ようこそ実力至上主義の教室へ 11.5

〇松下の疑念



 春休みも終盤になった4月3日、私───松下あきはある決意を固めていた。

「やっぱり気になる、よね」

 学年末試験の前後から今日に至るまで、心の中にくすぶり続けるある感情。

 それは、あやの小路こうじきよたかというクラスメイトの存在だ。

 ここ最近は、彼のことが気がかりで仕方なかった。

 こんなことを誰かに言えば、恋だの愛だのとはやしたてるかも知れない。

 でもそうじゃない。断じて恋愛感情などではないことを、ここに宣言してもいい。

 私は綾小路くんに対して、強い警戒心を覚え始めていたのだ。

 他の生徒にそんな話をしても、首をかしげられるだろう。

 だけど私なりに1つの答えを手に入れつつある。

 この気持ちを理解してもらうためには、まず初めに、私という人物についてを知ってもらわなければならないだろう。

 私の生まれはそこそこ裕福で、優しい両親に恵まれ何不自由なくここまで育ててもらった。欲しいモノは何でも買ってもらったし、その分習い事や塾も上位の成績で学んできた。

 親は子供の優秀さに感謝し、子供は親の優秀さに感謝する。

 そんな非常に良好な関係を築いていた。

 更に、自分で言うのも何だけど容姿も恵まれた方だと思っている。

 この事実を知れば多くの人が、そんな私をうらやむだろう。

 大人になって、恋愛を重ねて、やがて経済力のある男性と結婚する。

 私の人生には多分、一番ではないけど恵まれた人生のレールが敷かれている。

 そして、そんな私は将来に対する展望も幅広く持っている。

 いくつか候補はあるけど、国際線のCAや大手一流企業への就職も悪くないと考えていた。

 だけどこの学校に入ったからには、もう少し大きな夢を抱くようにもなった。

 海外の一流大学に進み、将来は大使館に勤めそこから国連へ……そんな道も見えてきた。

 じゆんぷうまんぱんな私の、沿うだけのレール。

 一度もつまずいたことのなかった人生。

 ただ、私の最初の誤算はこの学校に入学した後にあった。

 それはAクラスで卒業することでしか、希望の進学先や就職先をかなえられないこと。

 それはつまり、Bクラス以下のクラスに価値が見いだせないこと。

 もちろん、私はある程度自力で希望する進路を勝ち取る自信はある。

 でも……Bクラス以下での卒業は足かせになるだろう。

『Aクラスで卒業できなかった生徒』という厄介なレッテルを貼られかねない。

 成し得た時のメリットとデメリットの大きさは、安定を望む私にはマイナス要素だ。

 そしてAクラスではなくDクラスに配属されてしまったこと。

 これは、とても痛いハンデを背負ったことを意味している。

 けど入学当初の私には、まだ焦りが少なかった。その油断が運のツキ。

 1か月であっという間にクラスポイントを使い果たし、圧倒的最下位に沈んでしまった。

「冷静に考えたら……勝ち目はあったんだよね……」

 そう。私たちはDクラスでスタートだったけれど、スタートは横並びだった。

 最初の1か月にしっかりと状況を理解していたら、結果的に上位クラスにも上がれた。

 そんな最悪のスタートだったけど、1年間を終えてそこそこクラスポイントは上昇。

 一度はCクラスにも上がった。この先も、まだ上位のクラスを狙える……。

「ううん、無理、か」

 早期に気付いていたとしても、他クラスとの基礎能力の差は想像より大きい。遅かれ早かれ引き離されていただろう。たまたま今年がくいっただけで、生徒一人一人の実力は大きく劣っている。この事実関係を覆さない限り私のAクラス行きは限りなく0に近い。

 あまりこんなことを口にして言いたくはないけれど、私は学年の中でも優秀な方だと自負している。上位10%の枠内であれば、ほぼ間違いなく手中に収めているはずだ。

 それでもDクラス内で頭角を現さずカーストの中盤に位置しているのは、私が手を抜いているからだ。もちろん要所では足を引っ張らないようにしているけど、目立ちすぎるのは好きじゃない。それに私が仲良くなったグループは、どうにもレベルが低い子ばかり。

 Dクラスの半数が、学年の下位10~20%を占めている。

 そんな中で中途半端に実力をはつさせてしまうと色々とやっかみを買うか、極端に頼られてしまって面倒事に巻き込まれる。それは避けたかった。

 それに、もし私が本気を出していても、状況は大きく変化しなかっただろう。

 良くも悪くも、私は優秀止まりであって、天才なわけじゃない。

 何より率先して物事を動かすタイプでもない。

 ただ……。

 他力本願じゃないけれど、私だってAクラスで卒業したい。

 かなうなら、楽なルートで未来を安定させる方向に導きたいとは思っている。

 そのためにはクラス全体に頑張ってもらわなければいけないわけだけど……。

 この1年間を見てきて、それは無理だと半ば諦めていた。

 確かにある程度の人材はいる。

 ほりきたさんにひらくん、くしさん。ゆきむらくんやワンさんのように頭の良い生徒もいる。

 だけどピースはまだ足らない。大勢が足を引っ張っている実情。

 それらと差し引きすれば、まだマイナスだ。

 あと2人か3人、今挙げた人材に並ぶ存在がいれば……。そんな歯がゆい思い。


 そう───


 あやの小路こうじくんが、私の目に留まるまではその思いに苦しめられていた。


 これは一方的な推測だけど、綾小路くんは私と同じタイプなんじゃないかと思っている。

 何となく自分だけの生活がしてみたくて、この学校に入った口。

 私よりも一層出世欲はなくて、AクラスやDクラスへのこだわりは薄いタイプ。

 それでいて、しっかりとした実力を持っている。

 もしもこの読みが当たっているのなら。

 私と合わせて2枚のカードがDクラスに加わる。

 そうなれば、活躍次第では上のクラスを狙えるんじゃないか。

 そんな考えが最近、ちらついて仕方がなかった。

 どうしてそんなタイプだと彼を思うようになったのか。

 根拠というか、気になる点はこれまでにあった。

 かるざわさんの時折綾小路くんを追う視線。そしてちょっとした距離感。

 最初は勘違いかと思ったけど、ひらくんと別れたことで私の中では確信に変わった。

 彼女は綾小路くんにかれている。

 良い男と付き合うことをステータスと感じている軽井沢さんが、綾小路くんを選んだ。

 どうして? 外見がかついいから? ううん、それだけとは思えない。

 それなら人気も高い平田くんをキープし続ける方が彼女にとって都合がいいはず。

 なら───その人気を捨てるほどの『実力』を綾小路くんが持っているからじゃないか。

 私はそう結論付けた。

 そうすると、恐ろしいほど様々なことが重なってくる。クラスでリーダー的活躍を見せだしたほりきたさんのかかわりかた、平田くんのかかわりかた。どちらも綾小路くんに対して一目置いていることは間違いない。いちさんとも、近い距離にいる。

