魔法科高校の編輯人if~枝世界~   作:霖霧露

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※ちょっと短めですが、切りの良いところで切らせていただきました。


11 幼馴染=負けヒロイン理論

 時は懇親会終了後。少年少女が寝るにはまだ元気が余っている時間。

 

「皆、温泉に行くよ!」

 

 そんな誘いを、エイミィが友人たちにかけたのだった。もちろん、雫とほのか、深雪まで誘われた。そうして、自身たちが現在宿舎として貸与されている国防軍の設備に付属している人工の温泉で、皆その身を清める。

 

「ドリンクバーのバーテンさん、素敵な小父様だったわー」

 

一条(いちじょう)君かっこいいよね」

 

 その入浴中にされる談笑が、修学旅行の夜が如き、コイバナのようなそれだった。時代が変わろうと、少女たちの興味関心は変わらないのかもしれない。

 

「深雪さんの好みってどんな人?やっぱり、お兄様みたいな人がタイプかい?」

 

「私とお兄様は実の兄妹(きょうだい)よ?敬愛はしているけど、禁断の恋をするつもりはないわ。それに、お兄様みたいな人が他にいるなんて、私には考えられないの」

 

 エイミィの友人、里見(さとみ)スバルがコイバナの延長で深雪に話を振った訳だが、深雪は達也に恋愛感情を持っていないと断言した。本音はともかくとして。スバルはその返答にやや芝居じみた落胆をする。

 

「そういえば、雫の方は?雫は十六夜君の事好きなの?」

 

 まだコイバナに飽きていないエイミィは、雫の方へと話題を振った。今度は雫とその近しい友人である十六夜の恋愛模様について、だ。

 エイミィ以外の少女たちも、普段からよく一緒にいる雫と十六夜の間柄に興味を示し、耳を傾ける。

 

「好きだよ?もちろん、異性として」

 

「わお!」

 

「ヒューヒュー!」

 

 雫の中に恋愛感情がある事実の発覚に、少女たちは茶々を入れる。

 

「告白は済ませているのかい?それとも、実はもう付き合っていたり?」

 

「どっちもNO。まだ告白もしてないし、まだする気もない」

 

「え?それは、今の関係を壊したくないっていう、あの甘酸っぱいやつかい?」

 

「違う。多分、告白すればOKは貰える。でも、十六夜は私の事、異性として見てない」

 

 スバルは甘酸っぱい恋物語を期待して雫に詮索していたのだが、雫の返答で、どうにも話の流れがおかしくなる。

 雰囲気が、ラブロマンスからシリアスへと、変わっていく。

 

「え?異性として見てないのに、交際してくれるって事?」

 

「うん。十六夜は、私の言う事全部聞くから」

 

「……この前、雫の事を『マイ・プリンシパル』って呼んでたのと関係してる?」

 

「関係してる。十六夜は、私を報いるべき対象として見てる。だから、私の身を守ってくれるし、私の望みは全て叶えようとする」

 

「それまたなんで」

 

「……十六夜は、(うち)に引き取られた孤児だから。その恩返しをしようとしてる」

 

「十六夜君、孤児だったんだ……」

 

 エイミィが堀り下げれば掘り下げる程、雫の口から語られる十六夜の真実。何人かがコイバナを求めて安易につついた自身らの行いを浅慮に感じ、気まずく口を閉ざしている。

 

「ど、どうしてそんな彼を雫は好きになったんだい?」

 

 気まずいままでは引き下がれないと、スバルは話題を十六夜の真実から雫の恋のきっかけに逸らす。

 

「……十六夜に、救われたの。沖縄海戦で、大亜連の兵士に襲われた時に」

 

「えっ、雫ってあの時あの場にいたのかい!?」

 

「うん。家族旅行で沖縄、慶良間諸島を観光してた。開戦地点とかなり近いところに宿泊してたから、敵の侵攻も早くて逃げ遅れたの。国防軍が救助に来てくれたけど、敵がすぐ傍まで来てて、それで、私は置き去りにされた」

 

「お、置き去りに……?」

 

 またシリアスを引き出してしまったと、スバルは苦い顔をする。

 

「そう。敵に囲まれかけてたから、私の救助まで手を伸ばしたら、民間人の犠牲者が増える。そんな状況だった。だから、私は国防軍を恨まなかった。ただ、『ああ、私は死ぬんだ』って、すんなり死を悟ったの」

 

「……」

 

 雫の語りが経験に基づく戦場の話であるがため、戦場の現実が、その無常さが皆へ確かに伝わっていく。スバルを始め、少女たちがまた口を閉ざした。

 

「敵に銃器を突き付けられて、恐怖とか諦めで、何の抵抗もせずに撃たれるのを待ってた。そんなところに、十六夜が駆け付けたの」

 

「な、なるほど!十六夜君は雫のピンチに駆け付けたヒーローだったのか!」

 

 これ見よがしに、スバルは話題の明るい部分だけを抽出しにかかる。

 

「……うん。十六夜は、私のヒーロー。私が今こうしていられるのは、十六夜のおかげ」

 

 温泉に浸かって温まっているが故に朱が差す頬を、雫はさらに赤くした。自身のヒーローとしか形容できないのだが、そう口にするのはさすがに恥ずかしかったのだ。

 

「雫。貴女の恋愛、私は純粋に応援するわ」

 

 雫が自身の命の恩人に恋をしていると知った深雪は、そう素直に応援する事を宣言した。その雫の姿が、兄へ恋する事ができるifの自分に見えたのだ。そんなifの自分である雫には、絶対にその恋を叶えてほしい。自身がどうしても叶わない代わりに。

 後に達也と婚約する事を当然知るはずもない深雪は、そう思っていた。

 

「私も応援するー!」

 

「私も私もー」

 

 甘酸っぱいコイバナに路線が戻ってきたので、少女たちは脳を恋愛色に染め上げていく。

 

「じゃあ、みんなで作戦を考えよー!十六夜君と雫がくっつくには、具体的にどうしたら良い?」

 

「異性として意識させるところから始めるべきじゃないかな?」

 

「手を繋いだり、パジャマ姿を見せたりはもうやった。混浴と同衾は断固拒否されたので、それ以外で」

 

「……え?……そこまでやろうとしたのかい?」

 

 雫の恋愛成就を応援するため、皆で作戦を練ろうと恋愛脳で暢気に考え出した少女たち。予想以上に雫がもう攻めていた現状にはビビった。

 

「後、十六夜が家に居候する形で同棲してるから、それも前提で」

 

「……距離が近すぎて姉弟(きょうだい)ないし幼馴染感覚なのかもしれないな」

 

「幼馴染が負けヒロインみたいに言うなー!」

 

「幼馴染負けヒロイン理論にハンターイ!」

 

 頭ピンクになり過ぎて変な野次紛いまで飛び交い始めた少女たちの恋愛作戦会議。

 

「待つんだ諸君!男性は最終的に女性へ安心感を求めるという統計データが何処かにあったはず!ここは幼馴染の安定感を押し出していくというのはどうだろう!?」

 

「はい、書記長!安定感も大事ですが、やはり異性アピールを第一にすべきかと思われます!ここは、パジャマを過激なモノにするというのは如何でしょうか!」

 

「うん、採用!」

 

「実行者私なんだけど」

 

 頭ピンクに、長風呂による逆上(のぼ)せ気味なのも相まって、少女たちの会議は変な方向へ進んでいく。その会議の中心人物であるはずの雫を置いてけぼりにして。

 結局、ただ暴走する少女たちの会議を雫は聞き流し続け、少女たちが完全に逆上せてダウンするまで見守るのだった。


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