四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第70話 論文コンペ開催

 

 

 

 全国高校生魔法学論文コンペティション当日。

 呂剛虎の襲撃以来そのようなトラブルに見舞われることなく、無事に当日を迎えられた。

 

 智宏と達也、深雪の3人は時間通りに到着したが、どうやら智宏達が最後のようだ。

 一高生徒が集まっている場所には五十里も桐原も紗耶香もいる。

 

「お兄様」

 

「なんだい?」

 

「あれを何とかした方がいいと思いますよ?」

 

「・・・・・・あれか」

 

「ああ・・・・・・エリカと千代田先輩ね(またケンカしてるよ)」

 

「俺がやるのか・・・」

 

「お兄様、お願いします」

 

 3人の視線の先ではエリカと花音がまた睨み合っている。智宏も達也もわざと視界から外していたが、深雪は放っておけないらしい。

 

 肩を落とした達也だったが、深雪の頼みは断れない。智宏達はエリカと花音に近づいていく。

 

「どうかしたんですか?」

 

「あっ、3人ともおはよー」

 

「司波君。このお嬢さんに何か言ってくれないかしら?」

 

 智宏達が近づくとすぐにわかったのか、エリカはパッと振り向いて軽い挨拶をした。

 ケンカしていた花音をそっちのけで。

 

 自分を放っておいて別の人に話しかけるエリカを見て、花音の眼差しが余計に邪険なものとなる。どっちか一方に味方できないのが辛いところ。

 しかも智宏と深雪は被害を受けなかったので、巻き込まれたのは達也だけだった。

 

「はぁ、では俺が預かりますよ」

 

 この時、花音はすごく嫌そうな顔をしたが、五十里を見て彼が異を唱えてない事を確認すると、渋々頷いた。

 

 開幕間近になると、どの学校の控え室も賑やかになっている。

 生徒達は控え室やロビーでも他の学校の生徒と談笑していたが、話しているのは生徒同士だけではなかった。

 

 ロビーには一高のカウンセラーである遥も来ている。ただし、カウンセラーとしてではなく公安の情報員としてだ。

 遥の目的は達也を探る事。

 春に起こったブランシュの事件で、公安は達也に興味を向けていたのだ。ところが、達也の身辺を探ろうとすると上層部から圧力がかかり、調査を止められてしまったらしい。まぁ遥が直接圧力を受けたわけではないが、上司にその事について愚痴を聞かされていた。

 

 これで諦めればいいのだが、圧力がかかったことにより逆にやる気が高まったらしく、正規の情報員ではない遥も巻き込まれてしまった。

 もちろん遥も「はい、わかりました」などと答えていない。抵抗はした。

 自分になんとかできる相手ではないですし、逆に反撃を受けるかもしれない、と(聞き入れてもらえなかったが)。

 だが智宏が、四葉家の現当主の息子が護衛につくとなると余計に怪しくなってくるのは職業柄仕方の無い事だった。

 

 缶コーヒーを片手に智宏達がいる1高の控え室を監視し始めた遥。消極的な対応だったが、その行動は無駄ではなかった。

 

「・・・・・・やっぱりあの人は」

 

 監視を初めて数分後、一高の控え室に女性が入っていくのを目撃する。遥と同年代で、顔も見覚えがあった。

 

 携帯端末に搭載されている盗み撮り用カメラで写真を撮り、公安のネットワークで画像検索をかけた。

 

「エレクトロン・ソーサリス?」

 

 部屋に入っていったのはエレクトロン・ソーサリスこと藤林響子だった。

 

 遥の学生時代、響子はヒーローだった。二高に入学し、九校戦で自校を優勝へと導いた電子の魔女。魔法科高校卒業後は魔法大学に行き、さらに防衛省に入省したと噂では聞いていた。

 しかし何故響子が一高の控え室を訪れるのかがわからない。二高の出身なら二高を訪れる方が普通なのに。

 

 怪しい。

 でも達也の素性のヒントになるかもしれない。

 そう思った遥は監視を続けた。

 

 部屋の外でピリピリした見張りがいるとも知らず、いや、少なくとも智宏と達也は知っている上で客人と談笑していた。

 

「深雪さん、お会いするのは半年ぶりですね」

 

「ええ。お久しぶりです」

 

「達也君に聞いてると思うけど、私九校戦に行ってたのよ?お茶会に深雪さんも来ればよかったのに」

 

「藤林さん。深雪といると自分は目立ってしまいます」

 

 そう達也が言うと、深雪は少し恥ずかしそうに、響子はやれやれという顔で笑った。

 

 そして達也は響子に【少尉】を付けていない。盗聴器や盗撮機等を完全に除去してある部屋はまだしも、このような公共施設では油断してはいけないのだ。

 

