魔法科高校の編輯人if~枝世界~   作:霖霧露

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28 The show must go on to THE END.

 リーナが第一高へ留学してから初めての日曜日を跨ぎ、月曜日。

 第一高はとある話題で持ちきりで、リーナが登校してきた初日に近い喧騒を響かせていた。

 そのとある話題とはリーナに関するモノ、ではない。いや、遠縁ではあるだろうが、少なくとも当時はその話題とリーナの関連性を追う事ができていた者はいない。

 何せ、『吸血鬼事件』という、日曜日に朝から晩までニュース番組・ニュースサイトを賑わせた怪奇殺人事件なのだから。さすがに留学生が吸血鬼かもしれない、なんて疑いを持った者はいなかった。

 

 『吸血鬼事件』とリーナの関係を語ってしまうと。『吸血鬼』と呼ばれる変死体を作っている犯人が『パラサイト』*1に憑依されたUSNA軍の脱走兵で、リーナは『アンジー・シリウス』としてUSNA軍に登録されている軍人であるし、その脱走兵の処断を任される立場にある。という関連性だ。まさに(ゆかり)が遠い話だろう。

 

 とかく。そんな『吸血鬼事件』が第一高でオカルトとして噂され、達也一団も『事件を起こしたのが吸血鬼というオカルト存在なのか』と議論していた。

 ちなみにこの日、リーナは家の都合という事で欠席していた。

 

 

 

 修学の時間を終え、生徒の皆が自宅に着いている頃。

 当然、十六夜も自宅である北山邸に着いており、友人との通話に興じていた。その友人とは、四十九院沓子である。

 

「まさか沓子ちゃんが交換留学してるとはなぁ」

 

〈そう不思議がる事もないじゃろ。USNAの魔法を学べるかもしれんこの機会を手放しては、四十九院家の名折れじゃのぉ〉

 

「いや、まさか俺の友人が数少ない留学生に選ばれるとはって話」

 

〈そっちか。まぁ、儂は優秀じゃからのぉ、かっかっかっ!〉

 

 十六夜は世間の狭さを感じ、沓子は世間を狭くしている己の優秀さに胸を張った。十六夜の好みを狙ってコテコテののじゃロリ風に笑いながら。

 

「環境の変化とか大丈夫か?」

 

〈多少の環境変化で体調を崩す程軟ではないぞ。ただ、文化の違いを感じるがの。まさか、こっちでは吸血鬼を信じる風潮が残っておるとは〉

 

「……なんだって?」

 

〈吸血鬼じゃよ、吸血鬼。何やら、目立った外傷もないのに血液が減って衰弱しとる変死体が見つかっておるとか〉

 

 沓子の近況報告に耳を疑った十六夜だったが、詳細を聞いて色々と察した。原作での雫の役が沓子に回ってきたのだと。

 

「……実はさ、沓子ちゃん。今こっちでも吸血鬼がやったなんて騒がれてる事件が起こってるんだよ」

 

〈何じゃ、オカルトが好きなのは海を越えても変わらんのか〉

 

「いや、暢気してる場合か?……と言うか、その情報はどうやって手に入れたんだ。アメリカって結構そういう情報隠す印象があるけど」

 

〈そうじゃの。実際ニュースで死亡者の報道はしても、詳しい状況は一切公開されておらんかった。情報の卸元は、情報通と宣うこっちの友人じゃ。レイモンドという(おのこ)でのぉ〉

 

 ここまで聞き出して、十六夜は『やっぱり』と確信した。

 やはり、雫が留学しなかった事によって回収できなくなるはずだったイベントが、その役を沓子に変えて回収されている。運命の修正力を感じられるだろう。

 

「……あんまりそういう情報は信じるべきじゃなくないか?口伝ってのは情報の精度が疑わしくない?」

 

〈……儂も最初はそう思っとったんじゃがの。その(おのこ)からの情報は信じるに値すると、儂の直感が言っておる。レイモンドも自信満々に話しておるしな。……少し、情報通である事を自慢するような軽薄さは感じられるが〉

 

 十六夜は沓子がレイモンドの情報をどの程度信じているか探ってみれば、沓子は直感的にその情報の確度が高い事を嗅ぎ取っていた。レイモンドを信じているというよりは、自身の直感を信じているという感じだろう。微妙にレイモンド自体はディスっているし。

