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仄暗い夕焼け

 陽の光が燃えるように輝き出し

 地平線へ頭を傾げるように沈んでいく

 たなびく雲が時折太陽を隠し

 その破片が虹彩を放つ

 雪のように白いあなたは

 なぜかそこから目を離さない

 

 悲しいかな

 誇らしく南中する太陽に呪いをかけるように

 夜の帳が音もなく近づく黄昏

 隼は駆ける

 いつまでも終わらぬ平原の中をただひたすらに

 

 光線に顔を射抜かれた美しいあなたは

 やがて嫌そうに瞼を閉じる

あまねく放たれる金色の扇に

否が応でも天からの召集を受ける

これは悪い夢なのだろうか

再会のない黄昏の恐怖


何かを憐れんでいるあなたが

いつか本当に憐みの渦中に吸い込まれそうだから

陽の光へ傾こうとするあなたの顔に

私はそっと手を添える

「どうしたの」

「死を感じたんだ」

「わかる、この夕陽に触れてはいけない」

私たちはきっと儚い

美しいものを美しいとは捉えられない

孤独とは違う

全てを溶かす猛毒に囚われた二人で

夕暮れを借景に空虚をいつまでも悲しんでいたい

狂気に包まれた黄金の平野で

恐ろしいほど甘ったるい夢をいつまでも見ていたい

 

 ほんの少しでも油断すれば

 あなたがいなくなってしまいそうだから

 早く私の創った虚しさの中に

 あなたをずっと閉じ込めてしまいたい

 凍りついた皮膚を裂き割って

 真紅の生命を見たいがために

 あなたの顔に手を触れたい

 

 高鳴りの止まらない心臓の音が

 きっとあなたには聞こえてしまっていそうで

 天空から見下ろした函館の港町も

 あなたへの感動を語る土台でしかない

 一歩踏み外せば奈落の底

 あなたはその一歩を踏み出そうとしている

 そこにはもう

 ただ仄暗い夕焼けがあなたの背中を突き刺すだけ

 

 海風の滞留が私たちの身体を冷やし

 思わず私はあなたのことを抱きしめた

 ここは天と距離が近い

 黄昏の合間へ連れ去られぬよう神に抵抗する

 そんな私を見てあなたは微笑む

 「まだ、寒いね」と

 そこにはもう

 ただ仄暗い夕焼けがあなたの背中を突き刺すだけ

 

 いよいよ空が燃え出した

 あたりの色は金色から血のように赫くなる

 あまりにも美しい虹と闇の裂け目

 今日も死の影に手を振って見送る

 そこにはもう

 ただ仄暗い夕焼けがあなたの背中を突き刺すだけ

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仄暗い夕焼け|富士回遊