ティーパーティーに転生した3人組   作:お前ら人間じゃねぇ!!

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トイレ

 

「ナギサのおかげで仕事が減ったわ……」

 

 空崎ヒナは何もない砂漠の中心で同じ風紀委員であるチナツと共に、桐藤ナギサのM777による爆撃を見ながら少し嬉しそうに呟いた。

 

「ナギサ…というとトリニティの生徒会、ティーパーティーの桐藤ナギサのことですか?」

「そうよ。さっきナギサから連絡があって残党狩りを頼まれた。ナギサったら人使いが荒いわ……」

「……イオリ達をゲヘナに残したのもそのためですか?」

「風紀委員の仕事も残ってるし、全員で行くと効率が悪いでしょ。ナギサのおかげで数も少ないし、私たちも早く帰れるように手早く片付けよう。あの数なら一瞬で蹴散らせる。行こう」

 

 

 

 

 

 

 対策委員会の面々はホシノ奪還のために目的地へと足を進めていた。

 

 

『先生に教えていただいた座標はもう目の前なので、もう少しの辛抱です……!』

「まだまだ行けますよ〜」

 

 

 アヤネは通信越しに仲間を励まして、それに応えるように奮闘しているが敵の数が多く、足止めを喰らっていた。

 

 

『……っ!前方に敵を発見しました!!距離は2Km、もうすぐ接近します!みなさん、対応の準備を……』

 

 

 アヤネがカイザーとの接敵を呼びかけ、対策委員会のメンバーは肉食獣が草食獣に狙いを定めた時のように瞬時に臨戦態勢へと移行した。

 しかしその行動の意味は一瞬のうちに消え去る。遙か上空、雲一つ無い乾いた青空から風や空気を切る音が全員の耳に入る。

 その恐ろしい音を認識した瞬間、対策委員会から見て、約2Kmに空から何かが降り注ぎ、その場にいた人々の心臓に響く程の爆発音が轟いた。まさに天からの断罪、神の裁き。そう例えられても不思議ではないと誰もが思うだけの火力が降り注いだのだ。

 

 

『あ、あれは……』

「支援射撃?」

『…今のは……M777、トリニティの牽引式榴弾砲です!あれはトリニティでも1人しか許可を下せないはず…一体どうして…』

『あ、あぅ……わ、私です……』

 

 

 アヤネは知識を保有しているからこその困惑を見せていると通信が入る。ホログラムが映し出され、彼女達の知り合いである阿慈谷ヒフミが姿を現した。頭には紙袋を被っており、「自分は阿慈谷ヒフミとは無関係の誰かです」とでも言いたげなのだが、全員がヒフミだ!と確信を持っていた。

 

 

「あっ!ヒフ──」

『ち、違います!私はヒフミではなく、ファウストです!』

 

 

 セリカが名前を呼ぼうとした瞬間にヒフミは言葉を遮り、水着強盗団のリーダーであるファウストを名乗る。

 そのあまりの必死さに困惑しながらも正体を隠したいことが理解できたノノミはファウストという名前を呼んであげた。

 

 

「わあ、ファウストさん!お久しぶりです!ご自分で名前を言っちゃってましたが、そこはご愛嬌ということで☆」

「あ、あれ!?あぅぅ……!その、このM777は、トリニティの牽引式榴弾砲ですが……」

『ヒフ……ファウストさんはあの【全能の天使】桐藤ナギサさんと関わりがあるのですか?!』

「全能の天使?」

 

 

 聞き慣れない言葉にシロコは反応して、復唱する。その様子に焦ったようにアヤネは解説を始めた。

 

 

『【全能の天使】とはトリニティの生徒会であるティーパーティー、フィリウス分派のリーダーである桐藤ナギサさんに付けられた数ある異名の一つです。

桐藤ナギサさんは一年生の時には既にフィリウス分派のリーダーとして君臨しており、現在では同じティーパーティーの聖園ミカさんと百合園セイアさんからトリニティの生徒会長として認められているという噂も…』

「そう言えば…桐藤財閥をすでに継いでいるとか聞いたことがあるような…」

 

 

 そんな噂されている本人が聞いていたら、「認められているのではなく押し付けられているだけです。訂正してください」と言っているであろう解説をしていた。

 

 

『……その異名は出さないであげてください…本人が嫌がっていたので……あ!いえ、と、トリニティ総合学園とは一切関係ありません!射撃を担当している皆さんにも、そう伝えておきましたので……』

 

 

 

 

 

 