 体育祭で堀北元生徒会長と熱戦を繰り広げたことも、今にして思えばおかしなことだ。

 更に付け加えれば、さかやなぎさんがAクラスを総動員してプロテクトポイントを与えたこと。

 やまうちくんを退学させるための、偶然選ばれた生徒だとしていたけど、司令塔で戦うことになったことからも、単なる偶然で片づけるにはお気楽すぎる。

 こうなるとに綾小路くんが不可思議な存在であるかは誰にでも分かるだろう。

 でも、ほとんどの生徒は気づかない。

 それはそうだ。彼は公の場ではほとんど活躍するさまを見せていないのだから。足の速さは突出した能力であるものの、それだけでカーストの上位になれるのは精々小学生まで。高校生……いや、大人に近づくほどコミュニケーション能力も問われてくる。

 カースト上位に君臨する生徒たちの多くは、突出した能力と同時にコミュニケーション能力も身に着けているもの。1つ欠けるだけで受ける印象は段違いだ。

 足が速いけど影の薄い生徒止まり。それが綾小路くんに対して大勢が抱いている印象。

 もしこれでコミュニケーション能力があれば、あやの小路こうじくんのカーストは相当上だった。性格にもよるけど、ひらくんと双璧を成す立ち位置にいたかも知れない。

 でもこれは机上の空論というか、無いものねだり。どうくんの頭が良くて社交性が高かったらとか、ゆきむらくんがスポーツも出来たらとか、そういうあり得ない次元の話。

 今私たちのクラスに求められている最優先事項は『学力』次いで『身体能力』だ。

 そして綾小路くんはこの2つを満たしている可能性が高い。

 しかも、2つに限っては平田くんを上回っているかも知れない。掘り出し物だ。

 もちろんこれは、ちょっとした願望が含まれている。

 そうであってくれるなら、クラス向上のための大きな力になるからだ。

 実際のところ同じくらい有してくれていれば、不満はない。

 そんな綾小路くんだが、私がここまで注目するようになったのは学年末試験の影響だ。

 フラッシュ暗算でとても解けるはずのない問題を、綾小路くんは適切に解答した。

 それが私に与えられた数少ない決定打。

 未知数の彼の実力。

 それを知りたい。

 そして、それがもしも本物であるなら───利用しない手はない。

 学力でも身体能力でも私にかなり近いことは、ほぼ間違いない。1年間水面下で生活をしてきたところからも、一筋縄ではろうらく出来ない相手だろう。

 だけど読み合いには自信がある。心理戦には自信がある。その点ではこちらが上。

 単なる好奇心での接触と思わせ、彼の本性を引き出し協力させる。

 それが来年からの反撃の狼煙のろしになる。

「……なんてね」

 確かにAクラスに上がることは魅力的だ。

 でも今私をき動かしている原動力はそれだけじゃない。退屈さだ。

 手堅い人生のレールを歩くだけじゃなく、スリルを求めている。

 他のクラスメイトには無い、ミステリアスな部分を追求したいと思っている。

 それが、綾小路くんに接触したい一番の理由だ。

 着替えを終えた私は、今日も友達との約束でケヤキモールに出かける。

 その中で、視線を雑多に向け綾小路くんを探す日々。

 だけど偶然に出会う確率なんて、いくら学校の敷地内とはいえそう高いものじゃない。

 春休み前半は一度も会うことなく、もつたいない時間を過ごしていた。

 何か手掛かりを得たい。

 好奇心と願望が、日々私の視線を勝手に衝き動かしていた。


    1


まつしたさんこっちこっちー」

「おはよ~」

 午前11時過ぎ。

 私はしのはらさんやとうさんたち、いつものメンバーと合流した。

 春休み中の私たちは毎日のように意味もなく集まって、あいもない話に華を咲かせる日々。これはこれで嫌いじゃないけど、やっぱりどこか退屈だ。

 1年間良い子ちゃんを演じてきたけど、今は刺激を求めてしまっている。

 そこで私は、少しだけクラスメイトたちに突っ込んで話をすることにした。

「篠原さん、いけくんとは進展あったの?」

 得られるであろうさいな刺激で、退屈をしのごうとする。

「ちょ、え!? なんでなんで、あるわけないって!?」

 慌てて否定する篠原さんだけど、その態度は見るからにどうようを隠せていない。

 佐藤さんの『マジでその話しちゃう?』という驚きとわくわくを含んだ目が面白い。

 ここ数か月池くんと篠原さんが急接近していることなど、とっくに知れ渡っている。

 本人たちは隠しているつもりだろうけど、ここは狭い学校。

 どうやったって男女でデートしていれば目についてしまう。

「そろそろ聞かせてくれてもいいんじゃないかなーって思ったんだけど?」

「だ、だから私そんなんじゃ……だって、あの池だよー? ダメダメ男の典型じゃない」

 そう否定する篠原さんの表現は適切だ。確かにスペックだけ見ると、下位も下位。

 身長も低いし、勉強も出来ないし、おしやべりだって上手じゃない。私からすればきりのない突っ込みどころを持った相手だけど、恋愛はそれだけじゃ計れない。

 時にはそんなダメンズにかれることだってある。不意の交通事故みたいなものだ。

 それに篠原さんのレベルなら、お似合いとも取れる。けして不釣り合いじゃない。

「いいじゃない。誰が誰を好きになるかなんて、分からないんだから」

 何だかんだ佐藤さんは恋愛話に目を輝かせ、篠原さんにスマイルを向ける。

「だから、違うってばぁ」

「否定しなくてもいいって。私としては本音を聞かせてもらいたいかな。ねえ?」

 認めようとしない篠原さんに、私は佐藤さんを更にけしかける。

「うんうん。私も気になってるし! 教えて教えて!」

 こんな時、ちょっとした指示で従順に行動してくれる佐藤さんは楽でいい。深く考えられないタイプというか、その辺が学力にもしっかりと悪い方向で出ているのは仕方ない。

 こんな風に辛辣な評価を下しているけど、けして人間としては嫌いじゃない。

 篠原さんも佐藤さんも、気の許せる友人。プライベートで欠かせない女子仲間だ。

 困っていることがあれば相談に乗るし助けてあげたいとも思う。

 後は実力さえついてきてくれれば、言うことはないんだけど。

 そんな風に私が考えているなどとは露程も思わないしのはらさんが、いけくんとの関係を話す。

「最近もさ、無意味なけんばっかりしてるし。ホント、別に進展なんてないんだって」

 ため息をついて首を振る篠原さん。

 だけどそれは、けして進展することがないと否定しているわけじゃない。

「お互いに素直になれない性格っぽいしねー。ちょっとしたことで変わりそうだけど」

 お似合いではあるものの、変なところで反発しあっている印象。

 キッカケがあれば、グッと距離が縮まりそうな感触だ。

「私なんかのことよりさ、まつしたさんとかどうなの? 誰が好きな人できた?」

「私?」

 そんな風に篠原さんに返されることは想定内。

 むしろ、そうなるように誘導した。

「前に言ってたよね。付き合うなら上級生だって」

 思い出したようにとうさんも、篠原さんの話に同調する。誰の恋愛話でも盛り上がれるなら歓迎なのよね。女子とはそんなものである。

「そうだね。でも───特定条件を満たすならその限りじゃない、かなー」

 2人の意識をコントロールして、ゆっくりと話を私の望む方向へ誘導していく。なんて偉そうに語る程でもない。誰だって何気ない日常の中で行っていることだ。それを意識しているかしていないかの違いだけ。

