〈全校生徒の皆さん!僕たちは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です!〉
ある日、放課後。そんな放送が急に第一校内に響き渡った。有志同盟なる不特定多数が放送室をジャックしたという事で、風紀委員に生徒会、果ては部活連まで出動する騒動になった。
だが、一般生徒は蚊帳の外。生徒会でも部活連でも風紀委員でもない一般生徒枠である十六夜ももちろん蚊帳の外。この原作イベントにガンスルーを決め込んだ。雫が巻き込まれる訳ではないので、十六夜には介入する動機がないのだ。
そんなこんなで結局原作同様に事態は収束ないし終息し、有志同盟と生徒会長・七草真由美が学内の差別について話し合う、公開討論会が約束されるのだった。
そうして公開討論会当日。
「部長、ちょっと
「雉撃ち?」
「
「雪隠?」
「お手洗いっす」
「……最初からそう言え」
十六夜は起動式プログラミング部の部活中、部長*1に嘘の理由で退出の許可をもらい、屋上へと駆けあがった。
何故部活を抜け出したのか。単純だ。原作において、今日はテロリストが学内に侵入する日だからだ。万が一にでも雫が傷を負わないよう、見守りたいのである。
そして案の定、実験棟から煙が上がるというテロリスト侵入の狼煙が上がり、十六夜はバイアスロン部が活動する方へ、雫の下へ、テロリストの一部が向かっていくのを視認した。
携帯端末に第一高が武装テロリストに襲われているという一報を受けつつ、それを一瞥して屋上から飛び降りる。
「きゃあああ!」
場面は丁度、ナイフを構えたテロリストの突撃に、バイアスロン部所属の女子生徒が叫んでいる所だった。
「ヒュルルルーー、ズドーーンってな」
そのテロリストの頭に向かって、十六夜が落下する。ちゃんと落下の力は力の向きの転換により分散させ、抑えていた。そのため十六夜が怪我をするどころか、テロリストを殺す事もない。まぁ、不意に後頭部からの一撃を貰ったテロリストは気絶したが。
「無事か?雫にほのかさん」
「は、はい!無事です!」
「無事だけど。いつも窮地の時に現れるから、十六夜がストーカーなんじゃないかと思えてきた」
「地味どころじゃない程酷くなぁい?雫ぅ。俺はこんなにも君のために奔走してるっていうのに」
「冗談」
「俺も冗談なのでオッケーです」
ほのかの安否確認、それと雫との謎のコントをし、十六夜は雫たちの無事を確かめた。
「ほら、さっさと避難避難。避難場所、既に学校から指定されてるぞ」
雫とほのか、そしてバイアスロン部の部員たちへ、十六夜は避難を促す。
そうして十六夜は、この武装テロリストの襲撃もほぼスルーした。
雫を二度も危険な目に遭わせた事の報復として、スルーする気だった武装テロリストたち『ブランシュ』の本拠地襲撃に参加する事を企てながら。
「いやー、風紀委員長に一度だけ実力見せといて良かったぜー」
企ててたのだが何か策を巡らす必要もなく、十六夜は『ブランシュ』日本支部の本拠地を目指す車(装甲車)に乗り合わせていた。
なんと、達也が敵を全力で叩くと三巨頭*2へ宣言する場に居合わせ、自身も襲撃へ参加する事を表明したら、こうして難なく混ざれたという経緯である。ちなみに、居合わせた事については偶然を装っていた。達也は狙ってやっただろうと見抜いているが、十六夜の参加に否は唱えなかった。最初に十六夜参加への太鼓判を押したのこそ摩利だったが、達也も十六夜の実力は知っているため、十六夜を襲撃の頭数に入れたのである。
「やっぱりな、切り札ってのはな、ここぞってとこで切ってこそだよな」
などと上機嫌に語る十六夜に、達也含め数名が苦笑するのだった。克人は注意深く観察していたが。
「さてさて。会頭に実力を疑われておりますので、いっちょ実力を見せますかねぇ」
敵本拠地をその目に臨んだところで、十六夜は窓から身を乗り出す。何をするかと言うと、敵本拠地の固そうな門目掛け、コインを投擲したのだ。
もちろん、コインで門自体をぶち破るのは、さすがの十六夜も不可能だ。だから門の開閉部、ヒンジをピンポイントにぶち抜く。堅牢そうだった門も柱との接続部を失い、呆気なく倒れた。
「……加速系魔法か」
「正解です、会頭。BS魔法師なもんで、加速系だけは得意なんですよ。ま、それ以外の魔法がダメダメなんで、二科生なんですけどね」
克人の推測に十六夜は丸を付けつつ、何故自身が二科生に甘んじているのかについても捕捉しておく。
