ティーパーティーに転生した3人組 作:お前ら人間じゃねぇ!!
4章はギャグ多めになると思う
男はその日、行きたくもない会社の飲み会で無理矢理飲まされ、赤面して千鳥足になるほど酔っ払っていた。
そんな男の手にはコンビニで買った明日の朝食やお菓子が入っていたレジ袋を持ってきた。
男は自宅である安アパートの帰り、玄関の鍵を探すが見つからない。服のポケット、カバンの中、思い当たるところ全てを探して見つからず途方に暮れているとすぐ隣から話しかけた。
「鍵ならボクが持っています。数時間前にそこで落ちていたのを見つけて…」
そう声を掛けたのは中学生ほどの少女で、サイズが合っていない服を着ていた。
どうやら男は一度帰宅してから飲み会に行った際に鍵を玄関前に落としてしまっていたらしい。
その鍵を見つけてくれた少女にお礼を言って家の中に入ろうとすると少女のお腹が空腹を示すような音がなった。
「お腹減ってるの?お母さんは?」
時刻は10時。街灯があるとはいえ中学生ほどの子供が1人で玄関の前、こんな時間帯に子供が1人で外にいて、お腹を空かせ、座り込んでいるのは不自然であると思い、聞いてしまう。
「お母さんは幼い頃に亡くなりました」
男はその言葉で酔いが覚める。知らなかったとはいえ失礼なことを聞いてしまったと思い、反省する。
「えっと…一緒に住んでいるご家族は?」
「お父さんがいます」
「ならお父さんは…」
「今女を連れ込んでいるので終わるまで帰ってくるなと言われました」
その言葉に男は絶句する。ネグレクトや虐待などではないかと。しかし男にはどうすることもできない。
「えっと……お菓子食べる?」
男は言ってから後悔する。20代後半の大人が中学生の少女にお菓子をあげるのは何らかの事件を疑われても不思議ではないと。その証拠に少女は警戒の目を男に向けていた。
「いや!別に変な物は入ってないからね!鍵を拾ってくれたお礼にだから。そこのコンビニで買ってきたお菓子だし、箱入りの者から袋に入っている物しかないから!あっ!ほら証拠にレシート。時刻や日付的に細工する暇はないだろ?」
「……必死すぎですよ。おじさんの反応を見て嘘は言ってないと分かりましたし」
「お、おじさん……俺まだ20代なんだけどな……」
「ではお兄さんと」
「そう呼んでくれ。おじさん呼びは心臓というかメンタルに悪い」
少女は男が広げて見せたレジ袋の中からポッキーを取り、男にお礼を言った後食べ始める。
「美味しいか?」
「はい、懐かしいです」
「そうか。家には何時頃に帰れるんだ?」
「時間的にも後1時間以内だと思います」
「じゃあ俺はこの辺で。もしも何かあったら頼ってくれ」
「いいんですか?」
「流石に見て見ぬふりをできるほど人間性が終わってるわけじゃない」
そう言って男は鍵を開けて家の中へ入って行った。
「……変な人」
女性のように見える少年の呟きは夜の闇に消えた。
男が少年と知り合って数週間。
男は驚きのあまり口が塞がっていなかった。
「えっ……君って男の子なの!?ずっと女の子だと思ってた……ごめんね」
「別にいいですよ。昔から間違われてばかりなので慣れました」
「いや、慣れているからと言って、失礼なことをしたのは事実だ。謝礼として何かコンビニで買ってくるよ。何か欲しい物ある?」
「……では一緒に行ってもいいでしょうか?何があるか知らないので」
「いいよ」
時刻は夜の7時。外は暗いが犯罪にはならないと考え男は許可を出した。
2人は歩いて5分もかからない距離にあるコンビニへ足を運び、ラジオ放送がかかっている店内でカゴを持ちながら商品を見ていく。
「……お酒好きなんですか?」
少年は男が買い物カゴに入れたビールと酎ハイを見て言った。
「あんまり強くはないけどね。それよりも欲しい物決まった?」
「はい……これです」
少年がそう言って男に見せたのは激辛焼きそばであった。男は一度食べたことがあるので知っているがまともに食べられるような辛さじゃない。
「本当にそれがいいの?もっとケーキとかプリンとかじゃなくていいの?」
「はい。お兄さんの部屋でお湯を入れてもらってもいいですか?」
「いや、それはいいんだけど……」
男は諦めて買うことにした。同時に飲むヨーグルトも買い物カゴに入れ、自分用の普通のカップ焼きそばも購入して帰路につき、自身の部屋で沸かしたお湯を外にいる少年のカップ焼きそばに入れる。