「へー。考え方変わってきたんだ?」

 この話に佐藤さんも当たり前のように食いついてくる。

「男はスペック、これはゆずれないよね。外見も中身も一流がいいし。それから……家柄も必要だよね。相手の両親には教養や素養も持っててもらいたいし」

 いくら子供の出来が奇跡的に良くても、親がダメなら合格ラインから外れてしまう。

「スペックが良くて家柄も良いってことは……もしかしてこうえんくん、とかぁ?」

 やや半信半疑に篠原さんが聞いてくる。

「えぇ~。そりゃ外から見てる分にはいいかもしれないけど、アレじゃない?」

 高円寺くんの名前を聞いて佐藤さんが少し引く。クラス内での高円寺くんの評価は、想像を絶するほど低い。理由は単純明快、クラスに迷惑をかけ続けるだけの奇怪な存在だからだ。ただ、内外での温度差は一番あると言えるだろう。

 外から見る分には外見、家柄など申し分はないし、女性には紳士的な面もある。

 だから学年を飛び越えた女子たちからは一目置かれているのも納得できる。

 学力に関しても、普段全力を出さないだけで底知れない実力を秘めていると見ている。

 まさに私が挙げた男性に求めるスペックのほとんどを満たしていると言える希少種。

 実力だけなら、クラスナンバーワンは高円寺くんだろうと私は思っている。

 でも、何もせずとも分かることもある。

 彼はまともな人間が動かそうとして、動くような代物じゃない。

 想像を絶する変人。

 れんに腕押し、やるだけ無駄だと最初から分かる。

 そういう意味ではどうくんやいけくんよりも、いや……クラス1のお荷物とも言える。

こうえんくんはないかな。って言うか、アレはもう人じゃないよね」

 そんな私の評価に2人がドッと沸いて笑う。

「真面目になったら間違いなくひらくんよりモテるけど、絶対真面目にならないでしょ」

 それが私の評価。

 そして、それはしのはらさんやとうさんたちも激しく同意した。

 人間が欠点ひとつで100点にも0点にもなると教えてくれるありがたい人物だ。

 池くんと篠原さんの恋愛話から、私の理想像。そして、次の段階へ。

「そう言えば佐藤さん。あやの小路こうじくんとはどうなったの?」

「え……? な、なんで?」

 私の不意の一言に、硬直する佐藤さん。

 思い出したかのように篠原さんも、佐藤さんを見る。それは冬休みの時だ。佐藤さんが私たちに話してくれたこと。綾小路くんのことが気になっていて告白するか悩んでいると打ち明けてくれたことがあった。あの時は今日の池くんと篠原さんのように、遠目に応援しながらその様子を見て楽しむだけのつもりだった。

「べ、別に私は……」

 否定しかけた佐藤さんだが、言葉が詰まる。

 けど気がついた時、佐藤さんから綾小路くんの話題はピタリと止まった。

 もちろん、それが何を意味するのか私も篠原さんも理解しつつ触れたりはしなかった。

 告白して振られたのか、それとも心変わりしたのか。とにかく佐藤さんから話してこない限りは触れないように配慮した。

 でも、今の私には綾小路くんを詳しく知るうえで避けて通れない道だ。

「……ひ、秘密にしてくれる?」

 そんな切り出し。

 私と篠原さんはとても面白い話が聞けると確信し、佐藤さんの肩をそれぞれたたいた。

「当たり前じゃない」


    2


 こうして、私たちは佐藤さんの悩みを聞くためにカフェに移動した。

 これから持ち込まれる悩みを聞き、同意を繰り返す作業が始まる。

 女子による女子のための時間。

 解決を先に求める男子と違い、私たち女子はこうていから始まる。

 それは悪いことばかりじゃない。

「実は私ね……あ、あやの小路こうじくんに告白したんだ……」

 開幕と同時に切り出した言葉に、私としのはらさんは紅茶を噴き出しそうになった。

「え? え!? ま、マジ? いつの間に!?」

 異性との関係が一番進んでいると思っていた篠原さんは、思わず前のめりに。

 私も2人の間に多少何かあったとは思っていたけどそこまで進んでたなんて。

 だけど、裏を返せば結果は見えている。

 もし付き合うことに至っていたなら私たちに報告しているだろう。

 恥ずかしくて隠しているだけだったとしても、私は必ず気付く。

 そうじゃなかったということは……。

「フラれちゃった」

 告白してからそれなりに時間がっているんだろう。言葉にどうようや焦りは見えない。

 何度も泣いて、そして前に進もうとしている状態。

 そこから考えてみれば───冬休みの内に告白していたのかも知れない。

 私たちに触発されて早まったのであれば、それは申し訳ないことをしたかも。

「うっそー! 綾小路くん、バッカじゃないの!?」

 女子からの告白。しかも外見は文句のないとうさんからのもの。

 それを断ったことに対して、驚きと怒りを覚えているようだ。

「なんで? え、なんでフられるわけ?」

「……純粋に気持ちの問題だ、って。好きじゃないから付き合えないって言われた」

 篠原さんが額に手を当てながら何それ、と不服を漏らす。

「単純に好きな人がいるんじゃない? ほりきたさんとかさ」

 私がそう佐藤さんに確認をすると、首を左右に振る。綾小路くんと言えば、確かに堀北さんの影がチラつく。今、私たちのクラスでどんどんと存在感を増している存在。綾小路くんと堀北さんがくっついているかも、といううわさ話は少しだけど立ったことがある。

