頼義、宴に招かれるの事(その三)
主人への挨拶を済ませた頼信親子は、そのまま宴の座についた。
先に挨拶を済ませた
頼信は座したまましばらく黙っていたが、やがて上座の方ですでに宴に興じている諸侯に声をかけられた。
「おお、これはこれは
直方と名乗る中年の地方官吏らしき人物が親しげに呼びかける。
「これは
「左様、むす……オホン、娘を連れて京都見物がてらの長旅でござるよははは。ささ、そのように隅っこにおらずにほれ、一献」
鎌倉と言うからにはおそらく
奥の方の
上座の
「ささ、ご遠慮なさらずにお召し上がりくださいませ」
酒といってもまだこの時代清酒は無く、白く濁った度数の低い、例えるなら「甘くない甘酒」といった風のものであったが、飲み慣れない頼義にとってはそれでも十分に刺激が強かったらしく、飲んだとたん一気に呼吸が上がり、顔が赤くなっていくのを感じた。
「おお、さすがは音に聞く上野介様のご
いつの間にか隣に座っていた見知らぬ公卿にまたたっぷりと杯を満たされ、頼義は今度は気づかれぬ程度にちょびっとだけ口にして盃を下ろした。
(金平め、なんでこんなものを美味そうに飲んでるんだ?)
その場にいない金平に悪態をつきながら頼義は熱くなった息を深く吐いた。多分、一生この「酒」というものには慣れることはあるまい、頼義はそう思った。
父に連れられて諸侯へ挨拶回りに出向く度に、先方からは物珍しく見られ、またその度に酒を勧められての繰り返しですっかりヘトヘトになった頼義は、中座して庭先に逃げ込んだ。すでに日は暮れて宵は深く、庭園には
夜風に当たり酒に火照った顔を涼ませながら庭先を眺めていると、相変わらず使用人たちは酒や料理を運ぶために
その中に、警護の者か、大鎧をきて弓を
兜は着けず肩の大袖も外し、
あまりにもまじまじと眺めていたためか、その女武者も頼義の視線に気づいて目を合わせた。女武者は頼義にフッと優しく笑顔を見せて会釈をすると、再び正面を向いて立哨の姿勢に戻った。頼義は、彼女が生真面目に職務を遂行している傍で呑気に飲み食いにいそしんでいた自分が急に恥ずかしくなってさらに庭先からも離れ、外塀伝いの薄暗い屋敷裏まで逃げ込んでしまった。
篝火の灯りも届かず、向かいに立つ寺社の影が映るだけの裏庭に一人たたずみ、頼義は大きくため息をついた。宴の歓声もここからでは遠くかすかな音にしか聞こえない。この場でしばらく酔いをさましてから戻ろう、そう思って回廊に腰を下ろした。
四半刻ほどをそこで過ごした頼義は座に戻ろうと立ち上がった。月明かりを頼りに本殿へ戻ろうとした頼義だったが、あいにく月が雲に隠れて真っ暗だったため、廊下伝いにゆっくりと歩みを進めることにした。
そろりそろりと二、三歩足を運んだところで、頼義は突然背中から得も言われぬ悪寒を感じて即座に後ろへ振り返った。視線の奥には闇しか映らない。しかしその闇の中に、かすかに
「キィ、キィ」
と金属を擦り合わすような不快な音が聞こえてくる。なんだろうと思って目を凝らして見ているうちに雲間から現れた月明かりが屋敷を薄暗く照らし出した。そこには
無数の鬼たちが群がっていた。