四葉を継ぐ者   作:ムイト

57 / 74
第57話 タックルで確保

 

 

 

 論文コンペは九校戦の代表チーム25名と比べれば遥かに少ないたったの3名。しかし、人数は少ないが毎年論文コンペは九校戦以上の重要行事とみなされている。

 なぜなら、それはこのコンペ自体が全国に9つある魔法科高校の優劣を付ける場でもあるからだ。九校戦で成績が良くなかった学校は雪辱戦という事で、生徒の士気は高い。

 

 もう1つの理由として、論文コンペには代表に選ばれた生徒だけでなく他の生徒も関わる事ができるのだ。

 

 論文の発表には装置を使ったプレゼンテーションを壇上で行い、実際に作動するかシュミレーションをしなければならない。

 その為、装置の設計や術式補助のシステム製作、制御ソフト、装置のボディ、テスト要員などなど、学校によっては九校戦より参加人数が多い所もあるだろう。

 コンペの1週間前にもなると、授業に割り当てられている時間も【自主製作】という名目で工作機械の音や魔法による騒音がどこの学校でも見れる。

 

「えーーっと・・・あ、いたいた」

 

 その喧騒の中、エリカはある人物を探していた。

 

「おーい、達也くーん。智宏くーん」

 

「エ、エリカちゃん。邪魔しちゃだめだよ・・・・・・」

 

 大声でブンブン手を振るエリカの隣では、レオが明後日の方向を向いているし、後方にいた幹比古も同様に別の場所を見ていた。

 美月はエリカの袖を引っぱって注意したが、当然のごとく効果はなかった。

 

 一方、達也を護衛している智宏は大声で近づいてくるエリカに半分呆れながらも軽く手を振り返した。

 後ろにいた深雪は、智宏の動きに気づいてエリカをこちらへ呼び寄せる。

 

「エリカ、こっちよ」

 

「全く・・・声デカいぞ」

 

「ごめんごめん。それで、今はなんの実験をしてるの・・・・・・?(電球?)」

 

 やはり反省の色なしのエリカ。

 まぁそれは置いておくとして、現在校庭には台座と4本の腕(?)で支えられている直径120cmほどの透明な球体が置かれている。

 傍から見ればデカい電球のように見えるだろう。

 

 この時代、電球というものは一般家庭からも姿を消しつつあり、隣にいた美月はこれが電球だとはわからなかった。

 

「プレゼンに使う常温プラズマ発生装置よ」

 

 と、深雪はエリカの質問に答える。

 

「常温でですか?熱核融合炉なのに?」

 

 深雪の返答にいち早く反応したのは他人のフリをしていた幹比古。同い年なのに深雪に敬語を使っているのには事情がありそうだ。怖いのだろうか?

 

 幹比古の深雪に対しての敬語使いはもう誰も突っ込まなくなったが、幹比古の言葉を聞いたエリカ達(智宏と深雪を除く)は化学の知識を頭の中で掘り出して数秒遅れてはてなマークを出した。

 

「熱核融合は反応のタイプ。超高温である必要は必ずしもない・・・らしい」

 

「「「・・・・・・」」」

 

「すまん。これ以上は聞かされてないんだ」

 

「私も知らないの。ごめんなさい」

 

 理解していなさそうな顔をしている幹比古達に智宏と深雪が申し訳なさそうに謝ると、幹比古だけが深雪の謝罪に過剰に反応して「め、めめめ滅相もない!」と首を振っていた。

 

 そんな幹比古を見てエリカが美月とヒソヒソ話している。智宏は軽く耳を傾けると、部分的ではあるがこんな声が聞こえた。

 

(・・・は・・・・・・が怖い・・・)

(自分より・・・・・・から・・・?)

