四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第10話 事故?

 

 

 「うふふ。ねぇ智宏く―」

 「会長。四葉君には迷惑をかけないでくださいね」

 「り、リンちゃん?まだ何もしてないわよ?」

 

 

 真由美は智宏を隣の席に座らせ、なおかつ智宏に近寄ろうとする。しかし(真由美にとって)悪いタイミングで後ろの席に座っていた鈴音がストップをかける。

 

 真由美はビクッとしてすぐに智宏から離れた。

 

 

 「会長は四葉君と司波君を毒牙のターゲットにしたらしいですね」

 「違うわよ。智宏君と達也君はなんというか・・・弟?みたいなノリで接してるだけよ?」

 「弟ですか・・・(司波君はそうだとしても四葉君に対してはどうなのでしょうか?)」

 

 

 智宏は真由美のからみ相手が鈴音に変わった事で少しだけ自由になれた。

 

 それと同時に真由美の言ったことが気になった。自分と達也の事を『弟』と称していたが、おそらく自分と達也どちらかが真由美と並んでも真由美は年下に見られてしまうのではないだろうか?

 確かに真由美は2人より小さい。そして自分では大人ぶって『お姉さんキャラ』をやっているつもりだろうが、智宏から見ればそれがまだ子供のように見れた。真由美には兄と妹が何人かいたはずだが、弟だけはどうやらいないらしい。なので自然と弟を求めてしまうのかもしれない。

 

 そんなしょーもない事を考えていると、智宏の隣(通路側)に誰かが立っているのに気がつく。それはブランケットを持った服部だった。

 

 

 「あ、服部先輩」

 「はんぞーくん?」

 「会長・・・どこか悪いのですか?先程からゆっくりしておられない様子ですが」

 「ち、違うわよ?」

 「会長が我々を気遣っているように我々も会長が心配なの・・・で・・・す・・・」

 

 

 服部は何を勘違いしたのか、真由美のためにブランケットを前から持ってきていた。

 真由美に話しかけるのはいい。しかし服部にとってそれは少し可愛そうな結果になる。

 服部は真由美を見て話している。つまり真由美の姿をもろに見るのだ。今日の真由美は肌を露出している所が多い。服部の視線は徐々に真由美の露出している太ももや肩に向いていった。

 

 智宏はその視線に気づいていたが、いち早く反応したのは真由美の後ろで服部を見ていた鈴音だった。

 

 

 「服部君。どこを見ているのですか?」

 「・・・え、あ!なんでもないです!と、とにかくこれを!」

 「そうですか?四葉君、少し席を立ってあげてください」

 「あ、わかりました。服部先輩が会長にブランケットをかけて差し上げるのですね?ではどうぞ」

 「えぇ・・・?」

 「なっ!」

 

 

 鈴音が珍しく服部をからかい、智宏もわざとらしく席を立って服部がブランケットをかけやすくしてあげた。すると真由美は胸元を手で隠し、恥ずかしそうな上目遣いで服部を見た。

 真由美は服部が自分に対してはどのような感情を持っているのか知っている。なのでそれを利用して服部をからかって遊んでいるのだ。その証拠に今の真由美の目には嗜虐心が浮かんでおり、内心楽しんでいるように見えた。

 

 鈴音は服部の反応を見て満足したのか、視線を手元のタブレットに戻した。

 服部が固まったままなので、ひとまず智宏が動く。

 

 

 「服部先輩。ブランケットは俺が」

 「あ、ああ」

 「会長」

 「ふふっ。2人共ありがとね」

 「はい!失礼します!」

 

 

 前の方で智宏達が騒いでいると同時に、さっきまで固まっていた服部を見てため息をついている者がいた。

 摩利である。

 

 

 「何をやってるんだあいつらは?」

 「はぁ・・・」

 「ん?」

 

 

 呆れている摩利の隣で、つられたのかもう1人がため息をついている。

 1回だけならよかったのだが、回数を重ねられると鬱陶しい。

 

 

 「おい花音。なんで2時間も待てないんだ?」

 「あっ、それは酷いですよ!あたしだってそれくらい待てます!」

 「じゃあなんだと言うんだ?」

 「私バスは選手とエンジニアは同じだと思ってたんです。せっかく啓と旅行気分が味わえると思ったのに・・・なんでエンジニアだけ別の車なんですか?まだこっちにも席はあるのに!私は啓と座りたかったんです!」

 

 

 胸(?)を張ってギャーギャーと文句を言い続ける花音に、摩利は表面に出さないようにもう1回ため息をついた。どうやら花音は五十里が絡むとちょっとめんどくさい事になるのかもしれない。

 

 そしてその後ろでも不満を抱えている少女がいた。それは雫ではなく深雪だった。

 深雪は花音のように人に文句をぶちまける行為はしなかったが、かえってそれが周りの生徒は怖かったらしい。

 いい加減見ていられなくなったのか、ほのかが勇気を振り絞り深雪に話しかける。

 

 

 「深雪・・・お茶いる?」

 「ごめんなさい。今はいらないの」

 「暑くない?大丈夫?」

 「ええ。でもあんな暑い中お兄様は文句ひとつ漏らさずに会長を待っていたのに・・・」

 「・・・ダメだよほのか。深雪に達也さんの事を思い出させちゃ」

 「ご、ごめん」

 「全く・・・」

 

