〇女子たちの戦い前半 一之瀬帆波
と、以上な感じで3日間、男子の間では色々とあったみたいだけど、女子である私、一之瀬帆波がそんな事情を知るはずもなく。
林間学校で、特別試験が始まることになる当日に話を遡らせてもらうね。
「とりあえずグループ分けも決まったことだし、ちゃんと仲良くしようね皆」
就寝前。私はグループのメンバーたちにそう声をかけた。二転三転、
私、
女子はこういうところ、結構露骨にやるからなぁ。
私や美雨さん、それから残る生徒たちはグループを埋め合わせるように集った生徒たちで、それぞれの
「よろしくお願いしますね、
「こちらこそだよ
「そうでしたか、それは光栄です」
だけどCクラス……じゃなくてDクラスの生徒とは
まぁ、本当に一線を退いたのかどうかは、不透明な部分があるけど。
とにかく、
だけどこのグループはAクラスとDクラスの女の子たち中心に構成されてる。
しかも、比較的自我の強い子たちが多い。
私が
だから少しだけ待つことにした。それで2つのクラスが率先して王美雨さんを助けてあげようとしなかったら、私が何とかする。
「王美雨さん……でしたね」
「は、はいっ」
椎名さんが、
このグループでも率先して責任者を引き受け、とても頼もしい存在だ。
私は今回、責任者としての立候補をしなかった。椎名さんがすぐに挙手してくれたこともあるけど、メンバー的に1位を
「
「え、えと、そんなことは、全然……」
「いきなり仲良くしましょう、壁をなくしましょうと言われても困惑するのは当然です」
「うんうん。椎名さんの言う通りだよ」
他人と友達の間の壁なんてものは、乗り越えようと思って乗り越えるものじゃない。
気がついたら乗り越えているものだ。
意識ばかりしていたら、足元を見落として転んでしまう。
「あのさ。一之瀬さんって彼氏いたことあるの?」
Aクラスの女子が、私に対してそんな質問をぶつけてきた。
「いやぁ……お恥ずかしながら、恋愛経験ないんだよね」
「そうなんだー。超モテそうなのに、もしかして理想高い系?」
「そんなことはないと思うんだけど……どうなんだろ」
「じゃあさ、今好きな男子とかは?」
「えぇえええ~」
いきなりそんなことを聞かれて、私は慌てるしかない。
「なんか
確かに、生徒会に入ってからは南雲生徒会長と行動を共にすることは多い。
まさかこんな風に噂が立つようになるほどとは思わなかった。
「私が好きとか嫌いとか以前に、生徒会長の眼中になんてないって」
「そんなことないよ、ねえ?」
「うんうん。
「どっちにしても、今好きな人はいない、かな……」
「今はってことは昔はいたってこと?」
女子たちが一斉に沸きあがる。ちょっと言葉足らずだと危険な話題だ。
「違うよー。その、確かに
必死に否定していると、女子たちが目を合わせて笑い出した。
「なになに、なんか私、変なこと言った?」
「ううん。ただなんていうか、何でも真面目に答えてくれるんだなって」
「一之瀬さん素直すぎー。答えたくないことははぐらかしていいんだからね?」
「あ、てことは
「ぎくっ」
そんな感じで、再び盛り上がる夜の女子会。
なんていうかいつまでも眠れないような空気が出来上がっている。
「私だって答えないことは答えないからね?」
「じゃあ、今までに告白された回数は?」
「え? えーっと3回……あ、保育園入れたら4回、かな。それにあの件を入れたら5回か」
「ほら答えてる!」
「にゃー!」
私は恋話というのが苦手だ。不慣れなことだからこそボロが出る。
「もしかして、一之瀬さんって
「そうなのかもー」
そんなことでも盛り上がる女子たち。
だけど、その部分は否定しておいたほうがいいだろう。
「そんなことないよ。ほんとに」
「えー?」
「たとえば、特別試験とかになったらさ、駆け引きの1つや2つ必要になるじゃない? その時には
「じゃあ嘘つくことは平気なんだ」
「……んー。ちょっと違う、かな。
「それって変じゃない? 普通傷つけないために嘘を言うんじゃない?」
「そうだね。人を傷つけないための嘘は、きっとやさしい嘘だと思う」
でも……私の場合は違う。
そう。これは私が自分に課したひとつの試練なんだ。
「傷つけないために嘘を言うのは、先延ばしにしかならないって言うか……」
その1つの嘘から、どんどんと悪いことは広がっているように私は思う。
繰り返したくない。
あのつらい日々を。
あの、残酷な時間を。