中堅・中小企業で、社内の情報システムを一人で担当するいわゆる「ひとり情シス」。DXの加速化を背景に改善傾向が見られるものの、約3割の企業がひとり情シスを抱えています。 本記事では、ひとり情シスの実態やつらい点、情シスの採用と退職について解説します。
目次
ひとり情シスの実態
ひとり情シスは、目の前の実務に翻弄されながらも、インフラ整備からDX対応まで一人でこなさなければならないなど、重要な役割を担っています。ここでは、ひとり情シスの実態や業務範囲を紹介します。
ひとり情シスとは
ひとり情シスとは、中堅・中小企業で情報システム業務を一人で担当している状態をいいます。
2022年1月に一般社団法人ひとり情シス協会が発表した「ひとり情シス実態調査(※)」によると、従業員数100名から500名の「ひとり情シス」企業は、2021年調査で32%と、前年調査から微増の結果となっています。しかし、デジタルシフトや働き方改革を背景に、ひとり情シス企業における情シス要員の増員意向が2020年調査の34%に対して、2021年調査で58%と前年比71%増と旺盛な採用意欲を示しています。
※従業員50名から500名までの独立系、大手企業グループ系の中堅企業を対象
ひとり情シスの業務範囲は、こんなに広い?!
ひとり情シスの担当者は、PC設定からヘルプデスク業務など、日々生じる社内のIT対応をこなす一方、インフラ整備から社内システムの開発・運用、近年ではDX対応まで一人でこなしているのが実態です。
ここでは、ひとり情シスの業務範囲を解説します。
ヘルプデスク業務
日常的に多いのが、このヘルプデスク業務です。
PCトラブルからネットワークの不具合などのトラブル対応は緊急性が高く、速やかに対応する必要があります。また、基幹システムに関する問い合わせはもちろん、ExcelやWordといったオフィスソフトの使い方まで対応している企業もあります。
PC設定業務
次に多いのが、PC設定です。
PC設定作業は、OSやネットワークのユーザーアカウントやアカウントの設定といったキッティング作業があります。また、メールやグループウェアなどの設定作業も発生します。なかには、LANケーブルの引き回しやPC、ディスプレイの設置といった物理的な作業も情シスが担うケースもあるでしょう。
ネットワーク・サーバー構築
ネットワークやサーバー構築といったインフラ整備も、情シス部門の重要な役割です。
ネットワークは、事業所拠点数のほか、基幹システムや各業務システム、クラウドの利用状況を鑑み、設計・構築をします。サーバーにおいては、自社の規模やユーザー数、部門数や各部門の役割などを踏まえてドメインを構築するほか、サーバーの役割に応じたハードウェアの構成を立案することが必要です。
セキュリティ対策
セキュリティ対策は、あらゆるITへの対処が必要になる重要な役割です。
インフラをはじめとして、基幹システムや各種業務システム、メールやグループウェアなど、セキュリティ対策の範囲は多岐にわたります。情報漏洩やサイバー攻撃対策など、事業運営上、重要な役割です。
社内システムの開発・運用
社内システムの開発・運用は、業務システムの根幹を担う業務上、重要な職務です。
基幹システムを自社開発している、あるいはベンダーが構築したシステムを運用している場合、システム改修や日々のオペレーションなどを担います。
ひとり情シス企業の実態
ひとり情シス企業は、情シス部門の意欲や経営層の意識、DXの進捗など、課題を抱えていることは少なくありません。
ここでは、2021年1月に一般社団法人ひとり情シス協会が発表した「ひとり情シス実態調査(※)」の調査結果を踏まえたひとり情シスの実態や、ひとり情シス企業の課題を解説します。
ひとり情シスの職場環境は、「悲惨」と「高い意欲」の両極
調査結果によると、ひとり情シスの認識としては、約2割が悲惨な状況である一方、約4割が高い意欲を保っているとの調査結果がでています。この内訳は、「仕事内容に満足していない」、「現状の仕事内容に見合った給料を得ていない」、「モチベーションが低い」の三項目が全て該当する「悲惨」なひとり情シスは24.8%の一方、「モチベーションが高い」の項目が該当する「高い意欲」のひとり情シスは41.7%です。
「高い意欲」が「悲惨」を上回っているように、ひとり情シスは必ずしも悲惨な職場環境ではなく、各々で異なる感情をもっていることが窺えます。
さまざまなひとり情シスのタイプ
ひとり情シスは、スキルによってさまざまなタイプが存在します。
調査結果によると、PCのセットアップやオフィスソフトの支援、ベンダーとの取次業務に留まる「ひとりヘルプデスク」が27.2%、基幹システムの開発やIT戦略の立案のほか、インフラ構築からプログラム開発までこなす「スーパーひとり情シス」が14.3%がそれぞれ存在することが判明しています。
このように、情シス部門としての業務要件を満たさずサポートの一部に留まるタイプから、戦略立案までをマルチに担うタイプなど、ひとり情シスは、スキルによってさまざまなタイプが存在します。
中堅企業の9割がデジタル化に消極的
経営層の関与が成功のカギを握るデジタル化の推進。急速なデジタル技術の進展を背景に、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション:Digital transformation)に取り組むなか、中堅企業では、89%の企業がデジタル化に消極的との調査結果が、先述のひとり情シス実態調査から分かりました。
また、ひとり情シス企業では、「中期経営計画を組み込んでいる」、「社内にIT・デジタル化の具体的なメッセージを出している」と答えた企業は11.4%に留まっているように、DXの理解がない企業で、「苦悩するひとり情シスの実態」が見て取れます。
