ゲームアワード多数ノミネートで注目のSi-Fi南部ゴシックアドベンチャー『NORCO』をプレイ

実際の南ルイジアナの石油精製工場コミュニティを舞台にした異色作

※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください

ビデオゲームファンにとって、その年のゲームオブザイヤーを語り合う年末年始のホリデーシーズンは楽しい時間だが、次の年が始まってから今くらいまでの時間も、また素晴らしいものであるはずだ。前年発売のゲームを表彰する各種ゲームアワードの結果発表である。ゴールデンジョイスティック、DICE、IGF……。そういった賞のノミネート/受賞作品の発表は、多くのファンにとっては知らないゲームや見逃したゲームを発見するいい機会になるはずだろう。

さて、そういったアワードのノミネート作品のリストを熱心にチェックしているファンであれば、複数のアワード・部門に『NORCO』というゲームが登場しているのに気づいているかもしれない。これは各所で高い評価を受けていて、ぼく自身も個人的な2022年ベストゲームとして挙げている、非常にユニークで面白いゲームである。主要ゲームアワードの部門賞を獲ったりはしていないのだが、トライベッカ映画祭のゲーム部門で賞をもらったりしている。

この記事では、まだ日本語圏ではあまり語られていないこのゲームを軽く紹介していく。一体本作はどんなゲームなのか? 何がユニークで、何が評価されているのか? そのあたりが少しでも伝わればいいなと思っている。

『NORCO』は基本的にはポイントアンドクリックのアドベンチャーゲームである。ストーリーのジャンルはSi-Fi南部ゴシックと銘打たれていて、南ルイジアナにあるノルコという街とその周辺の地域を舞台にしている。

物語はふたつのタイムライン、ふたりの主人公を通して語られる。

まず、最初に語られるのはケイのストーリーだ。ケイは高校を卒業したあと家を出て、荒廃したアメリカを放浪していた。そんな中、出来の悪い弟から母のキャサリンがガンで死んだということを知らされる。そして彼女は5年ぶりにノルコに帰ってくるのだが、今度は弟の行方がわからなくなっていた。ケイは彼のことを探しに行くのだが……という話である。

もうひとつはケイの母キャサリンのストーリー。彼女はガンに冒されていた。彼女は、死ぬ前に子どもたち(ケイとその弟)に金を残さねばと思い、奇妙なギグワークアプリに参加し「スーパーダック」と呼ばれる存在の依頼を受ける。そして彼女は「モール・ナチ」と呼ばれるカルト集団が占領するショッピングモールに向かう……という話だ。

10時間程度のプレイ時間のなかで、このふたりの女性の冒険が交互に描かれて、そのなかで弟・ブレイクの行方不明やキャサリンの請けた依頼の裏にある陰謀などが明かされていくのである。

本作の舞台になる街でありタイトルにもなっている「ノルコ」だが、これは実際に存在する街/コミュニティの名前である。アメリカ、ニューオーリンズ、南ルイジアナ。ミシシッピ川のそばにある国勢調査指定区域のひとつだ。この地域の名前は1900年代初頭にこの土地を購入して精製工場を建てたニューオーリンズ石油精製(New Orleans Refining Company)の頭文字から取られていて、地域の半分以上はこの精製工場の土地である。Googleマップなどで地域の航空写真を見ると、白いタンクや煙突がズラリと並び、そのすぐ横に住宅街があるのが確認できるはずだ。ゲーム中の言葉を借りると、「(工場から出る)ハロゲンや炎が夜空の星たちを覆い隠してしまう」ような土地らしい。そんな地域だから、工場と住民の間のトラブルや、健康や環境への被害も頻繁に問題になる。

本作はこういった石油精製工場のコミュニティの出来事や特性を、半架空のノルコを使って描いている。それらはキャサリンを死に追いやるガンや、キャサリンの夫=ケイの父の命を奪った工場の爆発事故といった形でゲーム中にしばしば登場する。現実の2005年に起こったハリケーン・カトリーナによる水害なども盛り込まれている(ケイたちの家は3度浸水している)。

本作がおもしろいのは、そういった悪い記憶や経験のなかに、奇妙な愛着も感じられるところだ。ゲームの冒頭のテキスト、「工場の立てる騒音は止むことはなかった。あなたは……」に続く選択肢にこういうのがある。「未だにこの音がないと眠れない」。ゲームのクリエーターはこの土地にルーツを持っていて、工場の稼働による悪影響を受けてなお、土地に対して強い繋がりを感じているようだ。

さて、どこかで「サイバーパンクはハイテクとローライフだ」というのを読んだことがある。どこで誰が言ったかは忘れたのだが(たぶんウィリアム・ギブスンとかだ)、かなり印象に残っている言葉で、自分もそうだと思っている。

その定義を採用すると、『NORCO』は完璧にサイバーパンクである。顔面に星雲を渦巻かせたセキュリティロボット、人の意識や記憶を機械に移し替える技術、「肉のネットワーク」と呼ばれるスーパーダックなどのハイテク要素たちが、近未来のアメリカ南部のローライフのなかに溶け込んでいるのである。バイユーの湿地の匂いや物理的/精神的な閉塞感のなかに超現実的テクノロジーが登場するのは不思議な感覚だが、非常にマッチしている。

リアルのノルコの出来事と架空のノルコの出来事の融合、ローライフとハイテクの融合が生み出すマジックリアリズムの空気は唯一無二である。ボンヤリとした永遠の夕暮れのようなアートや音楽も素晴らしい。

スクリーンショットや描かれている舞台などを見ると、ずっしりとした、徹頭徹尾シリアスなゲームのようにも思えるが、本作には多くのユーモアが散りばめられている。

古いホットドッグを食べた男がどうやって排便したかを長々と聞かされたり(というかキャサリンが喋らせる)、クリスマスソングしか聴かない男がいたりする。多くのプレイヤーにとって最初のパーティーメンバーになるだろう、ボテッとしたサルのぬいぐるみ(5年間放置されて怒っている)もカワイイ。そういった笑いは本作をプレイしやすく、かつ印象深いものにしてくれる。

本作のメインテーマは、石油精製工場のコミュニティでの経験や感情だが、もうひとつ、ゲームが探究しているテーマがある。「家」だ。本作はこのテーマを物理的な面・精神的な面から探究している。工場や水害のような出来事によって引き起こされる物理的な離散・分断、あるいは精神的な分断。『NORCO』は実在のコミュニティをモデルにした非常に個人的なゲームだが、この家というテーマは多くのプレイヤーにそれぞれの固有の感情を思い起こさせるはずで、それもまた本作のおもしろい部分である。

『NORCO』が扱うテーマやその描き方は全てのゲームファンがハマるものではないと思うが、テーマに興味があったり、ビデオゲームというメディアが今どんなことをやっているのかを知りたかったりするならば、本作は必見である。今のところ日本語ローカライズの予定などはアナウンスされておらず、やや遊びにくいかもしれないが、プレイすれば忘れられない一作になるはずだ。

『NORCO』は現在各プラットフォーム向けに発売中。

※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください
In This Article

NORCO

Geography of Robots
  • Platform / Topic
  • PC
  • XboxSeries
  • XboxOne
  • PS4
  • PS5