2095年8月6日
初の新人戦となるは今日のスピード・シューティングとバトル・ボード。スピード・シューティングは女子の部を午前に予選から決勝まで行い、俺が出場するスピード・シューティング新人戦男子は午後となる。ちなみに、バトル・ボードに出場するほのかのレースは午後であり、俺はそちらを見に行けない。達也一団もどちらを観戦するか迷っている様子だった。
午後はどうするにせよ、午前は雫の応援で満場一致。俺ももちろん達也一団に同行し、雫の応援に来ていた。
「今更だが、達也は随分と力を入れたな……」
「だよね……」
「新魔法に小銃形汎用ホウキって……」
「どんだけ新技術つぎ込んでんだ……?」
俺も含め幹比古・エリカ・レオは達也の技術力の高さに驚きを通り越して呆れている。
「さすがお兄様!」
深雪のその一言で表されてしまうのが、原作主人公たる達也の恐ろしいところだ。あれで魔法演算領域に欠陥を抱えていなければ間違いなく「もうあいつ一人でいいんじゃないか?」となっていただろう。それでも、その欠陥の原因である彼の固有魔法だけで十分すぎるチートなのだが。原作を読んだ限り、彼の敵側に回った者は阿鼻叫喚である。俺はときおり本当に彼の身内サイドで良かったと思う。
言うまでもないだろうが、達也の支援を受けた雫は新魔法と新CADで危ない場面もなく優勝を果たした。他の一高の選手も2位・3位に入賞。達也はエンジニアを務めた選手でトップ3を独占させるという快挙を成し遂げた。
◇◇◇
「雫さん、優勝おめでとう」
「うん、ありがとう」
午前の競技も昼食も終えた後の一高本部。俺は雫へ労いの言葉をかけていた。達也にもしようと思ったが、今は真由美と摩利に捕まっている。
「アクティブ・エアー・マイン、見事だったよ」
準々決勝から対戦形式となり2色のクレーが飛び交う中、自身の色のクレーの破壊数を競うスピード・シューティング。彼女はアクティブ・エアー・マインで自身の物のみ綺麗に破壊していた。
「達也さんが用意してくれた魔法だから。それに、十六夜さんも使えるでしょ?」
「確かに使えるは使えるが、雫さん程しっかり扱える気はしないな」
アクティブ・エアー・マインは雫や俺どころか、魔法式さえ分かれば多くの魔法師が使える代物である。それは効果範囲が広く大雑把な制御でも使えるからであるが、対戦形式スピード・シューティングで使えるような破壊対象をしっかり区別する正確さが問われるとまた話が違ってくる。だからこそ、優勝に至ったのは間違いなく彼女の力量なのだ。
「そういえばあの魔法、魔法大全に登録されると思うんだけど」
「達也さんの名前が魔法大全に載るんだね」
彼女は魔法大全に関しても、達也の名前が載るのに関しても疑いなしである。
「いや、達也は開発者として名乗り出ないらしい。「自分の作った魔法が自分で使えないなんて無様は晒したくない」そうだ」
「じゃあ、誰の名前で登録するの?」
「達也は雫さんを推しているが……」
「?」
俺の言葉の不自然な切れ目に、雫は首を傾げる。俺はこの先を言うべきか思案した。言わなくても
「雫さん、君の名前での登録を断ってほしい」
「……どうして?」
彼女は俺の言葉の理由が分からなかったようだ。いや、分かる訳はないだろう。この思想は原作知識によるものなのだから。
「アクティブ・エアー・マインは、軍事転用が可能な魔法だからだ」
後にこの魔法は軍事転用される。「魔法式さえ分かれば多くの魔法師が使える代物」である弊害。そして、魔法大全による魔法式の一般公開がそれに拍車をかける結果となるのだろう。達也は軍事で使えるほどの出力が出せる魔法師を考慮していなかったのかもしれない。
「もし雫さんの名前で登録し、軍事転用されようものなら、間違いなく君が非難される」
「……うん、分かった。そうする。……ありがとう」
彼女は俺の意思をくみ取って応じ、尚且つ真摯に感謝まで述べる。俺がこんなことを言わなくてもそもそも彼女が自身の名前での登録を断ることが分かっているせいで、自分の行為が何とも恩着せがましく思えて、負い目を感じた。
◇◇◇
昼休憩もそろそろ終わりとなり、俺は選手控室へ向かう。が、その道中にこの前顔を合わせたばかりの二人が待ち構えていた。