 

 ほのかがうっかり達也を思い出させるような事を言ってしまう。深雪の周りからは少しずつ冷気が漏れており、ほのかは寒そうにしている。

 しかしその後の雫の迅速な対応により、バスの中が氷漬けになる事は避けられる。それどころか深雪は達也に陶酔しており、達也の妹とは思えないほどのとろけっぷりを見せていた。

 

 智宏も深雪を鎮めようと立とうとしたのだが、いつの間にか真由美が智宏の手をしっかり握りながら寝てしまったので立とうにも立てなかった。

 この状況を誰かに見られる心配もある。しかし真由美は肩からブランケットを被せており、智宏の手はブランケットの中に引きずり込んでいるのでその心配はない・・・と信じたい。

 

 智宏もホテルに着くまで寝ようとする。しかし――

 

 

 「あ!危ない!」

 

 

 と花音が声を上げて立ち上がった。

 智宏もつられて外を見ると、反対車線で一台の車がガードレールにぶつかっている。まだそれだけならよかったのだが、車はガードレールにぶつかった後その勢いなのかこちらの車線に飛び込んで来た。

 そしてあろう事か車は炎上して逆さまになり、屋根がギャリギャリ音を立てて1高のバス集団に突っ込んでくる。

 

 運転手はブレーキを踏み、車体を横にしてバスを止めた。

 

 

 「「止まれ!」」

 「止まって!」

 「お前ら待て!」

 

 

 花音と森崎、雫は車を止めようとし、摩利は3人を止めた。

 だが――

 

 

 「え?」

 「なんで魔法が発動しないの!?」

 「まさかCADの故障か!?」

 

 

 3人は魔法が発動しない事に驚いている。

 それはCADの故障でも個人のミスでもない。智宏が領域干渉を発動させたのだ。

 

 智宏は真由美の手を振り切り、席を立ってバスの中を睨みつけている。そしてその指についているCADからは魔法が発動されているのがわかる。

 花音は自らの魔法が発動しない原因を智宏にあるとすぐに悟った。

 

 

 「四葉君!何するの!」

 「何?おい四葉」

 「後にしてください。今はそれどころではありませんよ。深雪は火を、十文字先輩は車を止めてください」

 「はい」

 「任せろ」

 

 

 深雪は智宏に言われるまでもなく、声をかけられた瞬間に魔法を発動し車の炎を鎮火した。もちろん領域干渉は切ってある。いや、切る前に達也が領域干渉を吹き飛ばしたというのが正解だろう。本当にこの兄妹は仕事が早い。

 

 そして鎮火した車を克人がファランクスで壁を作って受け止める。

 二次災害はなんとか防がれたが、バスの中では深雪を除いて智宏に疑問を持っている生徒がほとんどだった。

 

 その中で最初に口を開いたのは摩利だった。

 

 

 「四葉」

 「はい」

 「さっきのはなんだ?まさかとは思うが・・・」

 「渡辺先輩の思っている通りだと思います。俺が使ったのは『領域干渉』。対抗魔法です」

 「やはりか」

 「「領域干渉?」」

 「領域干渉だと!?」

 「領域干渉は効果範囲内の自分より低い干渉力を持つ魔法を完全無効化します。さっきの3人の魔法は無効化させていただきました」

 「なんでよ!」

 「いや花音。四葉の言う通りだ。あのままお前達が魔法を発動していたら司波は炎を鎮火できなかったはずだ。全く・・・1年の2人はともかくお前は2年なんだ。それくらい理解しろっ!」

 「痛たた・・・はい」

 

 

 バスの中の空気も入れ替えられ、魔法を発動しようとした3人は(特に摩利から軽い拳骨をくらった花音は)反省して大人しく席に座っている。

 ただ、克人とさっき起きた真由美は同じ十師族として智宏に新しい警戒心を生んだ。まぁ真由美はすぐに忘れてしまったのだが・・・

 

 

 「智宏君、深雪さん、十文字君、ありがとう。もちろんリンちゃんもね」

 

 

 真由美は衝突事故を防いだ4人に礼を言う。鈴音は何もしていなかったかのように見られたが、実は1高のバスが緊急停車する時に止まるのをサポートしていたのだ。

 

 これで丸く収まった。しかし摩利の中の疑問はまだ解決していなかった。

 

 

(あの時領域干渉は吹き飛ばされた。一体誰が・・・・・・まさか・・・な)

 

 

 事故の後片付けは達也達エンジニアに任せ、智宏達選手は先にホテルに向かう。作業も達也と五十里が中心になって交通整理をしたり車から死体を引きずり出していた。

 

 そしてバスの中では――

 

 

 「ホント凄かったわねぇ」

 「そ、そうですね(ん?この鋭い視線は雫だな・・・後で謝っとこう。後は誰だ?深雪か?なんで?)」

 「雫?怖いよ?」

 「むう・・・」

 「雫。それくらいにしておいたらどうかしら?(智宏兄様は雫の気持ちを知っておられるのでしょうか?)」

 

 

 ホテルに着くまで真由美はさらに智宏にくっつき、智宏は後ろから感じる2人分の視線に耐えていたのだった。

 




この事故は予言だったのだろうか

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