ティーパーティーに転生した3人組   作:お前ら人間じゃねぇ!!

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0評価が付くなんて…… もうダメだ…おしまいだぁ…


釘打ち

 

 以前とは違い、月明かりではなく、日光が降り注ぐテラス。計算機を使いながら帳簿をつけていく。するとテラスの入り口から扉が開く音が聞こえ、1人分の足音が聞こえてきた。

 

 

「……お待ちしておりました。ご無沙汰しております。先生。不恰好な姿での対話、失礼します」

「“ナギサも忙しいだろうし、大丈夫だよ”」

「そう言っていただけると幸いです。あれからお変わりありませんか?合宿の方はいかがでしょう、何か困ったことなどありませんでしたか?」

「“うん、おかげさまで何とか。ところで今日はどんな用事?”」

「皆さんテストに合格できそうですか?」

「“このまま順調に行けば4人とも余裕で合格できるよ”」

「ということですのでテスト範囲を増やします」

「“え?”」

「このまま合格されては計画に破綻が生じますし、彼女達の勉学も一時的なもので勉強する習慣が染み付いてはいません。それに今の彼女達を離れ離れにするのも可哀想ですし」

「“どれくらい増えるの?”」

「1.7倍ほどです。前回のテストは簡単にしましたので今回は基礎、知識だけでなく応用を増やしました。それで夜中に生徒を連れて出かけた件は不問にしましょう」

 

 

これはコハルさんとアズサさんがギリギリ落ちると推測して作ったテスト。第3回まで行ってもらわなければいけませんから。

 

 

「“……やっぱりバレてたか…”」

「事前に連絡をしていただければ何も言わなかったのですが……まあ、ルールを破って夜の街に駆け出す楽しさが、わからなくもありませんが規則は規則です。しっかりと処罰を受けなければなりませんから」

「“ぐぬぬ……正論だ…”」

「と言ってもパフェを食べに行ったにも関わらず事件が発生して食べられなかったのでしょう?補習授業部の皆様でこちらをお召し上がりください」

 

 

 そう言いながら、中から少しドライアイスの煙が漏れている保冷バッグを先生に手渡す。

 

 

「“これは?”」

「そちらは私が作ったパフェです。先生の分も入っているのでご一緒にお召し上がりください。素人ですから味はそこまでかもしれませんが…」

「“ナギサは料理上手だってミカから聞いているよ”」

「パフェは初めて作ったので自信がありませんでしたから」

 

 

 ここで買いに行けよという声が上がるかもしれない。しかし私はトリニティの支配者にして最高責任者。買った物に毒物を混ぜられる可能性もあるんですよね。

 ミカさんのような毒耐性もありませんし、セイアさんのような未来予知による回避もできない私に作る以外の選択肢が存在しない。

 

 

「実は正義実現委員会のハスミさんから減刑を求められまして。彼女達がいなければ事件の早期解決には至らなかったでしょう。という申告をされました。そこで減刑は無理ですが褒美ということで、これから自由な外出を許可します。24時間いつでもどこでも行ってください。もちろん私への連絡を忘れないのと、先生が付き添うことが条件ですが」

「“ありがとうナギサ”」

 

 

 すると先生は私の頭を撫で始める。頭を撫でられるのは嫌いではありませんが何だか不思議な気分です。

 

 

「あの、どうして頭を?」

「“ナギサが疲れてそうだったから”」

「それが理由でしたら補習授業部の皆様を撫でられては?私は疲れるようなことは何一つしていません」

「“子供が間違ったことをしようとしていたら、止めるのが大人でしょ。君が教えてくれたことだ。

君は私より大人かもしれない。でもまだ子供だ。全て1人で抱え込むという間違った行為を見過ごすわけにはいかないからね”」

「……別に、抱え込んでなどいませんよ。私は私がやるべき仕事をこなしているだけですから」

「“君は頑張っている。私はその仕事を辞めさせて責任を取ることはできない。だからせめて褒めるぐらいはさせてほしい”」

「はあ……お好きにどうぞ。それよりも早く補習授業部に帰ってあげてください。パフェに使っているバニラアイスが溶けてしまいますから」

「“そうだね、せっかくナギサが作ってくれたパフェを台無しにするわけにはいかないからね。じゃあまた明日”」

「さようなら」

 

 

 先生は保冷バッグを大事に抱え、気持ちのいい笑顔で手を振りながら帰っていった。

 あのような人を天然人たらしと言うのでしょうね。本当に人たらしとは怖いものです。男女関係なく人に好かれそうな行動を取るのですから。いつか刺されて死にますね、あの人。

 

 

「ミカさーん!」

「どうしたのナギちゃん?」

 

 

 ミカさんの名前を呼ぶと何処からともなく飛来して、私の目の前に着地した。スーパーヒーロー着地だー!床に傷が付くのでやめてほしいです。

 

 

「少しお願いしたいことが」

 

 

 ミカの耳元に近寄り、小声で頼みたい内容を話した。しかしミカさんは返事をすることもなく、下を向いている。

 

 

「どうかされました?」

「あっ、いや!その……もう一回言ってもらっていい?」

「聞いていなかったのですか?もう一度言いますよ」

 

 

 再度耳元で要件を伝える。するとミカさんの体はプルプル震えてた。なんとなく顔も赤い気がします。もしかして風邪を引いているのでは?

