〇Bクラス対Dクラス
AクラスとCクラスが第3戦目の英語テストの集計を行っている最中。
Bクラス対Dクラスは早くも4戦目の決着が着こうとしていた。
「集計の結果、Bクラス601点。Dクラス409点。4戦目はBクラスの勝ちとする」
Bクラスが選択していた種目の学力テストなだけに、絶対に落とせない1戦だった。
「ラッキーだったじゃねえか一之瀬。Bクラスの種目が立て続いてくれたお陰だな」
「……そうだね」
勝った一之瀬に余裕はなく、負けた
それも当然のことだろう。4種目の内、既にBクラスからは3種目が選ばれたが、ここまでの4戦の結果はDクラス2勝、Bクラス2勝という想定外の形。3戦目のBクラスが選んだ『化学テスト』を落としたのが大きく響いていた。敗北した理由はハッキリしている。
「先生……腹痛になった生徒たちはトイレから戻ってきたでしょうか?」
そう確認する一之瀬に、真嶋が連絡を取ってBクラスの状況をチェックする。
「いや、まだ2名トイレから戻ってきていない。何人かは現在も不調を
「そうですか……」
化学テストを落とした原因。それは予期していなかったBクラスの主力の体調不良。
それだけじゃない。試験前日にDクラスと一部の生徒が
学校側に
それらの悪質な
「ふーっ……大丈夫、大丈夫」
まだリードを許したわけではない。化学テストの敗北に冷静さを欠いていた一之瀬だが、ゆっくりと普段の自分を取り戻し始める。確かにトラブルが続出しているが、
こちらが手堅く戦い続ける限り、負けはない。
その自信を必死に取り戻していく。
「おい教師ども。早く5回戦を始めろよ。Bクラスの連中は試験当日まともに体調管理も出来てない。そんな甘い連中のために
「言葉に気を付けろ龍園」
生意気な口を利く龍園を
むしろ増長するように続ける。
「トイレだか何だか知らないが、この時間を利用して作戦を練ることも出来るだろ。同時に生理現象なんておかしな話だ。どんな悪だくみをしてるんだ? 一之瀬」
「わ、私は何も……」
複数人が同時に体調不良を訴えたことに龍園が疑問を投げかける。
そのことに対し、絶対に不正はないと分かっている一之瀬だが反論の余地はない。
「ともかく、早く進めてくれよセンセー」
龍園は笑いながら、茶柱へと確認の視線を送る。
「確かにその点は龍園の言う通りだ。
真嶋によって抽選が始まる。
『空手』 必要人数3人 必要時間10分
ルール・1試合3分の寸止めルール。勝ち抜きルールを採用
司令塔・任意の対戦を一度だけやり直すことが出来る
「さて、今度は俺たちDクラスの種目だ。誰でも好きなヤツでかかって来いよ」
龍園は『
一方の一之瀬は『
その結果は
5回戦はこれまでに無いほどの短時間で決着をつけるものとなった。
これでBクラスは後がなくなり、次に負ければ敗北が確定する6種目目。
「面白いもんだよなぁ
機械のジャッジを待つ間、口数の減っていた一之瀬に対し
「特別試験が発表されてDクラスとやることが決まった時、おまえらは絶対的優位を感じていたはずだ。ところが
けして一之瀬の作戦が甘かったわけではない。
純粋にぶつかり合っていたなら、拾えていたはずの1勝を入れて3勝2敗もあり得た。
唐突な、アクシデント。それによって歯車が狂ってしまった。
ここで自分たちの種目を引くことが出来なければ、まず勝ち目はない。
そして選ばれる───第6種目目。
『柔道』 必要人数1人 試合時間4分(最大3試合12分)
ルール・通常の柔道に準ずる
司令塔・試合結果を無効とし、対戦を一度だけやり直すことが出来る
1対1による、Bクラスにとって最大の鬼門種目が選ばれる。
目の前が真っ暗になっていく感覚を、この時一之瀬は初めて感じていた。
「ク、クク、柔道、柔道か。よりによってコイツを持ってくるとは、ついてるな一之瀬」
「そんな……」
「残りが全部Bクラスの種目なら、まだおまえが勝つ芽も残ったんだがなぁ」
迷わず龍園は『
先ほどの司令塔関与と同じく、ほぼ負けることがない究極の保険付き。
「アルベルト相手でも気にするな。勝負は時の運、やってみるまでは分からねえさ」
結果は火を見るよりも明らか。体格も技量も違う対戦相手に勝つことは極めて難しい。