 先生との大人の会話を終えた黒服は少女と先生の行く末を見届ける為に、自身が保有しているビルの上階から観察をしていた。

 心踊る物語。そう讃えられて間違いない先生の選択を見たいと思っていた黒服はビルへの侵入者を感知する。

 数は1人。学生でありながら銃すら携帯していないことがセンサーによって伝わり、困惑する。

 このキヴォトスで銃を持たない学生はいない。敷かれた法律が機能していないこの街で武器も持たないというのは虎の巣穴に生身で入るのと同じぐらい危険だと誰もが知っていた。

 

 黒服はエレベーターを使い、1階に降りて、侵入者を探そうとしたが意味はなかった。なぜならその侵入者が放つ、圧…絶対的なカリスマが空間を支配していることに一瞬で気付いたからだ。

 黒服はその圧の正体を目視する。美しく日々手入れされていることがわかるプラチナブロンドの髪、全てを受け入れる聖母のような優しさを兼ね備えた大きな翼、この世の全ては思いのままに操れることを確信しているような絶対的王者の圧。トリニティの支配者にして王、桐藤ナギサであった。

 

 

「……トリニティの支配者として名高い桐藤ナギサさんがこのようなビルまで何のご用です?」

 

 

 黒服は桐藤ナギサに話しかける。すると桐藤ナギサは優しさと威圧を含ませた笑顔を見せた。

 

 

「……そういう貴方は…ゲマトリアの黒服ですか」

「おや?私の……いえ、私達のことをご存知でしたか。自己紹介をする手間が省けます。…この建物に入ってきた目的は?」

 

 

 知られていたことに黒服は驚きはしない。何故なら桐藤ナギサという怪物を一方的に知ることなど不可能だと理解していたからだ。

 

 

「貴方のような子供を騙す大人に話す理由がありまして?」

「クックック、返す言葉がありませんね」

「まあ、子供を騙す大人が悪いとは思いません。しかも今回の件は契約書に基づいてのものですし、様々な事を考慮しなかったホシノさんも悪いと思っていますので。貴方も不運でしたね、先生が来て、大人のカードを向けられるなんて……先生は理解しているのでしょうか?あれは個人に向けてミサイルを撃とうとしているようなものであることを」

 

 

 黒服は自分の認識を改め、警戒レベルを上げる。先生と自分の会話を知っているのは何故?そのようなことを考えても、考えても浮かんでくることはなかった。大人のカードについても理解している。子供にも関わらず。その証拠だけで彼女を子供と考えてはいけないと自分に言い聞かせていた。

 

 

「……私と先生の会話も聞いていましたか……それに大人のカードをよく知っているようで。今から時間に余裕はありますか?私は貴方と話をしてみたくなりました」

「………」

 

 

 素直に話し合いに誘う。人は誰かに誘われた時の感情はわかりやすい。喜び、面倒、困惑、嫌がる、などどれかに分かれる。先生も話し合いに応じたのは契約書という法的な物があったからにすぎない。だからこそ嫌がっていたのが目に見えていた。

 

 しかし彼女はどうだろう。喜ぶことも嫌がることも、何も顔や言動、動きに表すことはない。まるで感情の無い人形でも相手にしている錯覚に襲われそうになる。

 彼女は大人を理解している。その確信を持つのに時間は要らなかった。

 

 

「貴方は大人をよく理解している。そして先生のことも…」

「…先生については誰よりも知っていて、誰よりも理解できていないだけです。先生がこれから行う行動、発言を知っていても、何故その行動や発言を取るのか知らないのですよ。私は」

「未来を知っている……ああ、同じティーパーティーの百合園セイアの神秘がそのような物だと聞いたことがありますね」

「その神秘とは関係ありませんよ。彼女の能力は未来を追憶することです。私の場合は未来という本を読んでいるとでも思っていただけると幸いです」

「クックック…では私達(ゲマトリア)がこの先、どういった行動を取るかもご存知ですか?」

「ふふっ、ご想像にお任せします。仕事も片付いていないので、この辺で失礼しますね」

「もう帰ってしまうとは……」

「もし私と会話をしたいのなら、アポイントメントを取って、トリニティに来てください。紅茶をご用意してお待ちしておりますので」

 

 

 黒服に背を向けて、無防備に帰ろうとする。彼女を殺すことは黒服にとって容易なことであった。しかし戦慄していた黒服は彼女を呆然と見ていることしかしない。

 誰よりも大人な学生。そう言ってしまえば簡単なのだが、その言葉で片付けていい存在ではない。矛盾を内包している彼女を今ここで始末すべきという考えすら浮かんでくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒフミさん……いつ見ても思うのですがその紙袋は無理があるのでは?

