魔法科高校の編輯人   作:霖霧露

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第十七話 修正される道筋・後編

「障害物が無い草原ステージですか……。厳しい戦いになりましたね、お兄様」

 

 深雪の言葉は、本部に居る面々の意見を代弁していた。

 

「いや、水を利用されるかもしれない渓谷ステージや市街地ステージに比べればマシだ。一条家お得意の発散系魔法で水蒸気爆発をされる危険性が低いだけでも御の字だ」

 

「見晴らしが良い分、俺がすぐに将輝さんを引きつけられるとも考えられるからな」

 

 達也と俺の意見に、周りは良い反応と悪い反応で半々だ。

 

「十六夜くんが一条くんを引きつけてる間に、達也くんたちが他の二人を倒すという作戦かしら。でも一条くん以外も手強いわよ?」

 

「俺は達也たちを信じますよ」

 

 不安そうな真由美に俺は達也たちへの強い信頼を持って返す。達也と幹比古もその言葉に応えるように、気を引き締めた。

 

◇◇◇

 

 モノリス・コード新人戦決勝戦。選手たちが草原ステージに入場すれば、歓声ではなく騒めきが聞こえてくる。

 

「達也……。やっぱりこれ、おかしくないかい……?」

 

 騒めきの原因は考えるまででもなく幹比古が指さすローブだろう。そのローブは体全体を覆い、フードもついている。それを着る幹比古は、おとぎ話の魔法使いを想起させるだろう。そんなコスプレまがいを観衆にさらせば、幹比古のように微妙な面持ちになるだろう。

 

「不備は一切なかったはずだが」

 

「……」

 

 マント着用で似たような姿になっていながら平然とする達也にそんな的外れな返答をされれば、もう我慢するしかないと諦める幹比古である。身動きを制限しないために着ていない俺としては何かすごく申し訳ない気持ちになる。

 

 フードを深く被って顔まで隠す幹比古を連れて自陣へと至る。そこから見渡せば敵陣地すら視認できる距離にあり、目測で600mくらいしか離れていない。あちらもこちらをまっすぐ視認している。睨み合うには遠いが、気迫を感じ合うには十分な距離だ。互いに所定の位置に着く。試合開始の合図まで1分とない短い間だが、妙に長く感じられる。緊張とも不安とも表せない気持ちに囚われるが、ブザー音はそんなものを解せず、ただ正確に試合開始を伝えた。

 

 開始と同時に俺は自己加速術式と疑われない速度で駆け出し、我流自己加速術式発動とともに超人域で加速する。敵陣へまっすぐ突っ込むのではなく、将輝の射線を達也らからずらすためにやや膨らんだルートをとる。狙い通り、将輝は偏倚解放を俺に向けて放つ。マイセルフ・マリオネットで偽装しつつ、範囲外へ大きく飛び退く。

 

「ジョージ!坂田!こっちは俺がやる。他は頼んだ!」

 

「分かった!」「頼まれた!」

 

 将輝の指示に従い、吉祥寺と坂田と呼ばれたもう一人は達也らの方に向かう。他に構っている余力がないと将輝は判断したのだろう。こちらとしては作戦通り分断できて有り難い。

 

 俺は意識がやや味方に向いている隙を逃さず、ファントム・ブロウを発動する。が、ファントム・ブロウのサイオン衝撃波は将輝からのサイオン衝撃波で相殺された。散々使ってきた手であるために対策されたようだ。こちらの狙いが正確であるため、あちらは精密に狙いを付けずとも当てられてしまう。

 

(やはり、まだ高校生といえ十師族の直系もクリムゾン・プリンスの名も伊達じゃないか)

 

 一筋縄ではいかぬと歯噛みしながらエア・ブリットを放つが、こちらも空気甲冑で防がれる。防御確認直後に偏倚解放が放たれる。一条にとっては収束系も得意分野のようで展開が早い。回避が間に合わないと察した俺は空気の砲弾に逆らわず、マイセルフ・マリオネットをセルフ・マリオネットとして展開し、砲弾の方向と同じ方向に俺を引っ張ってダメージを最小限にする。痛覚もオフにしておいたので痛みに怯むこともなく、俺は両手のCADでエア・ブリットを乱射するが、将輝の空気甲冑は間に合ってしまう。空気の装甲程度、エア・ブリットの威力を上げれば貫けるだろうが、残念ながら殺傷ランクの規定を破りかねないのでそれが出来ない。

 

(埒が明かない……!)

 

 次の偏倚解放はマイセルフ・マリオネットが間に合って避けられる。しかし、これではこっちからの有効打が与えられない。無いからと言って攻めの手を緩めても居られない。どうにか達也らを将輝の射線に入れないように動き回りながら、合間にエア・ブリットを挿む。時間稼ぎにはなっているかもしれないが、それ以外になっていない。

 

(少しズルをするか)

 

 我流自己加速術式で偽装した超人技能で、将輝の視認が少し間に合わない程度で右に周り、彼がこちらを捉えるべく首を回す瞬間、瞬時に左へ高速で跳躍。マイセルフ・マリオネットを発動させたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。超人技能でズルをしたわけだ。

 

 将輝の視界から完全に外れたところで今度はマイセルフ・マリオネットで偽装しつつ上に跳躍。将輝との距離を詰める。

 

「なっ!」

 

 彼はサイオンを知覚して左に俺の姿を求めたために、俺が上から近づいていることに気付くのが遅れる。

 

(この距離なら!)