唯一Bクラスが、ひっくり返っても勝てないと
「この種目Bクラスの不戦敗とする。そしてDクラスは4勝目、特別試験の勝利確定だ」
1
ここから話は一度、特別試験が発表された日に
というのも、奇抜なアイデアを出せる存在はDクラスには誰もいない。
当たり前の種目、当たり前のルール、当たり前の戦い方。
誰でも思いつくシンプルな展開しか意見が出てこない。
そうなると、どのクラスと戦うことになっても勝ち目など到底見えてこない。
当たり前の種目。それはつまり『王道』であること。
Dクラスの現在の意見では、Aクラスは戦力の高さから避けるべきであり、そしてAクラス同様、あるいはそれ以上に警戒すべきがBクラスという結論になっていた。
そして自然と浮上するCクラスとの対決。しかしそれに待ったをかけたのは石崎だ。
「あの───少しお時間
石崎は
「あ?」
龍園に
だが、それでも口だけは懸命に動かす。
「お願いします───俺に時間をください!!」
「おまえも
「い、いえそういうわけじゃ……!」
「クク、まぁいいだろ。今のDクラスのリーダーは実質おまえなんだからな」
龍園にとって、今の時間は単なる延長戦。退学するつもりだったこの学校での、余分な時間。暇つぶしに付き合うだけの余裕はある。石崎は龍園を後ろに従え移動する。
仮にこの状況を誰かに見られても、石崎が龍園を呼び出したように見えるだろう。
それから校舎を出て周囲から人の気配が消えた所で、石崎はすかさず土下座した。
「龍園さん、今度の特別試験……Dクラスに力を貸してください!」
石崎に声をかけられた時点で、内容に察しのついていた龍園だが、そのことはおくびにも出さず土下座する石崎を見下ろす。
「寝言ぬかしてやがるな、石崎。俺はもう降りたと言ったろ。手を貸すと思うのか?」
「それは、それは分かってます。でも俺たちの実力じゃ、まず他クラスには勝てません!」
「だろうな」
その点は龍園も否定しない。
ポテンシャル勝負となればDクラスは圧倒的に他クラスに劣ると分析しているためだ。
「司令塔には金田が立つので、負けても退学はありません……。でも、ここで負ければ俺たちのクラスポイントは
「7敗ってことになりゃ、それも避けられないだろうな」
現在Dクラスのクラスポイントは318ポイント。7連敗すれば100ポイントほどしか残らない。最悪のケースだが、このまま無策で望めばその可能性はけして低くない。
「なら俺を司令塔に据えるか? そんなこと、クラスメイトの誰が許可するよ」
「それは───」
ただ1人退学にするためにクラスが大損害を
万が一クラスポイントが0にでもなれば、もはやAクラス行きは不可能に近い。
それどころか、この学校での安定した生活すらままならなくなる。
Dクラスの第一目標は勝利。そしてその次が、接戦での敗北、かつ龍園の退学。
プロテクトポイントだけを失い大敗することだけは避けなければならない。
それが出来る生徒がDクラスにいるとすれば、龍園に他ならない。
「……どうすればいいんですか。やっぱり、Cクラスにすべきなんでしょうか」
本来ならノンストップでCクラスを選ぶところだが、あのクラスには
あの男の本性を知る数少ない生徒の1人だからこそ
「勝手に意見求めてくんじゃねえよ。誰が協力するなんて言った?」
一か八かで挑んだ石崎だったが、無謀だったと思い知らされる。だがそれでも土下座を解く
「確かにCクラスは結束力が低い。綾小路みたいな化け物もいるが、あくまでもそれは個人の話だ。団体戦となれば、勝機が見えてくる───そう勘違いしたくもなる」
「え……?」
無理だと思っていた龍園からの、思いがけないアドバイス。
「だが、俺が司令塔ならCクラスとの対決は避ける。対戦相手をどんな方法で決めるかは知らないが、自分から飛び込んで戦いにいくクラスじゃないな」
「で、でも、綾小路以外なら───」
「関係ねえよ、だからおまえはバカなんだ」
「うっ……」
「Dクラスはバカと無能の集まりだが、それでも
「ど、どこなんですか、それは───!?」
龍園は石崎を見ることもなく答える。
「Bクラスだ」
龍園からの、思わぬクラスの名前。
「おまえらがこの試験で勝つには、Bクラス以外にない」
