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岐路に立つ外国人収容者とともに 牧師・宮島牧人さん

記事公開日:2021年04月04日

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牧師の宮島牧人さんは、入管(出入国在留管理局)の施設に収容されている外国人との面会を10年以上続けています。これまで200人以上の身元保証人を引き受け、収容者の拘束を一時的に解く「仮放免」につなげてきました。しかし、過酷な収容生活から解放されても命の危機にさらされる状況は変わりません。宮島さんの活動と半生を通して、弱い立場に置かれた外国人収容者の現状と問題を考えます。

入管収容施設が抱える問題点

現在、日本には200万人以上の外国人が暮らしています。一方、ビザが切れるなどして不法滞在となった人たちは全国の入管施設に収容され、多いときには1300人以上が拘束されています。日本にいる外国人の問題に取り組んできた牧師の宮島牧人さんは、外国人収容施設は刑務所よりひどい場所だと考えています。

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牧師 宮島牧人さん

「刑務所には刑期がありますが、入管は無期限。いつ出られるかわからない。出口の見えない真っ暗なトンネルの中にいる苦しみを味わっています。過酷な長期収容や、強制送還されるかもしれないという不安で、精神的に追い込まれる人が多い。(収容施設の)中にいるとどんどん精神的にも弱っていくし、病気を発症していく人が多くいます」(宮島さん)

収容者の大半に国外退去命令が出されており、約9割は母国に帰りますが、残りの約1割が帰国を拒み、入管施設内にとどまっています。難民申請をしている人は、政治や宗教上の理由などで国に帰ると迫害を受け、命に危険が及ぶからです。また、迫害の恐れがなくても、日本で家族ができ子どもが日本で生まれた場合など、子どもは日本語しかわからず、国に帰ると生活が困難だといいます。

「あるウガンダ人の男性は、反政府組織に拉致されて、強制的にメンバーとさせられた。そして、彼は政府軍に逮捕されて拷問を受けました。家族も政府軍に殺されて、命からがら日本に逃げてきたのです。フィリピン人の女性は、日本の男性と結婚してお子さんを出産。しかし、その夫と事情があって別れて、結婚ビザが更新できずオーバーステイになって収容されてしまいました。でも、彼女は子どもと一緒に日本で暮らしたいと言っている。実際に家族が引き裂かれて、親だけ強制送還されたケースもあります」(宮島さん)

入管には、収容施設での拘束を一時的に解いて外に出られる「仮放免」の制度があります。その申請に必要なのが保証人と保証金ですが、保証人を見つけることが収容者にとって大きなハードルです。宮島さんは、保証人を引き受ける活動も積極的に行い、これまで200人以上が仮放免になりました。コロナ禍以降、集団感染防止のため、仮放免になる人は増えましたが、根本的な問題の解決にはなっていないと宮島さんは考えています。

「入管収容所は3密で、各所から指摘を受けて、一回目の緊急事態宣言のあと、一気に仮放免を出した。しかし、仮放免になった人は働くことが禁止されているので、生きていくすべがない。イギリスでは、1日に何ドルかの金銭的な支援を受けていると聞きます。けれども、日本ではそのような公的な支援がまったくない。基本的に日本から出て行け、あなたたちの命を保障する必要はない、という発想しかないので、仮放免されたとしても問題の本質は変わらず、非人道的です」(宮島さん)

原体験となったさまざまな人との出会い

宮島さんは静岡県生まれで、父親と祖父はともに牧師という家庭に育ちました。父親は、障害のある人たちの施設を運営し、「人を見た目で判断してはいけない」と言い続けてきました。属性で判断するのではなく、一人ひとりが大切な人間だ、と説く父親のもとで、宮島さんは成長していきます。

その後、宮島さんは農業を学ぶため北海道の大学に進学したものの、オートバイで事故を起こし、身心に傷を負ってしまいます。軽いうつ症状になりますが、ある講演会がきっかけでフィリピンを訪れたことで立ち直りました。

