------🛸4月1日に始める自分語りは冗長なウソかも------🛸
🦕1
出産後はとてもつらかった。家に籠りっきりで多分ノイローゼだった。喜怒哀楽の怒と哀しかなかった、喜怒哀楽すらない時期もあったような気がする。ニュースで見る産後うつによる事件がとても他人事に思えなかった。画面に映る女性、その人に私がなる日がくるんじゃないかと不安だった。頭は働いてないけど、なんとかしなくちゃとひらめいたいくつかのアイデアのひとつに「散財」があった。高価な物を買うとかではなく、むだな物を買う。ええい!たくさん買って破産しちまえ!と破滅的な思考になっていたのかもしれない。
近所のコンビニで見つけたのはパッケージを見ただけでもTHE散財なDVDだった。しかも三部作、やったぜ!内容は三人の若者が未確認生物を調査するというもの。期待したとおり散財にぴったりな内容だったが、河童の秘薬やクッシーを信じた時代を思うとワクワクした。武良ラムゥはホンモノだ。そしてここにキラキラママやパワフルかあちゃんは出てこない。私の生活とかけ離れた世界の内容は自分と比較することがなくて安心できた。何かと比べて落ち込むことがなく、現実に囚われすぎていた私の視線を現実を超えた存在に向けさせてくれた。そのおかげで、当時半径1mくらいしかなかった私の視野は広がった。
そのDVDに出演していた姿を見たのが出会いといえば出会い。今でこそ出会いなどという言葉を使っているが、当時はなにも感じてなかった。昔のオタク的役柄で「この役者さん不憫だな…」くらいの印象しかなかった。
(ところで、ザ・ハイロウズの『日曜日よりの使者』の都市伝説を知ってる?あの話の真偽はともかく、いま思えば私にとってこのDVDがそんな存在だったのかもしれないなと気づいた。大切な物になってしまった。散財したはずが時を経て散財ではなくなってしまった)
🦕2
もうひとつの妊娠中もつらかった。入院まではいかなかったが特につわりで苦しんだ。偶然に見始めたお笑いのようなタイトルの番組は、よくあるお笑い番組ではなかった。若手芸人ドキュメンタリーだ。生みの苦しみとたたかう若手芸人たちの姿に、産みの苦しみに耐える自身の姿を重ねながら見ていたのかもしれない。出演者の中で見覚えのある人、あのDVDの人がいた。まさか同じ歳だったとは。っていうか芸人だったのか。DVDで演じていたオタク役とあまり変わらない雰囲気。演技やなかったんか。相方さんは私に似たような生真面目な陰の雰囲気を強く漂わせている。なるほど同じ乙女座、わかるー。そして私の父の若い頃にどこか顔が似ている。かけているメガネは私の祖父が愛用していたものに似ている。
見たことがある・共通点がある・親近感、はじめはそんな理由で応援しはじめた。次第にこの番組で彼らが作るお笑いを見るのが楽しみのひとつになった。全組おもしろいが、その中でいちばん自分に合ってたような気がした。彼らのネタに登場する、様子のおかしい人たちは外から取り入れた人格ではなくて、彼らの内側に生息している変な人格を脚色し表現していると感じた(しらんけど)。人間観察による世界というより自分の世界を煮詰めているような。内向的、というとネガティブに聞こえてしまうかもしれないが、内側にガチガチの芯を持っている人だとか感じた(しらんけど)。勝ち残り式の番組システムも相まって、気づかぬうちに人生も応援していたのかもしれない。報われるといいね、と私と似たようなタイプの人たちに望みを託していたのかもしれない。
私がつわりの苦しみから抜け出せた頃、テレビの中の彼らは苦戦しながらも最終回まで番組に残っていた、そして最終決戦を経てまさか優勝した。嬉しかった。一切面識はないけれど、辛かった時代を一緒に生き抜いた同志が成し遂げた瞬間を見たような感覚だった。胸が踊った。
その後、深夜の『前略、西東さん』でその姿を見たりなどしたが、次第に育児や仕事の慌ただしさに追われ、生活することでいっぱいになっていた。
🦕3
少し長めの時が経ったのち、私の人生に再び彼らは現れた。ステイホームなどの言葉が飛び交ったあの時代の出来事だ。動画配信サービスで視聴履歴を元にオススメされる関連動画に出演していた。久しぶりに同級生に会うような感覚だった。ここまでの期間に何をしていたのかさっぱり知らないけど、とにかく生きて会えて嬉しい!みたいな感覚。そして、やっぱりおもしろくて好きだと実感した。以降はたまに動画を見るようになった。
動画で何度か見ていると「(いつか生で見てみたいな)」の気持ちが心に生まれ、次第に大きくなっていた。当時は流行していた感染症による死者がまだ多く、不安でなんとなく胸が苦しくなる日が多かったが、そんな不安に負けない気持ちを持つことができた「(生で見るまで死ねないな!)」と。