※※ 忙し過ぎる………… 頭に過る四字熟語は『死屍累々』
蓮と話すの凄く久しぶりだなーって ほんとしみじみと感じちゃった。蓮も……同じなのかな。そうだったら嬉しいかもだね。いや 絶対嬉しいよ!
ほんとにほんと 凄く久しぶりだなって感じちゃったなぁあたし。話してる最初の方はほんとに緊張しちゃったみたいなんだ。
うーん…… これも全部全部ユリの計画通りなのかな? って思ったりしたんだけど 流石に幾らなんでもそれは無くて、偶然 蓮や大草くんとばったり出会ったんだって思う。
でも そこをすかさず色々と合わせたユリには ほんっと脱帽だよ。
その後だけど 色々と皆の勢いに圧されちゃって、2人きりになったんだ。その時は心臓がどうにかなっちゃいそうだった。痛いくらい鳴っててさ……。生きてるって実感出来てる? っていうのかな、こういうのってさ。
後、確かに色々と決心はしたんだよ? でもさ 決心したと言っても、いきなり! 途端に!! 蓮とばったり会うなんて一体誰が想像できるって言うんだよー! 無茶じゃんっ! ぜーーったい!!
あー 勿論 色々と愚痴っぽく言っちゃってるけどさ、とても感謝はしてるんだ。 すっごく感謝してる。ユリにはさ。後 乗ってくれた大草くんにも勿論ね。
最初こそは 凄く緊張したけど やっぱり蓮と話すのはとても楽しいから。たった数日程度でぽっかりと空いちゃったあたしの胸の中。……あたしがすっごく満たされてるのが判るから。
だから やっぱり あたしは――蓮の事が好きなんだって思った。
だからこそ訊いておかなきゃいけないって思ったんだ。
初めて蓮と出会ったこの屋上で……あの時のことを。
蓮と一緒にいた人のこと。
「その………前に、蓮が 女の子と一緒に……歩いてたけど、だれ……なのかな、って」
正直に言ったら本当は訊く事が怖かったんだ。
だって あの後ろ姿をみたら、誰だって想像しちゃうもん。……連想しちゃうから。夕日の中を2人で、腕を組んで、……そんなの見たら誰だってさ。恋人同士なんじゃないのかな、って。好き嫌いに歳なんか関係ないもん。だって、あたしも好きになっちゃったんだからさ。
それで訊いてみたら、……蓮 何だか固まっちゃったよ。
でも その蓮の気持ちは判るかも。だって 蓮は恥ずかしがり屋だって事知ってるし。知られたくないって思ってるんだって判るし。……でも、訊かずにはいられなかったんだ。蓮の口からはっきりと言ってほしい。……そうじゃないと あたしは進めないから。
蓮が何かを言おうとするまでの間、凄く長く感じたよ。何度か口をパクパクさせててね。違う内容の話だったら 餌欲しがってる金魚みたいだよー。って笑ってたかもだね。今は全く笑えないけど。ほんの数秒の時間の筈なのに、信じられないくらい凄く長く感じるから……。
「え、えと…… 東城の事……か?」
「え?」
蓮の口から出てきたのは、東城さんの名前だったよ。
これは今のあたしでも判る。……蓮、何か誤魔化そうとしてる? 気付いてないふりもしてる? 東城さんの話題だったら、ノンストップで回答。100点満点の回答をしてくる癖に! しかもため息とかセットでさ!
「だから……東城の事、かなぁーって思って。……だ、だって ほら! 西野、前にも東城と話してる所見てて色々あったじゃん?」
「………」
「だ、だから 今回もそれかなぁ……って。ほ、ほら 最近じゃ女子と話すのはマジで西野か東城だけだs「ちっがーうっ!!」っっ」
思わずあたしは 蓮の顔、両手で挟み込んじゃった。うん。凄く近い。蓮の顔が直ぐ前にある。それに顔が赤く、熱くなっていってるのが自分でも判る。
「蓮……絶対判っていってるだろっ!? 判ってて恍けてるんだろー!?」
「…………」
「それに 東城さんならあたしだって判るよ! 結構離れてたけど、それ位判るからっ! ……それに、学校じゃないっ! あの日、あたしと一緒に帰ったあの日! その……路上で…………、蓮、うで、くんでた……もん」
「ぁ……ぅ………」
ここまで言ったらほんと後退のネジなんてないもんね!
