四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第15話 九校戦スタート

 

 

 

 智宏、達也、幹比古は昨晩は掃除(・・)をさせられていたが、それに構わず九校戦は開幕した。

 一高最初の出場選手は真由美、競技はスピード・シューティングだ。

 

 智宏と達也、深雪が観客席に向かうと、最前列に智宏の知った顔が何人かいた。

 

 

 「おーい。達也くーん」

 「エリカじゃないか」

 「ここ、ちょうど3人分取っといたよ」

 「すまんな」

 

 

 そこには制服を着たエリカと美月を始めとする一高1年が集まっていた。

 3人が座ると、ちょうど競技が始まろうとしていた。今回のスピード・シューティングは予選。一高は最初に前回の成績優秀者である真由美が選ばれた。

 

 真由美はシンプルな形をした小銃形態のCADを持って射撃位置に立つ。

 するとほのかが達也に話しかけた。

 

 

 「知ってます?七草先輩って『エルフィン・スナイパー』と呼ばれているらしいですよ」

 「あたしも知ってる〜」

 「ほのか、会長はその異名をあまり好んではいなさそうだから本人の前では言わないほうがいいぞ」

 「あ、そうですよね・・・わかりました」

 

 

 智宏達は真由美の真後ろに座っている。偶然かそれとも声が聞こえたのか、真由美はくるりと身体ごとこっちを向いた。

 周りからは自分の高校の生徒を探しているのだと思われるが、智宏からすれば真由美の目はしっかりと智宏を見ていた。

 

 真由美は一瞬ニヤリとするともう一度射撃位置につく。

 CADをかまえると会場は一気に静かになる。するとブザーが鳴り響き、フィールドの横からクレーが発射される。

 真由美は次々にクレーを破壊し、生徒達が見守る中で全てのクレーを撃ち抜いた。予選からパーフェクトを出した事により、会場は歓声に包まれた。

 

 ほのかや英美が歓声を上げる中、智宏は達也や深雪と軽く微笑んで拍手をしている。結果がわかっている智宏達には当然の反応なのだ。

 智宏が真由美を見ていると真由美はもう一度こちらを向き、一高の生徒が居る方に向けて大きく手を振った。真由美本人は智宏に手を振っているつもりなのだろうが、ファンが見るとファンサービスに見えるみたいらしくさらに歓声(主に男子)が大きくなる。

 智宏も目立たないように小さく手を振ると、真由美は少しだけポッと赤くなって会場から出ていった。

 

 智宏は後ろから謎の圧力がかかった視線に耐えながら次の選手を見ている。

 この視線に気がついているのは達也と深雪、それとエリカだ。エリカは視線の出どころを見るとニヤニヤしている。よからぬ事をを企んでいるのかもしれない。

 その視線を出している張本人の雫は、嫉妬しながら自分も同じ競技で競うから頑張ろうとしっかり意気込んだ。

 

 一行は次のバトル・ボードの試合会場に向かう。ちなみに摩利が出場するのは第3レース。

 バトル・ボードの最高速度は約60km。ボードに乗っているだけの選手に風除けはない。向かい風を受けるだけでも体力はかなり消費するだろう。

 

 

 「ほのか。体調管理は大丈夫か?」

 「大丈夫です。達也さんにアドバイスしていただいた通りにしていますから」

 「お兄様、ほのかも随分と筋肉が付いてきたんですよ?」

 「ちょ、やめてよ深雪。私マッチョになるつもりはないよ」

 

 

 達也は真剣にほのかに聞いていたつもりが、口をはさんできた深雪とほのかの会話に思わず吹き出してしまう。

 

 ほのかは達也の反応を見るとますます顔を赤くする。

 

 

 「深雪〜。達也さんに笑われちゃったじゃない」

 「笑われたのはほのかのせいだよ」

 「し、雫まで・・・いいわよ別に。2人と違って私は達也さんに全部見てもらえないもん」

 

 

 落ち込むほのかに達也がフォローを入れる。

 

 

 「ほのか。ミラージ・バットは俺が調整してあげるだろ。練習にも付き合ったじゃないか」

 

 