 

「そうか……。ま、沓子ちゃんがそう思うなら、用心はしておいた方が良いかもな」

 

〈言われずともな。怪奇殺人の犯人にも、自称情報通にも用心しておるよ。ただ、あの情報収集力はなかなかのモノじゃ。仲良くする利はあるじゃろ〉

 

 沓子はレイモンドの情報収集能力だけは評価し、あくまでお友達としてレイモンドと関わっていく方針だった。踏み込むつもりも踏み込まれるつもりもないと。

 

「そうすると良い。……じゃ、そっちはもう遅いだろうし、ここらでお開きと行きましょう」

 

〈毎日電話かけても良いか……。毎日心細ぉてしょうがない……。十六夜殿の顔が見られぬと、心が押し潰されてしまいそうじゃ……〉

 

「そんな軟じゃないって言っとりませんでしたっけ?」

 

〈なんじゃ、つまらん。乙女がか弱い一面を見せておるのじゃぞ。少しくらいときめかんか〉

 

「俺はか弱いより(したた)かな方が好みかなー」

 

〈うむ。では、このままで良いな〉

 

 通話の最後はそんなコントで締める十六夜と沓子だった。

 

 

 

 北山家での夕食が済んだ頃、十六夜は外出しようと服装を整えていた。潮たちには外出する旨を伝える気がない十六夜だが、念のため使用人にはその旨を伝えておいた。

 

 何故こんな夜に十六夜が外出しようとしているのか。簡単だ。吸血鬼を、パラサイト憑依者を捕まえるためだ。

 現状、『吸血鬼』と噂される存在がパラサイト憑依者であり、殺してはいけない存在だと把握しているのは十六夜だけだ。憑依者を殺してもパラサイト本体は死なず、次の憑依者を求めるだけだという危険性を知っているのは、十六夜だけなのだ。原作知識によるモノなのだから然もありなん。

 だから、十六夜は雫が巻き込まれないよう、早期にパラサイトを片付けたかった。かと言って、パラサイト本体を殺す術は持っていないため、捕縛を目標としている。捕縛した憑依者を九重八雲にでも渡せば、後はどうとでもなると考えている。

 

 そうして、十六夜は北山宅の正面扉を潜ろうとした。

 

「貴方?」

 

 そこに現れるのが、雫である。

 

「よぉ、雫。良い子は寝る時間だぜ?」

 

「まだ早い。でも、外に出るには遅いよ?貴方」

 

 その場には彼と雫しかいないので、雫は彼を『貴方』と呼ぶ。

 ただ、そうして親愛を示そうとしているだけではなく、引き留めようとしてそう呼んでいた。

 

「ちょっと夜遊びと洒落こもうかと」

 

「嘘。貴方は嘘吐く時、鼻が少しピクつく」

 

「え?マジで?指摘ありがと。今度その癖直しとくわ」

 

「嘘を吐く癖を直せ」

 

 雫は彼の癖をでっち上げて鎌かけをしたかったのだが、彼は開き直って嘘を隠しはしなかった。ちなみに彼はちゃんとでっち上げであると分かっている。

 

「……何しに行くの?」

 

「ヴァンパイアハンター」

 

「……貴方がそんな危険な事、する必要はないよ」

 

「いいや、あるね。雫を害し得る存在だ。さっさと片付けないと、怖くて夜も眠れない」

 

「だったら、ずっと傍に居てくれるだけで良い。夜も眠れないって言うなら、一緒のベッドで寝れば良い」

 

「前者はともかくとして、後者はさすがに違くない?」

 

「違わない。貴方がずっと傍に居れば、私を害せる存在なんていない」

 

 雫は十六夜の強さを信頼していた。でも、危険な事をしてほしくはなかった。

 いや、それは正確ではない。言葉のままだ。危険な事をしてほしくないのではなく、雫は彼にずっと傍に居てほしいのである。

 だから、彼を引き止めようと必死に言葉を並べている。

 

「そんだけ強いの分かってるんだったら、危険な事しても大丈夫なのも分かってるでしょ」

 

