ようこそ実力至上主義の教室へ 8

〇女子たちの戦い前半 一之瀬帆波



 と、以上な感じで3日間、男子の間では色々とあったみたいだけど、女子である私、一之瀬帆波がそんな事情を知るはずもなく。

 林間学校で、特別試験が始まることになる当日に話を遡らせてもらうね。

「とりあえずグループ分けも決まったことだし、ちゃんと仲良くしようね皆」

 就寝前。私はグループのメンバーたちにそう声をかけた。二転三転、きよくせつ、波乱万丈な展開を繰り返しながらも、とりあえず試験に挑む仲間が決まった。

 私、王美雨ワン・メイユイさん、しいひよりさん、やぶさん、やましたさん、きのしたさん、西にしたけさん、なべさん、西にしはるさん、もとさん、ろつかくももさんの合計11人のグループ。Bクラスからは私だけ、そしてCクラスからも一人だけで、あとはAクラスとDクラスの生徒だった。真鍋さんや西野さんといった女の子は、クラス内でも問題児とされているみたいで、要ははじき出されてしまった人たちの集まりだった。

 女子はこういうところ、結構露骨にやるからなぁ。

 私や美雨さん、それから残る生徒たちはグループを埋め合わせるように集った生徒たちで、それぞれのつながりはすごく薄い。早く関係を構築していかなきゃいけない。

「よろしくお願いしますね、いちさん」

「こちらこそだよしいさん。仲良くなりたいってずっと思ってたんだ」

「そうでしたか、それは光栄です」

 だけどCクラス……じゃなくてDクラスの生徒とはほとんど交流がもてなかった。

 りゆうえんくんがバックにいると、どうしても仲良くなりきるところまでいけなかったから。

 まぁ、本当に一線を退いたのかどうかは、不透明な部分があるけど。

 とにかく、せつかくの女子グループなんだし仲良くしたい。このグループが規定を下回って退学の処罰、つまりだれかが責任を取ったり、道連れにされるようなことだけは避けなきゃならない。最優先がBクラスの仲間だとしても、こうしてグループを組んだ以上この場に限っては優劣をつけない。そう自分に言い聞かせる。

 王美雨ワン・メイユイさんは、積極的に参加しようとはしなかった。正確には参加したくても出来ない、という感じだった。もちろん、私が手を差し伸べるのは簡単だ。

 だけどこのグループはAクラスとDクラスの女の子たち中心に構成されてる。

 しかも、比較的自我の強い子たちが多い。

 私がかつに飛び込んでグイグイ引っ張れば、不信感を持たれるかも知れない。

 だから少しだけ待つことにした。それで2つのクラスが率先して王美雨さんを助けてあげようとしなかったら、私が何とかする。

「王美雨さん……でしたね」

「は、はいっ」

 椎名さんが、そばに近寄り優しく声をかける。

 このグループでも率先して責任者を引き受け、とても頼もしい存在だ。

 私は今回、責任者としての立候補をしなかった。椎名さんがすぐに挙手してくれたこともあるけど、メンバー的に1位をねらえるとは思えなかったからだ。

すごく緊張しますよね。知らない人たちに囲まれると」

「え、えと、そんなことは、全然……」

「いきなり仲良くしましょう、壁をなくしましょうと言われても困惑するのは当然です」

「うんうん。椎名さんの言う通りだよ」

 他人と友達の間の壁なんてものは、乗り越えようと思って乗り越えるものじゃない。

 気がついたら乗り越えているものだ。

 意識ばかりしていたら、足元を見落として転んでしまう。

「あのさ。一之瀬さんって彼氏いたことあるの?」

 Aクラスの女子が、私に対してそんな質問をぶつけてきた。

「いやぁ……お恥ずかしながら、恋愛経験ないんだよね」

「そうなんだー。超モテそうなのに、もしかして理想高い系?」

「そんなことはないと思うんだけど……どうなんだろ」

「じゃあさ、今好きな男子とかは?」

「えぇえええ~」

 いきなりそんなことを聞かれて、私は慌てるしかない。

「なんかうわさじゃぐも先輩と2人でいるところとか、結構見られてるけど……」

 確かに、生徒会に入ってからは南雲生徒会長と行動を共にすることは多い。

 まさかこんな風に噂が立つようになるほどとは思わなかった。

「私が好きとか嫌いとか以前に、生徒会長の眼中になんてないって」

「そんなことないよ、ねえ?」

「うんうん。いちさんなら南雲先輩と付き合ってもおかしくないかな」

「どっちにしても、今好きな人はいない、かな……」

「今はってことは昔はいたってこと?」

 女子たちが一斉に沸きあがる。ちょっと言葉足らずだと危険な話題だ。

「違うよー。その、確かにあこがれてた先輩とかはいたけど、異性として好きだって自覚する前に卒業しちゃったし……」

 必死に否定していると、女子たちが目を合わせて笑い出した。

「なになに、なんか私、変なこと言った?」

「ううん。ただなんていうか、何でも真面目に答えてくれるんだなって」

「一之瀬さん素直すぎー。答えたくないことははぐらかしていいんだからね?」

「あ、てことはちゃんさっきの話はぐらかしてた?」

「ぎくっ」

 そんな感じで、再び盛り上がる夜の女子会。

 なんていうかいつまでも眠れないような空気が出来上がっている。

「私だって答えないことは答えないからね?」

「じゃあ、今までに告白された回数は?」

「え? えーっと3回……あ、保育園入れたら4回、かな。それにあの件を入れたら5回か」

「ほら答えてる!」

「にゃー!」

 私は恋話というのが苦手だ。不慣れなことだからこそボロが出る。

「もしかして、一之瀬さんってうそつけない人?」

「そうなのかもー」

 そんなことでも盛り上がる女子たち。

 だけど、その部分は否定しておいたほうがいいだろう。

「そんなことないよ。ほんとに」

「えー?」

「たとえば、特別試験とかになったらさ、駆け引きの1つや2つ必要になるじゃない? その時にはしたりうそついたりすることもあるよ」

「じゃあ嘘つくことは平気なんだ」

「……んー。ちょっと違う、かな。だれだってそうだと思うけど、嘘なんて本当はつきたくないよ。だから可能な限り嘘をつかないようにしてる、って言うのが正解かな。いや、それも違うか。人を傷つけないための嘘は、苦手、かな……」

「それって変じゃない? 普通傷つけないために嘘を言うんじゃない?」

「そうだね。人を傷つけないための嘘は、きっとやさしい嘘だと思う」

 でも……私の場合は違う。

 そう。これは私が自分に課したひとつの試練なんだ。

「傷つけないために嘘を言うのは、先延ばしにしかならないって言うか……」

 その1つの嘘から、どんどんと悪いことは広がっているように私は思う。

 繰り返したくない。

 あのつらい日々を。

 あの、残酷な時間を。

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