「……なるほど、BS魔法師か。……俺自身、くだらぬ偏見に囚われていたようだな」
克人は何か知見を得たような、目から鱗でも落としたような、そんな呟きを零していた。本当に小さな呟きだったのと走行中の車に吹き込む風の音もあって、十六夜と達也くらいしかその呟きを耳に拾う事はできなかった。
そして、十六夜も達也も今詮索する事ではないだろうと、克人の呟きを流す。それより優先すべき事が目の前にある。
「レオとエリカは正門前で退路の確保。十文字会頭と桐原先輩は裏口に回ってください。俺と深雪、十六夜は正面から行きます」
さっそく優先すべき事を片付けようと、達也が人員をそれぞれ配置する。意外にも、十六夜は達也たちと同じ配置となった。
皆に異論はなく、迅速に実行される。
十六夜は、達也と深雪に続き、正面から乗り込む。
予想以上に守りが手薄で、3人はどんどんと奥へ進む。1人も襲ってこないのは何故なのかと、達也は少し怪しんでいた。その答えは、図らずもすぐに知る事となる。
「よく来たね。ようこそ、司波達也君。待っていたよ」
そう。今回の黒幕、反魔法政治結社『ブランシュ』日本支部リーダー、司
彼は達也の魔法を無効化する技術に目を付けていた。と言っても、彼が確認したのは疑似キャスト・ジャミングで、『グラム・デモリッション』も、まして『
彼は魔法排斥の道具として達也を欲した。自身なら達也を操り人形にできると自負していた。ただ、魔法を1つ無効化できる程度の若輩と見誤って。
「さぁ、司波達也。我々の同志になれ!」
だから、催眠効果のある光信号を投射するというただの光波振動系魔法が通用すると思った。その魔法が、起動式の時点で撃ち破られるとも知らずに。
結果は、言うまでもない。原作通り自身の切り札が効かない事に狼狽えた一は、まだただの魔法師と勘違いしたまま、部下に指示を出す。
「何をしている、お前ら!生け捕りは止めだ!撃て、撃てーっ!」
一の背後に控えていた部下たちが、小銃を構える。
本来だったら、撃たれる前に達也が銃を『分解』する。しかし、そうはならなかった。
「深雪、十六夜の後ろに」
「……え?」
「はい、お兄様!」
「えええええええ!!??」
何故か、達也と深雪が十六夜を盾にしたのだ。原作と違う流れに、十六夜は驚愕し、銃撃への対処が間に合わない。
よって、十六夜が常時発動している魔法が作用する。
その魔法とはいつだか明記した通り、害となる物を全て反射する魔法だ。
銃弾はその全てが綺麗に反射され、撃ってきた相手へこれまた綺麗に返っていく。幸運だったのが、反射角の都合で誰も急所に反射されなかった事か。まぁ、不幸な事は、セミオートでの射撃で撃ったために、1人3~5つずつ返ってきた事だろう。
銃撃した全員、足か腕に複数の銃弾を受ける事となった。
「い、いったい何がどうして……」
「マジでいったい何がどうして!?」
一と同様、十六夜も混乱していた。一は銃弾がなんの兆候なく反射された事についてであり、十六夜は達也たちが自身を盾にした事についてだったが。
「お前が常時展開している魔法、どうにも紫外線だけを対象にするモノにしては魔法式が長い気がしていた。だから、他の物も反射できるのだろうと、な」
「『と、な』じゃねぇよ!銃撃反射できなかったらどうするつもりだ!」
「その時はその時だ」
「その時は俺が銃撃を受けている時なんですが!?」
達也に抗議する十六夜。達也の言う『その時』が『再成』を使う事を指しているのだろうと原作知識から察しつつも、これは抗議せずにはいられなかった。
自身に銃どころか物理攻撃のほとんどが効かないと言っても、突如銃弾の雨に曝されるのは心臓に悪く、寿命が縮む思いをする。もし本当に寿命が縮んでいたら、寿命を使うリライターにとって死活問題だ。
最終的に生き返るのだからと言って、やって良い事と悪い事がある。寿命までは『再成』できないだろうし。
「くっ」
「む。十六夜の抗議を聞いている隙に逃げられたか」
「ねぇ、さりげなく俺のせいみたいに言うの止めない!?」
一に逃げられたり、達也と十六夜でコントしたりと、ちょっとした原作乖離が起こった。当然、この程度で原作ブレイクするはずもなく、深雪が敵を氷漬けにするイベントが省かれるくらいで、後は原作通りだった。
結果、行き止まりに追い詰めた達也たちと壁をぶち抜いて現れた克人たち*3で一を挿みうちにし、あえなく捕縛。
こうして、『ブランシュ』日本支部は壊滅するのだった。