社会人ならばパワハラとか長時間労働とか低賃金とか。
とにかく世の中はストレスが多い。そのストレスから現実逃避して、そして本当の自分なら異世界で本領発揮できるんじゃないかって幻想抱いて、それが共感できるんじゃないかって気がする。
だが現実はそう話はうまくいかない。昔っからよく言うじゃねえか、大体うまい話ってのは裏があるものだ、って。
実際に異世界転移してそれをよーく実感したから間違いない。
何とある日突然クラス丸ごと異世界転移ですよ。ビックリですよフィクションの話が現実に発生したのだから。
そしてあふれる光が収まったところで目の前にいたのは複数人のファンタジーでよく見るローブをまとった魔法使いっぽい人たちと、着飾った偉そうな人。
その人物は素直に自己紹介してくれてわかった。この国のえらい大臣だったらしい。
で、そのえらいえらい大臣さんは召喚した俺たちに宣言した。
「異世界から召喚されし勇者たちよ、戦い、魔族を討伐してくれ」ってありきたりなセリフを。
クラスの何人かはそんなファンタジーやゲームでありがちなセリフに歓喜してたね。自分が勇者として選ばれた、なんておだてられりゃあさ。人間おだてられりゃ喜ぶものさ。
だが、俺はファンタジーな話を仲のいい友人と語り合っていたからよくわかる。こんな話受けちゃいけねぇ。
よく考えてみ? これが異世界転移じゃなくて現実世界だったらどうなん?
ある日突然連れ去られて気がついたらそこはアフガンで、連れてきたやつが「聖戦だ! 戦うのだ!」と言ったらどう思う?
そう、戦うってことは戦争だ。そして同意なく連れてくるなんて拉致誘拐だ。
どう考えても戦争ってのは命を落として当たり前みたいなものだし、拉致誘拐はまぎれもない犯罪だ。
そんな話をクラスのみんなに話す……のはさすがに拉致った当人である大臣の前では厄介だったのでそれとなく伝えたんだが、ダメだった。まるで理解してねぇ。
その理解してない筆頭がクラス委員で顔もいいサッカー部キャプテンなやつだからタチが悪い。
勝手に腹黒そうな大臣にクラス代表の面して「困っている人は放っておけない」とかなんとか言ってOKしやがった。
おいおいこいつらが困った顔に見えるのか? 眼科行った方がいいぞお前。俺には裏のある顔で腹黒い奴にしか見えねえよ。
大体お前が勝手に話決めるなよ。多数決も取らないで何してくれてんだこら。
もちろんクラスメイトの中には俺と同じように召喚したやつらに対して疑う考えの奴もいたが、いかんせんイケメンクラス委員様の言うことだからあっという間に賛同してしまって反論できねぇ。
まったく、これだから陽キャは。
そこから始まったのはそれぞれの適正ジョブの診断。それは周囲にいた魔法使いっぽい連中が順に俺たちを見ていった。
ここんところはファンタジーの王道だよな。なにやら魔法具みたいなやつ使って診断していったよ。
そこで順にクラスメイト達のジョブが読み上げられる。「剣士」「魔術師」「回復術師」「拳闘士」などなと。
ちなみにイケメンクラス委員様は「勇者」だとよ。おめでとうございますね、晴れてクラス代表だよまったく。
で、問題の俺なんだが……「料理人」だってさ。
しっかり見えましたよ、俺のジョブを確認した魔法使いさんが「は? 使えねぇ」みたいな顔したのを。
嫌な予感はしたさ。他の皆は明らかに戦い向きで役に立ちそうなジョブなのに、俺は日常系ジョブですからね。
その嫌な予感は割と早く的中した。警戒してたのに油断したさ。魔法使い連中にスキをつかれて、空間転移っていうの? とにかくワープ魔法かなんかであっさり捨てられちまったのさ。
「……っていうのが俺の話」
「ははっ、そいつは確かにクソッタレだな」
俺、エイジの現在に至るまでの話を聞いて彼、クレスが同意してくれるのは実にありがたい。会話相手がいるのと同意してくれるのは心の支えにはなる。
しかし笑い飛ばすことができるほど今の状況はよろしくない。
俺ら二人は現在深夜の森を徘徊中。クラスメイトとともに異世界召喚された王宮からどれほど離れているかは知らんが、かなり深い森の中であることは間違いない。
ろくな装備もなく、気温も下がってきていることもあるが、それ以上にクレスの負傷度合いも気になるところ。
俺が捨てられたようにクレスも似たような、悲惨な経緯をたどっている。
クレスの出身は結構な田舎だったそうだ。そんな田舎の村でくすぶっているのは嫌で、一旗揚げるために旅に出たのだとよ。
ありがちなパターンの「冒険者に俺はなる!」って感じだな。
