ティーパーティーに転生した3人組 作:お前ら人間じゃねぇ!!
ここはトリニティ牢屋の中。牢屋と言っても鉄格子があるわけではない。ソファーやテレビすら用意されている快適な部屋だ。なんならキッチンまである。
まるで高級ホテルの一室のような部屋で私はソファーに座り、ミカさんはベッドに座りながら会話をしていた。
「ミカさん、貴方が私を襲った理由については聞きません。きっと私たちの間で言葉の意味が違っていただけですので。
それよりも貴方の処遇について話していきます。とりあえず原作通りアリウス側は貴方が私たちにやられたと認識されているようです。トリニティ内では一部変な噂が出回っていますが掲示板で事実無根と伝えておきましたので大丈夫でしょう」
「その変な噂って?」
「私とミカさんでティーパーティー(淫語)をしたんだ!と叫んでいるセイアさんの絵が掲示板に貼られてから私とミカさんがそういう関係だと噂されるようになりました。嫌ですよね、私なんかがミカさんと噂されるなんて不快ですよね」
「私はナギちゃんとなら嫌じゃないよ」
顔を赤らめ、口を手で隠しながらそう言った。
この方も人たらしでしたか……先生といい、ミカさんといい、私の周りには人たらしが多いですね。ヒフミさんも人たらしの部類でしたね。
どうしてこの人たちは人を勘違いさせるような言動や行動をとるのでしょうか。甚だ疑問です。
「ミカさんはトリニティ内では不慮の事故により怪我をして眠っているという状況に落ち着きました。一応事情を知っているのはサクラコさん、ミネ団長、ツルギさん、ハスミさん、ハナコさん、アズサさん、ヒフミさん、コハルさん、先生の9人ですね。この9人はミカさんが二重スパイをしていたと知っているので安心してください」
「……団長によく伝えられたね……話聞いてくれたの?」
「こう見えてミネ団長とは付き合いだけならミカさんよりも長いですから」
「え?そうだったの?!」
「と言っても幼少期の頃に父が主催を務めた社交パーティーで少し会話して、絆創膏を貼ってもらっただけですが」
懐かしいですね。確か4歳の時、パーティーに飽きていた子供達がテラスで遊んでいて、柵から落ちてしまった子供を受け止めるために下敷きになって怪我をしましたね。その時に擦り傷ができた私に持っていた絆創膏を貼ってくださったのがミネ団長でした。
こう思うと私は昔から彼女のお世話になっていたのですね。
「なんだか妬いちゃうじゃんね。もしかしてサクラコちゃんやツルギちゃんともそういうエピソードがあったり?」
「ありますよ」
サクラコさんとの出会いはトリニティ総合学園付属中学校所属の1年生だった頃、ショッピングモールでの買い物中に爆破テロが起こり、天井が落ちてきた時のこと。私はどうせ避けられないならと近くにいた同年代の少女を庇って背骨が折れました。その時に庇った少女がサクラコさんだったのです。その後、ミネ団長に無理矢理病院に放り込まれて入院した私に対してお見舞い来てくれた時にサクラコさんだと気づきましたね。
ツルギさんの場合は高校に入学してから。一年生の頃に同じクラスで名前が桐藤と剣先で出席番号が近しいので席が前と後ろという形になり、そこそこ仲良くなりました。ターニングポイントは日直だから2人で教室に残っていた時に自家製クッキーを渡した時により一層仲良くなったと感じました。
「そういえば明日エデン条約の調印式ですが、ミカさんはこの部屋でじっとしていてくださいね。ご飯は冷蔵庫に入れておくのでチンして食べてください」
「私がいなくて大丈夫?原作よりも貧弱なナギちゃんなら死んじゃうかもよ?」
「ミレニアムのエンジニア部に頼んで巡航ミサイル用の防衛装置を作っていただいたので大丈夫ですよ。ミカさんの噂は面白いものだけではありませんでしたので罪を被せられる可能性が出てきます。そのためミカさんはこの部屋でじっとしていただきたい。暇つぶし用にメタルギアシリーズを全て置いていくので、縛りプレイでもしながら時間を潰してください。もちろんミカさん専用の特注コントローラーも持ってきましたので」
このコントローラーは耐久性を確保するためにイリジウムが贅沢に使われ、ボタン部分にはダイラタンシー現象などで威力を分散させる仕組みになっている。もちろんミレニアム製だ。
しかしこれでも熱中しすぎると壊してしまうので7個ほど用意しておいた。
「ねえねえ、久しぶりに2人でお茶しない?最近は忙しくてできてなかったし」
「ではミカさんが淹れてください。私はいつものでお願いします」
「はーい」
彼女はキッチンの方にテトテトと歩いてキッチンでお茶を淹れ、私に差し出す。
「はい、梅昆布茶」
何故かティーカップに淹れられた梅昆布茶を特に気にすることもせずに飲む。一方でミカさんは自分だけ紅茶を淹れているようだ。
私のいつものは梅昆布茶ではない。梅昆布茶は嫌いではないが私のいつものはダージリンティーかウォッカトニックだ。
「そういえば防衛装置ってどんなの?」
「ここに持って来れるサイズではないので現物はありませんが説明書なら……ミカさんは読みませんね。知っています。噛み砕いて言うと防衛ミサイルです。飛んでくる弾道ミサイルに衝突させ、空中で爆破処理を行うようにできています。しかし欠点として対象を狙うときは自動ロックオンではなく、人がやらなければならないことでしょう。まあ、ミサイル開発なんて初めての経験ですし仕方がありません」
