ティーパーティーに転生した3人組   作:お前ら人間じゃねぇ!!

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おにぎり

 

 建物の光が街全体を照らし、程よい風が気持ち良い夜のテラス。辺りに警備は誰1人としていない、プライベートな空間。

 私はそこで1人悲しくチェスをしていると先生が私の空間に踏み入った。

 

 

「あら、先生。お疲れ様です」

 

 

 補習授業部を任せて、1回目のテストを終えた先生が夜のテラスへとやってきた。その顔に前回のような緊張は無く、こちらをじっと見つめていた。

 

 

「補習授業部の方はいかがですか?……と言いつつ、すでにお話は聞いております。どうやら最初の試験は、上手く行かなかったようですね。ですがまだ、あと2回残っていますので……ああ、これですか?チェスです。息抜きでして」

 

 

 先生は私の手元にあるチェス盤を舐めるように見ている。

 

 

「おそらく、見慣れないタイプですよね。黒は一つのポーンのみ。白は全て揃い、赤色のルークとビショップが中央に立っている。……きっと見たことがない形でしょう」

 

 

 黒ポーンを3のeに動かす。しかしここからでは黒に勝ち目はない。

 

 

「“これ、一人でやってたの?”」

「はい、今は私一人で。自分の行動を全て読んでくる架空の人物を作り上げて対戦する。難しくもコツを掴めば簡単な方法です。

今日は先生に、お伝えしておきたいことがあったのですが……それよりも先に、先生の方から何か言いたげなことがあるように見受けられますね」

「“3回とも不合格になったら、補習授業部のみんなはどうなるの?”」

「……退学になります」

「“退学!?”」

「何か驚くようなことでも?試験で赤点を取ったなら追試を、追試すら合格できないのなら単位を与えることはできません。ならば退学になるのは当然です。もちろん3回中2回を個人で合格点に達していた場合は留年という形での処分になります。

本来トリニティでは落第、停学、退学などに関する校則が存在しました。しかし手続きが長く、面倒だったので校則を改正しています」

 

 

 本来ならばティーパーティー3人の承認、シスターフッド、救護騎士団からの不正調査などを受けて、やっと退学にできるのですが法を改正すればこちらのものです。

 しかし私は彼女達を退学にさせる気はありませんし、私の出した条件程度なら彼女達は軽々と越えてくれると信じていますから、今はヒールに徹するべきです。

 

 

「あの中に裏切り者がいるとしたらどうしますか?」

「“裏切り者……?”」

「ええ、裏切り者です。補習授業部とはその裏切り者を見つけ出すために作られた部活ですから。隔離、相互監視をして行動をさせないためでもあります。

先生には話しておきましょう。裏切り者の目的はエデン条約の阻止です。この言葉が持つ重さを理解していただくには……『エデン条約』とは何か、という説明が必要ですね。

簡単に言いますと、トリニティとゲヘナの間に結ばれる不可侵条約です。その核心は、ゲヘナとトリニティの中心メンバーが全員出席する、中立的な機構を設立することにあります。

その団体がトリニティとゲヘナの間で紛争が起きた時に介入し、その紛争を解決することになります。

この時点でお分かりいただけたでしょうか?戦争をしないために結ぶ平和条約でもあるエデン条約を妨害する裏切り者。

つまり戦争の引き金を引こうとしている人物を見つけ出すために作られたのが補習授業部です。

裏切り者が誰はわかりませんが……容疑者を一か所に集まれば管理もしやすいでしょう」

「“私を補習授業部の担任にした理由は?”」

「……補習授業部にいる裏切り者を、探していただくためです。容疑者と言えど我が校の生徒。巻き込んで退学や留年にさせるのは私としても心苦しいですから」

「“……私は私のやり方で、その問題に対処させてもらうね”」

「……そう言うと思っていました。私から何も言いません。エデン条約が上手く締結するのなら、方法は何でも構いませんから」

「“ありがとう”」

「……感謝を言われる筋合いはないのですが…?」

「“君は私を介さずに全員を退学することもできた。だけど君は生徒のためを思って裏切り者を探してほしいと私に頼んだ。そして君は裏切り者を見つけても害する気はないでしょ”」

 

 私は少し驚いた。この短時間で先生はこちらの意図を理解しているようだ。それにある程度私の考えも。

 やはり原作の桐藤ナギサのようにはいきませんね。生徒達を守りながら原作をそのまま進めるのは無理なようです。

 

 

「解釈はそちらにお任せします。では、私はこれから別の仕事があるので失礼します。補習授業部で必要になった教材や備品があるのならば、申し付けください。即日用意しますので」

 

 

 その場を後にした。その後、執務室へと移動して仕事を再開する。

 

 エデン条約をすると言っても他の業務を怠ってはいけません。部活動の予算、授業に使う備品の補充、商売を許可している部活動からの決算書に応じた規模の拡大など、やることは山積みです。

 それにミネさんも予定通り失踪しているので救護騎士団の支援についてもありますし、ゲヘナを試験会場にするための手配。安全性を確保するためにヒナさんへの連絡……いや、そもそもゲヘナを会場にする意味はあるのだろうか?

