近代神秘学の源流 魔術結社ゴールデン・ドーンの基礎知識/ムーペディア
毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。今回は、19世紀末のイギリスで設立され、近代魔術の歴史を作った魔術結社を取り上げる。
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占術や魔術、神智学で用いられるシンボルを解説。今回は、ふたつの原質による均衡と和合を示す「カドゥケウス」です。
商業、通信、平和などの象徴とされる「カドゥケウス」。杖の周囲を2匹の蛇が取り巻く図像で、しばしば先端に小さな羽が付く。別名を「ヘルメスの杖」と呼ばれる通り、元来はギリシア神話の伝令神ヘルメスの持物であった。
17世紀ドイツの建築家ゲオルク・ベックラーの『紋章学』によれば、この杖は太陽神アポロンからヘルメスに与えられたもの。ヘルメスがそれを携えてアルカディアまで来たとき、争い合う2匹の蛇を見た。そこで彼がこの2匹の間に杖を投げると、両者は和解してその杖に巻きついた。この図像が平和や力の均衡、対立物の和合を表すのはそのためである。
東洋学者ハインリヒ・ツィンマーは、紀元前2200年代のシュメールの都市国家ラガシュの王グデアの杯にこの図形を見出し、その真の起源はそれよりもさらに古い時代に遡るものであることを示唆している。
ヘルメスは後にエジプトの魔術神トートと習合して「ヘルメス・トート」もしくは「ヘルメス・トリスメギストゥス」となり、神秘学において最も重要な神と見做されるに至った。14世紀の錬金術師ニコラ・フラメルの『象形寓意図の書』によれば、この2匹の蛇は「硫黄と水銀」であるが、それは「巷の薬屋で売っている卑俗な硫黄・水銀」ではなく、金属の本質を成すふたつの原質であり、錬金術の根本原理を示す「哲学的硫黄・水銀」であるという。
なお、この図形はしばしば医学の象徴とされることもあるが、これは「カドゥケウス」と「アスクレピアン」の混同に基づく誤解である。「アスクレピアン」とはギリシアの医神アスクレピオスの杖のことで、こちらの杖に巻きついている蛇は1匹であることに注意されたい。この場合の蛇は大地の治癒力を表し、『民数記』でモーセが旗竿の先端に掲げた青銅の蛇もこれに関係していると考えられる。
両者の混同は19世紀末ごろのアメリカから始まったもので、米陸軍医療隊の紋章も「カドゥケウス」になっている。一方、WHO(世界保健機関)はその紋章に正しく「アスクレピアン」を採用している。
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