Dクラス全体で出た、絶対に避けたいと思っていたBクラスの名前が挙がる。
「バカも使い方次第じゃ役に立つ」
龍園は背中を向け歩き出す。
「ま、待ってください! どうやって、どうやったらBクラスに勝てるんですか!」
顔だけをあげて
「龍園さん! 龍園さ───ん!」
その
2
表向き、龍園を倒したとされている石崎の発言力は、Dクラス内で低くない。
とは言え現状全く問題が生じていないわけではなかった。
退学させるはずの龍園が残り、ちょっとした
当然最初に出る疑問は、そもそも誰が龍園に大量の
クラスの中に賞賛票を投じたヤツがいたのか。他クラスならば誰が。
Dクラスでは
Bクラスの
ただ、真実を知る生徒も少なからずいる。龍園退学
対戦クラスはBクラスが最適であること、を忠実に
しかし、それで問題が解決したわけではない。
統率の取れないDクラスがこのままBクラスとぶつかったとしても、勝てる確率は紙のように薄いものだと、椎名自身も良く分かっていた。少しの遅れが敗北に
対戦相手が決まったその日、椎名はすぐにある行動を実行に移した。
「くそ。どうしたらいいんだよ……」
カラオケルームのある一室で、石崎は頭を抱える。
「知らないし。って言うか、なんでまた私を呼んだわけ? そもそも何このメンツ」
伊吹は石崎をひと
「石崎くんと愉快な仲間たち、と言ったところでしょうか?」
のほほんとそんなことを言う椎名に、睨みを効かせた伊吹の肩の力が抜ける。
「はぁ……頭痛い」
「現状を一番把握している3人が集まれば、何か知恵も浮かぶと思うんです。三人寄れば文殊の知恵と言いますし」
「3人で寄ってくもんじゃ屋の家? なんだそりゃ」
「あんたわざと言ってんでしょ」
「痛い! てめ、
「
2人のやり取りを見て、
「こんなメンツじゃ話し合いにもなんないでしょ。私帰るからね」
「あ、それは困ります。この後、
「「え?」」
「今回の特別試験に勝つには、龍園くんの存在は必要不可欠です。誰もが戦うのを避けたいと考えていたBクラスが、唯一の勝機と見たのは彼ですし」
とんでもない爆弾を放り込んだ椎名。
自分がした発言の大きさを、分かっていないようだった。
「あんた、今なんて言ったの」
「え? ですから、Bクラスが唯一の勝機───」
「そうじゃなくて、この後誰をここに呼んでるって?」
「龍園くんです」
伊吹が石崎を見る。石崎も伊吹を見る。
「ま、マジで龍園さんがここに?」
「はい。お願いしておきました」
「なんか最悪のカラオケになりそうなんだけど……って言うか私たちのことは?」
「もちろんお伝えしていますよ」
「俺たちがいるってわかってて、来てくれるのか……?」
石崎は既に龍園に協力を願い出て断られている。
そう考えるのは自然なことだった。
「一応聞くけど、あいつは何時に来ることになってるわけ?」
「4時半です」
「……は?」
伊吹がカラオケルームに設置された時計を見る。
時刻は5時5分を過ぎたところだった。
「ちょっぴり遅刻しているみたいですね」
「30分以上も
「落ち着いてメロンソーダでも飲んでください。気長に待とうじゃありませんか」
差し出したメロンソーダを、伊吹は無視する。
「付き合ってらんない……」
立ち上がろうとする
「俺は待つぜ。
「バッカじゃないの? あいつが約束守る義理なんて何一つないでしょ」
現に大幅な遅刻中。伊吹は、これ以上関わるのはごめんだと、歩き出そうとする。
だが、細く白い手が伊吹の腕を
「待ってあげましょう。龍園くんは思いのほか、ちゃんとした人ですよ?」
「……あんた、あいつの何を知ってるわけ?」
「何も知りません。正直お話しした回数も、少しですし」
「だったらなんで?」
「ただ、何となくそう思うだけです」
「根拠もなしに、甘いわね」
そうかもしれません、と
「それに、皆さんとワイワイするのがとても楽しいんです。いけませんか?」
「……バカね」
「もう少し
「はいっ」
3
「もう限界!」
忍耐に忍耐を重ねた伊吹だったが、時刻は午後8時を回った。
もはや遅刻という言葉すら生ぬるい、すっぽかしを食らった状況に腹を立てる。
「なんだかんだ、おまえも10曲くらい歌ったじゃねえか」
「伊吹さんの限界は、まだまだこれからのはずです」