「どうしたんだい、こんなところで。俺に何か用でも?」
「ちょっと気になることがありましてね。確認しに来たんです」
俺の言葉に応答するのは吉祥寺真紅郎。どうやら将輝のほうは付き添いらしい。
「それはもしかして、『司波達也』のことかな?」
「!?……ええ、そのことですよ」
吉祥寺は心の内を読まれたことに驚いたようだが、すぐに面持ちを取り繕う。俺は心を読んだというより、それ以外訊きに来ることが予想できなかっただけなのだが。
「エンジニアを務めた選手でトップ3独占。やっぱり目立つよね、達也は」
「君が実技で負けたって娘も「司波」でしたよね。司波達也とは兄妹なのですか?」
「そうだよ、双子じゃなくて年子だけど。両極端ながら、深雪は魔法技能で、達也は魔工技術で、二人とも尖っているよね。色々と疑うなって方が無理な話だな」
俺はこの前の「司波深雪はエクストラ」というミスリードを暗に示し、そのミスリードを継続する。
「やっぱり彼も
「名家が才能ある者を援助するなんて、どこにでもある話じゃないか。それを、何処かの家がしてるんじゃないかな?」
「そうか、それもそうだね……」
吉祥寺真紅郎も一条家から援助されている。その彼は特に「名家からの援助」を疑わないだろう。目の前で自己内論議に頷く彼を見て明らかである。
「これ以上は彼のプライバシーだから話せないし、俺は午後一番目の試技だから準備をしなくちゃいけないんだ。すまないが、この辺でお暇させてもらうよ」
「え、ええ」
吉祥寺からも将輝からも追及無く、俺は彼らの横を通り抜けた。
◇◇◇
最初の新人戦男子の部競技となるのはこのスピード・シューティングであり、俺の初めての出場競技である。ある意味で、『四葉直系』の初の晴れ舞台でもあるかもしれない。まぁそれは、優勝すればの話だが。
俺は選手控室で自身が使う
「さて、この程度でいいか」
俺ができる基本的な調整は終えている。これ以上反復確認して、自身の不安を煽るのも良くないと思考を切り替え、試合の時間まで適度に緊張を解くように努めた。下手に気負い過ぎて凡ミスする訳にもいかない。この初戦、失態は許されない。
◇◇◇
スピード・シューティング新人戦男子の部第一試技、俺の初舞台。シューティングレンジに立ってみれば、その観客の多さを窺い知ることができる。観客席はほぼ満席、そしてそのざわつきは大きい。単に俺が『四葉』だからというのもあるだろうが、そのざわつきの原因は俺が両手に各々持つ拳銃形特化型CADにもあるだろう。この競技はほとんどの者が照準補助に優れた小銃形を使う。そのため、俺の2丁拳銃スタイルは異常なのである。
開始合図のランプが灯り始まり、俺は自身の集中力を、超人の領域まで高める。ランプは全て灯り終えると、競技開始を示すブザー音を合図にクレーが空中へと射出される。クレーが得点有効エリアに入った瞬間、俺はCADの銃口をクレーの軌道に向けて引き金を引く。まるで銃弾のようにエア・ブリットが打ち出され、クレーを逃すことなく偏差射撃を成功させる。偏差と言っても、圧縮空気塊を作って打ち出すほんの一瞬のものだが。次にエリアに入ったクレーも、その次も、そのまたその次も。2丁のCADで交互に撃ち抜いていく。
魔法的にやっていることを説明するならば、2つのCADで交互にエア・ブリットが発動するように魔法式を構築しているだけだ。2つのCADで使っている魔法は同じであるから干渉波による魔法式の構築は邪魔されないし、発生位置や射角を構築式の時点で書き込み固定した穴あきの少ないモノ。要求されるのはエア・ブリット2つの威力を演算できる上質な魔法演算領域とエア・ブリット100回分のサイオンだ。
魔法的にやっていることはそれだけだが、身体的にもやっていることがある。発生位置も射角も固定して変更できないために、CADの銃口をクレーに合わせる必要がある。空気の塊を弾丸にした、飛び交うクレー100個の射的だ。といっても、基本スペックが超人基準でも高い俺にとって100m以内の的を撃ち抜くことは造作もない。
いわば俺は優れた魔法技能と超人技能のごり押しをしているわけだ。
