四葉を継ぐ者   作:ムイト

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第5話 選手

 

 

 

 智宏が転入してから数日後、智宏は真由美に誘われて生徒会室で昼食をとっていた。もちろん達也と深雪も一緒だ。

 

 で、智宏を昼食に誘った本人は弁当箱に箸を伸ばしている回数が少ない。突っついている回数の方が多いかも。

 そしてこれで何度目かわからないため息が真由美から漏れる。

 

 

 「あーあ・・・選手の方は十文字君が担当してくれたからなんとかなったんだけど・・・」

 

 

 今日の昼食は真由美の愚痴を発する溜まり場のような感じになっている。

 智宏達は視線を交わし、内心ため息をついた。もうどうしようとできないと。

 

 智宏・・・というか生徒会室にいる真由美以外全員の気持ちも知らずに真由美は愚痴を続ける。

 

 

 「選手が少ないのもあるんだけど、1番の問題はエンジニアよ」

 「まだなのか?」

 

 

 摩利もその話題には賛同するようで、真由美に話しかける。

 

 

 「ええ。ウチは魔法師の志願者が多いから魔法工学関係の人材が不足しているの。2年生はあーちゃんとか五十里君とかがいるけどまだ数が足りないわ。特に危ないのは3年生よねぇ」

 「3年は実技がほとんどだからな。ところで五十里は調整得意なのか?」

 「いいえ。でも贅沢言ってられないわよ。せめて摩利が自分のCADを調整できればいいんだけど」

 「・・・本当に事態は深刻だな」

 

 

 真由美の半目の視線に摩利は顔を背けて外を見た。

 智宏は隣を見ると達也が深雪に目配せをしている。もしかしてでもなく教室を出たいのだろう。

 

 

 「ねぇリンちゃん。エンジニア――」

 「無理です」

 

 

 真由美は鈴音に何度目かわからないアプローチをし、見事撃沈している。

 鈴音もいい加減慣れたのか、返事はまだ真由美が話している途中で返していた。

 

 真由美はすっかり意気消沈してしまう。

 達也は今だと言わんばかりに席を立とうとしたが、そこで思わぬ伏兵に遭遇してしまった。

 

 

 「あの、司波君とかどうですか?」

 

 

 まさかのあずさから真由美に支援が入ってしまう。達也は椅子から立つタイミングを逃してしまった。

 

 

 「ほえ・・・・・・・・・?そうよ!盲点だったわ!」

 「あー、確かに私も見落としていたよ」

 「そうですね。司波君は深雪さんのCADの調整をしてるらしいですし」

 

 

 真由美に続き摩利と鈴音に会話が広まってしまった。達也はもはや逃げるという選択肢はないと感じていた。

 その顔には何も映っていないだろうが、内面は不満だらけだろう。

 

 あずさを加えた3年生組は達也のこれまでの実績を再確認している。(主にあずさがマシンガントークをしているだけ)

 そして結論が出たのか、4人揃って達也の方を向いた。

 

 

 「コホン。達也君、エンジニアやってくれないかしら?」

 「俺は構いませんが他の生徒の反感を買うだけなのでは?」

 「それは・・・」

 

 

 達也の言う通り、達也がエンジニアとして九校戦に参加するとなると1科生がうるさいだろう。

 しかしここでも思わぬ所から支援攻撃がはいる。

 

 

 「大丈夫です!お兄様なら絶対にできます!それに反対する有象無象共は深雪がなんとかします!」

 「深雪!?」

 「じゃあ俺も賛成」

 「と、智宏」

 「じゃあ決定ね!」

 「・・・はぁ、わかりました」

 「これでエンジニアの方は楽になりそうね。あとは選手なんだけど・・・智宏君、新人戦だけでも出場してくれないかしら?」

 「俺ですか?もちろんいいですよ。初めからそのつもりでしたし」

 「そう!じゃあ出たい競技とか決めといてね!できれば早めに」

 「はい」

 

 

 摩利と鈴音、あずさは気づいていないだろうが、これは四葉の実力を世間に知らしめるための布石なのだ。

 真由美や克人も十師族として充分にアピールしている。四葉も遅れをとるわけにはいかないのだ。

 

 そのため真由美は気がついているだろう。

 自分もそうだったから。

 故に詳しい事情は聞かない。というか聞けない。

 

 とりあえず現状はなんとかなったので、生徒会室は先程の重苦しい空気は消え去っていた。

 

 昼休みもそろそろ終わる頃、智宏は出たいと考えた種目を真由美に進言した。

 

 

 「会長」

 「何かしら?」

 「俺はアイス・ピラーズ・ブレイクに出ようかと思うんですけど・・・空いてますか?」

 「棒倒し?うーん・・・リンちゃん、どう?」

 「問題ありません。新人戦の男子アイス・ピラーズ・ブレイクはまだ定員は空いています。空いていないのはモノリス・コードとバトル・ボードですね」

 「ありがと!じゃあ智宏君。いい?」

 「任せてください」

 

 