(怒ら・・・と・・・・・・し)

 

 まぁ深雪が怖いからだの、深雪の方が強いからだの、そんな感じだろう。

 深雪も2人の会話に気づいてニッコリ笑いかけると慌てて口を噤んだ。

 

 周りが静かになると五十里が鈴音に合図を送り、達也の操作しているモニターが着いている大型CADに鈴音はサイオンを注ぎ込む。

 すると複雑な工程が幾重にも積み重なった魔法式が発動し、高圧の水素ガスがプラズマ化して分離した電子が発光ガラスにぶつかって光を放った。

 

 ここでエリカが「電球じゃん」と漏らした少々失礼な発言は、幸運にも周りの歓声に掻き消されてしまった。

 しかし、成功した事には変わりないので、深雪や紗耶香、レオ達は実験の成功に喜んでいる。光が消えると同時に周囲の興奮も収まり始め、野次馬や協力してくれた生徒達が帰ったり持ち場に戻ったりした。

 

 智宏も実験の成功に喜んでいたが、解散し始める生徒達の中に妙な端末を持って実験の機械をじっと見ている生徒を見つける。周りが浮いた雰囲気なのにその生徒だけ大人しく、憎悪の感情さえも感じられた。

 しばらく見ているとその生徒は智宏の視線に気が付き、智宏がニヤリと笑うと慌てて逃げ出した。

 逃げ出した生徒を追いかけようとしたが、智宏の任務は達也の護衛。捕まえたくても捕まえられない。

 

 するとほんの少し前から智宏の視線を不思議そうに見ていた紗耶香も走り出した。

 

「あの子・・・!」

 

「さーや?」

 

「壬生!」

 

 紗耶香の後に桐原とエリカ、レオが追いかけるようにスタートを切った。

 突然の行動に深雪は驚いたが、紗耶香達が追いかける先にお下げ髪の女子生徒が走っているのに気がついた。

 

 すぐ後ろで自分を呼び止める声が聞こえると足の速さでは敵わないと悟った女子生徒は、他の生徒がいない中庭で立ち止まる。

 

「なんですか」

 

「あなた1年生よね」

 

「はい。先輩は2年の壬生先輩でした・・・よね?」

 

「そうよ。あなたは?」

 

「私は1年G組の平河千秋です」

 

 千秋の声は硬く、警戒しているようだった。

 上級生から自己紹介を要求されたのでしぶしぶ答える。

 

「平河?」

 

 追いついた桐原達はその苗字に聞き覚えがあった。

 しかし紗耶香はそんな事を気にしている余裕はない。

 

「手に持っているのはパスワードブレーカーでしょ?私も同じ機種を使ったことがあるから」

 

 紗耶香の指摘に顔を青くした千秋は慌てて端末を背中に隠した。

 

 パスワードブレーカーとは、パスワードが設定されている物からパスワードを盗み出すハードとして開発された機械。しかもパスワードだけでなく様々な認証システムを突破し、中のファイルを盗み出す事を可能とした。

 つまり、この機械を使うのは犯罪目的意外ありえないのだ。

 

「先輩も?」

 

「ええ。私もスパイの手先になったことがあるから。忠告するわ。今すぐ手を切りなさい!後で苦しむのはあなたなのよ!?」

 

「先輩達には関係ないです」

 

 千秋は紗耶香の説得に対して、拒絶という形で返答する。

 だがそんな事で紗耶香は止められなかった。

 それは自分が経験したからこそ言えることだった。

 

「放置なんかできないわよ!あの事件から半年が過ぎた今でも身体が震える時があるし、気付いたら身体を傷つけていた時もある。どんな連中かなんて知らないわ。でもあなたは使い捨ての駒にされるだけなのよ!」

 

「・・・・・・そんなの・・・そんなのわかってますよ!連中が私の事なんてどうとも思ってないことなんて。先輩はそんなことも知らなかったんですか?」

 

 この生徒は自分とは違う。

 そう紗耶香は思い知らされた。

 ブランシュの時はどうしらた良いかわからない所に付け込まれ、利用された。

 

 でも目の前の1年生は目的を達成した後の自分を考えていない。未来から目を背けているのを紗耶香は感じた。

 だから紗耶香は千秋をなんとしても止めなくてはならなかった。

 

「先輩にはわかりませんよね。だからほっといてください」

 

 返ってくるのは再度の拒絶。

 さすがの紗耶香もこの結果になる事はわかっていた。

 

 しかし、ここで千秋を逃がしたら二度と戻ってこないだろう。今説得するのは無理だと察した紗耶香は桐原に目線で合図を送る。目の前の1年生は格闘術の心得もない。そう見た2人はジリジリと千秋に寄っていく。

 