蓮は前に、顔が近いっ! って慌ててた時があったけど もうそんなの知らないもん! 全部、ぜーーんぶはっきりするまで、走り切るから!
「おしえて」
蓮の口からはっきり聴きたかった。歌の時とはまた全然意味が違うのがちょっと嫌だケド。
「あー……うー………んんん………」
蓮、何度も何度も……うん。唸ってるってヤツだね。唸って唸って、今度は考え込んでた。
何だか、こういうのって『二股かけてたんだろっ!』って問い詰めて、問い詰められた蓮はあたしに『どー言えば良いかなぁ、どー言い繕えば良いかなぁー』って色々考えてるって思っちゃうよ。
べ、別に……付き合ってる訳じゃ、ないんだけど。あくまで その…… そう見えるってだけだし!
「はぁぁぁぁぁぁ…………」
蓮はあたしの気も知らないで、今度はすっごい長いため息吐いてた。ちょっとムカってきたケド、何とか黙っていられたよ。顔には出ちゃったと思うけど。
「あのな……西野。ちゃんと話すよ。だけどここだけの話にしてほしいんだ。それが条件。……それで良いか?」
「……うん?」
「だから、そのー………」
あ、つまりは皆には内緒にしてって事かな。
蓮は恥ずかしがり屋だから。……でも、って事は やっぱり付き合って、コイビトだったりするのかな……?
「うん判った。……誰にも言わない、から。教えて。………お願い」
今度、胸の中に湧き出てきたのは聴くのが怖いって想い。蓮に会いに行けてなかった頃の気持ちだった。
でも、それでも、あたしは押し殺す事ができたよ。今のままは、絶対嫌だから。
「……あのな。あの時のは……………」
まさか あの時 西野に見られたとは思ってなかった。
呼び出しくらって直ぐ傍だったからちょっとは周囲を気にかけてたのに。そもそも西野は反対方向に帰って行ってたし。……なんで見られたんだろうなぁ。
オレが悪いのか、
でも、油断してたオレも悪いことは悪い。姉は冗談抜きで超がつく程の有名人だ。……色々と気を付ける事。昔から判ってたんだけど 新しい街に来た事で、大分緩んだみたいだったよ。それに 今まで見られなかったのって結構奇跡的なのかもしれないしな。
それは兎も角 西野にちゃんと説明したよ。
あの時一緒に歩いてたのは 姉。色々と頼まれごとがあったから付き合ってたって。……それで、姉は異常に過干渉だと言うか、色んな意味でぶっ飛んでるって それとなく伝えた。最初こそは西野、固まってたけど だんだん驚いた表情になってた。
あ、そうだ。それ以上に気になる事が出来たんだった。
「ここ、どこだ?」
「え? 何言ってんの蓮。入り口にでっかく書いてたじゃん『カラオケsea』って! カ・ラ・オ・ケだよ!」
「……………」
なんか判らんが、今オレと西野はカラオケ店に来てるらしい。屋上での一件後に そのまま直行したらしい。あまりの強引さと言うか急展開と言うか、今までの流れが完全に頭ん中から抜け落ちたよ。
「てか、一緒にいた友達は良いのかよ。ここまで来て今更だけど」
「ユリ? うん。メールも送ったし、大丈夫だよ(……が、頑張れって 言われたのがなんか恥ずかしかったけど……)」
オレ、もう一度ため息吐こうとしたら 西野に止められた。
「もーーっ 『今日は騒ぐぞーー! ストレス発散だーっ!』 ってあたしが言ってノってくれたのは蓮だろっ! なのになんでため息ばっかりするんだよーっ!!」
「ふがっ、ふががっ!! えふんっ!! ふぁ、ふぁるふぁったって!」
結構西野の力強い……。それに苦しい。苦しそうなのを察してくれたからか、西野手を離してくれた。でも、確かにため息ばかりつくのは 西野に失礼だよな。……でも、冷静に考えてみてくれよ? 2人きりで……カラオケ、ナンダヨ? 個室で照明かなり薄暗くて、2人きり……ナンダヨ?