「それが限界に限界を重ねたってことよ!」
「では限界突破を目指しましょう」
「冗談じゃない!」
「ブリブリ怒りやがって……。いっつも怒ってて疲れないのか?」
「あんたの顔見てると百万倍疲れるのよ」
止めようとする石崎の腕を振り払い、伊吹は出て行こうとする。
扉に手を伸ばしかけたところで、その扉がひとりでに開く。
「なんだおまえら、まさか本気で来ると思って待ってやがったのか?」
笑いながら入ってきた男、龍園。石崎と伊吹は思わず
もはや来ることはないと思っていたからだ。
「遅刻ですよ
「それにしちゃ、
「ええ。私カラオケに来たの初めてなんです、とても楽しくて楽しくて」
「なら俺は帰るとするか。精々楽しめよ
邪魔だろ?と笑いながら扉を閉めようとするが、それを伊吹が止める。
「私をこれ以上カラオケ地獄に落とすなら、あんたをぶっ飛ばす」
「クク。
伊吹に引き込まれた龍園は、
その後腰を下ろすと、何も話そうとはせず携帯を
「……で?」
「で、とは何だ?」
「ここまで待たせておいて、何もないなんて言うつもり?」
「俺は単に、待ちぼうけ食らわされたおまえらが、まだ残ってるかを見に来ただけだ」
程なくして届いた炭酸水を、一口飲む。
「それ以外に何もねえよ」
「こっちは
「俺には関係ねえな」
「あるのよ」
強くテーブルを
「お、おい落ち着けよ伊吹。龍園さんに
「あんたはあんたで、いつまで腰ぎんちゃくやってんのよ」
「いつまでって、俺は……俺は、龍園さんについてくって決めたんだよ」
「よく言うわよ。最初は散々嫌ってたくせに」
「そ、それは、余計なこと言うなよ!」
勝手にバチバチとやりあう2人を尻目に、椎名は新しい曲を選ぼうとしていた。
「このバカはあんたの口車に乗せられて、
「らしいな」
肩を縮こませる石崎。クラスの総意を受け入れるなら、Cクラスを選ぶところだった。それが唯一勝てる可能性を感じさせる対戦相手だったからだ。
石崎がそれを
「コイツはあんたに
「クク、それなら仕方ねーな。俺も
笑って、龍園は話し出す。
「俺が入学当初、Bクラスに仕掛けた内容は覚えてるか?」
「……確か仲間割れをさせようとしたんですよね?」
各クラスのポテンシャルを確かめるために龍園が起こした火種。
「結果はどうなった」
「効果ありませんでした。あのクラスは早々に結束力は高かったですよね」
「そうだ。あいつらはどのクラスよりも結束力、団結力が高い」
「だからこういった総合戦は、対戦相手として避けたいクラスなんじゃないの」
「俺も、まだそう思ってます。リーダーの
「
「そうですね……お二方の言うようにBクラスは強いです。全ての能力がアベレージより上ですし。何よりあれだけ
「あんた優し気な顔して、えぐい分析するわね」
それぞれの意見を聞いた後、龍園は自らのBクラスの評価を口にする。
「俺に言わせればBクラス最大の欠点は一之瀬……いや、リーダーの不在にある」
「ちょ、ちょっと待ってよ。意味わかんないんだけど。一之瀬がリーダーでしょ」
「一之瀬も
「しかし相性としては最悪なのに変わりないんじゃありませんか? ほぼ全てのアベレージが下回るDクラスには、現状で一番当たりたくない相手とも言えますし」
「どこと戦っても勝てる可能性は数パーセント前後ってところか」
「……そ、そんなに開きがあるんですか俺たち」
「だが───」
龍園は空になったグラスを手に取り、その先に見える伊吹たちを見る。
「少しやり方を工夫するだけで、1割に満たない勝率が5割近く、場合によっちゃそれ以上に跳ね上がることもある」
1枚の折りたたまれた紙を、龍園は椎名に手渡す。
椎名がそれを開くと、そこには10種目の名前と、本命の印が5つ書かれてあった。
それを伊吹と石崎も左右から
「当日はこの試験をぶち込む」
「ちょっと、これ全部───」
「そうだ。その種目は全て力でねじ伏せるだけの種目だ」
空手、柔道、テコンドー、剣道、レスリングなど、肉体を酷使する10種目。
「待って下さい。確かに、その、俺たちのクラスには
仮に1、2種目は拾えたとしてもそれ以外はどう転ぶか分からないと
「そうよね。Bクラスにも運動神経の良い生徒は少なくないし。全部1対1に出来るなら話も違うけど、必要人数は全部変えなきゃなんないのよ?」
