四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第53話 閲覧室にて

 予想外の出来事で無駄な時間を過ごしてしまった達也は家に戻ると、遅くなったにも関わらず深雪は笑顔で出迎えてくれた。

 

「ん?そのエプロンは?」

 

「気が付きましたか?」

 

 今深雪が身につけているのは可愛らしいエプロンだった。

 可愛い妹の姿に達也が感想を言おうとすると、いきなりインターホンが鳴った。

 

 ドアを開けるとそこには――

 

「やぁ」

 

「達也様、深雪様、こんばんわ」

 

 鍋を抱えた智宏と彩音が立っていた。

 

「智宏か」

 

「智宏兄様!」

 

「おう・・・・・・って深雪。そのエプロン可愛くて似合ってるぞ。なぁ達也?」

 

「そうだな。自分だけのガラスケースに飾っておきたいくらいだ」

 

「まぁお兄様方ったら・・・・・・そんなに言われると照れてしまいます」

 

 エプロンの丈は今深雪が着ているワンピースと同じで、まるでワンセットのエプロンのようだ。それもミニのドレス。

 肩をぐるりと回って背中でクロスするフリルと、腰の後ろでリボンの形に結ばれている紐が可愛く、裾から視える素足の太ももが艶かしかった。

 正直達也はできるだけ他人には見せたくないなと思っていた。

 

 深雪は2人の兄に褒められ、顔を赤く染めて照れてしまう。それがまた可愛く、智宏の後ろにいた彩音も見とれてしまった。そして彩音は深雪と智宏に視線を往復させ、最終的に智宏をじっと見つめる。

 

「それでどうしたんだ?こんな夜に」

 

「いやなに。この家からコミューターとバイクが出ていくのが見えてな?達也がこんな時間に外出は珍しいし・・・・・・ちょっと気になったんだ」

 

「俺の帰りを待っていたのか」

 

「その事について聞きたい事があってね」

 

「3人とも上がったらどうですか?彩音ちゃんもどうぞ」

 

「は、はい!お邪魔します」

 

 深雪に促されて智宏達はリビングに向かった。

 リビングには既に料理を出す準備は出来ており、キッチンでは鍋がコトコト音を立てている。

 

「智宏兄様は夕食はお召し上がりになりましたか?」

 

「まだだよ。事情を聞きたかったから4人で食べようと思ってたんだ。彩音」

 

「深雪様、実は智宏様と私でおかずを作ってきました」

 

「あら・・・煮物?美味しそうですね。これは智宏兄様が?」

 

「2人で分担したんだ。な?」

 

「はい」

 

 その後智宏達はテーブルに座って夕食を食べた。さすがに彩音も大人しく同じテーブルを囲んでいたが、自宅より少しいずらそうなのは達也と深雪がいるからだろう。

 

 夕食を食べ終わるとソファーに移動し、彩音がいれてくれたお茶を飲みながら智宏と深雪は何があったのかを達也から聞いた。

 ちなみに彩音は智宏の隣にちょこんと座っている。

 

「それでその仕事を手伝えと・・・・・・なるほど」

 

「お兄様、お引き受けになられるのですか?」

 

「ああ。物が物だからやってみようかと思う。サンプルとしてコレを預かったしな」

 

 そう言って達也は小百合が達也に無理矢理預けた勾玉をテーブルの上に置いた。

 一応第3課で解析すると言ってあるので問題はない。

 

「サンプルですか」

 

「これが魔法式を保存する機能を・・・・・・」

 

「なぜあの人はこんな物を?」

 

「軍から依頼されたそうだ」

 

「え・・・・・・」

 

「無茶な依頼ですね」

 

「それなりの価値があるのだろうな」

 

 魔法式は魔法を発動するのに必要な道具だが、保存するだけでは魔法にならない。だが自分自身のエイドスを上書きした状態で、上書きに使われた魔法式を保存できるなら掛けられた魔法の効果を永続させる事ができる。

 

 つまり魔法式を保存できる物質は魔法の効果を保存できる物質となり得るのだ。

 理屈の上では擬似的な永久機関を実現できるらしい。

 

「この研究には俺個人としても興味はある。魔法式が保存できる機能があるなら是非ともその機能を解き明かしたい」

 

「お兄様ならできますよ」

 

「そうだな。達也ならできるさ」

 

