描かれる物語も表現方法も多様化
そして、現代のストリップを語る上で欠かせないのが演目のバリエーションだ。先ほども書いたように、ストリップは基本の形式に乗っ取っていれば、その後の演出は自由に選択できる。「脱ぎ」という枠の中で、それぞれが自身の個性を活かしたエロスを追及する。その面白さにハマっていく人が多い。
たとえば、先日NHKのドキュメンタリー番組『ノーナレ』に出演した香山蘭は、「反戦歌」という演目を持っている。戦禍に翻弄され、恋人を失い、自暴自棄になった女性が再生するまでの物語を合計約45分、3部構成で演じるものだ。1部ごとそれぞれにダンスとベットを入れ、セリフなしで戦中から戦後までの女性の生き方を表現している。ちなみに、戦争をテーマにした演目自体はオンリーワンというわけではなく、現役のストリッパーでは黒井ひとみ「上海バンスキング」、葵マコ「ほたる」なども評価が高く、これらの演目はもはやエロを組み込んだ一人芝居の様相に近い。
こうした物語性の強い演目もあれば、古風なストリップのイメージに直結する花魁の生き様を描く演目、セクシーな女教師が攻めてくるというAV的な文脈の演目などもあり。もちろん、シンプルなダンスを踊りきった後、ベットではゆっくりとその身体を見せつけるようにポーズを取っていくスタンダードな演目もある。そのエロスの表現は一様ではない。
また、身体表現の方法そのものも多様化している。近年注目を浴びているのは「空中」でのパフォーマンスだ。天井から下ろした布を身体に巻き付け、空中でポーズを取るエアリアルティシュー。フラフープほどの大きさのリングにつかまり、時に激しく回転しながらダンスを構成するリング。正確には空中ではないが、ポールに身体を巻き付け、ステージから身体を離して踊るポールダンスなど。高い身体能力を備えた演者によるパフォーマンスが増えているのだ。
10年以上空中演目に取り組んできた第一人者・浅葱アゲハは、ほっそりした身体全体に均整の取れた筋肉をまとい、ダンス、ベットという制約にさらに空中でのパフォーマンスを加えながら、さまざまな物語を演目に組み込んでいく。重力から自由になったかのようなその姿は、性別を超えて多くの人を引きつける。空中演目は現代のストリップの多様性を象徴するものの一つと言っていいだろう。
武藤つぐみも、空中パフォーマンスによりその人気を拡大していったストリッパーの一人だ。もともと、ダンススキルの高さや、役柄が憑依したような演技で高い評価を得ていた武藤だが、その存在感をストリップ劇場の外に知らしめるようになったのは、現在のようなボーイッシュな見た目になり、空中技を披露するようになってからだろう。
狐面をつけて宙を舞った
もともと武藤はボブカットに小柄な身体を活かした、いわゆる「ロリ売り」AV女優だった。しかし、ストリップに出続けることにより、自然と身体は「ロリ」に反した筋肉質な肉体になっていく。身体に合わせるように髪を切り、ボーイッシュな見た目を手に入れることで武藤に憧れを抱く女性が新しく増えていった。
「女の子はすごくキラキラした目で見てくれるんですよ。たまに泣いてる子がいたり。男の子は『ふーむ、なるほど』みたいな感じなんですけど(笑)。一見さんでもすごく楽しそうに観てくれるから、ついつい手を振っちゃう。そうすると『キャッ』ってなってくれたり。そういう時はジャニーズになった気分ですね」
また、浅草ロック座でも彼女の身体能力を信頼し、エアリアルポールなどの新しい空中技や、緊縛師HajimeKinokoとのコラボといった新しい試みを任せるようになる。
体力的にも精神的にも過酷な演目を任されることもある武藤だが、「『これ出来るでしょ?』ってプロデューサーに言われると、つい『やってみます』って言っちゃうんですよね」と笑う。
「最近だと『WonderLand』という公演でエアリアルポールをやって。それも経験無かったんで、深夜に劇場に行って毎日ポール触って練習しました。終わった後はいつも『二度と乗らねえ~~』って思うんですけど、オファー来たらすぐ『はい』ってなっちゃって。『はい』っていうことは、やりたいんですよね」
通常のエアリアルティシューとも、ポールダンスとも違うエアリアルポールは、空中に吊さげられたポールにつかまり、回転しながらポーズを決めるという非常に難易度の高い技だ。この公演の準備から開演までの様子はBSでのドキュメンタリー番組『ストリップ劇場物語』として取り上げられ(BSフジや日本映画専門チャンネルで放送)、多くの好意的な反応を引き出した。
武藤つぐみのエアリアルポール
すごい体幹であることは間違いない
また、同番組のナレーションを担当した人気講談師・神田松之丞が武藤に惚れ込み、ラジオや雑誌で取り上げるなど、連鎖的なストリップのメディア露出の増加につながっている。
一方でストリッパーたちの劇場外活動も増えており、演劇やダンスパフォーマンスのほか、美しく均整のとれた肉体を活かしてモデルを行うものや、演者としての参加だけでなく、自分自身でダンスや芝居をプロデュースするものを表れている。
これまで「日陰の芸能」と言われがちだったストリップ界に新しい視点での注目が集まるのと同時に、ストリップで得た表現力を活かして、活躍の場を広げていくストリッパーがいる。性風俗でもあり、同時に表現でもあるという不思議な芸能は、今新しい展開を見せつつあるのだ。
ストリップの世界を内外に広めるアイコンとなりつつある武藤に、今後の目標を聞いてみると、「これ、ちょっとふざけてると思われるかもしれないんですけど、シルク・ド・ソレイユに行きたい……。それで、情熱大陸に出て『今の自分があるのは浅草ロック座のおかげです』って言って恩返ししたいなって」という答えが返ってきた。
浅草から世界へ。広がり続けるストリップの世界は、これからどのようにして外の世界へ届いていくのか。芸能であり性風俗でもあるストリップは、今岐路に立っているのだ。
(取材・文/池田録)
初めてのストリップ劇場 川上奈々美 in 浅草ロック座
注:ストリップ劇場は場内写真撮影禁止。電子機器の取出しそのものがNGのところも少なくありません。劇場内でのルールに従いましょう。「顔出しNG」のストリッパーも多いため、撮影した写真をSNSなどに掲載する場合は、必ず本人に事前に許可をもらいましょう。