 

 

「ミカさんは体はダルくないですか?吐き気や眩暈はありますか?」

「え?」

「体温計は……近くにありませんね。少し古典的ですがおでこで測らせていただきますね」

あの……ナギちゃん……顔が…ちか

 

 

 私の平均体温が低いのもあるでしょうが、ミカさんの平均体温よりも明らかに高いことが伺えた。

 今まで風邪を引いたことがなかったミカさんがここにきて風邪を引くなんて……最近は素直に従ってくれていましたが、その疲れからでしょう。

 

 

「ここから救護騎士団まで行きますよ。運ぶのは無理なので、肩を貸しますから一緒に行きましょう」

「風邪じゃないから大丈夫だって」

「大丈夫じゃありません!強がっても人を心配させるだけなので、休んでいてください。幸いミカさんの出番はまだ先ですから休める時に休むべきですよ」

「本当に違うんだってば!!」

 

 

 

 

 

 

 

 キュピーン!

 

 今ナギサがミカを赤面させているな。この人たらしめ!

 

 

 

 昼間だと言うのに薄暗く、人の気配が無い静かで古びた教会。教会としての機能はすでに破綻しており、神を崇める声も、信徒の悩みを聞くシスターの声も聞こえない。

 

 ここはトリニティ総合学園が作られた当初、シスターフッドの前身にあたる組織【ユスティナ聖徒会】初代リーダーがよく訪れた教会……らしい。

 私もよく知らなくて、サクラコから聞いた情報もそういう教会があるということだけ。場所も自分で見つけ出し、文献に残っていた特徴を一致させただけだ。

 

 今にも崩れそうな扉を開き、中に入ると予想外の光景が広がっていた。

 一ミリのズレもなく並べられた長椅子。長年の年月を得て溜まった埃。中央、レッドカーペットの最奥に置かれたパイプオルガン。そして太陽の光もなしに恐ろしいほど輝いているステンドグラス。まさに神秘が詰まった代物だろう。

 

 

 ハウスダストで肺をやられないようにしながら教会を探索する。朽ちた聖書や割れたガラスと言った、教会にありそうな物ばかりで他はなにも無い。少し気になるのは祭壇のある場所にパイプオルガンが置かれていることぐらいだ。

 やはり別の場所だったか…と思いながら歩いていると少し躓いてしまう。その時に気づいた。この教会には地下があると。

 私が躓いた段差は場所的あまりにも不自然。よく見ると段差の間には石同士が擦ったような傷跡も見える。私のお目当ての物は地下にあるのだろう……爆薬を取り出すが、すぐにしまう。見えた未来では私が生き埋めになっていたからだ。

 

 しかしヒントは得た。この地下室への扉は中央に置かれた巨大なパイプオルガンだ。爆破した瞬間にこのパイプオルガンから何かを移動させる機械に管が伸びているのが見えた。

 

 つまり、よくある演奏で鍵を開くタイプだな?パイプオルガンは弾けるが……何を弾こうか。

 

 とりあえずトリニティの校歌を弾いてみることにした。

 パイプオルガンが古びていながらも美しい音色を上げる。しかし引き終わっても何も変化しない。曲が違ったのだろう。

 

 次は聖歌を弾いた。しかし引き終わっても変化は無い。聖歌だと予想していたが外れてしまったようだ。

 

 ふむ、どうするべきなのだろう。これ以上候補となる歌は知らない。

 

 

 頭を悩ませ、考えているとペットのげろしゃぶがバタバタと飛んできた。この子は私が何処にいても帰ってくるようだ。それにしては私よりもナギサに懐いているようだがね。

 

 

 げろしゃぶが『節穴』と書かれた紙を掲げたあと、パイプオルガンに付いていたスイッチを押した。

 気づかなかった……あんなところにスイッチがあったなんて…騙された!

 

 私が立っていた石材の床は機械音と共に動いていく。動いた地面共に現れたのは地下室へ繋がる階段。薄暗く、奥まで光が届いていないことがわかる。

 

 

 懐中電灯で照らしながら歩いていく。すると今度は別れ道。未来予知で気づけたのだが間違えた道を進むと串刺しになってしまうようだ。しかし私は正解の道を選ぶことができるので簡単に最深部へと辿り着いてしまった。

 

 そこは5畳ほどの小さな部屋で、棺桶が一つあるだけだった。私は躊躇なく棺桶を開けると骨盤から判断できるに、女性の白骨死体と、その死体が抱いている大型の釘打ち機。

 

 私は釘打ち機を持ち、掲げて叫んだ。

 

 

「これが伝説の……神秘殺し、パイルバンカー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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