最後のクレーを撃ち抜き、スコアボードに「100」と表示されパーフェクトであることを指し示す。試技終了のブザーが鳴りやむも、観客は呆然として無音の瞬間を作り出す。俺がシューティングレンジから降りるあたりでようやく拍手と歓声が耳の痛くなるほど響きだした。
◇◇◇
予選を通過したトップ8が出揃い、対戦形式となるスピード・シューティング。対戦相手がシューティングレンジに同時に立つのだからもちろん妨害される。俺の準々決勝も準決勝も、クレーの軌道を加速系や収束系で狂わされたが、そういう妨害も想定して2丁同時に使っているわけで、一発目が外れようと即座に二発目で破壊することができる。残念ながら得点有効エリア内で破壊が間に合わない物も1・2個あったが。しかし、対戦相手が妨害と破壊を同時進行しているところ、俺は妨害など一切せず破壊にだけ集中していた。結果は当然、一つに集中していた俺の方が高得点を出して勝利を収めている。
今俺は森崎の準決勝、森崎駿と吉祥寺真紅郎の対戦を選手控室から見ていた。どちらも戦法は王道。片や振動系、片や加重系でクレーを破壊していくが、どうやら吉祥寺がクレーのいくつかに情報強化をかけて森崎を妨害しているようで、森崎のスコアが思うように伸びていない。その後も森崎は崩されたペースを戻すことができず、吉祥寺が決勝へと駒を進めた。
◇◇◇
「やぁ、吉祥寺さん。君が決勝まで来るとは思っていたよ」
決勝戦。俺と吉祥寺が立つシューティングレンジで、互いに握手を交わす。
「まるで自分が決勝まで上るのが当然みたいに聞こえますよ?随分と己惚れていますね」
吉祥寺はどうやらこの短いやり取りで心理戦を仕掛けたいらしい。森崎はこれにやられたのがペースを崩した一因かもしれない。だが、俺には無意味だ。
「己惚れてはいないな。『四葉』として力を示さなくちゃいけなくてね。だから……」
そう、俺は力を示さなければいけない。そのためには、決勝に上る程度ではまだ足りない。
「君を叩きのめして、
敵を圧倒し、大衆に『四葉直系』が勝つことこそ当然と思わせる。必要なのは優勝であり、圧勝だ。
「ッ!」
俺の威圧に当てられた彼の恐怖が握った手から震えとして伝わってくる。俺はこれ以上手を握るのも威圧するのもかわいそうだと思い、手を放して指定の位置に着く。彼もどうにか恐怖を封じ込め、少し遅れて位置に着いた。
ランプは灯り始める。俺は優勝の義務を果たすべく集中力を高める。油断はできない。ここで負ける程度では俺には価値がない。自身を追い詰める。意識を集中させながら認識を広げるという矛盾を許容する。ランプは全て灯り終える。
2色のクレーが、吉祥寺は加重系魔法で、俺はエア・ブリットで、それぞれの方法で破壊される。そして、俺の方のクレーが一つ、空気塊が着弾しても壊れなかった。エア・ブリットという外的要因による破壊方法を防いだのはおそらく吉祥寺の硬化魔法。彼の妨害は一旦成功するが、俺はそれの対処法を既に考えてある。対処法と言っても単純。破壊できるように威力を上げるだけだ。俺は空気塊の強度と速度を上げて放つ。先ほど壊れなかったクレーが砕ける。吉祥寺は一瞬驚いたようだが、すぐに次の手を打つ。今度は硬化魔法をかけた上に、他のクレーを軌道に重ねることで邪魔をする。それも俺は邪魔するクレーを初弾で破壊し、目標を次弾で破壊。至極単純な方法で打開する。彼はまた次の手を考えたかったようだが、妨害だけに労力を割くわけにはいかない。妨害をその手だけに留める。が、やはり破壊に集中する俺と、妨害もこなす吉祥寺では差が出てしまった。結果は、俺のスコアが97、吉祥寺のスコアが92。
俺は相手の妨害をすべてエア・ブリットで打開し、エア・ブリットだけを用いて優勝を果たした。「お前たちには一つの魔法で充分だ」と言うように。
◇◇◇
「なんていうか、まぁ……」
「ああ……」
「うむ……」
スピード・シューティングを終えた後の一高本部。俺は真由美・摩利・克人の三巨頭に呆れ顔で囲まれていた。エア・ブリットだけで優勝したともなればこうもなるだろう。
「あれって本当に知覚系魔法は使ってないのよね?」
俺は真由美に疑いの眼差しで睨まれる。
「残念ながら、俺は知覚系魔法を持っていませんよ」