単なるくじ運任せで挑んでも、全部を拾える保証はない。
「だからどうした」
「え?」
「必要人数なんてもんに捉われ過ぎなんだよ。そんなもんは関係ないのさ」
意図を
「なるほど、モノは考えようということですね? 何人対何人の種目であっても、それはルール次第でどうとでもなる。勝ち抜きルールを採用すれば1人で済みます」
「そういうことだ。仮に10対10で柔道をやっても、アルベルト1人でこと足りる」
「でも……学校側が認める? 勝ち抜き戦なんて」
「筆記試験や球技みたいな種目じゃ勝ち抜きの採用はまず無理だろうな。だが空手や柔道のような競技には勝ち抜き戦形式はありふれたもの。
「いけます、これならいけますよ
その事実に気付いた石崎の目に希望の光が宿る。
「それなら、確かにDクラスの選んだ種目は全部勝てるかも……でも、運が向こうに
「5割で勝てるだけでも不服か?」
「……あんたに協力するんなら、確実な勝ちを要求したいところね」
「クク、もちろん手は打つ」
今現在、実力だけでBクラスの用意する種目に勝てるような位置にDクラスはいない。
それ以外の部分で、差を詰めていく必要があると龍園は言う。
「───私たちに何をしろって言うの?」
ようやく、事態を理解し始めた伊吹。
「勝つための悪逆だ」
龍園は笑いながら、答える。
「これから試験前日まで、毎日
「なにそれ。それで相手にストレスでも与えようっての?」
「Bクラスの連中はその
「……狙い?」
「ともかく、最初の1週目はそれで終わらせる。そして10種目発表後から本格的に動き出す。
「それは……場合によっては殴り合いをしろってことですか?」
「あくまでも接触を強くするだけだ。この段階で
どれも抽象的で曖昧なものにすることが重要だと説明する。
こちらが一方的に悪い要素を生み出せば、学校側の介入がないとも言い切れない。
「本命の1つは情報だ。無数の絡みの中でBクラスの生徒から情報を盗み出して、試験当日に選ばれる5種目を一足先に手に入れる。クラス内じゃ当然、どの5種目にするかの意志統一は早い段階でされている。メールでもチャットでも、誰かしらはその5種目について話し合うもんだ。事実おまえらもしてるだろ?」
「え、ええ。10種目は何が良いか、適当な時間を見つけて話し合ったりはしてます」
「そう。口は堅く結んでいても、携帯は無防備なんだよ。勝手に見られたりしないと思い込んでるからな。それが試験間近になれば方針も固まってる。誰がどんな種目に出るかまで手に入れられるかもな」
「簡単に言うけど……そう
「運任せにするんじゃない、こっちからそう誘導してやることが必要だな。そのための布石が、明日からの
「なにそれ……って、下剤?」
「これは遅効性の下剤で、48時間以降に効き始める。何人かにこいつを飲ませれば、当日1人か2人くらいは体調を崩してくれるかもなぁ?」
「あ、あんた。反則でしょそんなの。バレたらどうなるか!」
「だからなんだ?」
「っ……」
「俺がそんなことを、気にするような人間だと思うのか?」
「はっ───確かにね。あんたは、勝つためなら何でもする男だった」
「もし問題になれば、その時は全ての罪は俺が
学校側がどんなペナルティを個人に課そうが、
仮にクラスがダメージを受けることになっても、どの道大敗を
「元々退学を受け入れてるあんたならではってことか……」
「さっき喧嘩は切り札に取っておくって言ったけど、最悪強引な手も使うってこと?」
「ああ。些細な言い合いから喧嘩になることはガキの中じゃ日常茶飯事。5種目に出る予定の本命を、こっちの無能な人間と
やると決めた以上、
「当日は俺が司令塔をやってやる。
「
「
「は……はいっ!」
「なぁにが、はい、よ」
とんでもないことになったと、
なのに、
「でも……なんで引き受けてくれたんですか、龍園さん。単なる同情じゃないですよね?」
「さぁて、なんでだろうなぁ」
龍園はソファーにもたれかかり目を閉じる。この学校に未練はない。最初はそのことに
だが……もし本当に再戦を望む気持ちが芽生えて来ているのなら、自分自身が生き残ろうとする。その結果が知りたいと、龍園は思った。