「違う。違うよ、貴方。私は、貴方と―――」

 

 雫は言葉で駄目なら体で引き止めようと、彼の傍に駆け寄る。だが、しがみ付く事は許されない。

 

「許せ、雫」

 

 彼が、雫の額を指でトンと付く。それだけで雫は彼との間に壁を感じ、それ以上歩み寄れなくなった。

 

「……帰ってきてね」

 

「おう。じゃあ、行ってきます」

 

 彼が扉を潜る。雫は、その背を見送る事しかできなかった。

 

 

 

「つっても、今日収穫得れるかは微妙なところだけどなぁ……。レオが襲われたのって今日だっけ?」

 

 十六夜は、巷を騒がせている『吸血鬼』が渋谷で暴れている事は覚えていた。レオが『吸血鬼』に襲われるイベントがあるのも覚えていた。

 しかし、細部が抜けている原作知識だ。レオが襲われる場所・日時までは覚えていなかった。いや、夜だった事は覚えているのだが。

 そのため、十六夜は当てもなく夜の渋谷を歩く。

 

 そうして、運命に出くわす。

 

 奇跡的にも、十六夜はレオの姿を見つけられたのだ。

 『さて、どうやって話しかけたもんかと』悩んでいた彼に、天啓が降りてきた。

 十六夜は携帯端末でレオの番号をコールする。

 

「ん?十六夜から?」

 

 レオの不思議がる声が十六夜の耳まで直に伝わった。不思議そうにしたままレオは携帯端末の応答アイコンをタップする。

 

「十六夜、そっちから連絡も珍しいが。夜中に電話ってどうかしたか?」

 

〈……〉

 

「十六夜?」

 

 返事のない通話にレオは怪訝に再度呼びかけた。十六夜は足音も気配も殺してレオの背後へと至り、こう述べる。

 

「〈私メリーさん。今貴方の後ろにいるの〉」

 

「どわぁ!?」

 

 真後ろにいる声の主(十六夜)から離れるべく、レオは飛び退いた。

 

「十六夜じゃねぇか!脅かすなよ!」

 

「何~?こんなんでビビっちゃってんの~?こんなんでビビってたら、吸血鬼なんかとは戦えんぜ~?」

 

「誰でもビビるだろうが!」

 

 心臓がバックバックいってるからか、十六夜の煽りに対してレオは過剰にかみついている。

 

「というか、何しに来たんだ、お前は!」

 

「そりゃオメェ、夜にやる事なんて決まってんべ。ヴァンパイアハンターだよ」

 

「決まってはいねぇし、そりゃ期間限定だろ!」

 

「まぁまぁ。そう興奮なさんなって」

 

「誰のせいだとッ……!」

 

 さすがに興奮しすぎているのを自覚しているレオだったが、その原因である十六夜に宥められるのはとても癪だった。癪だし、いつもの自分と違う自覚をしているから、自分で興奮を抑えようと呼吸を整える。

 

「……それで、なんで十六夜まで夜の渋谷にいるんだよ。夜遊びっつうなら、雫にチクるぞ」

 

「洒落にならんから止めろ。……さっきも言ったけど、ヴァンパイアハンターだよ。真面目に言うと『吸血鬼事件』の犯人捜し」

 

「十六夜もそうなのか。そういう命令が降りてんのか?」

 

 『雫にチクる』という脅しで十六夜が本気で焦った事に溜飲を下げたレオ。彼は態度を普段通りに戻し、真面目な態度で十六夜に訊ねた。

 レオも十六夜が軍に所属している事は既知である。そのため、十六夜が動くなら軍が動いているのかと錯覚している。

 

「いや、そういうのどころか、横浜事変(あれ)から命令の1つも降りてきてないな。俺って緊急要員みたいなモンだし*2。だから、今回は俺個人で動いてんだよ。万が一にでも雫が襲われたら嫌だしな」

 

「……達也も大概だけどよ、十六夜も大概だよな」

 

「その『大概』って言葉の後の省かれてる言葉言ってみぃ?」

 

「墓まで持ってくぜ」

 

 どうせ『シスコン』とそれに類似する言葉(仮に明記するとしたら『ファミリー・コンプレックス』か)だろうと十六夜は当たりを付けつつ、どうせ当たりは付けられているのだろうとレオは察しつつ、お互い純粋に揶揄い合う。