 

 私は砲撃の後、砲手の方々から離れて物陰に行こうとしていたヒフミさんを見つけたのでストーキングしてみると、予想通り紙袋を被って、アビドスのメンバーと通話していた。

 少し離れたところから見ているせいで会話は聞こえませんが、無茶をする様子もありませんし、トリニティに帰ろうと思った時、紅茶を飲んだ後に炭酸飲料も飲んだせいで尿意を感じ始めた。必死にトイレを探すが付近にコンビニや公衆トイレなどが見当たらず、ビルの中にあるトイレを貸してもらうことにした。

 

 ビルに入り、トイレの標識を見つけ、駆け寄ろうとすると曲がり角で見覚えのある人物と遭遇してしまう。その人物は真っ暗な肌、真っ黒な服、真っ黒なネクタイというまっくろくろすけに白いヒビが入ったような容姿をしていた。

 

 

「……トリニティの支配者として名高い桐藤ナギサさんがこのようなビルまで何のご用です?」

 

 

 な、な、何で黒服がここにいるですか!!??もしかしてこのビルって黒服と先生が話し合っていた場所?!とにかくこの人に弱みを見せてはいけない、今は余裕を見せなければ!

 

 

「……そういう貴方は…ゲマトリアの黒服ですか」

「おや?私の……いえ、私達のことをご存知でしたか。自己紹介をする手間が省けます。…この建物に入ってきた目的は?」

「貴方のような子供を騙す大人に話す理由がありまして?」

「クックック、返す言葉がありませんね」

「まあ、子供を騙す大人が悪いとは思いません。しかも今回の件は契約書に基づいてのものですし、様々な事を考慮しなかったホシノさんも悪いと思っていますので。貴方も不運でしたね、先生が来て、大人のカードを向けられるなんて……先生は理解しているのでしょうか?あれは個人に向けてミサイルを撃とうとしているようなものであることを」

「……私と先生の会話も聞いてしましたか……それに大人のカードをよく知っているようで。今から時間に余裕はありますか?私は貴方と話をしてみたくなりました」

「………」

 

 

 本当に可哀想だよね。契約書通りにホシノさんを頂戴したら、ミサイル持った変人が押しかけてきて……黒服が大人の対応をしていなかったらキヴォトスの学生達とやっていることは変わりませんでしたよ。

気に入らないから暴力で解決するのは大人でなく、子供のやることですし。

 

 この状況でトイレ貸してくださいなんて言えない!というか黒服は私を買い被りすぎではありませんか?私なんて(ミカさんやセイアさんと比べたら)一般人ですよ。

 

 

「貴方は大人をよく理解している。そして先生のことも…」

「…先生については誰よりも知っていて、誰よりも理解できていないだけです。先生がこれから行う行動、発言を知っていても、何故その行動や発言を取るのか知らないのですよ。私は」

 

 

 あの変態の行動理由なんてわかりたくもありませんよ。それに先生が生徒を助ける理由も「自分は先生だから」という意味不明な事を言っているだけですし。

 エデン条約編の先生はまだしも、時計じかけの花のパヴァーヌ編では何故アリスさんが危険なことは暴走で証明されていたのにも関わらず、感情論だけで助けようとしていたのはプレイヤーながら困惑しました。

 結果的にはハッピーエンドで終わりましたがリオ会長の行動の方が客観的に見た時は正しいですし。私的にはリオ会長に賛成しますね。

 ここでアリスさんの扱いをどうするかを提示せずに武力行使を取ったせいで先生を大人とは思えないんですよね。

 一度社会を経験したら理解できるのですが、感情論で物事が解決したら、会社は要らないですよ。

 ゲーム的に仕方がないとはいえ、先生が大人扱いされているのに納得がいっていない私に先生を理解しろなんて、虫嫌いに虫の解剖をさせようとしているみたいなものですよ!

 

 

「未来を知っている……ああ、同じティーパーティーの百合園セイアの神秘がそのような物だと聞いたことがありますね」

「その神秘とは関係ありませんよ。彼女の能力は未来を追憶することです。私の場合は未来という本を読んでいるとでも思っていただけると幸いです」

「クックック…では私達(ゲマトリア)がこの先、どういった行動を取るかもご存知ですか?」

「ふふっ、ご想像にお任せします。仕事も片付いていないので、この辺で失礼しますね」

「もう帰ってしまうとは……」

「もし私と会話をしたいのなら、アポイントメントを取って、トリニティに来てください。紅茶をご用意してお待ちしておりますので」

 

 

 そう言いながら華麗に去ろうとする。しかし私はもう我慢の限界であった。なのでまた振り返り、黒服の方を向いて言い放った。

 

 

「最後に一つだけ……トイレ…貸してください」

 





次回からエデン条約編が始まるぜ!

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