 ここで誤算だったのが紗耶香と桐原が千秋が武器を所持していないと思っていた事だ。

 千秋の後ろにいるのはそんじょそこらのテロリストよりタチの悪い連中。自己防衛のための武器を渡していないはずがない。

 紗耶香と桐原が飛びかかろうとした瞬間、千秋はカプセルを投げ付けた。

 

「伏せて!」

 

「「「ッ!」」」

 

 いち早く反応したエリカはそう叫んだ。

 カプセルが地面に当たった途端、強烈な光がエリカ達の目を塞ぐ。そして千秋は袖の下に仕込んであった小型のボウガンを紗耶香に向け、ダーツのような物を発射した。

 

 先に視力が回復したエリカは、近くに転がっていた棒を使ってダーツを撃ち落とす。

 ただのダーツならよかったのだが、棒が命中した途端ガスのような煙が周囲に広がった。

 

(これは神経ガス!?)

 

 煙を吸ってガックリ膝をついた桐原を見てエリカはそう判断した。まだ暗器を隠し持っている可能性を否定できないこの状況。エリカや紗耶香は動けなかった。

 

 しかし、そんな状況にも関わらず芝生に伏せていたレオは千秋に向けて突進した。

 

「うおおおおぉ!」

 

「ヒッ!」

 

 同年代でも自分より遥かに大きな体格のレオの迫力にビビった千秋は慌てて右手をレオに向ける。袖の中にあるダーツが連装なのかはわからないが、武器が発射されることはなかった。

 千秋の視界からレオが消えたからだ。

 レオを見失って動きが止まった千秋は次の瞬間強烈なタックルを受け、そのまま後頭部を打って気を失ってしまった。

 

「・・・や、やりすぎた」

 

「そうね。あとあんた離れなさい。襲ってるように見えるわよ。やーい変態」

 

「なっ!そんなんじゃねーよ!」

 

 こうして、少し危ない状況だったが千秋はエリカ達に確保されたのであった。

 

 騒ぎを聞いて保健室に駆けつけた花音は紗耶香から事情を聞き、気を失っている千秋を見てため息をついた。

 

「全く・・・やりすぎよ。で?彼女が何やったの?違法行為もしていないのに拘束することはできないわよ」

 

 この指摘に対し、生真面目な紗耶香や桐原は反論できなかったが、その隣にいるエリカだけはそんな指摘に黙る人間ではない。

 

「ハッキングツールを持っているだけでも十分な理由だと思いますけど」

 

「だからやりすぎだって言ってるの」

 

「隠し武器まで出されちゃこっちもそれ相応の対応はしますよ。それとも、先輩は相手が武器を使ってきても私達は無抵抗でいろと?」

 

 一触即発なエリカと花音。この状況に紗耶香は焦りを覚えた。

 だが止める立場にいるはずの保健医が止める素振りも見せないので、口を挟めないでいた。

 

 その間にも2人はますますヒートアップしていく。

 

「そういう訳じゃないわ!取り押さえるのにも加減があるって言ってるの!」

 

「へー。でも先輩は尾行した生徒にいきなり魔法を打ち込もうとしたらしいじゃないですか」

 

「うっ・・・で、でもそれとこれとは話が違うわ!」

 

 危なげな雰囲気の中、2人の仲介に入ったのは意外な人物だった。

 

「じゃあ委員長。後はよろしくお願いします」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「ほら行こうぜ」

 

 レオはエリカの腕を掴んで保健室から出て行った。

 

 廊下から2人のギャーギャー騒ぐ声(主にエリカ)が聞こえなくなると花音は落ち着きを取り戻し、ベッドで寝ている千秋の顔を見る。見覚えのある顔だったが本人の意識がないので確認はできない。

 花音は視線を保健医である安宿怜美に移した。安宿は医療系に特化した魔法師で、千秋の様態もすぐに見抜く実力がある。

 

「先生。彼女が目を覚ましたら連絡してくれませんか?」

 

「良いわよ~。でも逃げられたらごめんなさいね」

 

 おっとりした雰囲気で答える安宿だが、花音はそうは思わなかった。

 

「先生が怪我人を逃がしたことありましたか?」

 

 花音は苦笑ながら紗耶香と桐原を引き連れて保健室を出て行った。




うーん、黒羽姉弟かわいいな
てか亜夜子は本当に中学生?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。