 でも、結局その線は無いってことでいつしか話にも上らなくなったっけ。

「堀北さんやくしさん相手でも同じだって」

 案の定、あの2人がくっついているということはなさそうだ。

「いやいやいやいや、えー!」

 堀北さんの名前はともかく、櫛田さんの方には篠原さんのテンションもマックスだ。

「それもう、恋愛に興味ない朴念仁じゃない。ちょっと引いてキモッ」

 そう結論づけたくなる気持ちは分かる。

 かんじんの佐藤さんはそう思っていないようだけど。

可愛かわいい子も相手にする気が無いってさ……それって本命がいるってことじゃない?」

 私がそう切り出し佐藤さんの方を見ると、視線をらしながらもうなずいた。

 好きな相手のことは、誰よりもよく観察するもの。綾小路くんが誰に好意を向けているかを一番感じ取れるであろう人物はとうさんだ。

「多分あやの小路こうじくんは……かるざわさんが好きなんだと思う」

 どこか視線をにやりながら、佐藤さんがそう口にした。

うそ、ちょっと待って。本当に? え、え? ええ? マジのマジで軽井沢さん!?」

 またも私はしのはらさんと顔を見合わせる。

 知らない人が知れば、意外過ぎる組み合わせ。

 だけど私は驚いたフリをするだけで、心の中では深く納得していた。

 自分の読みと、そして綾小路くんを好きだった佐藤さんの意見が完全に一致したから。

「うん。それから……多分軽井沢さんも、綾小路くんのこと……好きだと思う」

「もしかしてひらくんと別れたのって、そういうこと関係してたりする?」

 私の問いかけに、佐藤さんは半信半疑そうではあったが、うなずいた。

 要は個人的にはそうだと思っている、ということだ。

「平田くんから綾小路くんに乗り換え? いやー、ごめんけど私には理解不能」

 それはいけくんを選ぼうとしている篠原さんが言うべきことじゃないけどね。

「そんなことないって。私も……私だって、綾小路くんの方がイイと思うし」

「まだ好きなんだ……?」

「忘れようとはしてるんだけどさ、どうしても目が行っちゃって……」

 それで日々、綾小路くんを目で追ううちに真実に気づいてしまったわけだ。

 佐藤さんには申し訳ないけれど、とても参考になった。

「それにしても……なんかここ最近綾小路くんの名前をよく耳にするよねー」

 篠原さんに浮かんだ何気ない疑問。

「司令塔の件とか? あ、あとさかやなぎさんがプロテクトポイントあげた件とか?」

 同じことを感じている佐藤さんも、綾小路くんが中心となった件を口にする。

「不思議だよね。なんで綾小路くんだったんだろうって。ほりきたさんが言うには偶然って話だったけどさ」

 その件は私も不思議に思っていた。でも、この2人相手に真剣な議論をしても仕方ない。

「アレって、今にして思えば超い手なんだよね。プロテクトポイントを与えておけば学年末試験みたいな場所で人柱にならなきゃいけないわけでしょ? 坂柳さんが最初からそこまで考えてたって思えばつながってくる」

 ある程度納得できる材料を放り込んで、話題を終わらせることにした。

「あ、そっか……!」

 もし綾小路くんじゃなく池くんだったなら、もっと楽に坂柳さんは勝てただろう。

 もちろん、不意の相手を選ぶ意味で綾小路くんだったのかも知れないけど。

 ともかく今の私にとってそれは後回しだ。

 軽井沢さんが綾小路くんを好きで、そしてその逆もそうかも知れないこと。

 それが分かっただけで今日は大収穫だったと言える。

 これを切り口に、接触することも出来るだろう。

「私と同じでスペック重視だと思ってたけどな、かるざわさん」

「だからそれは、あやの小路こうじくんも、その、すごいんだって」

「足が速いくらいでしょ?」

「でもさ、賢いって言うか、何でも分かってるような感じしない?」

 とうさんがそんなことを私たちに聞く。

「しないしない」

 即、しのはらさんは否定したが私は佐藤さん寄りだ。

「確かに変な男子よりは、しっかりしてる印象あるかも」

 全く篠原さんが同調しないので、私が合わせておくことにした。

「だよね!」

 フラれたのに、綾小路くんが褒められてずいぶんうれしそうに目を輝かせる。

 まだまだ恋心は残ってるってことか。

「単に口数が少ないからそう見えるだけじゃないの?」

いけくんなんか真逆で、いつもしやべってるもんね」

「そうそう。静かにしてって言ってもしゃべり続けるんだから」

 不服そうにしながらもまんざらでもなさそうな篠原さん。

「それでね、私───」

 佐藤さんが続けようとした時、私は視線の先に綾小路くんを見つける。

 他の子たちは話に夢中で気がついていない。

「あ、ごめ。私ちょっと電話してきてもいいかな?」

 そう確認を取ると、2人は快く送り出してくれる。

「少し長くなるかも知れないから、何かあったら連絡してきて」

 そう言い残し、私は電話をしてくるフリをして席を立った。

 追いかけてすぐ、綾小路くんの背中を視線に捉える。

 鉄は熱いうちに打てって言うしね。

 篠原さんと佐藤さんから視線が外れるまで、慌てないこと。電話するフリをしながら綾小路くんの後を追う。気づかれないように尾行するってことには一抹の不安はある。

 どれだけ距離を開けておけば安全か、そうじゃないか。

 下手に追いかけてることがバレたら警戒される。だから偶然を装いたい。

 この春休みを逃すと、次は多分2年生になってからしか会えない。

 その前に、接触できるなら済ませておきたいところね。

 しかも幸いなことに綾小路くんの周囲には連れいもいない。

 声をかけるタイミングは今だろう。そう思ったけど……私はすぐに身を隠した。綾小路くんに近づいてくる存在が目に留まったからだ。

「確かあの人って……新しい理事長……よね」

 か、あやの小路こうじくんが話しかけられている、面白い組み合わせ。

 新しい情報が拾えるかも知れない。

 もし『実力』に関する部分なら、向こうの言質を取れればこちらのものだ。

ずいぶんと長い間、理事長と話し込んでる……」

 時間にして10分近く。

 単に声をかけられて、話すにしては長すぎるんじゃないだろうか。

 もしかして、綾小路くんはあの理事長と以前から面識がある?