「経済的に貧しい人たちと出会って学ぶべきものがあるという講演でした。非常に感銘を受け、すぐにフィリピンに行き、若者たちと一緒に2か月、寝食を共にした。豚の世話をしたり、マングローブを植えたり、時にはお酒を一緒に飲んだ。その生活を通して励まされ、交通事故で負った心の傷が癒やされ、うつ状態から立ち直れた。それが私にとって(外国人を支援する活動へつながる)原体験だったと思います」(宮島さん)

その後、牧師になるための神学校に入学した宮島さんは、実習で出会った牧師から茨城県・牛久市にある入管施設を紹介され、聖書にある言葉(マタイによる福音書25章)を告げられます。

「マタイによる福音書25章は『社会の中で置き去りにされていくような、小さきものに手を差しのべる。それはイエス様に対してすることでもある』という、私も非常に共感する聖書箇所です。40節に『この最も小さき者のひとりにしたのは、私(イエス)にしてくれたことなのである』とあって、最も小さき者の内訳が書いてある。『牢屋に入れられたときに私を訪ねてくれた、旅をしていたとき私をかくまってくれた』。外国へ旅をしているような人が牢屋に入れられたような状況になっている、それが入管施設とつながってくると、牧師が言ったんですね。それまで入管なんて知らなかった私にとっての導き、大きなきっかけになりました」(宮島さん)

入管法改正の今、宮島さんが伝えたいこと

宮島さんは、2009年から茨城県・牛久市の入管施設での支援活動を始め、2013年に東京・町田市の教会に赴任してからは、品川の入管施設を拠点に活動するようになりました。ところがこのあと、収容者を取り巻く状況が一気に厳しくなります。

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品川にある東京出入国在留管理局

「当初、仮放免は6か月くらいで許可されることが多かったんですけれど、2017年から18年ごろから一気に厳しくなって、収容の長期化が進みました。その背景に、国が東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて治安維持強化、不法滞在の外国人を大幅に減らすという方針を打ち出したことがあります。それに加えて入管の通達でも、収容に耐えがたい傷病者でない限り収容を継続し、送還に努めると。つまり仮放免は出さないという方針が打ち出されました」(宮島さん)

収容期間が長くなった結果、収容されている人たちの苦しみが増していきます。

「あるインド人男性の保証人を引き受けて、3回目の仮放免が不許可になった。その翌日、彼はシャワー室で命を絶ってしまった。私はこれを聞いて、大きなショックを受けました。彼が自分の命を絶ったことは、構造的な暴力の犠牲者なんだと。仮放免が許可されず、強制送還になるかもしれない絶望的な状態に追い込まれた被害者だったと受けとめています」(宮島さん)

入管の長期収容などの問題を巡っては、2020年に国連人権理事会の作業部会が国際人権規約に反するとして、日本政府に改善を求めました。実はこの出来事は、宮島さんが保証人になってきたイラン出身のサファリさんという男性が、仲間とともに国連に窮状を訴えたことがきっかけで起きたことでした。

「サファリさんはイラン革命によって自由を奪われ、危険を感じて1991年に観光ビザで日本に来て、建築現場で真面目に働いていた。当時、90年代はサファリさんのように就労ビザを持っていない外国人がたくさん働いていました。働く現場も必要としていたし、入管側も黙認していた」(宮島さん)

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来日して働いていたころのサファリさん

ところが、サファリさんは2010年に突然、入管施設に収容されます。宮島さんと出会って、初めは収容1年ほどで仮放免になりました。2016年に再収容されてからは3年以上も仮放免が許可されませんでした。そんな中、2019年に全国の収容所で広がった、長期収容に対する抗議のハンガーストライキにサファリさんも参加します。

「ハンストって命を落とす危険もあるので、『止めて、食べて』と言うんですけれども、国に帰ったら本当に命の危険がある。ハンストを止められないんですよね。自分の存在意義がなくなるまで追い込まれている。サファリさんは、体重が15キロから20キロも減ってしまって、摂食障害となって食べても戻しちゃう。さらにうつを発症してしまう。本当に大きなダメージを負ってしまいます」(宮島さん)