で、街に出て冒険者としての仕事探している中で「いい話があるんだけど」と誘われてついて行ったのが、悪かったと。
そのスカウトは腕のある冒険者パーティへのお誘いなどではなく、アウトローな犯罪組織、要するに盗賊だったとの事。
最初のうちは割のいい仕事と聞いていたのに、いつの間にか犯罪に手を染めさせられて引くに引けぬところになったらしい。
アレだ、俺の世界にもあるブラックバイトと同じ理屈だ。田舎から出たばかりの何も知らないクレスはまんまと引っかかったというわけだ。
そのまま黙っていたら更なる悪事に手を染めることになる。そんなの嫌だ、あんたらとは手を切る、とクレスは宣言した。
そうやって宣言したところはこのクレスがいい奴だっての証明だな。だがそれが悪かった。
そこで連中がはいそうですかと解放してくれるわけがない。自分たちのことをある程度知られたからには逃がすわけにはいかない。
だから、というかほかの奴らに対する見せしめもあったのだろうが、クレスはそこで奴らに追われることになった。
田舎から出たばかりの駆け出しの冒険者であるクレスが盗賊とはいえ戦闘経験のある連中との実力差は推して知るべし。
それでも生きて逃げ切ることができたのは奇跡に近い。だが、ご覧の通り負傷している。
そうして逃げてきたところで、捨てられた俺に遭遇してイマココって感じ。
肩を貸して夜深い森の中を二人歩いているけど、正直先が見えん。
クレスの追手も気になるところだけど、とりあえず休めるところがあればいい。それってどこですかってレベルだけど。
くそう、サバイバルまでいかなくてもキャンプのノウハウをもうちょっと勉強しておくべきだった。
どっちにしてもクレスのケガを放置していたら確実に命が危ない。治療したいところだが医者のアテもないし薬もないし。
ここで彼を放置して自分ひとり逃げるってのも、助かったとして後味悪くなりそうだからやりたくない。
さてどうしたものか、などと思案していたら……あたりの空気が変わった。
魔法の存在しない世界から来た、戦いの経験もないど素人な俺だけど、この場の空気は明らかに、ヤバい。
肩を貸しているクレスもまた何かを感じ取っていた。この感じ、かなりの危険が迫っていることに。
緊張と冷や汗が止まらない。一体何が? 周囲の警戒をして探っていたところで、その元凶が姿を現した。
「あらあら……」
俺たちの前に姿を現したのは、女だった。
しかしただの女ではない。身の丈は俺よりもはるかにデカい。身長170センチの俺よりも、ずっと。
目算で3メートルぐらいあるのではないだろうか?
それでいてスタイルが抜群にいい。出るとこ出てる、締まるところ締まってる、グラビアモデルが裸足で逃げ出すみたいな魅惑を兼ねそろえている。
しかしそんなスタイルの良さも、醸し出す雰囲気の前に見惚れる余裕などない。
ただならぬ空気の正体は紛れもなくこの目の前の女が原因だった。
そのような気配が出ている要因は何か? 多分、人間ではないからではないかと。
濃い紫色の長い髪、その額からは黒い角が。さらにはスタイルのいいボディも、肌の色は紫に近い。
本来の人間の肌の色ではない。人外、もしかしてこれが、あのクソ大臣共の言っていた、魔族。
何て厄介な奴に出会ってしまったのか。あの大臣共のいうことがその通りならば魔族は人類の敵であり卑劣な存在であり。
どう考えても戦闘経験のない俺と負傷しているクレスでは対処できるはずがない。つまりのところ、危機に陥っている。
絶望、もはやその言葉しか出てこない。俺の人生短いものだった。あんな連中に異世界に無理やり連れてこられ、そして使えないとあっさり捨てられ、あげくこんな山奥で魔族に出会ってしまって野垂れ死にかよ。
ああもう、できるならば楽に死にたい。拷問はお断りだぞ、もち奴隷だって、それともファンタジー的には実験動物とか捕食されるとか?
それもやだなぁ、なんて思っていたが……
「あらあら大変。こんな大怪我しちゃって」
「ん?」
「すぐに治療しなきゃ。ほら大丈夫?」
「んんっ?」
絶望の雰囲気だったというのに、それを打ち破ったのは意外にも目の前の人外な大女。
出てくる言葉は実に軽そうでありながら、気遣いの言葉でもあり、今肩を貸しているクレスに助けの手を差し伸べてそっと抱き寄せてくれているのでもあり。
おやぁ? もしかして、展開を見誤っちゃいましたかぁ?
それとクレス、お前爆乳に埋もれて変な顔になっているぞ。死ぬぞお前。