 だがそれは逆効果のようだったらしく、ほのかはますます落ち込んでしまう。

 達也はやってしまったと思ったが既に手遅れ。ちよっと気の毒な気分になる。

 

 すると今度は美月が話に入ってくる。

 

 

 「達也さん、ほのかさんはそういう事を言っているのではないと思いますよ?」

 「お兄様・・・鈍感すぎます」

 「あれ?達也君の弱点発見〜」

 「朴念仁」

 「なっ!」

 

 

 美月、深雪、エリカ、雫の集中砲火を浴びせられた達也は言葉が詰まって何も言えなくなってしまう。確かに達也は感情のほとんどがないとはいえ、ここまでひどいとは智宏も思わなかった。

 

 智宏は笑いながら視線を戻すと、第2レースが終わって次のレースの選手が出てきた。

 

 

 「おーい。先輩来たぞ」

 「ほんとだ・・・・・・む、相変わらず偉そうな女」

 

 

 達也から視線を戻したエリカは選手の中に摩利を見つけるとなぜか悪態を吐く。

 

 摩利は既にコースの上に待機している。他の3人がしゃがんでいるか片膝をついているのに対し、摩利は腕を組んでまるで女王のように立っていた。

 今4人がいるのは水の上。魔法を使っていないので、ボードの上に待機する時に大抵の選手が片膝をつく。しかし摩利は自信たっぷりな顔でボードの上に立っている。これは摩利のバランスを維持する能力が高い事を表している。

 

 アナウンスが選手の紹介を始める。

 摩利の名前が呼ばれると観客席が真由美の時同様他の選手よりも応援の声が大きい。

 摩利は観客席に手を振ると1高だけでなく他校の女子生徒までが黄色い声を上げた。智宏が耳をすましてみると「摩利様ー!」という声が聞こえる。

 

 

 「渡辺先輩は女子にも人気なんだな」

 「先輩はカッコイイですもの。当たり前です」

 「ふん。どうせ作ってるのよ」

 

 

 摩利の人気に智宏達はそれぞれ感想を言っているが、それをよそに試合が始まろうとしていた。

 

 スタートした瞬間、四高の選手が後方の水面が爆破した。

 おそらく他の選手を撹乱するつもりだったらしいが、自分もバランスを崩してしまっては意味が無い。

 だが摩利は何事もなかったかのようにスタートダッシュを決め、あっという間に独走状態に入っていた。

 摩利はボードと自分をひとつの物体として移動させている。つまりボードは摩利の足としてなっているのだ。曲がり角を鮮やかにターンし、スピードを維持したまま走り続ける。

 

 智宏と達也は摩利が何をやっているのかに気が付いた。

 

 

 「なるほど。硬化魔法と移動魔法のマルチキャストか」

 「ん?どういう事だ?」

 

 

 硬化魔法と呟いた達也に真っ先に反応したのはレオだった。

 

 

 「ボードと自分の相対位置を固定しているんだ。硬化魔法が物体の強度を高める魔法じゃないのは解ってるだろ?」

 「使ってるしな。当然だ」

 「渡辺先輩は自分とボードを1つの物体として固定している。その上移動魔法を使っているんだ。流石だ」

 「へぇ・・・そりゃすごいな」

 

 

 レオも自分が得意な魔法故に摩利がどれだけ高度な技術を使っているのかは理解できる。

 智宏も感嘆を漏らしている一方で説明を終えた達也は――

 

 

 「面白いな・・・・・・これなら・・・使えそうだな・・・・・・」

 「お兄様?」

 「ん・・・?なんでもない」

 

 

 達也が解説をしている間に摩利はぐんぐん進み、坂を登りきって滝をジャンプ。

 着水と同時に水面が波打つ。その波は摩利の後を急いで追ってきた選手を呑み込み落下寸前まで追い込んでしまった。

 現在コースを半周したが、もう誰が見ても摩利の勝利は確定だろう。

 

 

 「戦術家だな」

 「ああ」

 「性格が悪いだけよ」

 

 

 エリカは憎まれ口でコメントしたが、それが本心なのかそうでないのかは誰にもわからない。

 だが戦術に関しては褒め言葉だろう。

 

 

 

 

 

 




さすがは3年生。

誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます

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