魔法科高校の編輯人if~枝世界~   作:霖霧露

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05 宣伝

 深雪が生徒会役員になったり、達也が風紀委員になったりと、原作通りの道筋を辿る日々。

 そしてその日々が、とあるお祭り騒ぎに突入する。新入部員勧誘週間という、お祭り騒ぎに。

 ただ、十六夜がそのお祭り騒ぎの渦中に巻き込まれる事はないだろう。

 

(新たな部員を巡ってそこらじゅうで喧嘩になったり、新入生は勧誘の嵐でもみくちゃになったりするんだろうけど。正直、二科生の俺はちょっと蚊帳の外だよな。雫とほのかには申し訳ない気がするが、二科生で良かったぜ)

 

 十六夜が自身の劣等生ステータスを幸福に感じている通り、勧誘でもみくちゃにされるのは魔法資質の優れた一科生の方。特に、魔法競技のクラブは挙って一科生に集る。

 仮に、二科生が集られるとなったら非魔法競技のクラブで、運動神経が優れた相手に限定されるだろう。

 しかし、運動神経が優れているかどうかなんて、中学時点で何か形ある賞をもらってなければ判別も付かない。

 そして、十六夜は超人であるが故に運動万能どころではないが、スポーツクラブで活躍どころか所属した事もない。よって、十六夜がクラブに引っ張りだことなる可能性は万に1つもない。

 

 十六夜は何の心配もなく、エリカやレオ、美月とどのクラブに入るかで談笑していた。ちなみに、達也は風紀委員に専念するという事で、この談笑では時折茶々を入れるだけだった。

 

 

 

 時間は進み、放課後、お祭り騒ぎの幕開けへ。エリカたちは自身が希望するクラブへと足を向ける。

 明記する必要はないかもしれないが、エリカはテニス部、レオは山岳部、美月は美術部へ、である。

 では、十六夜は何処のクラブを希望するのか。

 

(『起動式プログラミング部』、実在していたのか……!)

 

 魔工技師として少しでも早く成長したい十六夜はCADのハードウェアかソフトウェアかに関連しそうな活動をしているクラブを探し、目的に沿ったクラブ、原作及びスピンオフには影も形もないそれを見事に見つけ出した。

 そのクラブの活動概要は、既存起動式のアレンジ、オリジナル起動式の創作、そして起動式構築プログラミングソフトウェアの創作である。

 どの活動も魔工技師職のソフトウェア面に活かせそうなモノであるため、十六夜は少しばかりの見学の後、入部希望届けを提出した。

 が、提出し終えてすぐ、十六夜はそのクラブを後にする。

 

(本当はもう少し見学してたかったが、雫とほのかは絶対にもみくちゃにされてるだろうしなぁ……)

 

 そう。クラブ勧誘でもみくちゃにされているだろう雫、ついでにほのかの様子を見るためである。最悪、彼女らを助け出さなければいけないだろうから、十六夜は自身の予定を切り上げざるを得なかった。

 

(さてさて、何処にいるかな。まぁ、助けが必要ってなった時は雫がブザーを鳴らすだろうが)

 

 十六夜は校舎の屋上に上がり、校庭を見下ろす。校舎出入り口から校門までの通路はまさしくお祭り騒ぎの大渋滞で、人1人見つけるのは困難を極めるだろう。

 ただ、見つけ出せなくても雫と取り決めた緊急時のサインがあるので、見つけ出せなくても大丈夫だと、十六夜は楽に構えていた。

 その時、独特な高い音、ホイッスルに類似したそれが響く。それは、取り決めである緊急時のサインだ。

 

(ま、マジか……。やっぱり危ない目に合ってるか……。何処だ、……て、あれ、完全に攫われてるじゃないか)

 

 十六夜が音のした方へ目をやれば、そう苦労なく雫、ついでにほのかを見つけ出せた。

 何故なら、スケートボードに乗った女子生徒と思しき2人に担がれ、絶賛攫われていたからだ。スケートボードが目立つと言うのもあるし、人攫いが人混みから離れて行っているおかげでもあるだろう。

 

「さてと。じゃあ、お姫様を助けに、行きますかね!」

 

 そうして雫たちを助けるべく、十六夜は手すりを乗り越え、屋上から飛び降りたのだった。

 

◇◆◇

 