 親しそうに話しかけている理事長だが、対して綾小路くんはいつもと変わらない無表情。

「……分からない」

 以前から面識があるようにも、初対面で色々聞かれているだけのようにも見える。

 2人の動作からは、バックグラウンドが何も見えてこない。

 もう少し距離を詰めれば会話を聞き取れそうだけど、それは危険だ。

 通行人のフリをして見る手もあるけど、それだと隠れる場所がなくなってしまう。

 ここにとどまって、もう少し観察を続けるべきよね……。

 やがて長い会話が突然終わりを告げる。

 理事長は、離れた薬局の入り口辺りで待つ大人たちと合流しにいったようだ。

 綾小路くんはどうするだろうか……動き出した。

 何事もなかったかのように、どこかへと歩き出す。

 理事長とのからみから情報を拾えればと思ったけど、空振りだったかな……。

 私はあやの小路こうじくんに声をかけるつもりだったが、それをてつかいする準備を始めていた。

 やっぱり、もっと脇を固めてからにすべきかも知れない。

 もう少しだけ後をつけて、何もないようならしのはらさんたちのところに戻ろう。

 角に消えていく綾小路くんを追いかけながら、私はそう思った。


    3


 その日のオレは、ケヤキモールに1人で買い物に来ていた。

 春休みが終わって新学期が始まる前に、衣服など新調しておきたいものがあったからだ。

 それだけの一日になる予定だったが、事情が変わり始める。

 最初の異変はオレの背後から。

 そして次の異変はすぐに前方からやってきた。

「少しよろしいですか」

 どこから回ろうか考えていた時、4人の大人たちに声をかけられたことに始まる。

 その内3人は工事業者のようなかつこうをしていて、手にはクリップボードを持っていた。

 だが、1人は手ぶらでピシッとしたスーツ姿をしているつきしろだ。

 こちらの足を止めさせると、一度3人の方へと振り返る。

「では工事の方ははず通りよろしくお願いいたします」

 そんな指示を月城が出し、大人たちを先に歩かせていった。

「綾小路くん、ずいぶんと春休みをまんきつされているようで。まるでいっぱしの学生のようだ」

 優しい口調で何を話すかと思ったら、随分と皮肉を込められていた。

「何か自分に御用でしょうか、月城理事長代行」

「おや。歓迎されている様子ではありませんね」

 そんなことを分かっていながら、あえて少しだけ声量をあげる月城。周囲で足を止める者がギリギリ素通りするレベルなのが、意図的であることを表している。

「理事長に声をかけられると変に注目を浴びますから。この学校じゃ実力のない生徒は日陰にいるべきだと思ってますので」

 可能な限り、手早く相手の用件を引き出したいところ。

 オレの後をつけているまつしたのことも気がかりだ。

「もう一度伺います。用件はなんでしょうか」

 距離は離れていて会話までは聞こえないだろうが、色々と余計なおくそくを生みそうだ。

「用件は私の話したいタイミングで話します。それが苦痛なようですが、我慢していただくしかありません。不服ですか?」

 こちらの配慮など、月城がするはずもない。

 むしろ好都合とばかりに、往来の場所で間延びさせるように話を始める。

「分かりました。ではゆっくりとお話しください」

「そうすることにしましょう。では、まずは天気の話からしますか」

 パン、と手をたたいてそう提案するつきしろだが、すぐに目を細める。

 オレの反応を見て楽しむつもりだとしたら浅はかだ。

 こんなことで、心の中にある感情を上下させることなど出来るはずもない。

「冗談ですよ。私もこの後予定がありますし本題にしましょう」

 それも、月城は当たり前のように分かっている。

 分かっていて、それでもこちらを挑発してくるを取ったようだ。

 だが言いたいことはあるようだな。

 学校と生徒。その立場は何があってもひっくり返ることはない。

 こちらが生徒である以上、あらがえない力関係を示してきている。

「どうでしょう。この春休みを最後のきゆうにして、父上の元に戻られるというのは」

 場所のことなどお構いなく、内容に関しても中々踏み込んでくる。

 まあ、こんな話を他の学生が聞いたところでどうにかなる問題でもないが。

 オレが不利になることはあっても、この男にダメージはないだろう。

 かと言って───

「無視して立ち去りたいでしょう。しかし、それはめておいた方がいい。私も理事長としての立場があります。生徒に邪険にされるなら、それ相応の態度を示しますよ」

 こちらの考えを見透かすように、月城が笑う。

あいにくですが、学校を自主退学するつもりは全くないです」

「ホワイトルームに戻ることがそんなに嫌なのですか?」

「オレはこの学校を気に入ってます。学生として卒業したい考えがありますので。それ以外には理由は何もありませんよ」

「確かにここは良い学校です。政府からの潤沢な資金を使って、こんなショッピングモールまで建設してしまったんですから。知る人が知れば税金の無駄遣いだとなげくでしょうね。毎年何億という金が、湯水のように使われている。ところが国民の大半はバカですから。子供たちを育成するための資金であると概要だけを聞いてよく知らずに納得してしまう」

 ため息をつきながら、月城はぐるりとケヤキモール内を見渡す。

「だからこそ、やらなければならないことは無数にある。私も今はこの学校の理事長。学校のことを思うからこそ、今こうして働いているわけです」

 それが工事関係者のような人間とのやり取りだろうか。

 表向きは出来る理事長を演じなければならないのだ、確かにやることは多いだろう。

「ところで───君を追いかけている彼女は、同クラスのまつしたあきさんでしたか」

 こちらに向けた視線を変えないまま、そうつぶやく。

「一瞬ですが、塀の裏に隠れるのを見ました。ずいぶんとモテるようですね」

 ほとんど月城の視線はこちらに向いていなかったはずだが、よく観察している。大人たちと会話しながらも、常に周囲には気を配っていたということか。

「一クラスの生徒の名前までしっかり覚えてるんですね」

「あなたのクラスメイトくらいは、覚えておいて損はありませんから」

 精神的揺さぶりを狙った攻撃とでも称しておこうか。

「彼女はフラッシュ暗算でのあなたの解答を知っている。大方その流れでしょう。段々と窮屈になってきませんか? 普通の学生として過ごしたいのに、難しくなっている」

 学校に対する嫌な印象を植え付けようとしている感じだ。

「我慢しますよ、それくらいなら」

「正直に申し上げれば、私は君のことなどどうでもいいと思っています。むしろ、貴重な時間を割かなければならないことに強く不満を抱いています」

「だったら、今すぐやめればいいんじゃないですか。無理強いされることじゃない」

「あなたの父上がそれを許してはくれませんからね。あの人に逆らえば、私の住む世界では生きていけない。私もまだまだ、上を目指したい人間ですから」

 立ち去る気配もなく、長々と話を続けるつきしろ

「そうげんな対応をしなくても。言い訳などいくらでも出来ます。そうでしょう?」

「まあ、そうですね」

「君のホワイトルームでの成績には目を通しました。確かに非凡な子供であることは大いに認めます。わずか16年余りという年齢では、異常とも言える能力を兼ね備えている。並の大人であれば、心技体、そのどれもが君に遠く及ばないでしょう」

 月城が距離を詰めてくる。にこやかな笑みを浮かべながら。

「何だかんだ、君はこの学校で無事に1年間を過ごせた。それで手を打ちませんか? それが大人というものです」

 この1年間をおもい出にして、ホワイトルームに戻れ、と。

「オレはまだ子供ですからね。手を打つつもりはありませんよ」

「ふむ。私から逃れられるとでも?」

「最後まで抵抗はするつもりです」

「このような言葉があります。なかかわず大海を知らず。君は自己評価が高すぎる傾向にあるようですね。だから、そうやって分不相応な大きな態度を取れる」

 月城は軽く両手を広げる。

「この学校内はどうか知りませんが、君はけしてナンバー1じゃない。後発であるホワイトルーム生には、既に同等、あるいはそれ以上の生徒が何人も誕生しているんです。量産型の1人に過ぎないことを自覚すべきだ」

「もしそれが事実なら、オレに構う必要はなくなったってことになりませんかね」

「あの方のご子息でなければ、そうだったでしょうね。父上は君を更に高みに連れて行きたいと強く願っているのでしょう。どれだけ冷徹に見えても父親ということです。彼はあなたが手本となり、大勢を導ける存在だと信じてまないのです」

 つきしろは、あの男に対しての不満を隠さずに漏らす。

 それは自分の立場の強さや高さを、こちらに対して見せつけているようでもあった。

「ホワイトルームの存在について、月城理事長代行はどう考えていますか」

「どう、とは?」

「必要だと思うのか、不要だと思うのか。存在に対してどう思っているかですよ」

 卑屈になるような立場でないのなら、是非ご教授願おう。

「私がお答えする必要は一切ありませんよね」

「その答えを聞けば、オレの今の考えも変わるかもしれません」

「物は言いようですが、いいでしょう。もしそれであやの小路こうじくんの気持ちが変わるかも知れないのなら、安いモノです」

 十中八九オレのうそだと分かっているだろうが、月城は承諾する。

「あの施設のことを語るのであれば、その歴史から振り返る必要があります。ホワイトルームが作られたのは今から約20年前。知っていますよね?」

「当然です。オレは『4期生』ですからね」

「そう。ホワイトルームは初年度の1期生から、1年ごとに新しいグループが作られることはごぞんの通り。グループはそれぞれが別々の指導者の下、教育されていく。そして、どのグループが一番効率よく育成できるかを検証する。昨年の中断によって19期生までしか育成はされていませんが……既に何百人という子供たちが、ホワイトルームによる教育プログラムを受けていることになります」