 

「で、『十六夜()そうなのか』って事は、レオもそうだって事だよな。なして吸血鬼なんぞ探してるん?」

 

「いやぁ、この前この辺りをぶらついてる時にエリカの兄貴、警官やってる方に会ってな。そんで、『吸血鬼事件』の犯人を追ってるって言うから、夜の渋谷には色々と顔が利く俺も協力しようってな」

 

「夜の渋谷に顔が利くとか、中々のやんちゃ坊主だったんですなぁ、レオ君は。もしかして、筆おろしは既に終えてたり?」

 

「……十六夜、お前そういうキャラだっけ?」

 

「いや、普段は女性陣もいるからこんな話できんでしょ。達也と幹比古もこういうノリには付き合ってくれんだろうし」

 

「……俺もあんまりノれねぇぞ」

 

「……ちょっとガッカリ」

 

 この世代の若者は下ネタ厳禁なのかと、ちょっとジェネレーションギャップを感じる十六夜だった。

 

「……顔が利くんだったよな?俺も付いてって良い?」

 

「……ああ、そうだな。ちょっと心細かったし、十六夜が付いてきてくれるのは心強いぜ」

 

 お互い変な空気をさっさと換気するため、話題を変えて話を進める。

 

「心細かったん?」

 

「いや、いつもはそうじゃねぇんだが。今日はざわつくっつうか、こう、耳じゃなくて、意識の奥に声にならない声が響いてるっつうか」

 

「……何かに呼ばれてる感じ?」

 

 レオの発言で、十六夜は気を引き締める。いわゆる、『ビンゴ』だと。

 

「俺が呼ばれてる訳じゃねぇけど、どっから聞こえてくるかは、なんとなく分かる」

 

「……確かめてみないか?」

 

「おうよ。確かめないと、気になって眠れそうになかったんだ」

 

 自分1人なら行く気がなかったレオ。彼は十六夜が一緒にいる事で気を大きくし、十六夜に促されるままに声の発生源を確かめる決心をしてしまった。

 そうして歩き出すレオの後を、十六夜は付いて行く。

 

 歩く事幾ばくか。レオと十六夜は目の前に街灯が薄暗く照らす公園を望んだ。夜中でしかも大分小規模な公園に人気(ひとけ)はない。ないはずなのに、レオも十六夜もベンチで横になる人影を見つけてしまった。

 

「おい、アンタ!大丈夫か!」

 

 レオは人影の安否を確かめるべく駆け出し、十六夜も慌てて追いかける。

 何に慌てていたのか。簡単だ。餌を垂らして待ち構えていた敵の存在に、だ。

 

 ベンチで横になっていた人影、若い女性が衰弱状態にあると判断したレオはその事に気を取られ、敵の接近に気付いていない。そんな、救急車を呼ぶために携帯端末を取り出したレオと、そのレオに殴りかかろうとする存在。十六夜はその間に割って入った。

 

「なっ!?」

 

「っ!」

 

 驚愕するのは、殴りかかろうとする存在に気付いていなかったレオと、殴りかかろうとしたのにそれを反射される下手人である。

 

「……レオさん、どうやら大当たりっぽいぜ?」

 

 十六夜は、攻撃を反射されて飛び退いた下手人を睨む。ロングコートに丸いツバのハット、おまけに()()()覆面。一目見ても分かる不審者であり、十六夜の原作知識にあるUSNA軍脱走兵のパラサイト憑依者と合致していた。

 灰覆面の不審者は反射された凶器、伸縮警棒を少し観察してから、こちらを睨み返す。灰覆面の不審者はどうして警棒が反射されたのか理解し、そうしてきた相手が誰であるか察したのだろう。だからこそ、警戒心を強め、相対している。

 

「大人しくお縄に着け、って言って、従う訳もねぇよな!」

 

 十六夜は言葉の途中で彼我の距離を詰める。加速系で誤魔化した超人の身体能力によるモノだ。

 埒外の加速力で距離を詰めてきた十六夜に、灰覆面の不審者は瞠目する。だが、超人とはいかないまでも、身体能力もパラサイトに強化されている人間だ。顎目掛けて振るわれる十六夜の拳を、紙一重で躱す事ができた。