中堅企業ではほど遠いDX
調査結果によると、DXによって、企業競争力や顧客満足度の向上といった効果を上げた企業は、中堅企業でわずか10.3%。75.6%の企業が予算や人材を障壁に挙げているように、ヒト・カネといった経営資源がDXを阻害している実情が明らかです。中堅・中小企業に多いひとり情シス企業にとって、DXの推進が困難であることが数字面でも現れています。
ひとり情シスの退職・転職事情や採用難易度
一人で何でもこなすような「スーパーひとり情シス」タイプのような優秀人材は、転職市場で引く手あまたです。ここでは、ひとり情シス・ワーキンググループが実施する「ひとり情シス実態調査」の詳細レポートとしてZDNet連載の「「ひとり情シス」の本当のところ」を踏まえて、ひとり情シスの転職状況や採用難易度を解説します。
中堅企業における情シスの転職動向とひとり情シスの転職率
従業員100~1000人未満の中堅企業を対象に2018~2019年にかけて実施した調査では、IT担当者の21%が転職していたことが判明しました。この背景には、仕事やスキルの採用ミスマッチや、キャリアパスを踏まえた転職が理由に考えられます。このうち、一人情シスの転職率は30%を超える結果です。
参照:「ひとり情シス」の本当のところ:「第15回:ひとり情シスの3割が転職--優秀な人材は転職市場で「引く手あまた」」
退職したひとり情シスの後任人事
人手不足のなか、とくにIT部門における採用難は切実で、後任人事に苦労している企業は少なくありません。
ZDNET Japanの同記事によると、後任の52%は他部門からの社内異動で対応しているように、情シスの採用難が窺えます。この社内異動におけるキャリアパスは、情報システムの知識が乏しい場合、ヘルプデスク業務などが中心と考えられます。しかし、異動者のキャリアや経験によっては、経営に近い立場で活躍するケースもありますので、社内異動が一概に望ましくないとはいえません。
他方、48%は外部人材で対応していますが、2021年1月に一般社団法人ひとり情シス協会が発表した「ひとり情シス実態調査(※)」によると、ひとり情シスの転職元企業はITベンダーが51.7%を占めており、ひとり情シス協会では、今後のトレンドとなる可能性があると考えられています。
ひとり情シス企業の課題と対応
一人情シス企業では、担当者がひとりであることを理由とした課題が多くあります。ここでは、ひとり情シス企業における課題や対応策を解説します。
アンケートに見るひとり情シス問題
株式会社メタップスが実施した「”ひとり情シス”に関する実態調査」によると、ひとり情シスが感じている課題の上位は、次のとおりです。
・セキュリティ面への不安(59.3%)
・業務負荷が大きく手が回らない(51.9%)
・引継ぎがなされない、うまくできない(48.1%)
・業務が属人的になり引継ぎに不安(29.6%)
・相談できる人がいない(22.2%)
サイバー攻撃リスクや情報漏洩リスクなど、さまざまな情報セキュリティの脅威が生じている昨今、常に最新の知識の下で、セキュリティ対策を講じなければならないことに不安を感じていると考えられます。また、相談もできず、業務の負荷が大きすぎるといったことも、セキュリティ面の不安の一要素となっているものと思われます。
ひとり情シス問題の対応策例
ひとり情シス問題を解決するには、ツールやアウトソーシングなどの導入が有効です。ここでは、ひとり情シス問題の対応策の一例を解説します。
効率化ツールの導入
業務負荷の軽減や業務属人化の防止には、効率化ツールの導入が効果的です。
社内のIT機器やOSやソフトウェアの情報、アクセスログなどを一元管理が可能な「IT資産管理」や、素早いコミニュケーションやタスク管理が可能な「ビジネスチャットツール」を活用することで、情シス担当者の煩雑な業務改善することができます。社内問い合わせの低減が可能な「FAQツール」や、ファイルを共有・管理できるストレージサービスも有効でしょう。
自働化ツールの導入
業務負荷が大きく手が回らないといった場合には、自動化ツールの導入が有効です。
定型業務の自動化を実現できる「RPA(Robotic Process Automation)ツール」や、問い合わせ対応を自動化できる「チャットボット」を活用することで、大幅な業務負荷の軽減ができます。煩雑な業務を自動化することで、開発や経営の意思決定に関する分析など、コア業務に注力することが可能です。
アウトソーシング・コンサルティングの活用
ヘルプデスクなどの煩雑な業務は、アウトソーシングが効果的です。
また、セキュリティ対策や難易度の高い業務対応は、コンサルティングの活用によって解決することができます。DX推進に向けたクラウドシフト対応や、それに伴うサイバー攻撃リスク対策など、ひとり情シスの環境ではカバーしきれない対応を合理的・効果的に実現可能です。
外部勉強会の参加
ひとり情シス問題の解決や、モチベーションアップには、外部勉強会の参加が有効な手段のひとつです。
「同じ境遇の人材と相談できる」「他社動向を参考にできる」など、大きなメリットがあります。また、ひとり情シスは、社内で煩雑な実務に翻弄されることが日常なため、こうしたスキルアップの機会は意欲向上につながり、離職防止効果も期待できるでしょう。
まとめ
ひとり情シスの概要や、ひとり情シス企業の実態のほか、退職・転職状況や採用難易度、課題とその対応について解説しました。
ひとり情シスの意欲は企業環境によって高いこともあり、ひとり情シスは必ずしもマイナスの環境ではありません。経営層におけるDXの意識を高めて環境を改善することで、ひとり情シスの意識を高めることが可能です。
本記事が、ひとり情シスに関わる人や組織における課題解決の参考になれば幸いです。