 九校戦において、選手は2つまでの種目に参加できる。

『アイス・ピラーズ・ブレイク』は縦12m、横24mのフィールドを半分に区切り、それぞれの面に縦横1m、高さ2mの氷柱を12個ずつ配置し、相手陣内の氷柱を先に全てを倒すか破壊した方が勝者となる競技だ。

 選手は遠隔魔法のみなので、フィールド内限定であれば魔法の安全規制が解除されるために九校戦で最も過激と言われている。

 ちなみにユニフォームは自由であり、選手は思い思いの衣装を身に着ける事ができる。

 

『モノリス・コード』は自陣に設置されたモノリスを守りながら敵陣のモノリスを攻める競技。3人一組でチームを組んで戦う。

 勝利条件は、敵陣のモノリスに隠された512文字のコードを腕についている端末に打ち込むか、相手チーム3人全員を戦闘不能にすることで勝利となる。

 

『バトル・ボード』は紡錘形ボードに乗って人工水路を走る競技。かなりのスピードが出ており非常に強い向かい風を受けるため、選手は結構体力を消耗してしまう。

 選手の体やボードに対する魔法攻撃や直接攻撃は禁止されているが、水しぶきを上げるといった魔法で水面に干渉することは禁じられていない。

 4人1組でレースを行う。水路は狭いため、いざという時に救護班が近くに待機しているらしい。

 

『スピード・シューティング』は通称「早撃ち」と呼ばれ、30m先の空中に発射されるクレーを魔法で破壊する競技で制限時間内に破壊できたクレーの個数を競う。

 予選は5分間の間に発射される100個のクレーを破壊した数で競うスコア戦。 準々決勝からは紅白の標的が100個ずつ用意され、自分の色のクレーを破壊し、破壊した数を競う対戦型となっている。

 

『ミラージ・バット』は女子限定で、立体映像の球体を、専用のスティックで叩いて消し、その数を競う競技。球体の位置まで素早く飛ぶ事が勝利の鍵だ。

 ちなみに周りからは競技中の姿から、「フェアリーダンス」とも呼ばれている。

 

『クラウド・ボール』は握りこぶしより小さめなボールを、ラケットまたは拳銃型CADを使って制限時間内に相手コートへ落した回数を競う競技。

 九校戦の中で最も試合回数が多く、1日で試合が最大五試合組まれる事がある。

 テニスに似ている。

 

 これらの種目には1年生限定の新人戦と1年生から3年生まで参加できる本戦がある。

 新人戦では自分の能力を他校や世間に広められる最初のチャンスだ。本戦では上級生との実力差に負けてしまうが、新人戦は同じ1年生なので経験の差で負ける事は少ないだろう。

 

 ちなみに深雪が出場する種目はアイス・ピラーズ・ブレイクとミラージ・バットとのことだ。

 

 昼休みも終わりに差し掛かってきた頃、あずさはうーんと唸りながら課題を進めていた。

 あずさ以外はお茶を飲んだり生徒会の作業をやっている。

 

 

 「あーちゃん。課題終わる?」

 「会長〜」

 「しょうがないわね。何やってるの?」

 「『3大難問』の解決を妨げている理由についてです。2つはできたんですけど・・・汎用的飛行魔法がなぜ実現できないのかが説明できないんです」

 「それならいくつかの事例があるじゃない」

 

 

 それが上手く説明できないんですとあずさは首を横に振る。

 魔法による飛行中に新たな動きを加えるためには魔法を重ねがけしなければならず、1人の魔法師が重ねがけできる回数はせいぜい十段階。それ以上魔法を行使した場合、魔法式が解けて落下してしまうのだ。

 一応これが飛行魔法が実現できない理由だ。

 

 また、鈴音が言うには一昨年前にイギリスで実験が行われたが、結果は失敗。

 真由美も少し期待したが、結果を聞いてがっかりしていた。

 

 

 「やっぱり無理なのかしら・・・智宏君はどう思う?」

 「俺にそのような知識を求めないでくださいよ。俺より達也の方がいいと思います」

 「じゃあ達也君」

 「そうですね・・・まず先程のイギリスでの実験は基本的な考え方が間違っているのですよ」

 「え?」

 「例えば――」

 

 例えば、魔法式Aを打ち消すために魔法式Bを発動しても魔法式Aは効力を失っただけで完全に消えはしない。

 従って、イギリスでの実験は消したと思っていた魔法式がまだエイドス上に残っていたのが原因だったのだ。

 

 真由美も鈴音も達也の答えに呆気にとられている。まさか年下の二科生がここまで考えていた、そして自分の考えにきちんとした結論をもっていたなど思ってもいないからだ。

 

 真由美は3人を代表して達也に質問をした。

 

 

 「つまりイギリスの実験は余分な魔法を掛けちゃっていたってこと?」

 「そうです」

 「なるほどねぇ」

 

 

 達也が説明を終え、説明した本人を除いた全員がうーんと考えている中、昼休みが終了したチャイムが学校中に響き渡った。

 智宏は達也と深雪の3人で生徒会室を出る。

 するとあずさが課題を終わらせていない事に気が付き、外まで聞こえそうなくらい大きな声で悲鳴(?)を上げていたのだった。

 

 

 




課題は早めに終わらせよう

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