 

 詰まった距離でのファントム・ブロウなら彼の対応が間に合わないだろうと考えた策だった。が、彼の咄嗟に展開した魔法が間に合った。そして俺は直感する。その魔法は規定以上の威力を持つ圧縮空気弾であると。

 

「くっ!」

 

 空中にいるため避けられない俺は即座に腕を交差して頭を守る。痛覚もオフにして着弾に備える。機能している触覚が固い物質の接触を伝え、その感触がなくなったところで次の魔法展開が間に合っていないだろう将輝にCADの銃口を向けようとする。

 

「え……?」

 

 ()()()()()()()()()。見れば、腕は重力に従い、ただだらりと下がっている。痛覚を切った弊害で、俺は腕の異常を察知できなかった。エア・ブリットやファントム・ブロウの発生地点をCADの銃口に固定してあるために、腕が上がらない状態では相手を狙えない。

 

 俺がその失態に茫然とし、将輝が過剰攻撃を察し愕然としてできた空白に、俺は将輝の背後に迫る者を見た。

 

「達也!」

 

 俺の呼び声に将輝はハッとして硬直から脱しようとしていたが、それより早く達也から放たれた破裂音が将輝の鼓膜と三半規管を貫いた。破裂音はフィンガースナップの音を振動系魔法で増幅したモノだ。

 

「ぐっ……」

 

 将輝はあえなく意識を手放し、地面に伏す。達也も破裂音を間近で聞いたため、膝をつきはするがすぐに復帰する。

 

「達也!幹比古さんの方に――」

 

 言葉を言い切る前に競技終了を伝えるブザー音が響く。離れた場所で、倒れ伏す吉祥寺の姿が見えた。

 

「終わったのか?」

 

「あ、ああ。鼓膜破れてるのか。終了のブザーが鳴ったよ」

 

 聞き取れていないかといちおう頷いておく。

 

「片方だけだから聞こえ辛いだけだ。勝ったならそれでいいが……。腕は大丈夫なのか?」

 

 達也は俺の垂れ下がった腕に異常を感じ取っていた。

 

「いや、全く上がらない。多分折れてはないと思うが」

 

 痛覚を切っていたためにどれほどの衝撃だったのか分からないため、傷の診断に自信がない。

 

「……すまない達也。後で力を借りるかもしれない」

 

「……ああ」

 

 達也は俺の少ない言葉で用件を理解してくれた。

 

◇◇◇

 

 裾野基地病院の病室。俺は両腕をギプスで固定され、ベッドに横たわっていた。診断結果は腕の筋肉のいくつかが筋挫傷と腱断裂。骨にもヒビが入っているらしい。現医療技術でも全治1ヵ月以上となる。

 

 個室である病室の扉が開く。

 

「十六夜」

 

「母さん」

 

 いの一番に面会に来たのは悲哀を抱える真夜だった。

 

「すぐに達也さんを呼びましょう。それと一条はすぐにでも起訴しなくちゃ」

 

「ま、待って母さん!まず達也の『再成』なら24時間の猶予があるから今すぐ呼ぶ必要はないよ。今呼ぶのは達也と四葉の関係を勘ぐられるかもしれない。一条の方も訴えるのは無しだ。一条の名に傷をつけるのは、日本魔法師界にとって良くない。もしそれで十師族から落ちでもしたら防衛の面で問題がある」

 

 真夜が突拍子もないことを言うものだから、俺は慌てて弁護する。

 

「十六夜、あなたは被害者よ?全体のために犠牲になる必要はないわ」

 

「母さん、これは四葉のためでもあるんだ。達也の方は言うまでもないけど、一条の方はこれで貸しを作る形にできるかもしれない。この程度の怪我なら全く問題ない。最悪リライトで元通りに書き換えることもできる。ただ一過性の激情で先の利益を失うのはあまりにも非合理的だ」

 

 かなり無理のある論理ではあるが、一条の名が万が一でも廃れるのは避けたい。大きな原作改変のリスクを俺はどうしても背負いたくなかった。

 

「十六夜……。分かりました。あなたの言い分を聞き入れましょう。ですが、達也さんの再成を使うにしても、しばらくは四葉本宅で安静にしてもらいます」

 

 真夜は悲しそうな顔で渋々受け入れるが、これ以上の無茶を一旦止めたいのか強情にそんな条件を付ける。

 

「療養中って言い訳を作らなくちゃいけないしね。ありがとう、母さん」

 