「今日は蓮と一緒に歌います! 歌えるように願います! それが叶うまで帰しませんっ!」
「……いやいやいや、ここまで来といて逃げないって。店ん中入ってんだし」
「えー わっかんないよー! だって蓮逃げ足凄いし。屋上から飛び降りたと思ったらいつの間にか消えちゃってるしさ!」
「だから逃げませんって。西野サンのおおせのままにー、だって」
「うむうむ。余は でゅえっとをご所望じゃぞ? 蓮くん」
「……はいはい」
オレはすっごくドキドキしててヤバイのに 西野はなんか凄いハイテンションになってるみたいで凄く楽しそうだ。……でもまぁ 元気ないよりは断然いい。……西野は笑ってる方が良い。
「はい! 蓮。マイク持って」
「へーい りょーかい」
「んーとね。ほら、この曲で行こうっ!」
西野が入れたのは……あの時の歌だった。あの日屋上で歌った曲だ。
「よーし! 蓮に負けないからっ!」
「ははは…… なんの勝負だよ」
カラオケには採点機能はあるけど、今は勝負する感じじゃないんだ。まぁ その辺は勿論ツッコまなかったよ。
だって、この綺麗な笑顔をずっと見ていたかったから……。この際薄暗いこの個室だったから、ある意味良かったかもしれないな。まだ……見ていられるから。
勿論 絶対に口にはしないけど。
ガンガン歌ってすっきり笑顔なのは西野だ。
「ん~~~! あー、気持ちよかった~! やっぱり受験勉強で溜まったストレス発散は大声だよねー! 受かるかな、とか落ちるかもしれないな、とかぜーーんぶ忘れて気持ちいいっ!」
「勉強の内容までは忘れない様にな?」
「もう蓮っ! 水差さないでよー! 折角気持ちよかったのにー!」
「ぐええっ!」
『つかさパーンチッ!!』と、何だか真中みたいな掛け声とともに、西野からパンチを頂きました。これって所謂リバーブローと言うのだろうか、肝臓辺りに ぐぽっ! って入って それなりに……というか メチャ痛いし苦しい。身長差もあるから丁度入りやすかったのかな?
「おーい、蓮! そろそろあたし 門限もあるから帰ろうよー」
悶絶してるオレを差し置いて 笑顔で先に行く西野。
とりあえず NICE笑顔って言ってやりたいかも。からかいながら。
「……………………ふぅ」
……でも、今はちょっと待っててくれ。リカバリーまだだから。
さて、帰る前に喉乾いたかな。
「けふんっ……」
西野は ちょっと歌い過ぎたのか、咳き込んでいたよ。
「西野」
「こほっ……、んー? どうしたの」
「ほら、そこ。向こうにコンビニがあるだろ? ちょっと寄ってきていいか? ……ジュース、奢ってやるよ。なんか知らんけど、オレが結構振り回した(らしい)し。詫びだ」
カラオケで散々西野に説教のようなものをされたんだよな。 事ある毎に 『蓮が悪いーーっ』って。結構というか普通に理不尽だったけど まぁ 良いって訳だ。
「ほんとっ!? わー 嬉しいな。ありがとー 蓮」
「ん。ひとっ走り行ってくる」
「え? あたしも行くよ??」
「いや、もう時間も遅いし。門限あるんだろ? ささっと行ってくるから待っててくれ」
西野の言葉を待たずに、オレは走り出した。
『ありがとー 蓮!』
それだけで充分。 こちらこそ ありがとうだ。
だって嬉しかったから。西野と一緒にいられた事もあるけど、何よりもカラオケ。……久しぶりだったから。本当に久しぶりで、心の底から楽しいって思えたから。
これくらいで良いなら、幾らでもだ。
まぁ……パシリになるのは嫌だけど