 険しい顔で呟く達也に、智宏と深雪は励ますように声をかけたのだった。

 

 一息つくと、達也は研究室にこもってしまい、リビングには智宏と深雪、彩音が残った。

 智宏と深雪は学生なので宿題がある。宿題をやるためのディスプレイを智宏は持ってきていたのでそのままリビングで2人は宿題に取り組み、彩音は食器洗いに勤しんでいた。もちろん智宏が頼んだわけではなく自分からやると言い出したのだ。

 

 今やっているのは数学の課題。

 どうやら深雪は数学が少し苦手らしく、何回か手を止めて考えこんでしまう。まぁその時は智宏が教えているのだが。

 

 最悪2人共わからなければ達也に聞けばいいが、今達也は解析中なので邪魔はできない。

 それに達也も課題があるはずだ。

 

 天才的頭脳を持つ達也は本来学校へ行かなくてもいいはずなのだが、国立魔法大学へ進学するためには魔法科高校の卒業資格が必要なのだ。

 達也の目指しているものが魔法大学のような高等研究機関にしかない事やこの高校生活が回り道でしかない事は智宏も深雪も理解している。

 その理由は達也がガーディアンだから。

 

 四葉のガーディアンは特定の人物を自身の命を犠牲にしても守る役目だ。

 彼らは、かつて1人の少女が誘拐されて暴行を受け、子供が産めなくなった悲劇を繰り返さないために、四葉の血を守るために選び出された者達なのだ。

 

 ガーディアンを務めている間は他の用事を言いつけられることはない。汚れ役の仕事をしなくてもいいし、小百合らからも強くは言われない。

 そうした事情を考慮した上で同じ高校に通ってもらっているのだか、その根底には兄離れできない自分の依存心がある事を深雪は自覚していた。

 

 この日智宏は宿題が終わると、深雪に見送られて彩音と一緒に自宅へ戻った。

 

 翌日。

 調べ物をしに図書館へやってきた智宏と達也は、そこである人物に捕まってしまう。

 

「あら?智宏君と達也君じゃない」

 

「あ、会ちょ・・・じゃなくて七草先輩」

 

「こんにちは」

 

「どうしたの?こんな所に」

 

「達也が調べ物もするってんでついでに俺も調べ物しようかなーと」

 

「会長は読書の秋ですか?」

 

 智宏はここへ来た目的を言ったが、一方当たり障りのない挨拶を返したつもりの達也に真由美は不服そうに口を尖らせた。

 

「あのね達也君。私、3年生よ?」

 

「存じてますが」

 

「普通は受験勉強って発想じゃない?」

 

「先輩は推薦が決まっているのでは?」

 

 成績優秀、元生徒会長、九校戦のアスリート、大量の優勝トロフィー。

 これで推薦がつかなかったら誰も推薦されないだろう。

 

 しかし真由美は達也の予想の斜め上を行った。

 

「知らないの?生徒会役員経験者は推薦を辞退するの。つまり私も推薦を辞退したわ」

 

「初耳です」

 

「俺も」

 

「魔法大学の推薦枠は各校10人までって決まってるのよ。だからその枠は有効に使うんだって」

 

 確かに魔法科高校から魔法大学へ入るのに余裕な生徒は、推薦で入れる生徒を増やすのが案としては合理的だ。

 本当にそれでいいのかはわからないが。

 

「それで達也君は何しに来たの?」

 

「コンペの資料集めですよ」

 

「ああ、なるほどね」

 

「では失礼します」

 

「うん。あ、智宏君」

 

「はい?」

 

「少し話があるの。中で話さない?」

 

 そう言って真由美は今さっき自分が出てきたコンパートメントを指さした。

 

 今は使う人はいないので又貸しは問題なさそうだが、少し嫌な予感がした智宏は達也に視線を送る。だが、達也はとっとと中へ入ってしまったので、逃げ道はない。

 智宏は「はい」と言って頷いた。

 

 3人入れば身動きがとれなくなる1人用の閲覧室は2人でもかなり狭く感じられ、特に2人で椅子に座っているとそう感じた。

 真由美は小柄な方だが、智宏は高校生にして体格の平均を上回っている。それに克人ほど大柄ではないが、肩幅で場所が取られるので今は真由美と肩を寄せあって座る形となった。

 