 年齢が違う子供たちとは、顔を合わせることは一度もなかった。

 同じ施設にいながら、誰一人として顔も名前も知らない。

ずいぶんと詳しいんですね。ホワイトルームの事情に」

「一通りは」

 月城が、に父親に近い人物であるかは会話の通りすぐに理解できる。

 向こうもそれを理解させるために話していることは間違いないだろう。

 見方によっては単なる小物。しかし、見る角度を変えれば大物にも見えてくる。

 その時々で、自分自身を変えられる。

 だからこそスパイ的活動を任されたのだろう。

「どの子も、一定水準までは成長を見せる。しかし、その水準を超えることがなかなかできない。結果的に20年近く施設を運営しながら、かかげた目標値に達した子供は1人も誕生することはなかった。そう、君を除いてね。まあ、これは2年前までの話ですが」

 いったいどれだけの金がホワイトルームに投資されたのか。

 何億という額では足らないだろう。

 その結果がオレ1人だけとは、なんともむなしいものだと改めて思う。

「優秀な人材は出来上がってるんですよね? その子供たちは今なにを?」

 オレが何も知らない部分。

 去って行った同期たちが何をしているのか、想像もつかない。

 少しだけつきしろは驚いた様子を見せたが、すぐに納得する。

「君は、施設で脱落していった子供たちの行く末など知る由もありませんでしたね。子供たちは立派に成長し、社会にこうけんできている───といったことがあれば、まだ救いもあったのですが。これまで施設で育った子供の大半は問題を抱えているケースが多く、使い物にならないのですよ。あの環境に耐えられず心が壊れてしまうのでしょうね」

 あきれた様子で、月城は話を続ける。

「生まれた瞬間からの徹底した管理教育。これが実現すれば、日本は世界から見ても類を見ない大きな成長を遂げるでしょう。しかし、事はそう単純ではありません。不思議なもので、人の成長はそれぞれ大きく異なる。どうしても同じようには育成は成功しない。それでも、着実に成果を挙げつつはあります。あなたの後を追う5期生6期生で言えば、生き残った子供たちの中には大きな才能を開花させている者もいますしね。これから制度を整えていけば、何十年か先にはホワイトルームはなくてはならない施設にまで昇華するかも知れない。あなたの父上の計画はあまりに壮大で馬鹿げていて───そして恐ろしいモノです」

 じようぜつに語りながら、そして月城はこう締めくくる。

「つまり、それが私のホワイトルームに関する感想です。馬鹿げていて、恐ろしいモノ」

「長々とありがとうございます。勉強になりました」

「魔の4期生と呼ばれ、あまりにも厳しい教育により次々と脱落していく中、たった1人だけ残り続け最後のカリキュラムまで難なくクリアした。あなたは貴重なサンプルだと私も考えています。その輝かしい記録に傷がつかないうちに戻った方がいい」

 携帯を取り出した月城は、それをオレに差し出してくる。

「今すぐ父上に連絡し、退学すると一言申し出なさい。それがあなたのプライドを守り、そして父上の愛情に応えることが出来る簡単な方法です」

「月城理事長代行。あなたの言っていることには、確かにうそである要素はどこにも含まれていない。完璧なまでに真実を語っているようにも見えます」

 ホワイトルームに関しても、オレに対しても。

 その通りですよ、と月城が微笑ほほえむ。

「オレが思い描く月城理事長代行は、感情を読ませない鉄仮面のような人です。それが、今の話に限ってその仮面を外しているようでした」

 つまり意図的に印象を操作して、会話の内容にしんじつを持たせてきた。

 それ故に、この話にはしんぴようせいがあるどころか、嘘くさいものに感じられてしまう。

 この男ほどになれば、話の中に真実と嘘をぜる必要もない。

 黒を白に見せることも、白を黒に見せることも自由自在だろう。

 つまり純度100%の作り話を、本当のことのように語ることも出来る。

「私のことを信用してはもらえないようですね」

「残念ながら」

「やれやれ……」

つきしろ理事長代行こそ、ここで身を引いた方がいいんじゃないですか? もしオレを退学に追い込めなかったなら、父親からの信頼を失う。多少しつせきを受けるとしても、この段階で引き下がっておく方が賢いと思いますが。恥をかくことになりますよ」

「ご心配いただきありがとうございます。ですが、それは無用な話。私は失敗しません」

 どこまで本気で言っているのか分からないが、月城は不気味に微笑ほほえむ。

「それに、私は大人です。一度の失敗を恐れたりはしません。万が一君が私を退けることが出来たとしても、それはそれ。次の仕事に就くだけのこと。恥など大したことではないですよ」

「父親を恐れて協力する割には、失敗は受け入れるんですね。どっちが本心ですか」

「さあどっちでしょう」

 何十年と第一線で戦い続けているであろう月城。

 評価した鉄仮面は想像以上かも知れないな。

 あの男が送り込んでくるくらいだ、中途半端なヤツではないことは分かっていたが。

「納得いただけないなら仕方ありませんね。お互いやり合うことにしましょう」

「そうですね」

 ここで、ようやく月城は満足したのかオレから距離を取る。

「そろそろ私は行きます。これ以上待たせると失礼に当たりますからね」

 先に行かせた関係者のことを言っているんだろう。

「しかし自主退学しないとなると、今後の学校生活は大変なものになりますねえ」

へいおんに過ごしたいところですが仕方ないですね。覚悟の上です」

 微笑みを向け続ける月城だが、去り際に更に提案をする。

「君に一方的に有利なゲームをしませんか?」

「ゲーム?」

「新学期になると、新入生としてホワイトルームから1名呼び寄せることになっています」

 何を言い出すかと思えば、月城から意外な発言。

「そんなことをオレに教えていいんですか」

「なんの問題もありません。君だってその可能性を頭に入れていたはず。引導を渡す役はその子にと思っているので、正体に気付く頃には退学手続きをしていることでしょう」

 自ら手を下すまでもないという判断か。

 こちらの警戒心は強まることも弱まることもない。

 オレは月城の発言を記憶しつつも、何一つ信じたりはしない。

「信じてはいなそうですね。私が4人も5人も送り込むとでも? そもそも、何人も送り込めるほど、この学校は甘くありませんから。ナンセンスですね」

「1人と言おうと100人と言おうと、何一つ信じたりはしませんよ」

 ねじ込もうと思えば、あの男なら何人でもねじ込んでくる。

 そういう男であることはよく分かっている。

「確かにそうかもしれません」

「でも、それがどうゲームに通じるんですか」

「来年入学する1年生160名。その中に存在するホワイトルーム生が誰であるかを4月の内に突き止めることが出来たら、私は身を引いても構いませんよ。どうですか? 破格の話でしょう?」

 確かに、それが本当なら破格の話だ。

 厄介なつきしろが去るのなら、こちらにとっては負担が減ることになる。

「とても信じられませんね」

「話半分でもいいではありませんか。君には何もリスクがないんですから」

 精神的に受けるダメージはさておき、確かにリスクはないようなもの。

 引き受けておいても損はなさそうな話だ。

「分かりました。形だけでも受けておきますよ、そのゲーム。ただ、そのホワイトルーム生の能力に相当自信があるんでしょうが、オレも1つだけ自信を持っていることがあります」