 原作通りに試験範囲は増やすことは確実として、ゲヘナに行かせる意味は無いはず。ハナコさんでしたら試験に合格できるでしょうがアズサさんやコハルさんがギリギリ合格できない範囲を見極め、テストを作ればいいだけですね。

 美食研究会と温泉開発部の誘拐とテロに巻き込まれるだけですし…彼女達はこれ以降エデン条約においてキーポイントになるわけでもありません。ならばトリニティ空き教室を使えばいいでしょう。

 テスト当日は第12校舎までは全教室が使用中、第13校舎は工事、第14校舎は一部屋空いていますが騒音で集中できないのも嫌ですし除外。空いていて、尚且つ集中できる環境は第15校舎だけですね。

 

 ひとまず当日の予定を決めて、他の仕事に取り掛かろうとしていると、執務室の扉が勢いよく開かれる。

 

 

「やっほー☆ナギちゃんのためにおにぎり作ってきたよ!昨日の夜から食べる暇もなく働いているんだし少し休んだら?」

「ありがとうございますミカさん。しかし私が休めばトリニティは崩壊する瞬間なんです。救護騎士団とサンクトゥス分派がいつ崩壊してもおかしくはない。土台が崩壊すれば上に乗っている全ても崩壊する。そんな状況ですから。まあ、おにぎりはありがたくいただきます」

 

 

 海苔すら巻かれていない丸いおにぎりを一つ手に取り、食べる。少し塩が多いが特に気にするほどでもない。しかし気になる点が一つだけあった。

 

 

「ミカさん……このおにぎり、食べても食べても無くならないのですが…」

「あれ?普通に握っただけなんだけどな〜」

「……おにぎり一つに何合の米を使いましたか?」

「え?一升だよ」

「つまり10合のお米をこのサイズまで圧縮したんですか……!」

 

 

 おにぎりは2つ。つまり20合のお米。炊いた白米は一合で約330g。合計で6.6kg………絶対に食べきれませんね。少食な私にこの量を食べさせようとするとか悪魔ですか。

 こんな時にセイアさんがいれば………ダメですね。あの人のことですし、激辛料理を持ってくるだけですね。

 ……私の周りの人間に料理できる人が少なすぎる……せめて店屋物を頼みたいところですが、作っていただいたおにぎりを食べないのは失礼。

 

 

「……美味しいですよミカさん。けれども私は一つでお腹いっぱいなのでもう一つはミカさんが食べてください」

「じゃあ一緒に食べてもいい?」

「いいですよ。その代わり、アリウスの状況を話しながらでお願いします」

「はーい。えっとね、原作通りに進んでいってるんだけど最近ちょっと変なことがあってね」

「変なこと……ですか。具体的には?」

「サオリちゃんが辛そうなんだよね。なんというか寝不足で目に隈があって、夢見でも悪いのかな?と思って聞いてみたけどはぐらかされるし……」

 

 

 アズサさんをトリニティに送ったことや、殺人犯にしてしまったことに対するストレスなら説明がつくのですが……しっくりきませんね。

それに寝不足というのも気になります。

 

 現在セイアさんの行動が読めないことが怖いですね。あの人が眠っているなんていう思い込みはすべきではない。

 きっと原作通りには進みませんね。もしもの場合はオリジナルチャートを発動させて、どうにか乗り切ることも考えないとですね。

 

 セイアさん……何をしても構いませんが、人の道理に反することは許しませんよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハックショッ!!うーん、ナギサが私のことを考えているな。ニュータイプの私にはわかるぞ。それにしてもミカめ!私の宝石のように美しい首の骨を豆腐のように壊してくるなんて。あのゴリラには小動物を可愛がる心すら持ち合わせていないようだ、可哀想に……

 ミカといい、ミネといい、私が戦う相手はどうしてゴリラばかりなのだろう。ミネを眠らせて逃げるのには骨を折った(物理的に)

 

 

 

 

 雨の降るゴーストタウンを傘も差さずに歩いているとペットのシマエナガが飛んでくる。私の小さな肩に乗せるとずっしりとした重さが伝わる。ナギサがお菓子を食べさせるせいで太ってしまったじゃないか。……食べ頃だな。エデン条約が終わったらみんなで焼き鳥パーティーを開こうじゃないか。

 

 彼の持っていたメモを受け取り、褒美としてブドウを一粒食べさせてあげた。すると『チュッパイ!』という紙を掲げている。

この紙は一体何なんだろう……渡した覚えがない。

 

 屋根の下に移動して少し濡れたメモを読み始める。

 

 どうやらサクラコに調べてもらっていたユスティナ聖徒会について書いている。

 私の予想通り、恐ろしい効果を持った聖遺物が幾つか記載されている。今では使い物にならないとしても私の転生者という死者からの蘇生を経験した神秘があれば無理矢理動かすことも難しくはないだろう。

 

 

「ありがとう、げろしゃぶ。ナギサの元へお帰り」

 

 

 するとフーミンがいいです!どちらかと言うとフーミンがいいです!!と書かれた紙を掲げていた。

 

 

「すごいよ!!マサルさんを読んだのかい……?」

 

 

 ペットのギャグ適性の高さに驚きつつ、これからの行動を考える。ナギサなら私の行動を予測して、絶対に対抗してくるはずだ。だとするとミカと敵対する必要がある。

 今の私ではミカには勝てない。攻撃を全て避けれてもミカの装甲を貫く火力を持ち合わせていない。だからこそベアトリーチェを利用しよう。

 

 全ては愉悦(幸せ)のために……あっ、ちょっと、げろしゃぶ!!今格好つけている最中だから私の頭を突かないでくれたまえ!!!

 

 

 ……この鬱憤は夢の中でサオリを追い詰めて愉悦して発散しよう。

 

 


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