ティーパーティーに転生した3人組   作:お前ら人間じゃねぇ!!

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ミ過去

 

 私は自分のことが大好きだった。

 

 県一番の美少女とも言える容姿、恵まれた家庭で人生も充実。大学生活に悠々自適な一人暮らし。

 

 私の人生は全て上手くいっていた。自分を物語の主人公だと思っていたほどだ。

 

 あの日の火災までは。

 

 

 

 

 火事で焼け死に天国へ行くはずだった私は、ブルーアーカイブのキャラクター、聖園ミカに転生していた。

 

 初めの頃は楽しかった。この世界でも恵まれた家、お姫様のようにふわふわで可愛い容姿、誰も彼もを魅了する天使の羽。

 

 両親は私を可愛がってくれた。友達もたくさんできた。新たな人生を今度こそ幸せに生きてみせる。そう思っていた。

 

 確かあれは……小学生二年生の頃。

 私は持っていた桜模様の入った鉛筆を破壊してしまった。初めのうちは気にしていなかった。

 次は当時放送していた女の子向け番組のキャラがプリントされた筆箱を壊した。

 ノートを、教科書を、扉を、机を……ありとあらゆる物を破壊してしまった。

 

 私に破壊する気なんて一切無かった。けれども自分の力を制御できなかった私は手に触れる物全てを壊し、壊し、壊し……遂には…友人の腕を、先生の足を、父親の腰を……私は破壊した。

 

 

破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して破壊して

 

 私の周りには誰も居なくなった。1人孤独になっていた。

 

 誰だって触れる物全てを壊す怪物に触れられたくなんてない。いつ自分が壊されるかなんて考えたくもない。また壊されるかもしれない恐怖に怯えてたくもない。

 

 だから友達も、先生も、親も……だんだん離れていった。

 

 

 

 そんな状況が続き、3年生になった。

 

 3年生の頃も力の制御はできず、あらゆる物を壊してしまう。親が社長なので物の消費が激しくともどうにでもなった。

 しかしその親も自分達に危害を加えられないように、私に物を与えていることがわかってしまった。

 

 

 そんな毎日に嫌気が差して、自殺をするために屋上に向かった昼上がり。お日様は隠れ、曇天空模様だった。自殺するにはちょうどいい日だ。そんなことを考えながら靴を脱ぎ、あらかじめ書いていた遺書を添える。

 あとは飛び降りるだけ。そんなことを思い、落下防止用のフェンスの外側に立った。

 

 大きく息を吸い、瞳を閉じ、体を前に倒そうとした瞬間、声をかけられた。

 

 

「キヴォトス人はその程度では死にませんよ。いや、この歳なら十分死ねる可能性もありますか…」

 

 

 その声は前世で聞き覚えのある声だった。アニメやゲームで何度も聞いたことがある、可愛らしくて美しい声。

 声のした方向を向くと、私と同じ翼が生えたブルーアーカイブのキャラクターがいた。

 

 

「止めないでよ、桐藤ナギサ……」

「私は自己紹介をした覚えは無いのですが……まあ、いいでしょう。なぜ貴方は飛び降りようとしているのですか?」

 

 

 私の辛さを知らずに無神経に聞いてくるその傲慢さに腹を立てた。

 

 

「別に貴方には関係ないでしょ」

「関係の有無はどうでもいいです。私は飛び降りる理由を聞いているだけですから」

 

 

 本当にイラつく。前世で遊んでいたゲームのキャラがここまで人を苛つかせる天才だとは思ってもいなかった。

 

 

「貴方…嫌われる性格してるね」

「嫌われて結構。そんな嫌われ者の私は貴方が飛び降りようとする理由を推理してあげましょう。

友人関係、学校職員からの対応、下校途中のため息……そして貴方の過去。己自身の力に振り回されていると言ったところですか…」

 

 

 ナギサの推理は助走して殴りたくなるほど正確に当たっていた。嫌味を言っても効いていない様子も相まって本当に殴ろうか考えるほど。

 

 

「正解だよ。これで満足?満足したなら私の邪魔しないで」

「満足していませんね。貴方に聞きたいことがあるので」

 

 

 そう言いながら彼女は近づいてくる。走っているわけでもない。距離が短いわけでもない。なのにその歩みは恐ろしく速く感じた。

 

 

「こっちに来ないで!!」

「嫌です」

「邪魔しないでよ!!」

「嫌です」

 

 

 何を言っても彼女は引き下がらなかった。

 

 

「私は……!!」

 

 

 その瞬間強風が吹き荒れる。あまりの強さに私は持っていたフェンスを破壊しながら手を離し、高度150mの高さから落ちてしまう。……ことはなかった。

 私の手は誰かに握られ、落下していない。薄っすらと目を開けるとフェンスの無くなった場所から身を乗り出した桐藤ナギサが私の手を掴んでいた。

 

 

「どう……して」

「どうもこうもありません!!私は貴方に聞きたいことがあると言ったはずです。それを聞くまで貴方を死なせるわけにはいかない!」

「でも……でも……」

 

 

 私が掴んでいた彼女の右手は骨が折れていた。それも右手全ての骨が折れていてきっと辛くて、泣きそうなはずなのに…彼女は笑っていた。

 

 

「貴方が私を壊すなんて10年早いです。触れた物全てを壊してしまう?なら!壊さないように力加減できるまで協力します!!だから私を信じて強く握ってください!!」

 