 達也の再成で一瞬にして治るわけだが、腱断裂と筋挫傷がそんな短期間に治す医療技術はない。怪我の詳細を公にしないにしても、腕が動かない姿を大衆に晒してしまっている。何にせよ、しばらくの間どこかで治療していることにしなくてはならない。四葉で療養中となれば、多少治療期間が短くなっても疑いは少なくなるだろう。

 

「あなたは、無理しなくていいのよ……?」

 

「俺は何も無理してないよ」

 

 息子を心配する母の顔をする真夜に、俺は微笑んで返した。

 

◇◇◇

 

 容態を隠すために真夜以外は面会謝絶となった病室。時刻は午後11時を回ろうとするあたり。扉が開く音がすれば、入ってくるのは達也である。

 

「叔母上、参りました」

 

「ええ、では指示通りお願いします」

 

 達也は真夜に向けて恭しく一礼してから俺に専用の拳銃形特化型CAD、シルバーホーン・トライデントを向ける。今から使う魔法が再成と分かっていても一瞬ドキリとする。達也がこの瞬間に牙をむく理由がないことは分かっているが、もし達也に『分解』されようものなら俺でも生き残れない。

 

「?」

 

 引き金を引き終えた後、達也は怪訝そうな表情になる。何か失敗でもしたのかと、俺は腕の痛覚をオンにするが、特に痛みがなく動くことを確認する。

 

「どうしたんだ、達也。腕はしっかり治ったが?」

 

「……再成を使った時、俺は痛みを感じなかった。本来ならエイドスを遡る際に、痛みの情報も読んでしまうから痛みを感じるはずなんだ」

 

 達也の怪訝な表情の理由は、つまり俺のエイドスに痛みの情報がなかったことだ。考えてみれば当然かもしれない。俺は将輝の圧縮空気弾を受ける前から痛覚をオフにしていた。俺が痛みを感じていなかったから、エイドスに痛みの情報がなかったのだ。

 

「それは……」

 

「十六夜は自己暗示で痛覚を遮断する術を持っています」

 

「母さん!?」

 

 言いよどむ俺に代わり、真夜が当然の如く虚偽を開示する。リライト能力について話せないまでも、まさか痛覚のオンオフ自体を自己暗示だと嘘をつくとは思わず、俺は驚いてしまった。

 

「自己暗示、精神干渉系魔法ですか」

 

 達也の問いに関して、真夜は否定も肯定もせずただ微笑む。俺も答えるわけにはいけないと判断し、ただばつが悪そうに眼を泳がせる。

 

「いえ、失礼しました。俺はこれで戻ります。十六夜、お前は少しゆっくり休むと良い」

 

「あ、ああ。ありがとう、達也」

 

 達也は根掘り葉掘り訊かず、一礼して病室を出る。彼の中では俺が自己暗示の固有魔法を持っているということになったかもしれない。

 

「母さん、俺のリライトについては」

 

 足音で達也が遠く離れたことを確認してから俺はそう問う。

 

「リライト能力はあなたの切り札でしょう?それに、サイオンもプシオンも使わない力の存在が広まってしまえば、良からぬことを考える者が出てくるかもしれません」

 

 真夜はどうやら四葉内ですら秘匿にしたいらしい。その理由は俺も考えていることであるため、反論は一切言えない。俺は頷いて理解を示した。

 

「では、早朝に迎えを寄越すから準備しているのよ?」

 

「うん、分かったよ」

 

 お互い笑顔で別れる。俺は一人になった病室で、今日のことを振り返った。

 

(結局、大筋は原作通りになったな)

 

 モノリス・コード新人戦の初期面子が重傷を負い、達也が引っ張り出された。その上、将輝のトドメを達也が刺したことまで原作通り。将輝が魔法を暴発させた点も、ある意味原作通りかもしれない。

 

(もしかして、俺が幹比古をスランプ脱却のために達也と引き合わせようと思ったのも……?)

 

 己の意思にすら、原作通りに修正しようとする見えざる手の介入があったように感じられてくる。最早、どこからどこまでが俺の意思なのか疑わしく思える。

 

(まぁもうどうでもいいさ。どうでもいい……。どうせこの世界の主人公は達也で、俺は二次創作の添え物なんだろう……?)

 

 迷走した思考が諦観へとたどり着く。

 

(もういいさ……。俺は、償いさえできればいいんだ……)

 

 俺は力なく、皮肉気に口の端を釣り上げた。




一高VS三高・達也と幹比古:吉祥寺と坂田を相手にし、幹比古が吉祥寺をローブによる幻術にはめてる内に、達也が坂田の視界からマントを用いて逃れてから、ファントム・ブロウ。それで怯んでる坂田に対して幹比古が『雷童子』でKO。一人倒したところで達也が十六夜の不利を見て加勢。達也により将輝がKOされ、それを見て動揺している吉祥寺に幹比古が『乱れ髪』『地鳴り』『地割れ』『蟻地獄』のコンボで空中へのジャンプを誘い、吉祥寺がジャンプしたところを雷童子でKO。

面会謝絶で見舞いを阻まれた面子:達也以外の達也一団(達也は鼓膜の治療のため)、十文字克人、七草真由美

閲覧、感謝します。

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