今日は珍しく智宏、達也、レオ、エリカの4人で昼食をとることとなった。
その時勘のいいエリカは智宏と達也に何かあった事を察する。
「昨日何かあったの?」
「・・・勘がいいってレベルじゃなくね?」
「ああ」
「ん?智宏も達也も、どうかしたのか?」
「なんでもないよ」
「・・・そうか」
「あ、美月が言ってたんだけどさ~。なんか最近視線を感じるらしいのよ」
「なんだそれ。ストーカー?」
「ううん。違うの」
2人の雰囲気から深く聞けないのを読み取ったエリカは別の話題に切り替えた。
エリカ曰く、美月はここ数日1高全体に網のようなものを張られているような感じがするらしいのだ。
誰か1人を狙うのではなく、全てを監視しているのならば事態は重くなる。それに加えて幹比古の情報によれば、校内の精霊が妙に騒いでいるとのこと。その理由として、外で誰かが術を打っていると言っていた。
そしてそれが日本の術式では無いことも幹比古はわかっていた。
「――つまり他国のスパイが関与してるんじゃないかって」
「なるほどなぁ」
「随分と派手に動いてるな。達也はどう思う?」
「こっちを誘っているのかそうでないのか、まだわからないな」
「そうよねぇ。全く・・・・・・警察は何やってるのかしら」
エリカの警察への不満は公権力というより、どこか身内に対して言っている気がした。
同時刻。
出向中の寿和は背中に悪寒を感じてついキョロキョロと辺りを見渡してしまった。
「どうかしたんですか?」
「い、いやなんか寒気が・・・・・・」
「仮病ですか?それより聞き込みどうしますか?なんか目撃者いないんですけど」
「だな。こうなったら蛇の巣穴を訪ねてみないかね?」
寿和の言葉を聞いた部下の稲垣警部補は嫌そうに顔を顰める。
「・・・違法捜査ですよ」
「大丈夫大丈夫。そんな事言ってる場合じゃないんだし」
「まぁそうですけど」
ぐちぐち言ってる稲垣を覆面パトカーに載せた寿和はとある喫茶店に向かって車を進めた。
今日は平日なので客は少ないと予想されていたが、以外にも客の人数は多かった。
しかし皆静かに飲んでいるので観光客ではなく常連客ということがわかる。そして寿和はここのマスターが表の仕事も裏の仕事も手を抜かない事をよく知っていた。
ブレンドを2つ注文して寿和と稲垣がカウンターの席に座ると、隣に飲みかけのカップが置いてあった。
冷めるじゃないかと千葉が思っていると、若い女性がその席に戻って来た。
そして――
「こんにちは」
「・・・・・・へ?」
その女性にいきなり挨拶されたので、寿和は自分でもわかるほどマヌケな声を出してしまった事に気が付く。もちろん小声で。
「いきなりごめんなさい。もしかして女性は苦手でしたか?千葉の御曹司さん?」
「あ、貴女は?」
「はじめまして。私は藤林響子と申します」
まさか自分の素性がバレるとは思っていなかった。弟とは違って公式PRしていない寿和が何者かと気づくのは、それこそ警察関係者か実戦魔法に生きる者だけ。寿和はつい身構えてしまう。
古式魔法の名門、藤林家の令嬢はそんな彼に屈託のない笑みを浮かべて挨拶をした。
♢ ♢ ♢ ♢
放課後、智宏達9人が全員で一緒に校門を出るのは本当に久しぶりのことだった。
「達也さんは論文コンペの準備は終わったんですか?」
「まぁひと段落といった所かな。これから模型作りとかデモ用の術式調整があるし」
「達也は何をするんだ?」
「あんたねぇ、達也君は術式でしょー」
自然な流れでレオが質問すると、達也より先に今日は髪型をポニーテールにしているエリカが呆れた顔で答えた。
「そうだ。模型は五十里先輩の方が得意なはずなんだ」
「確かにねぇ。五十里先輩は『錬金術師』のイメージがあるかな」
「・・・・・・RPG?」
エリカの返しに雫がポツリと呟く。もちろんこのRPGはロケットランチャーではなく、ロールプレイングゲームの略である。