「ところで藤林さん」

 

「何かしら智宏君?」

 

「ここにいていいんですか?確か、二高のOGでしたよね?」

 

 

 響子の学生時代しか知らない者なら、部屋の外で監視している遥みたいに「なぜ二高のOGが?」と思うだろう。

 しかし響子は全く気にしていないようだった。

 

「いいのいいの。今の私は防衛省技術本部兵器開発部所属の技術士官。高度な技術を持った達也君の所を訪れてもおかしくはないわ。肩書きって便利よね〜」

 

「そういう事ですか」

 

「ええ。だから『藤林さん』でも『少尉』でも『お姉様』でもいいのよ?」

 

「「「お姉様(ですか)?」」」

 

 意外とお茶目なジョークに智宏達は半分本気で驚いた。

 

「さてと。良いニュースと悪いニュースがあるの。どっちから聞きたい?」

 

「良い方からお願いします」

 

「わかったわ。達也君、例のムーバルスーツが完成したわよ。もうこっちにあるらしいの」

 

「さすがですね」

 

「今度は悪いニュース。例の件、多分終わっていないみたい」

 

「問題でも?」

 

「詳しい事はこれを見て」

 

 良いニュースから一変して悪いニュースになると、響子は厳しい顔つきになった。

 

 事情はわからなかったが、響子は懐のケースからチップを取り出して達也に渡した。

 電話やメールはもちろん直接話すこともできない内容らしい。

 

「私の方でも保険はかけておいたけど・・・・・・キナ臭い事になるかもしれないの」

 

「わかりました。俺達も準備はしておきます。智宏も深雪もいいな?」

 

「もちろんだ」

 

「はい、お兄様」

 

「じゃあもしもの時はお願いします」

 

 頷き合った兄妹とそのいとこ。

 

 響子は心苦しかった。

 だが智宏達は貴重な戦力である。彼女の立場でら止めることはできない。

 

 午前8時。

 客席が埋まり始めてきた頃、五十里が花音を連れて控え室に入ってきた。

 

「司波君、交代だよ」

 

「お願いします」

 

 この控え室からも会場の様子がモニターで観れる。

 それをわかっているのか、達也は遠慮なく智宏と深雪を連れて控え室から客席に向かった。

 

 ところが、控え室から出て10歩も歩かない内に深雪は声をかけられた。

 

「司波さん!」

 

「一条さん」

 

 名前を呼んだ男は一条将輝。2ヶ月ぶりの再開だった。

 左腕には警備の腕章を付けているので、今回は克人が指揮する警備隊の一員として論文コンペに参加しているのがわかる。

 

 智宏も腕章は持っているがまだ達也の護衛をしているため、腕章はまだポケットの中だ。

 

「ご無沙汰しております」

 

「い、いえこちらこそ!」

 

 丁寧に一礼する深雪。

 その完璧な作法にセレブな付き合いに慣れているはずの将輝とその隣にいる警備隊のメンバーは棒立ちになった。

 

「見回りですか?」

 

「はい」

 

「一条さんも警備に参加するなら安心ですね。今日はよろしくお願いします」

 

「ご期待に添えるよう全力を尽くします!」

 

「十三束君も頑張ってください」

 

「りょ、了解です!」

 

 深雪に少し訪ねられただけで緊張するのは少し情けなくないか?と智宏と達也は思った。

 まぁ確かに深雪の美貌に勝てる女性はいない。兄である達也もたまに見とれてしまう時があるのだ。

 

 赤の他人だが高嶺の花に手が届く距離にいれば一条でも固まってしまうのは無理もない。むしろ当然だろう。そんな深雪を見て智宏は内心誇らしかった。

 

 突然深雪に話しかけられた十三束もしどろもどろになりながらも堅すぎる返事を返した。同級生なのに・・・。

 智宏と達也は、この2人が今日1日持つのか不安だった。

 

 将輝と十三束がやる気十分で去っていくと、今度は智宏に深雪が向き直った

 

「智宏さん」

 

「ん?」

 

「私とお兄様は会場に入ります。智宏さんも警備隊の仕事をなさってください」

 

「いいのか?」

 

「はい。お兄様、よろしいですよね?」

 

「ああ。会場なら護衛はなくてもいいからな」

 

「じゃあそうするよ」

 

「頑張ってくださいね」

 

「任せとけ」

 

 こうして智宏はポケットから腕章を取り出して左腕につけ、会場の警備に戻って行ったのだった。




お久しぶりです。
活動報告でも書きましたが、四葉を継ぐ者は横浜騒乱編で一区切りつけたいと思います。未完ではありませんが、更新はしばらく無いと思ってください。
第1部完結までもう少し。今後もよろしくお願いします。

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