魔法科高校の編輯人if~枝世界~   作:霖霧露

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27 痛い腹は割れない

 冬期休暇も終わり、魔法科高校は新学期を迎えていた。魔法科高校の1つである第一高も同じく。

 リーナは既に1年A組に留学しており、それと交換となる1年A組の女子生徒も既に送り出されている。

 リーナが留学してきて2日程は見物客が多く、また倶楽部に勧誘しようとする者も多かった。だが、3日目には深雪が世話役となった事を経由して達也一団に迎合したために、見物客に囲まれる事はなくなった。倶楽部勧誘の方も、疑似的に生徒会役員となる事で回避している。

 そうして、リーナ自体が和やかに過ごせるようになったある日である。

 

「こんにちは、サキー*1

 

「ハァイ、リーナ」

 

「……別にステイツのように返さなくて良いわよ?」

 

「あ、そう」

 

 昼休みに入ってすぐに十六夜の下へ訪れたリーナ。十六夜が達也たちと同じクラスだから近くに達也たちもいるのだが、何故だか十六夜にだけ話しかけていた。

 

「さて、ご用件を窺いましょうか?レディ」

 

「……Italian(イタリア人)のようにする必要もないのだけど。……まぁ、それは良いとして。良ければランチを一緒に食べたくて。まだご一緒した事はないじゃない?」

 

 十六夜のボケへのツッコミはそこそこに、リーナは十六夜にお昼のお誘いをしていた。

 そう。リーナが第一高に来てから、十六夜はまだ達也一団で昼食を取っていないのである。雫やほのかは達也一団の方で食べる事もあったが。

 ちなみに、リーナを避けているという訳ではない。単純に高カロリーのゼリー飲料、その買い置きが底をついたためによるモノだ。そのゼリー飲料なしで食堂の食事で腹を満たそうとすると、お金と時間がかなりかかってしまうのである。超人の燃費の悪さゆえに。

 

「おう。じゃあ校庭で食べるから、何か購買部で買って……、いや、買い物に付き合うか。それ行こう、やれ行こう」

 

 特に大食漢を隠す気はないので(九校戦時の会食でメンバーたちにバレて、そこから学校中に広まっているし)、特に断る理由もなく、十六夜はお誘いを受けた。

 ただ、校庭で食べる都合上、弁当持参が必須のため、絶対持参してないだろうリーナのために購買部まで背中を押していくのだった。

 

 

 

Oh(おぉ)…,Japanese zyubako(これが日本の重箱)…!いえ、アメリカン重箱なんてないのだけど……」

 

 校庭の人気(ひとけ)がない一角にて。十六夜と2人きりとなったリーナは、十六夜が昼食として広げた重箱に無駄に感激していた。

 ちなみに、雫やほのかはリーナが危害を加えてくる可能性と秘密をぽろっと零す危険性を考慮し、十六夜の方から同席しないよう願ってある。そのため、十六夜は雫から浮気疑惑をかけられる事となったが。

 

「俺、結構大食いでさぁ。食堂だとお腹いっぱいにするのにたくさん食わなくちゃいけないんだよなぁ。達也たちと食う時は補填としてゼリー飲料を飲んでるんだが、買っておいたのがなくなっちゃってさぁ」

 

「そうだったのね。ちょっと避けられてるのかと思ってたわ」

 

「ああ、まぁ、そう、かもな……」

 

 避けているという訳ではない。少なくとも、そんなつもりは十六夜にはない。でも改めてリーナ本人から指摘されると、十六夜は無意識に彼女を避けていたような気がしてくる。

 

「……ワタシを避けてるの?……それは、どうしてかしら」

 

 踏み込むべきか、リーナは悩んだが、悩んだ末で踏み込んだ。それは、初詣のあの日から、彼に親愛を抱いていたからかもしれない。

 ただ、だとしても踏み込むべきではなかったかもしれない。

 

「……よし。面倒だからぶちまけよう」

 

 正直、十六夜はUSNA軍に所属しているリーナとどう関われば良いか分からず、それで無意識に避けていたのだ。その事を自覚した十六夜は、これ以上悩むのが面倒になった。

 だから、一旦箸をおき、仮面を剥がす。

 

「USNA、これは警告だ。間違っても北山家には手を出すな」

 

「っ!?」

 