 狭い部屋で美少女と2人っきり。

 こういうシュチュエーションで同様しないのは達也くらいではないだろうか。

 智宏は年上の女性から漂ってくるいい香りに脳が刺激されそうだったが、無理矢理思考を調べ物に移して耐えていた。

 

「ねぇ」

 

「なんですか?」

 

「何調べるんだっけ」

 

「十師族の歴史です。四葉に入ったのは数年前なので、まだ知らない部分があるんです。実家の資料とこっちの資料の読み比べもしたいですしね」

 

「ふーん」

 

 智宏がディスプレイに映し出される十師族の歴史に目を向けていても真由美は嫌がる事なく接してくれている。

 

 しばらく無言の状態が続くと、智宏は思い出したように口を開いた。

 

「先輩。そう言えば話があるのではありませんか?」

 

「え、あ!そうだった。あのね、今回のコンペなんだけど・・・・・・絶対に成功させたいの。だから何があっても達也君やリンちゃんをサポートして欲しいの」

 

「まぁ俺にできることなら」

 

「ホント!」

 

「先輩は市原先輩のテーマに思い入れでもあるんですか?」

 

 智宏がこんなことを聞いたのは好奇心からではなく、やけに真由美が鈴音に対する激励を超えた力の入り方が気になったからだ。

 

「リンちゃんの夢を実現させるためだからね。リンちゃんは経済的必要性によって魔法師の地位を向上させようとしてるの。そうすれば魔法師は兵器として産み出された宿命から解放される。そのための重力制御魔法式熱核融合炉は有力な手段となるって言ってるわ」

 

「魔法師を兵器から解放・・・ですか」

 

「そうよ」

 

 現在、魔法師の開発は軍事利用を目的とするものが9割ほどあるらしい。

 それは現状では仕方がなく、民生に転用可能な魔法は全て機械で代替できてしまう。温度をコントロールしたり物体を加減速させる技術もわざわざ魔法で代用するまでもないのだ。

 

 達也達が考えている重力制御魔法式熱核融合炉も50年以上前から研究されてきているのだが、加重系魔法の三大難問に数えられているほど高等な技術だと判明しているために研究活動は下火となっている。

 

 智宏の実家は魔法師を兵器として扱っている面が多く、智宏は複雑な気持ちだった。

 

「それにしても」

 

 またしばらく調べ物を続けていると、不意に真由美が話しかけてきた。

 

「智宏君って女の子に興味って無いの?それとももっと大人っぽい人が好み?」

 

「は?」

 

「だってこーんな美少女が近くにいるのになんの反応もないんだもの。ごめんねぇ〜お姉さん子供体型で」

 

 一体何を言い始めたのやら。

 子供体型?違うだろう。真由美は身長が低いだけでグラマーな身体をしている。足も腕も長く、スリーサイズも同年齢の女性より大きかったり小さかったりするはずだ。

 

 1人でくねくねする真由美に智宏は1回ため息をついてから返答した。

 

「あのですね。俺に露出性癖とかそういうのはないんで、監視カメラがあるこんな場所で女性に手は出しませんよ」

 

「え?」

 

 真由美が後ろを振り向くと入口付近の天井には監視カメラがついており、常時室内を監視している。

 このような場所をセキュリティ強化するのは突然だろう。カメラを確認した真由美はストンと腰を下ろした。

 

「じゃ、じゃあ誰もいなかったら?例えばそうね・・・・・・ホテルの一室とか別荘で2人っきりとかだったら?」

 

 ここで智宏は「んー」と一旦手を止めて考え込み、いい感じの結論が出ると真由美に近寄り、彼女の手を優しく握りながら耳元で囁いた。

 

「もちろん、先輩の据え膳なら遠慮なくいただきますよ」

 

「ふぇ・・・・・・?えぇぇええ!」

 

「春休みうちの別荘来ます?冬は忙しいでしょうし」

 

「あ、いや・・・そのぉ」

 

「冗談です」

 

「えっ!」

 

「ん?」

 

 

 智宏の言葉に身の危険を感じた真由美は限界まて壁に身を寄せて逃げたが、何せ一人用の閲覧室だ。動けても20cmくらいだろう。

 

 その後も2人は閲覧室にいたが、身の危険を感じたはずの真由美は部屋から出ていこうとせず、顔を真っ赤にしながら座っていたのだった。




春休み編も制作予定ですので、その時に智宏と真由美の話も作りたいと思います。

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