3分経ったらお湯を捨てて、匂いだけでも鼻が痛くなりそうなソースやかやくを入れて外で待っている少年に渡す。
「はい、お箸とおしぼりと水と飲むヨーグルト。あとマヨネーズ」
「いただきます」
しかし男の善意で用意されたマヨネーズや飲むヨーグルトは意味がなかった。なぜなら少年は美味しそうに激辛焼きそばを頬張っているのだがら。
「うそーん……」
男は少年を怪異かなにかを見るような目で見てしまう。
「……一口貰ってもいい?」
「……うっ……いいですよ、どうぞ」
その行動は好奇心と過去が味を酷く思い出させているのではないかという疑いからであった。
男は少年の焼きそばと同時に作っていた自分のカップ焼きそばを皿代わりにしながら、少年の焼きそばを一口。
その瞬間男は用意していた飲むヨーグルトを飲み干す勢いで飲んでしまう。昔食べた時と同じような辛さで地獄を見てしまった。
「……か、辛すぎる!君は美味しいと思えるの?」
「美味しいですよ」
「マジか……」
男と少年が知り合ってから数ヶ月。時刻は夜の7時。夏頃ということもあって日は落ち切ってはいない。
近くの駐車場に通勤用のバイクを止めて、歩いて家まで行くと今日も少年がいた。
「おかえりなさいお兄さん」
「ただいま。お父さんは今日も?」
「女を連れ込んでいます。それよりもタブレットありがとうございます」
今日もサイズが大きい服を着て、体育座りで隣の部屋の玄関前に座っていた少年は、男から借りていたタブレットを返却した。
「今日は何してたの?」
「ゲームをしてました。お兄さんがやっていたブルーアーカイブというゲームです」
「お、いいね。好きなキャラできた?」
「黒服」
「マニアックだけど王道みたいなところ行ったな……」
「お兄さんは?」
「うーん……ネタバレになるから言わないでおく」
「そうですか」
「それよりもスーパーで買い物してきたけど何か食べる?」
「では辛い物を…」
「はい、ハバネロチップス」
少年の好みを理解していた男は少年が好みそうな物を買っていた。
この数ヶ月、男は少年に使っていなかったタブレットやお菓子などの娯楽や嗜好品をあげたり、話し相手になったりしていた。
「そういえば少年は平日に何してるの?」
「普通に学校に行ってますが?」
「それはわかってるよ。放課後に友達と遊んだりしないのかな?って」
「遊ぶ友達なんていませんから」
「……俺も」
「悲しいですね。ボクは悲しくありませんが」
男は心の自傷をしながらも少年について考えだす。
「もしも少年が友達の家に遊びにいくって親父さんに言ったら許可してくれる?」
「……ボクが何処かに行ってくれるのならあの人は喜ぶでしょうから大丈夫だと思います。家事もやることは終わっているので。それにしてもどうして意味のない質問を?」
「意味はなくないかな。これから一緒に夜ご飯食べないか?」
「えっ?」
「俺と少年の仲も良くなってきたし、ここは日陰でマシとはいえ暑いから、家の中でご飯食べないか?今日は冷やし中華を作る予定だぞ」
「いいんですか?」
「少年がいいなら俺はいいよ」
「なら、お邪魔します」
男は鍵を開けて少年を家の中に入れると、照明をつけ、座布団を敷いて少年を歓迎する姿勢を見せた。少年も警戒することなく、その誘いに乗り、座布団に座った。
男は冷えた麦茶を出した後、キッチンに向かい、野菜を切り、麺を茹で、煮卵などの買ってきた物を乗せて、市販に売られている冷やし中華のつゆをかけて、2人分の冷やし中華を完成させた。
「少年には和からし。多分好きになるよ」
「ありがとうございます。冷やし中華初めて食べました」
「美味しい?」
「……素晴らしい料理だと思います」
「なんじゃそりゃ……」
男と少年は確かに笑っていた。
たかが毎日見る悪夢だ。
どれだけ辛くても少年を救えなかった私にこの夢を拒否する権利はない。私はあの過去を忘れてはいけない。でも
辺りは燃え盛り、建物は無残に破壊されている。人々の泣き叫ぶ声と火が空気中に含まれる水素と反応してバチッという音が聴覚を支配する。
少し気絶している間に夢を見ていた。身体中が痛い。吸い込む酸素が焼けるように熱い。目がぼやけて視界が確保できない。翼は酷く焼き爛れて、瓦礫に押しつぶされている。ほとんど死に体だ。しかし成果はあった。腕の中にいる少女を守れたのだから。
「ひ…ナさん……大丈夫…ですか?」