 仮面を剥いだ奥にある十六夜の、彼の本性を覗かせる。贖罪に囚われた哀れな男の本性を。その変貌にはリーナも息を呑み、恐怖を覚えた。今までその本性を隠して騙していたのかと。

 

「俺は契約に基づき、軍から出動を要請される事もある身だ。だが、俺は率先して国防に関わる気はない。北山家を、雫を守る事さえできれば、最悪この国がどうなろうが、俺の知った事ではないからだ。だが、北山家を守るために、契約には従わなければならない」

 

 十六夜は自らの素性を、表層の部分だけでも語っていく。自身が何処に忠義を尽くしているかを明かしていく。

 

「お前たちが北山家を害そうとしない限り、俺個人がお前たちを敵と認識する事はない。お前たちが日本を害そうとしない限り、軍人としてお前たちと敵対する事もない」

 

 明確に線を引く。個人として敵となる線と、軍人として敵となる線。その線を超えなければ、北山十六夜はUSNAの敵になる事はないと。

 

「お前たちが俺の敵にならない事を、俺自身祈っているよ」

 

 語るべき事、明かすべき事は以上であると、十六夜は置いていた箸をまた手に取る。

 

「……リーナ、手が止まってるけど弁当食わんの?」

 

「……、ええぇ……?」

 

 仮面を被り直すように態度を一変させる十六夜。その変わり身の早さに、リーナは思わず微妙な表情を浮かべてしまう。

 

「そ、その……。どっちが本性……?」

 

「いや、どう考えても凄んでた方やろ」

 

 一周回って変な質問したリーナに、分かり切った答えを返す十六夜。『自分でやっておいてなんだが、最初に口にする疑問がそれか?』と、十六夜の方も微妙な顔になる。

 

「いえ、あの、Multiple personalities(多重人格)かと思って……」

 

「……まぁ、そう捉えられてもおかしくないとは思うが。……君が敵にならない限りはお友達でいるし、もし仮に敵になっても学校ではこんな風にお友達みたいに接するって話な?」

 

「……私の素性は、分かってるの?」

 

「戦闘専門か新入か知らんけど、潜入は向いてないから仕事変えてもらいな?」

 

「もう進言したわよ!進言してもなおここにいるの!」

 

 十六夜はさりげなくはぐらかしつつリーナに助言する。だが、リーナにとっては余計なお世話だったらしく、彼女の怒りを買ってしまった。

 

「じゃあ、まぁ、あれだ。何にせよ降って湧いた学生生活だ。短い間だけかもしれんが、楽しまなきゃ勿体ないぞ?」

 

「……ねぇ。警告するか助言するか、どっちかにしてもらえる?」

 

「ムリダナ(・×・)」

 

「……そう」

 

 不思議なやり取りで、昼休みの時間は過ぎていく。

 こうして、十六夜はリーナに苦手意識を植え付ける事に成功するのだった。狙っての事ではないが。

 

 

 

 時は放課後。まだ授業が終わったばかりで、生徒がそれぞれの予定に動き出している頃。十六夜はまた校庭の人気(ひとけ)がない一角にいて、今度は達也と一緒である。

 

「どうしたん?達也。こんな所まで連れて来て」

 

「訊きたい事がある」

 

 そう。この場所には達也に連れて来られる形で、十六夜は達也と一緒にいる。

 達也には、その日のうちに訊きたい事があったのだ。十六夜が昼にリーナと2人きりになった、その日のうちに。

 

「リーナと何を話した」

 

「北山に手を出さなければ敵にならないって事と、軍に呼ばれなきゃ戦うつもりはないって事」

 

「……は?」

 

 達也は思わず呆けた。十六夜がそこまで秘密を明かしているとは、思ってもみなかったのである。

 

「……お前、リーナが何者か分かってるのか?」

 

「USNA軍の戦闘員だろ?身のこなしが軍人のそれだったし、でも色々とボロ出してるから潜入捜査官ではねぇなって」

 

「……そこまで分かっていて、何故そこまで明かした」

 

「いや、嗅ぎ回れんの面倒だし、最悪雫に手を出されかねないし。だったらもう全部話しちゃった方が早ないかと。あ、さすがに『スカイ・フォール』行使者とは明言してないぜ?」

 

「……明言してるようなものじゃないか?」

 

「明言せんでもバレとるやろ。九校戦で俺の加速系が異常なのは見せちゃってるし」

 