 灰覆面の不審者は反撃として即座に警棒を振り下ろすが、それも十六夜の『全反射』を突破する事はなく、あえなく反射される。

 

「無駄無駄無駄無駄ァ!物理攻撃は全部効かないぜ!痛い目見たくなかったら、大人しくするんだな!」

 

 十六夜は自身の優位を語りつつ、一応の降伏勧告をする。

 当然と言えば当然だが、灰覆面の不審者は抵抗の意思を示す。物理攻撃が効かないならと、不審者は十六夜に対して直接作用するタイプの魔法を発動しようとしていた。

 しかし、そうして魔法を発動しようとしたための一瞬の硬直を、十六夜は逃さない。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄、無駄ァーーー!」

 

 十六夜は不審者の全身に拳の連打を見舞い、最後にアッパーカット、自身も跳び上がり、受けた相手も跳ね上がる拳を食らわせた。

 パラサイト憑依者は再生能力を持っているため、打撲の痛みで戦意を削ぎ、顎への一撃で意識を刈り取る狙いの連打であった。

 こうして灰覆面の不審者は意識を刈り取られ、その四肢を地面へと投げ出すのだった。

 

「バケモン、ゲットだぜ!なんつってな。……よぉし、吸血鬼捕まえたし、さっさと退き上げようぜ。レオ。……レオ?」

 

 十六夜が声を掛けるも、レオの返事がなかった。それに、違和感を覚えていた。敵との戦闘中、レオは何も言わないし、加勢する素振りも見せなかった。レオなら少なくとも一言何か言いそうなものなのに。

 その違和感を持って振り返れば、答えは分かりやすく提示されている。

 ロングコートに丸いツバのハット、おまけに()()覆面を身に着けている不審者が、レオを組み伏せている光景が、何よりも如実に答えを示してくれている。

 

「レオ!」

 

「……すまねぇ、十六夜。……どうにも抜かったみたいだぜ」

 

 十六夜が大声で呼び掛ければ、やっとレオの返事が聞こえてきた。しかし、その返事は酷くか細く、レオの衰弱が伺える。レオはプシオンを吸われたのだ、白覆面の不審者、パラサイト憑依者に。

 その白覆面の不審者は、拳銃を懐から取り出す。

 

「おっと、不審者さん。レオに向けて撃っても無駄だぜ?俺が即座に反転できるからな」

 

 レオが人質に取られるかもしれないと、それが無駄である事を十六夜は明言した。

 実際、その距離だったら十六夜はレオに弾丸が届く前に反射できる。

 ただ、白覆面の不審者が狙っているのは、レオではなかった。

 

「俺を狙うかい?なおさら無駄だな。俺はその手のモノを常時反射する魔法を―――」

 

 十六夜が言葉を言い切る前に、銃声が鳴る。放たれた弾丸は十六夜、のその先にいた灰覆面の不審者を射抜いた。脳天直撃。パラサイト憑依者の再生能力を以てしても、即死確定コースだ。

 一見すれば、弱い仲間の切り捨てである。だが、そうでない事を十六夜だけは知っていた。

 何故かって?簡単だ。

 憑依者が死ねば、パラサイト本体は解放される。そうして、解放されたパラサイト本体は、次の憑依者を探すだけなのだから。

 

「っ!?ふざけやがって!」

 

 十六夜は即座に離脱を選択する。白覆面の不審者に殴りかかるフリをしてレオから引き離し、そのレオを担いでこの場を離れる。監視カメラ及びセンサーに引っ掛かるのも気にせず、USNA軍に目視されるのも気にせず、超人としての身体能力と加速系魔法を全力で稼働させて。

 しかし、そこまでしても、だ。物質としての移動は、独立情報体としての移動に劣っていた。

 パラサイト本体に追い付かれたのだ。灰覆面の不審者から解放されたパラサイトは、十六夜を次の憑依者として定めていた。

 

「ぐっ、うっ……!」

 