 少し時間をさかのぼる。時間は、十六夜が起動式プログラミング部に入部届けを出した辺りだ。

 この時間、雫とほのかは生徒会に向かう深雪を見送ってからクラブ見学に乗り出したのだが、十六夜が予想していた通り、もみくちゃにされた。

 大岡裁きもかくやと、雫とほのかは多人数に引っ張られる。そこを掻っ攫っていったのが、人混みにスケートボードで突っ込んで、皆を無理矢理回避に専念させた、後の人攫い2人組。スケートボード&スノーボード・バイアスロンブ部のOG、萬屋(よろずや)颯季(さつき)風祭(かざまつり)涼歌(すずか)である。

 メタい話、このキャラたちとこのイベントは『魔法科高校の劣等生』スピンオフ、『魔法科高校の優等生』のものだ。詳しい顛末はそちらを購読してくれ*1

 

 閑話休題。

 ともかく、OG2人に担がれ、攫われる雫とほのか。OGの暴挙を許すまいと、風紀委員の威信も掛けて摩利が追えば、自然とカーチェイスならぬスケボーチェイスとなる。OGも摩利も魔法を使ってのスケボーチェイスであるから、傍から見ればなかなか面白い戦いに映るだろう。担がれている側は堪ったものじゃないだろうが。

 

「止めて止めて、降ろしてーっ!無理無理もう無理―っ!」

 

 実際、担がれているほのかは揺られに揺られ、三半規管が揺さぶられ、そろそろ限界だ。乙女的には絶対嘔吐なんてしたくないので、ほのかは必死に解放を願っている。

 

(ほのかが駄目そうだけど、風紀委員長(渡辺先輩)を振り切れない限り、この人たちが降ろしてくれるとは思えない。……仕方ない)

 

 雫は担がれながらもこのスケボーチェイスを楽しんでいたが、親友の悲鳴を聞いてこのままとはいかなくなった。

 だから、あまり使いたくなかった手を使う。

 単純に、十六夜へ緊急時のサインを送るのだ。そのサインは、音波振動系による音。緊急時に使うよう取り決めてあるその魔法の発動は、簡単操作のショートカットが設定されている。

 ゆえに、担がれている体勢での腕輪形CAD操作であっても、問題なく発動できた。

 

「ん?音を鳴らすだけの魔法?」

 

「十六夜さん、早く助けてー!」

 

 OGたちはその魔法が緊急時のサインと知らず呆けるが、ほのかは知っているので情けなくてもすぐに救援を求める。

 

「て、事だけど。俺はどうすれば良い?そっちは楽しんでるみたいだけど、両方助ける?」

 

 OGたち、そしてほのかたちの頭上で、男の声がした。スケートボード走行中で、頭上なんて快晴の空しかないのに、である。

 

「ほのかだけ助けて」

 

「了解、マイ・プリンシパル*2

 

 OGたちが状況を把握するより早く、雫から指示を出され、十六夜が実行する。

 声の主を確認すべく頭上を見上げた萬屋の視界は、十六夜の手のひらによって覆われた。そしてその手が彼女の顔面を掴んだ瞬間、彼女は身動き一つできなくなり、地面へ仰向けに抑え込まれる。その過程で担いでいたほのかを放してしまったのだが、ほのかが地面に打ち付けられる事はない。

 ほのかは、空中に浮いていた。

 何が起こったのか、萬屋には分からない。ただ、自分を抑えつけている者を視認する。

 

「やぁ、お嬢さん。オイタが過ぎたね」

 

「何が、どうなって……」

 

 萬屋はいまだに指一本とて動かせない。彼女のベクトルは今、全て十六夜に掌握されているのだ。十六夜に触れられている限り、彼女が物理で拘束から抜け出す事は不可能である。魔法なら可能だが、この不可解な状況に混乱している以上、彼女には思い至れない。

 

「颯季!」

 

 相棒が捕まったとなれば自身だけ逃げる訳にもいかず、風祭は立ち止まった。

 

「はいはい、動かないでねぇ。動くと、こっちの子の安全は保障しないよ?なんてね」

 

「くっ、颯季を離して!」

 

「……これもうどっちが悪役だか分かんねぇな」

 

 女の子を人攫いから解放しようと動いたのに、その人攫いから人攫いの相方を離せと言われる始末。十六夜は思わず頭を抱えてしまう。

 

「萬屋、風祭、これはいったいどういう、……!君はあの時の、確か、北山十六夜か!」

 

「遅いですよ、風紀委員長。ちゃっちゃと誘拐の現行犯をふんじばってください。そっちも、素直にお縄に着いてくださいよ。クラブ勧誘って事でしたら、もう大成功でしょうから」

 

「……分かったわ。颯季の命には代えられない」

 

「あの脅しは『なんてね』ってちゃんと冗談めかしたでしょう?」

 