「…………」

 

 達也は十六夜の話を聞いていて、頭が痛くなってきた。

 それは確かに、九校戦での映像と『スカイ・フォール』の光景は、どちらも異常な加速系魔法によるモノだから結び付けやすいだろう。ならば、十六夜が『スカイ・フォール』の第一容疑者となるのは当然の話だ。

 頭が痛いのは、そうして『スカイ・フォール』、戦略級魔法師としてほぼ確定されているのに、あっけらかんとしている十六夜の態度である。何故こうも余裕そうなのかと、達也は頭が痛くてしょうがない。

 

「……お前が線引きをしたとしても、相手は構わず踏み越えるかもしれんぞ」

 

「そんときゃそんときですよ。二度とそんな馬鹿をやらないように、容赦なく報復させてもらうさ。『四葉』が『アンタッチャブル』と呼ばれるようになったのを倣って、な」

 

「……」

 

 ここで『四葉』の名を出してきた事に対して、達也は十六夜を睨んだ。目の前に『四葉』がいるこの状況でその名を出すという事を、十六夜が狙ってやってきている。そういう疑いを持ったからだ。

 だが、達也はすぐに眉間を揉んで疑う事を止めた。

 何故なら、十六夜は領分と言うか、分と言うか、達也の線引きを弁えて踏み込んでいないからだ。仮に、十六夜が達也の素性、達也が『四葉』であると勘付いていても、十六夜はきっと他言しないし追求しない。達也自身、そういう不思議な信頼を十六夜にしているのだ。

 

「そっちはどう?お前も色々と探られてるだろ?」

 

「……そっちは追及するんだな」

 

「何の話?」

 

「……いや。……確かにこちらも探られているな」

 

 『マテリアル・バースト』については追及するのかとツッコミたい達也だったが、それは自身が『四葉』である事も『マテリアル・バースト』行使者である事も露呈させてしまうだろうと口を噤み、話題を戻した。一応、十六夜はそうとは追及している訳でもないのだし。

 

「しかし、お前の方が有力なのだろう。一度試されはした*2が、それ以降は特に何もない」

 

「えー?『スカイ・フォール』と『アビス』の方は引き受けるけどさぁ、『グレート・ボム』の方はそっちで引き受けてくれよぉ」

 

「お前が2つも使ったせいだ」

 

「『グレート・ボム』は2回も使われたやん」

 

「……」

 

「……」

 

「止めよっか、この話」

 

「そうだな」

 

 お互い思うところがあると言うか、痛い腹があったし、罪の擦り付け合いじみた非生産性を感じたしで、どちらともなくこの話題を打ち切った。

 

「俺はリーナがUSNA軍の精鋭戦闘員であると睨んでいるが。どうして潜入捜査官ではなく、戦闘員が送り込まれたと思う?」

 

 達也は別の話題として、リーナが留学してきた理由について、十六夜の思考力を頼った。九校戦の時、妨害してきていた『ノー・ヘッド・ドラゴン』の狙いを当てていた事から、その思考力は買ったままである。

 

「考えられる可能性は、2つくらいかな。容疑者が戦略級魔法師と確定した瞬間に殺すためか、もしくはそれとはまったく別の任務で来ているか。後者の場合は、もしかしたら脱走兵が日本に密入国してたりするかもな。後、強いて言うなら、前者・後者両方ってのもあるかもしれん」

 

 そうして十六夜もそういうキャラを求められるまま、原作知識を用いてそういうキャラを演じた。

 

「そうか、参考にしよう」

 

「おう。戦闘員に直接狙われるか、脱走兵が暴れて巻き込まれるか。どっちもあり得るから用心はしとけ?『備えあれば嬉しいな』、てな」

 

「……ああ。お前も『憂いなし』とできるよう、備えておけよ」

 

「あいよ」

 

 互いが互いに注意を一応促した。

 それだけに留め、互いが互いに『まぁ、何かあってもこいつなら勝手にどうにかするだろう』という雑な信頼を抱き、別れるのだった。

*1
リーナが十六夜に付けた愛称。『十六夜』をテキトーな翻訳サイトで英訳したら『Sachi』と訳されたため、そう呼んでいる。

*2
原作と同様。リーナが風紀員活動の見学を願った際に達也が引率者となった。それに乗じてリーナに腕試しをされている。


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