その後、サファリさんたちは弁護士のサポートを受けて国連人権理事会の作業部会に手紙を送り、厳しい状況を訴えます。それを受けて国連人権理事会は、無期限の長期収容や、司法による監視が定められていない等の理由で国際人権規約に反するという意見書を出し、日本政府に対して改善を求めました。
指摘を受けた日本政府は、2021年2月に入管法の改正案を閣議決定。その後、名古屋入管でスリランカ人女性が死亡する事態が発生したことなどを受け一度廃案になりましたが、2023年、政府は再び、当初の法案の骨格を維持した入管法改正案の成立を目指しています。宮島さんは、政府の改正案には大きな問題があると考えています。

「政府の改正案では、引き続き長期収容できてしまう。そして、司法審査が入らずに恣意的に運用できてしまう。つまり、国連から指摘された問題の根本的な解決をまったく盛り込んでいない。さらに問題なのは、政府が長期収容の解決案として提案している『監理措置』という制度です。“一定の条件を満たせば収容所から出られて、社会生活ができる”とうたってますが、国外退去命令が出ている人には就労が認められていない。仮放免と同じです。でも、今回の監理措置制度は、仕事をした場合には、(仮放免の規定にはなかった)刑事罰が新設されている。刑務所に入れられてしまう可能性がある。もっと厳しくなるんです」(宮島さん)

さらに深刻なのが難民申請についてです。

「今まで、難民申請は何回もできました。しかし政府が、“3回目からは強制送還できる”という規定を出したんです。認められないために難民申請を繰り返さざるを得ない状況に追い込んでいるにもかかわらず、3回超えたら強制送還できてしまうなんて、命が失われかねない。本当に危険です」(宮島さん)

外国人収容者をさらに苦しめる入管法改正案が可決するかもしれない状況。宮島さんには、多くの人に知ってもらいたいことがあります。

画像(牧師 宮島牧人さん)

「国連に手紙を出したサファリさんが、私に言っていました。『3年8か月、入管で本当につらい思いをしたけど、日本に来てよかった。日本はやさしい人がいっぱいいる。日本で普通に暮らしたい』と。そんなサファリさんや、多くの外国の人たちの思いを、私たちはどう受けとめたらいいのか。その人たちは私たちと同じ普通の、ただ国に帰れない、帰りたくない事情がある人たちだと。外国人、不法滞在者といって排除するだけで本当にいいのだろうか。誰しもが困るときがある。助けを必要とするときがある。外国人であろうと、どんな違いがあっても、違いを乗り越えて助け合っていく。今まさに、私たち一人ひとりの隣人としてのあり方が問われていると思います」(宮島さん)

政府の入管法改正案は、2021年3月6日に名古屋の入管収容施設でスリランカ人女性が死亡する事態が発生したことなどを受け、2021年5月に一度廃案になりました。スリランカ人女性の死の真相解明や、法案内容に課題があるとして、野党や世論の反発が高まったためです。しかし、2023年3月7日、政府は2年前に廃案となった法案の骨格を維持した「入管法改正案」を閣議決定し、国会での成立を目指しています。

宮島さんは、2023年の法案を受けて、「非常に危険な法案だと危機感を強めています。特に、“難民申請を3回以上すると原則強制送還できる”とする規定ですが、私が支援してきたイラン出身のサファリさんは、現在3回目の難民申請中。危険な目に遭ったから逃れてきたというイランに強制送還されたら、命が危ない。政府は改正とうたっていますが、変わっていないのは、すべての判断は入管に任されているということです。司法審査や第三者の目は届きません。名古屋入管で亡くなったスリランカ人女性をはじめ、多くの人の死が“入管のブラックボックス”の中で起こりました。根本的な構造を変えず、さらに厳しい規定を盛り込んだ政府の法案の問題を、多くの人に知ってほしい」と話しています。

※この記事は宗教の時間 2021年4月4日(日曜)放送「岐路に立つ外国人収容者とともにありて」を基に作成しました。情報は放送時点でのものをもとに、一部、更新しています。

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