 

 今までにありとあらゆる物を壊してきた。しかし私にも壊せなかった物を彼女は壊した。それは心の殻だ。

 いつのまにか塞ぎ込んで、隠れて、自分で作った殻の重みで押しつぶされそうになっていた私の殻を彼女は破壊した。

 

 強く手を握る。手からは血が溢れ出し、折れた骨が肉を突き破り、見えてしまっている。それでも彼女を信じて私は手を握った。

 

 引っ張られた勢いに合わせて校舎の壁に足を引っ掛け、全力で壁を蹴り、勢いをつけて屋上に戻ってきた。

 

彼女は最初に話していた時と変わらない顔を浮かべる。優しい微笑みだ。

 

「……あの……さっきは酷いこと言ってごめんなさい」

「気にしていませんし大丈夫ですよ。それよりも自殺する気はなくなりましたか?」

「……うん……桐藤さんのお陰でね…」

「ならよかったです」

「……さっき言ってた事って本当?」

「力加減できるようになるまで協力することですか?本当ですよ。ミカさんが力加減できるまで私は何度でも手を差し伸べますし、何度でも助けます」

「……ありがとう桐藤さん」

「その桐藤さんという呼び方はやめてください。なんだかしっくりきません。そうですね……ナギちゃん…とでもお呼びください」

「……ありがとう…ナギちゃん」

「ふふっ、上出来です」

「そういえば……私に聞きたいことがあるって言ってたけど…」

「ああ、そうでした。貴方の名前を聞かせてください」

 

 

 ナギちゃんの質問に意味はない。なぜなら彼女は私の過去を調べているのだから名前ぐらい知っているはずだ。そんな彼女の質問の意図はわからないが、とびっきりの笑顔で答えてあげた。

 

 

「私、聖園ミカ!よろしくね!」

「私は桐藤ナギサ。これからよろしくお願いします。ミカさん!」

 

 

 この日、私の心は赤色に染まった。初めてだった。目が離せなくて、その人のことを考えていると胸が苦しくなって、息すら止まりかけた。

私はこの日を永遠に覚えているだろう。ある意味私はこの日に生まれたと言っても間違えではないから。

 

 

 

 ナギちゃんを何度も何度も怪我させた。それでもナギちゃんはそばにいてくれた。

 四年生の時。既にお互いを転生者だと知っており、私の家に遊びに……私の特訓の為に来ていたナギちゃんは私の両親と話をしていた。本来なら聞こえるはずのない距離だけど、私の優れた聴覚はその会話を全て聴こえていた。

 

 

「桐藤さん……無理にミカと関わらなくてもいい。君だって彼女と出会う度に大怪我をして、君のお父様になんと言えばいいか……」

「私は無理などしていません。ミカさんのせいで怪我をしているわけではなく、私が弱いから怪我をしているのです。お父様には何も言わなくてよろしいですよ。父には全て話しているので」

「で……でも、ミカと一緒にいたらナギサちゃんに友達が……」

「でしたら友達はいりません。まだ見ぬ友人よりも、私の手を握ってくれた彼女の方が大切ですので。

貴方達は優しい人です。他人を気遣い、本心から心配している。なら、ゆっくりでいいのでミカさんを見てあげてください。力が強くなっても彼女は彼女のままですから」

 

 

 私はその日の夜。嬉しくて泣き続けた。

 

 

 

 先生が去った夜のテラス。私とナギちゃんは2人きり。

 今日は月が綺麗ですね。なんてロマンティックな告白を妄想したりしてしまう。

 

 

「ねえねえ、ナギちゃん。先生に何したの?」

「少し……テストをしただけです。ご安心ください。あの程度の爆発だと先生に一切のダメージはないので。アロナバリアがありますから」

「また、自分の身を危険に晒したんだ。ダメだっていつも言ってるでしょ」

「あの爆発で私自身も死にはしませんよ。せいぜい片足が吹き飛ぶだけです」

「ダメじゃ〜ん」

 

 

 ナギちゃんはいつもそうだ。自分の命を軽く……いいや、無価値だと思っている節がある。前世のナギちゃんを知らない私から何か言える立場ではないが、いい加減やめてほしい。

 

 

「先生に補習授業部任せられそう?」

「任せられると思います。僅かな時間で相手のことを考えた最善策が取れていますし、覚悟があります。私に問い詰められている時に逆上したりせずに反省しているように思えましたし……おそらく大丈夫でしょう。

私たちは先生としてのあの人を知っていても、人間としての『あの人』を知らないことが懸念点ですが……連邦生徒会長が選んだ人間が人格者であることを願いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はナギちゃんが好きだ。

 友達としても、恋愛対象としても。

 

 別に原作の『桐藤ナギサ』が好きなわけではない。私はナギちゃんの心、が好きになったのだ。強くて、優しくて、壊れている心に。

 

 暗闇を打ち払う光、曇天に差し込む太陽、植物が巻き付くための支柱……私にとってナギちゃんとはそう言った物だ。

 

 だから私はナギちゃんに教えてもらった力でナギちゃんを守ると決めた。例え、相手がどれだけ強くても私は命を賭けてナギちゃんを守るだろう。

 

 

「ナギちゃんを傷つける人からナギちゃんを守る。だって……ナギちゃんを壊していいのは私だけだもん

 

 

 


 

 

謎の狐「私の勘が言っている!ミカが回想シーンに入ったと!」

 

 


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