そして美月もこの話に乗ってきた。(一斉に喋り出すので1部台本形式とする)
(美月)
「その流れでいくと達也さんはなんだろう?」
(エリカ)
「マッドサイエンティストでしょ」
(雫)
「そんな役職ないよ」
(エリカ)
「それじゃあ・・・・・・山奥にいる世捨ての賢者」
(智宏)
「いやいや。達也武闘派じゃん」
(レオ)
「だったら世界征服を狙ってる悪の魔法使い」
(幹比古)
「魔王でいいんじゃないかい?」
(エリカ)
「いっそ魔王を倒した後に出てくるラスボスでいいわよ」
(智宏)
「あー、実は俺が~ってやつか」
(ほのか)
「皆はなんで勇者様の発想がないの?」
(達也)
「いいんだ。俺はそんな柄じゃない」
(深雪)
「何をおっしゃいますかお兄様。力こそ正義です!」
(エリカ)
「うわっ、さすが魔王の妹。魔王の隣で勇者を嘲笑ってるのが目に浮かぶわ」
(深雪)
「エリカ?」
(エリカ)
「なんでもないです。はい」
などなど、帰り道は大いに盛り上がった。
話がいい所で終わると、達也はどこかによって行かないか?と意見具申をし、全会一致でカフェに向かった。
全員コーヒーを頼み、コーヒーが注がれるまで智宏達はマスターと世間話をしながら待っていた。
飲み始めたコーヒーが4割ほど無くなると、突然エリカが席を立った。
「ちょっとお花摘みに行ってくる」
「ん?電話だ・・・・・・出てくるわ」
「あいよ。あれ?幹比古何やってるんだ?」
「思い出したことがあってね。メモってるんだ」
「・・・・・・ふーん」
「程々にな」
エリカに続き、レオと幹比古も変な動きを取り始めた。
それに気がついたのは智宏と達也だけ。達也は目を鋭くしながら警告をした。
カフェから少し離れた路地。
ここで智宏達の方を見ていた男は背後から何者かに話しかけられて手に持っていたコーヒーを落としそうになる。
「ねぇねぇ~」
「ッ!」
「あたしとイイ事しない?」
「大人をからかうんじゃない。それより早く帰りなさい。通り魔に襲われたら大変だ」
「それって俺みたいな奴か?」
「知らないの?通り魔っていうのは『通りすがりの魔法師』の事よ」
エリカに話しかけられた男は話しかけてきた子供を追い払うように返答したが、エリカに背を向けるとその先にはレオがいた。
黒い手袋をはめたレオに警棒を構えたエリカ。あっという間に戦闘態勢に移った2人に、男は逃げられないと悟ったのかこう叫んだ。
「助けてくれ!強盗だ!」
「うわ情けねえー」
「あっ、そうそう。ここは結界の中だから助けは来ないわよ。抜け出すこともね」
男は助けを呼んだが、あっさり無理だと言われてしまう。
となれば残った選択肢は1つ。
2人を倒すだけだ。
持っていたコーヒーを投げ捨てて近接戦の構えをとった。
3人の間に静寂が訪れる。しかし最初にそれを破ったのは男の方。男はレオに突進し鞭のようなパンチを浴びせた。
何回かパンチを浴びせている内にレオのガードか崩れ、男はレオの顔面に一撃を入れる。
次に後ろから襲いかかってきたエリカの1太刀をガードし、左腕のパンチを繰り出す。
が、パンチはガードされたので男は後ろに飛び退る。その時男は背中に重い一撃を喰らって俯せに倒れた。
「なっ!」
「痛ってぇ~。コイツ人間じゃねーだろ」
「あんたも似たようなもんじゃない」
男に強烈なタックルを喰らわせたのはさっき吹き飛ばされたレオだった。
レオは殴られた顎を撫でながら男に近づき、もう1発腹に蹴りをいれる。逃げられないようにするためだ。
「グアッ!」
「どうする?別に殺しはしないわ」
自分の右にはレオ、左にはエリカが立っているのを確認し、変な動きをしたら意識を持っていかれると悟った男は諦めたように両手を上げ――
「降参だ」
――と、大人しくなったのだった。
抜刀隊のイメージが少し違ってた。るろ剣の見すぎですかね。