 突如襲ってきた苦痛、まるで脳を押し潰すかのような圧迫感。その苦痛で抱えていたレオを投げ出しそうになっていた十六夜は済んでのところでレオを抱きかかえる。

 しかし、苦痛で膝を地に付けた十六夜は、少し乱暴にレオを地面へ降ろす事となった。

 

「く、そがっ……!」

 

 耐えがたい苦痛が、まるで自身を書き換えてくるかのような悪寒が、十六夜に襲い掛かっている。

 

「ふざ、けんな!こんなところで終われるか!俺は、俺はまだ――」

 

 走馬灯のように、過去の光景が頭を過る。その中には、雫との思い出もたくさんあった。彼女なら自身を愛してくれるかもしれないという期待があった。

 でもやはり、『●●』を突き動かすのは――

 

「――何も償えちゃいないんだ!!」

 

――贖罪の意識だった。

 『●●』の脳裏には、無能で親不孝な前世がこびり付いている。

 

「御大層に乗っ取ろうとしやがって!そんなに『俺』になりてぇなら、お望み通り『俺』にならせてやる!」

 

 自身を乗っ取ってこようとするパラサイト本体、今や『北山十六夜』を書き換えて『北山十六夜』本体になろうとするそれ。『●●』は、起死回生の一手として、それをリライト能力で書き換える。

 

パラサイト(テメェ)は『俺』で!『俺』は『●●』(おれ)だ!!」

 

 閉じた瞼の裏に、十六夜は淡い光を見る。オーロラのような、透き通った、されど朗らかな光の渦を見る。

 ならばこそ、『●●』の勝利で、『北山十六夜』の敗北だ。

 

Liberate. Liberate. Liberate us. Liberate mankind. Liberate from god. Liberate from the saint. Liberate from the hero. Liberate us. That's your role.

 

「ぐ、がぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 パラサイトが溜め込み続けた記録。幾千、幾万の年月捉え続けた幾憶の人のプシオン・精神。今それが十六夜の脳内に奔流となって流れ込む。膨大な高密度な情報は解凍も間に合わず、言葉として翻訳ができない。脳の処理は限界に近く、強制終了間近だった。

 

― ■ 

 

「かが、り……?」

 

 意識が途切れる瞬間、十六夜は聞き覚えのある声を聞いた気がした。

 


 

灰覆面の不審者:本来はUSNA軍に追跡されているパラサイト憑依者だが、USNA軍が付近に十六夜の姿を発見したので、十六夜に捕捉されないために、同時に十六夜の出方を窺うために、USNA軍は一時追跡を中断していた。よって、このパラサイト憑依者はフリーになっていた。

 

 閲覧、感謝します。

 

フォント変更機能の仕様を知っているか、単純に誤字報告をしようとしたか。どちらかは分かりませんが、このネタを見つけていただきありがとうございます。気付けた人のみ気付いてくれれば良いと考えているので、感想を送る際は明確に言及せず、テキトーにフォント変更機能についてご言及ください。ちなみに、幾億を幾憶と誤字しているのは、このネタに気付いてもらうため、わざとやっている事です。ご理解の程をよろしくお願いします。

 

※本文中にフォントが変更されている文章がありますが、雰囲気作りのためのモノです。フォント変更機能の仕様を知っていれば解読は簡単なので、フォントを変更した事に

 特に意味はありません。ご了承ください。

*1
正式名称は『パラノーマル・パラサイト』。妖魔、あるいはサイオン独立情報体(スピリチュアル・ビーイングとも呼ぶ)の一種とされている。人間が生きる次元とは異なる次元である、精神世界の情報体次元に存在すると言われている。プシオンとよばれるモノを常に消費して存在を保っており、人間が生きる次元では人間からプシオンを奪わないと消費する一方である。同時に、人間に憑依しないとプシオンを奪う事ができないのだが、憑依した人間を精神的にも肉体的にも変質させてしまう。

*2
正確に言えば、十六夜は十六夜しか所属していない独立遊撃部隊の隊員である。ただ、交戦許可が降りない限りは、独立遊撃部隊ないし軍人として動く事はできない。彼が軍人と知っているのは国防軍内部でも極僅かであるため、合わせてその許可を出せる人間も極僅かである。なので、ほとんどはその極僅かの一部である第101旅団が許可を出しており、実質的に第101旅団の人員となっている。

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