四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第14話 賊

 

 

 「達也ー」

 「ん?智宏か」

 「やぁ四葉君」

 「こんばんは五十里先輩」

 

 

 達也は五十里と共に作業車の中で起動式のアレンジやチェックをしていた。

 智宏が作業車の中に入った時、2人はまだ集中していたが、智宏の声ですぐに作業を中断する。

 

 

 「そうだ。司波君はもう戻ってていいよ。僕はもう少しやるから」

 「もうこんな時間ですか。わかりました、お疲れ様です」

 「うん、おやすみ」

 「達也はいいとして、先輩は大丈夫なんですか?」

 「2年生は明日から試合だからね。しっかりやらなくちゃ」

 「そうですか・・・頑張ってください」

 「ははは。後輩の期待には答えたいかな」

 

 

 智宏と達也は五十里に軽く挨拶すると作業車を出る。

 もう夜は遅く、ホテルの方を見ると1部の部屋が消灯している。おそらくそこの部屋は2年生と3年生が止まっているのだろうとすぐに察しがついた。

 

 智宏が雫とほのか、達也は深雪が泊まっている部屋を見ると部屋の電気が消えている。この時彼女達はまだ地下の大浴場から帰ってきていなかった。智宏と達也も深雪達が地下にいるのはしっかり視えている。ただし、場所を把握しているだけで何をしているのかまではわからない。

 

 2人はそのまま部屋に戻ろうとする。

 しかし、ホテルの生垣に偽装した侵入防止のフェンスを何者かが突破したのをすぐに感じとった。

 

 それと同時刻。

 幹比古は自分の術の特訓を密かに行っていた。一年前の事故で力を失い、本来参加するはずだった九校戦を父親に見てこいと言われ、渋々エリカに同行したのだ。

 精霊を周りに纏わせている今の幹比古は美月から見れば綺麗な光景だったかもしれない。

 

 

(今の僕は一年前よりも力がない。でも完全に失ったわけじゃない!特訓を重ねれば僕だって・・・・・・ん?)

 

 

 生垣の方に精霊が反応し、幹比古は精霊を何匹か飛ばす。

 すると精霊はバチンと弾けた。

 

 

(精霊が!?しかも『悪』の気配がする・・・侵入者!?誰か呼びに行かなきゃ)

 

 

 幹比古は侵入者を確認すると、急いでホテルに戻ろうとする。しかし足はホテルではなく侵入者の方を向いていた。

 

 

(いや、僕でもやれる。やれるんだ!)

 

 

 侵入者はホテルに向かい生垣に沿って走り出す。幹比古も同じように走り出し、呪符を空に展開する。

 すると侵入者は幹比古に気がつき、持っていた拳銃(CADではなく実弾銃)を幹比古に向けた。

 

 智宏と達也も走り出し、侵入者達を視界に収めるが、そこに侵入者と並行して走っている幹比古の姿を見つける。

 幹比古は呪符を展開しているが―――

 

 

 「幹比古?」

 「智宏、あれでは間に合わない」

 「わかっている。俺が足止めする」

 「了解した」

 

 

 智宏は重力魔法で侵入者のバランスを崩させ、タイミングよく達也は侵入者が持っている全ての銃火器をバラバラに分解した。

 すると幹比古の術が発動し、侵入者3人を雷撃が直撃した。

 

 雷撃を放った幹比古は、仕留めたと言うよりも自分の無力さに悔いていた。

 

 

 「いったい誰が・・・あの時僕はやられていたのに・・・誰だ!」

 「俺達だ」

 「おっす」

 「達也、智宏」

 

 

 幹比古は再び気配のする方向に殺気を出しながら警戒する。

 すると暗闇から現れたのは智宏と達也だった。

 

 幹比古はホッとして警戒を解く。達也は侵入者に近づき状態を見ている。

 

 

 「ありがとう。智宏達が手伝ってくれたんだね」

 「まぁな。達也、どうだ?」

 「死んではいない。幹比古、いい腕だ」

 「いいや。発動スピードは遅かった僕の失態だよ」

 「ふうん・・・しかし何者だ?」

 

 

 智宏が気絶した犯人を監視するのを確認した達也は立ち上がり、幹比古をまっすぐみつめる。

 達也の口から出たのは励ましの言葉やフォローではなく、幹比古の術に対しての反論だった。

 

 

 「俺はそうは思わない」

 「え?」

 「お前自身は何も悪くない。悪いのは術式だ。幹比古の術式は無駄が多い」

 「何だって?」

 「幹比古の術式には無駄があると言ったんだ。発動方法でもなく、術式そのものが」

 「達也!君は吉田家が代々使う魔法が欠陥品だと言いたいのか!」

 「幹比古、俺にはわかるんだ」

 「何が!」

 「俺は視ることで魔法の構造が分かる。視るだけで起動式を読み取って解析する事が可能なんだ」

 

 

 幹比古はこの達也のセリフに混乱する。

 そんな事ができる魔法師なんて聞いたことがない。

 もしかしたら自分にはたどり着けない領域に達也はいるのかと感じてしまった。

 

 すると達也は話はこれで終わりだと言うように無理やり話題を変えた。

 

 

 「今はここまでにしよう。幹比古、警備員を呼んできてくれないか?」

 「うん。わかった」

 

 

 幹比古は『跳躍』の魔法でホテルに戻っていく。

 達也はその背中を視線で追いながら周りに気を張る。

 

 

 「智宏」

 「ん?大丈夫。しっかり気絶してるな・・・・・・誰だ!」

 

 

 智宏は茂みの向こうに誰かがいるのを感知した。

 達也はさほど慌てている様子はなく、誰だか分かっていたみたいだ。

 

 問題の人物はすぐに姿を表す。

 

 

 「まさか気づかれるとはな。ところで達也、少し容赦ないんじゃないかね?」

 「少佐・・・」

 「少佐?」

 「はじめまして、四葉殿。私は国防陸軍第101旅団・独立魔装大隊の隊長をしている風間です」

 「俺は四葉智宏です。あなたが達也の上官ですか?」

 「そういう事になるな」

 

 

 風間玄信。

 達也と同じように九重八雲に教えを受けており、イデアにアクセスしていない状態の達也には風間の気配は察知できない。

 

 

 「達也。君が他人にあのような事を言うのは珍しいのではないかね?」

 「自分はあの程度の悩み・・・卒業しております」

 「そうかね」

 「少佐。この者達をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 「構わんよ。基地の司令官には俺から言っておこう」

 「ありがとうございます」

 「では達也。明日の昼にでもゆっくり話そう。四葉殿、今回の件は・・・」

 「わかっています。内密にしておきます」

 「すまないな」

 「少佐。それでは失礼します」

 「ああ」

 

 

 智宏と達也は風間と別れてホテルに向かう。

 途中幹比古と会ったが、巡回中の警備員が先に3人を引っ張っていったと言うと少しだけ不思議そうな顔をするが、すぐに納得して幹比古も部屋に戻っていく。

 

 智宏は達也にさっきの侵入者の事を秘密にしておけと改めて言われた。幹比古にもメールで注意したらしい。

 理由は聞かなかったが、試合前というだけあってわざわざ表に出す義務はないのだと智宏は思ったのだった。




少佐も相当お強いはず

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