「私は大丈夫。それよりもナギサが!」
「私…も大丈夫です。それより…も先生の…方へ向かってください。相手の目的…は先生です」
「でも…」
「貴方は仕事でこの場に来ているはずです。ならば…友人の心配ではなく、要人の警護を務めてください。ここで…先生を討たれると……全てが終わります。私の…お願いを…聞いてください」
「…………わかった。救助を呼んでおくからここで安静にして待ってることを約束して」
「……約束しますよ」
私がそう言うと疑いの目を向けながらも、私の腕の中から抜け出し、走って行った。
これで先生は助かる。他の生徒にアリウススクワッドが襲われることもない。そう安心できるはずなのに、自分の中で虫の知らせが鳴り止まない。
焼き爛れ、瓦礫に潰されて痛覚すら感じない右翼の付け根に手を伸ばす。ギチギチと肉が千切れていく音が鳴り、神経が多く通っている付け根部分の痛みで悲鳴を上げそうになるが堪え、邪魔な翼を引きちぎった。
すると真っ赤な鮮血が飛び散り、天使としての形を一つ失う。しかし私にはもともと翼なんて無かったのだ。
もともと千切れそうなほど傷ついていたので力はそこまでいらないことは幸いだった。翼が瓦礫に挟まれていて動けなくなっていたので、それが無くなると行動できるようになった。
自分の状態を確認する。右腕の損傷、これはしばらくの間使い物にならない。左腕は無傷。左足が打撲、そこまで被害はない。右足はガラス片が突き刺さっている程度でほとんど無傷だ。これならまだできることは残っている。
立ち上がり、ツルギさんやハスミさんがいるであろう方角とは別方向に足を進める。
私がやるべきことは戦闘に参加するのではなく、生徒たちの避難と救助の指示。統率者としての責務を果たさなければここにいる意味がない。
足の痛みを無視しながら瓦礫の上を歩いていると正義実現委員会の服装をした生徒がこちらに向かって走ってきた。
「ナギサ様!大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。それよりも被害状況はどうなっていますか?」
「全て把握しきれていませんが正義実現委員会は半数以上は気絶していると思われます」
「サクラコさんやツルギさんなどは?」
「サクラコ様は意識不明のため現在救護騎士団によって医務室に搬送されております。委員長は副委員長と共に謎の襲撃者を撃退中とのこと」
私は悔しさから唇を噛む。何一つ変わっていない。ヒナさんが無傷なこと以外原作通りだ。
「トランシーバーはありますか?」
「はい、こちらをどうぞ」
私が正義実現委員会の委員全員に渡しておいたトランシーバーを受け取り、無線を無理矢理繋げた。
「私は桐藤ナギサです。正義実現委員会の各員は動ける者から動けない者への救助を行ってください。動けたとしても怪我などをしている場合はすぐに避難を。気絶して声が出せない人や生き埋めになっている人もいるためトランシーバーについているGPSを使っての捜索をしてください。
最後に、くれぐれも自身の命を危険に晒してまで誰かを助けようとするのを禁じます。できる範囲での救助と自身の命を優先してください」
無線を切り、トランシーバーを委員の子に返した後、少し痛みに慣れた体を動かしてヒナさんと先生がいるであろう市街地へ向かう。
役に立たないかもしれない。足手纏いになるかもしれない。そんな不安よりも私は自分の勘を優先した。
その判断はあっていたかもしれない。なぜなら目の前の光景を私は知らないからだ。
ヒナさんがボロボロになって倒れている。先生がアリウススクワッドの錠前サオリさんに銃口を向けられている。ここまでは原作通りだ。
違う点はヒナさんの傷が不自然に少ないと言うこと。確かに擦り傷なら多く見えるが、ダメージによる気絶というよりも脳震盪などで気絶したようにも見られる。
サオリさんの目が違う。あれは死すらも恐れない狂気の目だ。死を経験した人間しか持ち合わせないものだ。
そして先生に向けられた銃口が腹部でなく、頭部に向けられていること。アロナバリアが無くなった先生の頭を撃ち抜かれると確実に死が訪れる。
全ての歯車がズレている。噛み合っていない。どこで間違えた?
何を考えても、何度考えても答えが出てくることはない。
どうすればいいかわからない。
誰も残っていない。何も残っていない。唯一残ったのは