消防署のパワハラは各地で発生している。今回の伊都消防組合消防本部(代表=中阪雅則かつらぎ町長)で起きたパワハラは消防署内の体質ではなく政治力が作用したかもしれない。マスコミ報道によれば同本部・大家伸也消防長は昨年6月、かつらぎ町・中阪雅則町長を通じて、同町内の食品会社から「消防法令などの指導内容が厳しすぎる、職員の接遇に問題がある」と苦情を受けたという。その後、大家消防長は同社に謝罪した上で担当する予防課職員に「特例的な指導」を指示。このことがパワハラと認定された。消防長の指示をきっかけに退職した20代の職員もいたほどだ。だが単なるパワハラ事案ではないことが判明した。町内の食品会社とは。 「食品・原料メーカーの築野(つの)食品工業(かつらぎ町新田)ですよ。『つの食品の米油』で知られています。東京、大阪にも進出しており地元では有力企業。それに同社の築野富美社長は自民党の支援者としても知られています」 と地元政治通は解説する。同社前には石田真敏衆院議員、世耕弘成参院議員、鶴保庸介参院議員ら自民党国会議員の看板が設置されている。直近でも令和4年の政治資金収支報告書によると築野富美社長名で世耕氏に10万円、また石田氏の選挙区、和歌山県第二選挙区支部には60万円をそれぞれ寄付。また中阪町長は海南市役所出身。石田氏が海南市長時代の上司と部下ということになる。このような構図だ。中阪町長、世耕・石田両国会議員ら自民党支援者である築野食品工業が「消防の指導が厳しい」と同町長に相談。町長が大家消防長に指導の緩和を促す。これに対して消防長が過剰反応したか、忖度が過ぎたのか。築野食品工業側に謝罪しなおかつ「特例的な指導」を指示したということだ。 地元の有力企業、有力者に対して自治体が弱腰になるのはありがちな話。だが同町長、築野食品工業、自民党有力者の関係はそうした自治体の悪癖を越えたものだ。同本部はあくまで消防長の一存だったことを強調。しかし「築野食品ー中阪町長」という関係に消防長が神経を尖らせたのは想像できる。 こんな状況だから消防長が町長の仲介に忖度するのはありえること。それに会社側も指導に不服があれば町長を介せずとも意見はできたはずだ。町長を通じた方が有効だと考えての苦情ではないか。仲介役として名が浮上した以上、町長はどう説明するのか注目だ。