「それ大丈夫?外したら一巻の終わりじゃんね」
「大丈夫ですよ。確かに負けフラグが立っていますが、負けても勝ちを作りにいく男でもある私は勝ちを作れますよ」
「心配だな、ナギちゃん貧弱でいつも怪我してるんだから」
「人生での怪我の原因の8割はミカさんですのでお気になさらず」
「そういえば原作を改変することにしたんだね!」
「話を逸らすにしては露骨すぎますがお答えしましょう。ここで良い方向に改変しなければセイアさんが何か悪い方向への改変を行った時に対処できなさそうですから。セイアさんは確実に作戦を練っています。ミネ団長を気絶させて逃げ出した挙句、行方不明になっているのがいい証拠です」
「もしもセイアちゃんがやらかしたら私を呼んでね☆塵芥に返してあげるじゃんね!」
「共倒れしていただけると幸いです」
ティーカップに入った梅昆布茶を飲みきり、椅子から立ち上がって脱いでいた上着を着る。今日は少し肌寒いから上着を着ないと。
「あれ?もう行くの?もうちょっと一緒にいてくれても…」
「どこぞのミカさんと違って私は忙しいですから。それでは失礼します。梅昆布茶ごちそうさまでした」
少し体を伸ばした後、扉の方へ歩いていると左腕が引っ張られた。何事かと顔を向けるとミカさんがいつもとは違って重い表情していた。しかし深刻というわけでもなく、何かの中間に揺さぶられ疲れている顔と言ったところだろう。
「ナギちゃん……無理はしないでね」
「無理なんてしませんよ。ミカさんこそじっとしていてくださいね」
「……ミカさんはお昼ご飯を食べているでしょうか?」
私は古聖堂内の一室でデスクトップパソコンを操作し、幼馴染を心配しながら窓から空を見上げる。空は透き通るように透明で、
「ナギサ様!防衛ミサイルの設置完了いたしました」
「ありがとうございます。すぐに行くので先に行って待っていてください」
トリニティ生を先に逃して防衛装置であるミサイルの方向を最終調整する。パンデモニウム・ソサエティーの人たちも避難しているところが見えた。トリニティ生も誘導して被害は抑える準備もした。
飛んでくるミサイルを双眼鏡で目視する。計算した通りの弾道で飛んできているようだ。
ミサイルの速度、風速、こちらのミサイルの速度、距離、角度、全てを脳細胞がトップギアで悲鳴を上げる速度で演算して狙いを定めていると後ろから足音が聞こえてきた。
「あれ?ナギサ……どうしたの?」
「ヒナさん!?どうしてここに?」
「マコトが何かしているナギサを見てこいって……それで何をしてるの?」
もしも失敗した場合。ここが最も被害が被る場所だと理解してヒナさんに命じてきましたか。
「今から巡航ミサイルが飛んできます。迎撃するのでヒナさんはこの部屋にいてください」
「ミサイル!?」
「この窓から見えるはずです」
そう言いながら双眼鏡を手渡す。
「本当だ……犯人に目星はついてるの?」
「アリウスというトリニティが生み出した負の遺産とゲヘナのトップですね」
「マコトが……」
速度よし、風向きよし、爆破範囲もよし。今だ!
防衛ミサイルは起動して巡航ミサイルに向かって突撃していく。全てが完璧……とは言えないが誰も傷つくことがなくなるだろう。そう確信できた。
ミサイル同士が衝突。空中で起こる巨大な爆発。後から遅れて聞こえてきた腹に響くほどの爆音。汚い花火とも言える物が青い空に真っ赤になって咲いた。
そんなクリア報酬を見届けたら安心感のせいで体が後ろに倒れてしまうがヒナさんに支えていただいた。
「すみません。少し疲れてしまって……」
「大丈夫よ。それよりもごめんなさい。マコトを止められなかったのはこちらの責任だわ」
「アリウスも元はと言えばトリニティの責任ですからおあいこということで終わりにしませんか?」
「ナギサがそう言うのなら」
後は調印式をするだけ。大きな事件は起こらない。アリウスも戦力差から撤退を選ぶはず。そう考えたのが失敗だった。
窓から見えたのは青空という海を進む1匹の魚影。壊されたはずの巡航ミサイルがこちらに迫ってきていた。
どうして?その言葉が頭の中を駆け巡る。確かにミサイルは破壊した。そう確信できるだけの証拠もあった。
つまりあのミサイルは……
迎撃用の防衛ミサイルに余りはない。他に対処する手段も存在していない。私には誰かを守る方法が手の中には無かった。
あのミサイルは先ほどのよりも速度が速い。ここに到達するまで10秒もかからないだろう。それでも私にできることは一つだけだが残っている。
「えっ?ナギ…サ?」
ヒナさんを庇うように地面に押し倒し、翼で囲い込み、抱き寄せる。小さな体が一切の抵抗なく私の体に包まれた。
右腕につけている個人携帯用として作らせておいたバリア装置を起動させた。
とても怖い。もしも失敗すればヒナさんにミサイルが直撃するかもしれない。だからこそ、そんな恐怖を塗り替えるためにギャグで片付けようとした。
「
音声認証により起動されたバリア装置は美しくも脆い、華々しくも強い薄紫色の花びらを展開した。
原作ほど強くない。昔セイアさんの提案でエンジニア部に頼んで作ってもらったネタ装備だ。それでも少しは防御機能が付いている。ならこれに賭けるしか方法は残っていない。
一瞬。知覚することすら難しい僅かな間に発生した光を見た瞬間、私の視界は黒に染まり、エデンは……地獄に変わった。