基本、知覚系魔法は先天性スキルか古式魔法師家系の秘伝くらいしかない。俺は先天性スキルもなければ(リライト能力は魔法ではないので除外)、古式魔法師でもない。達也や真由美の知覚系魔法は本当にレアなのだ。
「あれは純然たる空間把握能力というわけか」
「それと、卓越した射撃技術だな」
克人は深く考え込むように難しい顔をし、摩利も似たように顎に手を置いて思案している。
「空間把握も射撃技術も昔取った杵柄、という感じですが」
「どんな餅をついてればあんな事ができるようになるのかしら」
「はははは……」
「リライト能力で書き換えた上で少年兵として訓練する」なんて餅つきは俺くらいしか経験しないだろう。笑って誤魔化すしかない。
「えーと、ほのかさんの労いに行きたいので、そろそろお暇しますよ」
俺はこの場から逃げるためにそう述べる。俺の様子を見てそれ以上深く聞いてこなかったが、克人が眉間にしわを寄せたり、摩利が蟀谷を揉んだり、真由美が頬を膨らませたりしていて腑に落ちない様子を如実に示した。俺は彼らに対して不誠実かもしれないが、それらを無視してほのかとともに達也と雫が固まっている方に向かう。
「十六夜さん、優勝おめでとう」
「おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。それと、ほのかさんは予選通過おめでとう」
どうやらこちらに言葉をかける機会を探っていたようで、近寄れば雫とほのかの方からすぐにそう労われることとなった。
「達也はお疲れ様だね。今日は一日中CAD調整で大変だったんじゃないか?」
「そっちもお疲れ様。むしろ、それしかしていないからな」
「ううん、CAD調整だけでもすごく助けられた。CAD整備士として家で雇いたいくらい」
「達也さんの調整はとても手に馴染んで扱いやすかったです」
二人からの賛辞に達也は肩をすくめるに留まる。達也は謙遜しているようだが、本来だったら金がとれる職人技であり、魔法大全への登録を打診される新魔法開発という偉業もなした凄腕開発者である。
「まぁ、達也の自己評価の低さは今に始まったことじゃないかな」
「お前に言われたくはない」
随分と異なことを言う達也には俺は苦笑で返すしかない。
「そう言われてもな。大したことしたかい?」
「スピード・シューティングで」
「エア・ブリットだけで優勝しといて良く言う」
達也どころか雫からもカウンターを貰う。
「あれはただのごり押しだったろう?」
「同じ魔法とはいえ複数CADで交互に発動するように調整・維持しながら、尚且つ飛び交うクレーにほとんど的中させる。使ったのが変数の少ない起動式、ループ・キャストも組み込んでいるとはいえ、お前以外あんなことできないぞ」
「達也さんから説明を受けるまで、クレーを捕捉できるような知覚系魔法とセルフ・マリオネットみたいな自分を動かす魔法を同時に使ってると思って驚いた。説明受けたら受けたで驚いたけど。十六夜さんはもっと誇っていいと思う」
「あ、ありがとう?」
ポーカーフェイスであり普段は口数が少ない部類に入る二人からそう畳みかけられてしまって、俺はたじたじである。何も複雑なことはしていないというのに、なぜこうも称賛されるのか俺には分からない。
「まぁ、十六夜の自己評価が低いのは今に始まったことじゃないな」
「……」
達也にしっぺ返しを食らって、俺は何とも言えなくなった。「君にだけは言われたくない」と内心思いながら。
心理戦がしたかった吉祥寺:初見の気弱な印象から「精神攻撃には弱い」と踏んで行ったが失敗に終わる。彼の中で「家が関わると人が変わる」というイメージが十六夜に付与された。
午後各々の観戦:エリカ・レオ…秘密にされた作戦が気になって十六夜の方を観戦
幹比古…色々と十六夜のことが気になっているので十六夜の方を観戦
美月…上記3名に付き合い、十六夜の方を観戦
司波兄妹…十六夜の作戦を知っている上に実力も知っているので見る必要もないとほのかの方を観戦
雫…どっちを見るか迷った挙句、両方が見れるようにと一高本部で観戦
近寄り難い来賓席の一角:そこには四葉十六夜を直に観戦しに来た四葉真夜と九島烈の姿が……!
閲覧、感謝します。