「ほう? それはなんです?」

なかかわず大海を知らず、されど空の深さを知る」

「すなわち……ホワイトルームという狭い世界で突き詰め続けたからこそ、誰よりもその世界の深さを知っている、ということですか」

 揺らぐことのない自信を与えてくれたのは、まぎれもないホワイトルームでの教育。

 どれだけの子供たちが同じ教育を施されてきたとしても、この高みには達しない。

 1つ上の3期生、あるいは年下の5期生だろうと持つ考えは同じだ。

 こちらを値踏みするような視線を向け続ける月城に、オレは言葉を続けた。

「オレよりも優れた人間は、当然この世界に存在するでしょう。なら世界には70億にも達するほどの人間が生きているんですから。ですが、ことホワイトルームにおいては違う」

 あの世界でオレよりも優れた人間は存在しない。

 それだけは確信を持って答えることが出来る。

「そのひとみ───父上にそっくりですねえ。深い闇を抱いた不気味な瞳です。その瞳の深さだけは、に他の優秀なホワイトルーム生と言えどできるものじゃない」

 これ以上の会話は無駄と悟ったのか、月城は背を向け歩き出した。


    4


 月城と別れて、しばらくケヤキモールを彷徨さまよっていた。

 ひとまずつきしろの方は忘れて大丈夫だろう。

 問題は、ずっと気配を殺し続けて隠れているまつしたの方か。

 このまま接触せず済ませることも出来るが、理事長とのことをふいちようされても面倒だ。

 オレは松下がまだ後を追って来ることをしっかりと確認した後、待ち伏せることにした。

 オレの後を追って来るのか、その理由を確かめておかなければならない。

 まず無いとは思うが、月城側の人間ということも可能性としては考えられる。

 最初からなのか、あるいは途中からなのかは分からないが。

 その点だけでも白黒つけておく。

 問題があるとすれば、どこで声をかけるかだ。

 今日のケヤキモールは春休み終了も近く、更にお昼前ともあり大盛況だ。

 下手に声をかければ悪目立ちすることもある。

 タイミングを見計らい、早い段階で決着をつけることにしよう。

 救いなのは松下が同じクラスの生徒であることだ。

 多少話し込んでいるところを目撃されても、何気ない日常会話にしか思われないだろう。

 やや早足で角を曲がり、松下を待ち伏せる。

 もし追ってこないようなら、けいを使って手を打つ方法を取るか。

 10秒と少ししたところで、松下が角を曲がり追いかけてきた。

「わっ!?」

 オレが松下の方を向いて待っていると思っていなかったのか、驚きの声を出す。

 もしオレを追いかけていたわけじゃないのなら、びんに驚くことはなかっただろう。

「何か用か?」

 こちらが冷静に聞き返すと、松下は速くなったどうを落ち着けるように胸に手を当てた。

「用って、何が? ……って言いたいところだけど、バレてた感じだね」

 こちらの態度と、自分の見せた失態に下手な言い訳は通用しないと判断したようだ。

 しかし何故オレの後をつけてきていたのか。

 重要なのはその部分だろう。

 普通に声をかけるだけであるなら、隠れて尾行してくる必要はない。

「うん。ちょっとね、あやの小路こうじくんの後を追いかけてきたの」

 周囲に誰もいないことを松下も確認し、その後尾行していたことを認める。

 松下とオレとの間には深い接点は何もない。

 だが松下の挙動をくまなく観察していると、かなり警戒していることがうかがえる。そして心理状態を見破られたくない思いと、こちらを探ろうとしていることが見て取れる。

「なんで追いかけてきたと思う?」

 それは、単なる問いかけじゃない。明らかにオレに対して心理戦を仕掛けて来ていた。

 ここから何かを引き出そうと企んでいることは間違いないな。

「さあ。皆目見当もつかない。それよりもいつから後をつけてきたんだ?」

 こちらがどのタイミングで気付いていたかはこちらから教えない。

 質問に答えつつ、こちらからも質問をぶつけてみる。

「ついさっきかな。そ───」

「ついさっきって?」

 追加の質問させないようにまつしたの言葉を遮り、更に聞き返す。

 もしすきを与えれば『あやの小路こうじくんはいつから気付いてたの?』と返してきただろう。

「誰だっけ……そう、新しい理事長と話してる途中かな」

 うそを混ぜつつも、理事長との会話を見ていたことは認めてきた松下。

 だが直後に松下はわずかに口角を下げた。自らの判断ミスに気がついたようだった。

 オレはここで間を開ける。理事長とオレの関係性に疑問を抱いていたなら、松下から必然的に質問が飛んでくるだろう。

「理事長と話すなんて、何かあったの?」

「ケヤキモールの改築をするらしくて、たまたま目についたオレに意見を求めてきた。どんな施設があったらうれしいとか、そういうことをいくつか聞かれたかな」

「へえ、そうなんだ……」

 途中から見かけたと嘘をついた松下。もっと前からオレをつけていたことで得た情報をアドバンテージにしようとしたのかも知れないが、それは逆効果だ。理事長と行動を共にしていた作業員たちを見ている以上、今のオレの話をしんぴようせいの高いものとして認識する。

「それで、それがどうかしたのか?」

「それは別に関係ないんだけど、ね。ちょっと気になったことがあって」

 そう言って、松下はつけてきたであろう本題を話し出す。

「学年末試験の時のことなんだけど……綾小路くん司令塔だったじゃない?」

 なるほど。その一言で松下が何のためにオレに接触してきたかその全てを理解する。

「フラッシュ暗算の時、私に教えた答えとこうえんくんが言った答え。一致してた」

 それを単なる偶然として片づけるのは難しいだろうな。

「中学の時フラッシュ暗算をやってたことがあるから、比較的得意なんだ」

「私もしてたけど、比較的ってレベルじゃないよね。全国レベルだと思うんだけど」

 そう言った後、即座に話を付け加える。

 尾行のことでオレに先手を封じられたことが気に入らなかったようだな。

「アレは純粋に得意な種目だった。正直に言えば、全国大会にも出たことがある」

「……ホントに?」

「ああ。偶然得意な種目が出たから、多分松下にも誤解を生んだんだと思う」

「でもさ、だったらもっと早く言うべきじゃない?」

「確かにな。けど、オレの性格分かるだろ? クラスの中で堂々と主張できるような立場じゃない。偶然プロテクトポイントを持ったかりそめの司令塔だったしな。何より、相手はAクラスのさかやなぎだ。フラッシュ暗算が得意と言っても、どこまで通じるか分からず不安だった」