 取り締まり役の摩利が来た事で、ようやく風祭はこれ以上の強引なクラブ勧誘を諦める。

 今さらが、風祭と萬屋はSSボード*3・バイアスロン部のクラブ勧誘をしていたのである。人攫いじみた強引な方法ではあったが。

 とかく、風祭は雫を解放し、それに合わせて十六夜も萬屋を解放する。そのまま2人とも大人しく、摩利に拘束された。拘束と言っても、両手の指を結束バンドで束ねただけである。それだけで充分に両手の自由を奪えるが。

 

「捕縛の協力には感謝するが、こいつらをどうやって捕まえたんだ?こいつら、在学中でも有名なSSボード・バイアスロン選手だったんだが」

 

「卒業生だったんですか、その人ら……。まぁ、俺って実はBS魔法師でして。加速系だけは誰にも負けない自信があるんですよ」

 

 摩利に問われ、あっさりBS魔法師である事を明かす十六夜。実のところ、彼はその事を隠すつもりがない。前世については死んでも隠す腹積もりだが、大亜連の少年兵にして脱走兵であった事まではバレても良いと考えている。『四葉十六夜』よりは多少口が緩いと言えるだろう。

 

「確かに、君の魔法は驚いた。こっちの身動き完全に封じてくるのとか。あれも加速系って事?今からでも遅くないからSSボード・バイアスロン部に入らない?」

 

 十六夜による拘束が解かれた事で混乱を脱した萬屋。彼女は十六夜の魔法を身を以て体験したため、その魔法資質にすこぶる感激していた。風紀委員にとっ捕まりながら勧誘する程に、だ。

 

「間に合ってます、起動式プログラミング部に入部届け出しちゃったんで。有望株2人で満足してください」

 

「ん?誰か代わりに紹介してくれるのかい?」

 

「そこの2人っす」

 

 十六夜は勧誘を断りつつ、代わりの2人を指差した。雫とほのかである。

 ほのかの方は『え?自分?』と自身で自身を指差しているが、雫の方は自ら挙手していた。

 

「随分と楽しかったみたいだな、雫」

 

「うん。チェイス中の攻防には感激した。……良いモノを見させていただき、ありがとうございます」

 

「なるほど。私の死も、無駄にならなかったのか」

 

「死んだ気にならないで?颯季」

 

 担がれながらスケートボードのチェイスを楽しんだ雫。自身を担いでいた人攫いに感謝を告げ、その感謝によって報われたような清々しい表情を萬屋が浮かべた。風祭はそんな相方にツッコんでいる。

 

「わ、私はまだ決めてないんだけど……」

 

「ほのか、一緒にやらない?」

 

「え?えっ!?」

 

「どうか私の死を、踏み越えて行ってくれないか……」

 

「だから、さっきからなんで死んだ風に演じてるの。……まぁ、ここまでしたのだから、もう1人くらい入部してほしいわね」

 

「どうかな?ほのか」

 

「……私も、雫と一緒なら」

 

 最初は乗り気じゃなかったほのかも、OGたちと親友の押しにより、呆気なく折れた。OGたちと雫は小さくサムズアップを突き合わせる。

 

「部のデモンストレーションはこの後だから、見て行ってねぇ。それじゃあ」

 

「また会いましょう、後輩さんたち」

 

「待て、何処へ行く。お前らはこっちだ」

 

「「ちぇー」」

 

 新入部員を送り出したところで、さりげなく逃げようとしたOGたち。残念ながら摩利がそれを許すはずがなく、OGらは連行されていく。

 

「……デモ、見に行こうか」

 

「うん。十六夜も一緒に」

 

「あ、俺も一緒なのね」

 

 こうして、ほのか・雫・十六夜は、バイアスロン部のデモンストレーションが行われる場へ足を向けるのだった。

 

 ちなみにこの後、バイアスロン部現役生に会って入部届けを出す事はできたのだが、なんやかんやあって狩猟部がサイオン波酔いしている現場に出くわし、その人たちを保健室まで搬送する役を買って出て、同じく搬送する役に買って出ていた狩猟部の新入部員である『エイミィ』こと明智(あけち)英美(えいみ)と対面したりするのだった。詳しい顛末は『魔法科高校の優等生』を購入の上、参照されたし*4

 一応、バイアスロン部のデモンストレーションには間に合った事を、ここに明記しておく。

*1
ステルスマーケティング

*2
十六夜本人は『護衛対象のお嬢様』という意味で用いている。由来は前世のとある恋愛アドベンチャーゲーム。

*3
『スケートボード&スノーボード』の略称。

*4
ステルスマーケティング(さっきぶり2回目)


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