 自信の無さ=発言の弱さ。このイメージをクラスメイトはオレに持っている。

「それは……まぁそうかも知れないけど」

 一定のしんぴようせいを感じつつも、そのまま認めるわけにはいかないとまつしたは次の手を打つ。

「私さ……見たんだよね。あやの小路こうじくんとひらくんが、ベンチで話し合ってるところ」

 クラス内投票で孤立していた平田と語り合った時のことだろう。

 オレも背中に目があるわけじゃない。見られているとは知らなかった。

 ただ、だからって慌てるようなことでもない。

 あのタイミングで誰かが遠くから見かけていたとしても、不思議じゃないしな。

「近づくと気づかれると思ったから遠くにいたけど、泣いてる感じとか分かったかな」

 あの場面とフラッシュ暗算。材料はいくつかそろっているか。

 松下の狙いが浮き彫りになってくる。

 挙動や言動からしても、つきしろとは全く関係が無いと判断して良さそうだ。

「その次の日から、平田くんが復帰してきたのは単なる偶然じゃないよね?」

 普通の生徒だと思ってたが意外と鋭いんだな。

 気になるのはオレに対してこんな話をしてきたことだ。

 胸の内に秘めておくことが出来なかった、といった様子でもない。

 単なる好奇心を先行させているようにも見えるが……。

 わずかに見せる挙動からそれがブラフであることは間違いなさそうだ。つまり別の狙いがある。松下なりにロジックを組み立てて今日に臨んでいることを見ても、突発的な思いつきじゃないな。事前に接触して、話を切り出すことを決めていた。それが今日だったのは、恐らくケヤキモールで単独行動しているオレを見つけたからだろう。

「全国レベルのフラッシュ暗算の実力に、体育祭で見せた脚力。それに平田くんを立ち直らせたこと。総合すると見えてくるもの……。綾小路くん手を抜いてるよね? 本当はもっと勉強とかスポーツが出来るんじゃない?」

 わざわざ関係性の薄いオレに接触してまで、引き出したかったこと。

 オレの実力に疑問を抱き、その真実を確認しに来た。

 これまで1年間クラスメイトとして接してイメージしてきた松下とは全く様子が異なる。

 早々に1つの結論に達したオレは、核心を突くことを決める。

「Aクラスに上がりたいから協力して欲しいのか?」

「……認めるんだ?」

 あっさりと白状したことに、松下は一定の不気味さと手ごたえを感じたようだ。

「手を抜いてるのはそうかも知れないな」

「どうして? この学校じゃ成績を良くしておくに越したことはないよね?」

 アドバンテージを取ったと思った松下からの、質問責めが始まる。

「目立つのが好きじゃないから……だな。中途半端に勉強ができると、教える側に回ったりすることもあるだろ? そういうのは苦手なんだ。スポーツも似たような感じだな」

「なるほど、ね」

 同じように多少隠し持った実力を持っているまつした。恐らく自分と重ね合わせ、強く納得できる部分があったのだろう。こちらの言い分を信じる。

「今後はクラスにこうけんして欲しい。相応の実力を持ってるのなら、それをはつして欲しいの。これから私たちのクラスが勝っていくために。もしその実力が本物で、リーダーとしての資質もあるのなら、私はあやの小路こうじくんを推挙しても構わない」

 要はほりきたと同じ。実力を持っているならそれを素直に出せという話。

「ちょうどそうしようと思ってたところだ」

「え?」

 こちらが素直に協力を申し出ると思わなかったのだろう、気の抜けた声を出す松下。

「けど、過度な期待はしないで欲しい。7、8割の実力はもう出してる。正直全力を出してもひらほどには勉強もスポーツも出来ないぞ」

 今後オレがどのように学校で生活していくかはいったん棚に上げておく。

 今ここでは、松下をある程度の段階で納得させておくべきだろう。

 実力を隠していると教えることで、これ以上の秘密はないことを印象付ける。

 そしてこちらが松下の隠している実力に察していることには一切触れない。

 向こうは当然、心理戦で優位に立っていることを実感し、こちらの実力をざんてい算出する。

「待って。さっき7、8割出してるって言ったけど……それは本当?」

 松下もオレが平田以上だと思う材料はほとんどないはずだ。だが、それが真実かどうかを確かめるために追い打ちをかけてくる。

「ああ」

 改めて問いかけにうなずくも、松下は受け入れようとしなかった。

かるざわさんの件は?」

「と言うと?」

「……平田くんと別れたことと、綾小路くんの関連性みたいなもの、というか」

「それはどこから来た情報なんだ?」

「私が個人的にそう感じただけだけど……関連性は間違いなくあると思ってる」

 どうやら、相当下調べは済ませているらしい。だから簡単には納得しない。

 松下には明らかな自信が見え隠れしていた。

「どうして綾小路くんを軽井沢さんが特別視するのか……平田くんと別れてまでだよ? その理由を教えて」

「その理由か……」

 平田よりもオレが下であるなら、軽井沢の動機に対して納得できないということだ。

「特別視なんてしてない、そう答える?」

「……あるのかも知れないな」

 オレがそう言うと、どこか納得したように一度小さくうなずく。

「やっぱり。本当はもっと───」

「いや……何というか、まつしたは盛大な勘違いをしているんじゃないかと思ってる」

「勘違い? 私なりに確証を持って聞いてるんだけどな」

「確かにオレとかるざわには……普通じゃない関係があると思う」

「それを知りたいの。あやの小路こうじくんの本当の実力」

「いや、それは───」

「ここまで来て話してくれないつもり?」

「そうじゃない。何というか、言い出しにくいんだ」

 オレは二度、三度と言葉を詰まらせながら、明後日あさつての方角に視線を逃がす。

 更に追及をしてこようとする松下に、仕方なく言葉の続きを口にする。

「説明は難しいんだが、いや、難しいわけじゃないんだが……。その、それは単純にオレが軽井沢に対して好意を向けてて、それを軽井沢に伝えたせいじゃないかって思う。特別視というか単純に妙な意識をオレに向けてるんだろうな」

「え……?」

「……え?」

 顔を見合わせる。

「軽井沢さんが綾小路くんの実力を見て、特別視してるんじゃなくて?」

「関係ないはずだ」

「でも───仮に好意を向けられてるからってそこまで特別視するとは思えない」

 オレは松下との距離を詰め、その両肩に手を伸ばす。

 つかまれると思わなかったのか思わずぎょっと目を見開く。

 その視線をしっかりと捉えてオレは言う。

「好きだ松下。付き合ってほしい」

「はっ───!?」

 一瞬、頭の中がパニックになったであろう松下。オレはすぐに肩から手を放す。

「こんなふうに告白すれば、良いか悪いかは別としてその後意識しないか?」

「じょ、冗談ってことね。なるほど、なるほど……ね」

 直接身をもって体験させれば、その実体験から後は勝手に穴埋めしてくれる。

 異性からの真剣な告白を受ければ、少なくとも極端に毛嫌いしている相手からでなければある程度意識を向けるようになるのは当然のことだ。

ひらと別れたのは単純に偶然だと思う。オレが気持ちを伝えたのもその後だしな」

 そもそも告白をしていないため、松下にはこの順番の真実を確認するすべはない。

「……そっか。そういうことだったんだ。ごめんね後までつけてきて」

「1つお願いがある。軽井沢とのことは───」

「分かってる。流石さすがに言いふらしたりはしないから」

 本人が100%スッキリする回答だったとは言い切れない。

 だが、ひとまずはこれでお開きになる。それくらいの材料は提供できたつもりだ。

 けいとのことに関しても、不用意に口にはしないだろう。

 そのことでオレの機嫌を損ねて非協力的になることの方が、まつしたにとってデメリットだ。

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